毎月の給与明細は、振込額だけ確認して閉じてしまう先生が多いと思います。けれども勤務医の明細には、時間外の単価、当直の扱い、社会保険料の等級、源泉徴収の欄、住民税の月額と、病院の計算をそのまま信じるしかない数字が並んでいます。どれも根拠になる法令と公表されている表があるので、自分で照合できます。

この記事では、民間病院に勤める36歳の勤務医(東京都・協会けんぽ加入)の架空の明細を1枚つくり、支給欄から控除欄まで上から順に読みます。そのうえで、誤りが起きやすい箇所と、確認に使う一次資料を示します。大学病院の専攻医の本給(日給制)と外勤の住民税は専攻医の給料と手取りで扱ったので、ここでは常勤の勤務医の明細を前提にします。

最初に答え: 明細は「支給の根拠」と「控除の根拠」を1行ずつ照合する

給与明細の数字は、大きく二つに分けて考えると読みやすくなります。

  • 支給欄: 就業規則と給与規程、そして労働基準法で決まる。基本給・各種手当・時間外手当・当直手当
  • 控除欄: 公表されている表で決まる。健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は保険料額表と料率、所得税は源泉徴収税額表、住民税は市区町村からの通知

支給欄は病院ごとのルールが入るため、規程を手元に置く必要があります。控除欄は、等級と表が分かれば同じ答えが出るはずの数字です。つまり控除欄は、表と照らせば誤りを機械的に見つけられる部分です。

図1: 勤務医の給与明細の構造と、各欄の根拠(概念図)

労働基準法24条は、賃金を「通貨で、直接労働者に、その全額を」支払うと定め、控除できるのは法令に別段の定めがある場合か、労使協定がある場合に限っています(労働基準法 e-Gov)。社会保険料・雇用保険料・所得税・住民税は法令に基づく控除です。寮費や親睦会費のような控除は、労使協定がなければ引けません。明細の控除欄に見慣れない項目があれば、その根拠を確かめてよいということです。

例の明細を用意する

以下の数字は説明のために置いた架空の例です。実在の病院の給与水準を示すものではありません。

  • 36歳、東京都の民間病院に常勤、協会けんぽ・厚生年金に加入(40歳未満なので介護保険料はかからない)
  • 基本給450,000円、医師手当100,000円、家族手当20,000円、通勤手当20,000円
  • 月平均所定労働時間160時間、当月の時間外20時間(うち4時間は午後10時以降)
  • 当直2回、1回30,000円(宿日直許可を受けた当直とする)
  • 標準報酬月額は710,000円(4〜6月の報酬から決まった等級)
  • 住民税の特別徴収額は月52,000円(市区町村の通知額)

この前提で、当月の明細は次のようになります。

欄項目金額
支給基本給450,000円
支給医師手当100,000円
支給家族手当20,000円
支給通勤手当(非課税)20,000円
支給時間外・深夜手当89,376円
支給当直手当60,000円
支給総支給額739,376円
控除健康保険料34,967円
控除子ども・子育て支援金816円
控除厚生年金保険料59,475円
控除雇用保険料3,697円
控除所得税49,250円
控除住民税52,000円
差引振込額539,171円

総支給739,376円のうち、控除の合計は200,205円で、振込額は539,171円です。以下、この表を上から照合していきます。

支給欄1: 基本給と手当は「割増の基礎に入るか」で分ける

基本給と各種手当を読むときに一番大事なのは、その手当が時間外手当の計算の基礎に入るかです。

労働基準法37条5項は、割増賃金の基礎となる賃金に家族手当と通勤手当を算入しないと定め、そのほかの除外賃金を厚生労働省令に委ねています。労働基準法施行規則21条が挙げるのは、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です(労働基準法施行規則 e-Gov)。

逆に言えば、これ以外の手当は原則として基礎に入ります。医師手当、特殊勤務手当、役職手当、調整手当などの名前で毎月決まって支払われている手当は、基礎に含めて計算するのが条文の読み方です。例の明細では、基本給450,000円と医師手当100,000円の合計550,000円が基礎になり、家族手当と通勤手当は外れます。

住宅手当は除外賃金に挙がっていますが、名前だけで判断せず、規程上どのような基準で支給されているかを確かめます。除外できるかどうかは支給の実態で判断されるため、迷う場合は給与担当に計算の根拠を尋ねてください。

支給欄2: 時間外手当は「単価×時間×率」を自分で再計算する

時間外手当は、明細の中で最も再計算しやすく、最も誤りが出やすい欄です。

労働基準法施行規則19条は、月によって定められた賃金を1時間あたりに直すときは、月給を月の所定労働時間数(月によって違う場合は1年間の1か月平均)で割ると定めています。例では550,000円÷160時間=3,437.5円が1時間の単価です。

率は労働基準法37条が定めます。時間外は2割5分以上、1か月60時間を超えた部分は5割以上、午後10時から午前5時までの深夜は2割5分以上を加算します。例の計算は次のとおりです。

  • 時間外20時間: 3,437.5円×1.25×20時間=85,938円(円未満四捨五入)
  • 深夜4時間の加算: 3,437.5円×0.25×4時間=3,438円
  • 合計89,376円

図2: 時間外手当の再計算の手順(例の数値)

照合のポイントは三つあります。第一に、単価の基礎に医師手当などが入っているか。基本給だけで単価を出していれば、例では1時間あたり約2,813円になり、時間外20時間分で約1.6万円、深夜の加算を含めると約1.8万円少なくなります。第二に、時間数が自分の記録と合っているか。自己研鑽として申請しなかった時間や、オンコールで呼び出されて病院に来た時間が落ちていないかを見ます。第三に、月60時間を超えた月に5割の率が使われているか。救急や外科で時間外が多い月ほど、ここで差が出ます。

年俸制の先生は「時間外手当は年俸に含まれている」と説明されることがあります。その場合でも、どの部分が何時間分の時間外の対価なのか区別できる形になっているかが問われます。年俸制と残業代の関係は医師の年俸制と残業代で詳しく扱っています。

支給欄3: 当直手当は「許可のある当直か」で意味が変わる

当直手当は、明細の数字そのものより、その当直がどう扱われているかを確かめる欄です。

労働基準法41条3号は、監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものについて、労働時間・休憩・休日の規定を適用しないと定めています。施行規則23条は、宿直または日直の勤務で断続的な業務について、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に、労働時間の規定にかかわらず従事させることができるとしています。この許可を一般に宿日直許可と呼びます。

許可のある当直なら、当直1回いくらの定額の手当で足ります。ただし、当直中に通常の業務と同じような救急対応をした時間は、許可の範囲外の労働として時間外手当の対象になります。許可のない当直は、そもそも労働時間として扱い、時間外・深夜の割増賃金を支払う必要があります。

明細で確かめる点は次の二つです。

  • 自分の病院の当直に宿日直許可があるか(病院の総務や医局に確認できます)
  • 当直中に実際に診療した時間が、当直手当とは別に時間外として計上されているか

例の明細では、当直手当60,000円とは別に、当直中の救急対応は時間外の20時間に含めた前提にしています。当直明けの明細に時間外の計上が一切ないなら、許可の有無と運用を確認するきっかけになります。

控除欄1: 社会保険料は「その月の給料」ではなく等級で決まる

控除欄に移ります。最初に押さえておきたいのは、健康保険料と厚生年金保険料はその月の総支給額に料率を掛けて計算するのではないという点です。

保険料は標準報酬月額という等級に料率を掛けて決まります。健康保険法41条は、毎年7月1日時点で、その前の3か月間(4月・5月・6月)に受けた報酬の平均から標準報酬月額を決めると定めています(定時決定、健康保険法 e-Gov)。決まった等級は、原則としてその年の9月から翌年8月まで使われます。

ここでいう報酬には、基本給だけでなく時間外手当・当直手当・通勤手当も含まれます。健康保険法3条5項は、報酬を名称を問わず労働の対償として受けるすべてのものとし、臨時に受けるものと3か月を超える期間ごとに受けるもの(賞与)を除いています。4〜6月に当直や時間外が多かった年は、その後1年間の保険料が上がる仕組みです。

固定的な賃金が変わって、継続した3か月の報酬の平均が元の等級と大きく離れたときは、随時改定で等級が見直されます(同法43条)。昇給や手当の新設があった月から4か月目に保険料が変わっていなければ、確認の対象になります。

控除欄2: 保険料額表で等級と上限を照合する

等級が分かれば、保険料は保険料額表で確認できます。協会けんぽの令和8年度の東京支部の保険料額表では、健康保険料率9.85%、40〜64歳の介護保険第2号被保険者は介護保険料率1.62%が加わり、子ども・子育て支援金率0.23%(令和8年4月分から)、厚生年金保険料率18.300%です(協会けんぽ 令和8年度保険料額表 東京支部)。健康保険料率は都道府県支部ごとに違うので、勤務先の所在地の表を使います(協会けんぽ 令和8年度保険料額表)。

例の標準報酬月額710,000円は、健康保険の37等級(報酬月額695,000円以上730,000円未満)です。東京支部の表では、健康保険料の折半額34,967.5円、子ども・子育て支援金の折半額816.5円です。表の注記にあるとおり、給与から控除するときは被保険者負担分の50銭以下を切り捨て、50銭を超えると切り上げるので、明細には34,967円と816円が載ります。病院によっては支援金を健康保険料の欄に合算して表示しているので、合計で照合します。

図3: 標準報酬月額の上限(健康保険50等級・厚生年金32等級)

厚生年金には医師の明細で効いてくる特徴があります。標準報酬月額の上限が健康保険より低いのです。健康保険法40条の等級表は第50級の1,390,000円(報酬月額1,355,000円以上)が上限です。厚生年金保険法20条の等級表は第31級620,000円までですが、同条2項の改定規定により現在は第32級650,000円が上限で、保険料額表では報酬月額635,000円以上がすべて32等級です(厚生年金保険法 e-Gov、日本年金機構 厚生年金保険料額表)。厚生年金保険料の折半額は650,000円×18.3%÷2=59,475円で、報酬月額がこれ以上いくら高くても同じ額です。

例の先生は健康保険が37等級、厚生年金が上限の32等級です。明細の厚生年金保険料が59,475円を超えていれば、どこかで計算が誤っています。逆に、当直や時間外が多くて報酬が上がっても、厚生年金保険料は増えず、健康保険料だけが等級に応じて上がります。

雇用保険料は等級ではなく、その月の賃金総額に料率を掛けます。令和8年度の一般の事業の労働者負担は5/1,000で、令和7年度の5.5/1,000から下がりました(厚生労働省 令和8年度雇用保険料率のご案内)。例では739,376円×5/1,000=3,696.88円で、3,697円です。4月分の給与から料率が変わっているかも照合の対象です。なお子ども・子育て支援金は令和8年4月分の保険料から徴収が始まります。社会保険料を翌月の給与から控除する病院が多いため、その場合は5月支給の明細で初めて支援金の欄が現れます。

控除欄3: 所得税は源泉徴収税額表の「行」と「列」で引く

所得税は、国税庁の源泉徴収税額表の月額表で引きます(所得税法185条)。令和8年分の表は令和8年1月から使う表で、令和7年分以前の表とは金額が違います(国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表)。

表を引く手順は次のとおりです。

  1. 総支給額から非課税の通勤手当を除く: 739,376円−20,000円=719,376円
  2. 社会保険料等(健康保険・支援金・厚生年金・雇用保険)を引く: 719,376円−98,955円=620,421円
  3. この金額が入る行(620,000円以上623,000円未満)を探す
  4. 扶養控除等申告書を出していれば甲欄、扶養親族等の数の列を読む

図4: 源泉徴収税額表(月額表)の引き方(例の数値)

令和8年分の月額表で、この行の甲欄は扶養親族等0人で49,250円、1人で42,790円、2人で36,330円です。乙欄は205,700円です(令和8年分 月額表)。

照合のポイントは二つです。第一に、本院で甲欄が使われているか。扶養控除等申告書を出していない、または年度の途中で出し忘れていると乙欄で引かれ、例の金額なら1か月で約15.6万円多く源泉されます。年末調整や確定申告で精算されるとはいえ、資金繰りには大きな差です。第二に、扶養親族等の数が実態と合っているか。子どもが16歳になった年や、配偶者の収入が変わった年は数が変わります。

外勤先からの給与は、扶養控除等申告書を出さないので乙欄で源泉されます。複数の病院から給与を受け取っている先生は確定申告が必要になる場合が多く、その手順は年収2,000万円の医師の確定申告にまとめています。

控除欄4: 住民税は前年の所得で決まり、6月に変わる

住民税は、明細の中で唯一、今年の給与と連動しない控除です。

地方税法321条の5は、特別徴収義務者(勤務先)が市区町村から通知を受けた特別徴収税額の12分の1を、6月から翌年5月まで毎月の給与から徴収すると定めています(地方税法 e-Gov)。金額のもとになるのは前年1〜12月の所得です。

このため、確認の仕方は次のようになります。

  • 6月分の明細で住民税の額が変わっているか。変わっていなければ、勤務先が新年度の通知を反映していない可能性がある
  • 5月ごろ勤務先経由で届く特別徴収税額の決定通知書の各月の額と、明細の額が一致しているか
  • 年の途中で転職した場合、前の病院で残りを一括徴収したのか、新しい病院に引き継いだのか

前年に外勤や講演料が増えた先生は、6月から住民税が大きく上がります。今年の明細の振込額が減ったとき、原因が住民税なのか社会保険料の等級なのかは、この欄を前月と比べれば切り分けられます。

誤りの見つけ方: 7つの照合チェックリスト

ここまでの照合を、明細が届いたときに順に見る7項目にまとめます。

図5: 給与明細の7つの照合チェックリスト

  1. 控除項目に根拠があるか: 法定控除以外の項目は労使協定の対象か(労働基準法24条)
  2. 時間外の単価の基礎: 医師手当など毎月の手当が基礎に入っているか(同法37条、施行規則21条)
  3. 時間外の時間数と率: 自分の記録と一致し、60時間超に5割、深夜に2割5分が乗っているか
  4. 当直の扱い: 宿日直許可の有無と、当直中の診療時間が時間外に計上されているか(同法41条3号、施行規則23条)
  5. 社会保険の等級: 標準報酬月額が4〜6月の報酬の平均と合っているか。厚生年金保険料が上限の59,475円を超えていないか
  6. 源泉所得税の欄: 甲欄か乙欄か、扶養親族等の数、令和8年分の表で引いた額と一致するか
  7. 住民税の月額: 6月に新年度の額へ変わり、通知書の月割額と一致するか

誤りの多くは、病院の給与計算担当者が設定を変え忘れたことで起きます。等級の改定、料率の変更(例えば令和8年4月の雇用保険料率の引下げ、子ども・子育て支援金の開始)、扶養人数の変更、住民税の新年度の額は、どれも年に一度の切り替えです。4月・6月・9月・1月の明細は特に丁寧に見ると効率がよいと言えます。

図6: 明細を丁寧に見るべき月(年間カレンダー)

誤りを見つけたら: 根拠を添えて給与担当に確認する

照合して数字が合わないときは、まず自分の前提(等級、扶養人数、時間外の記録)を確かめ、そのうえで給与担当に問い合わせます。そのとき、「どの欄が、どの表のどの値と違うか」を添えると、話が早く進みます。例えば「標準報酬月額710,000円なら健康保険料は東京支部の表で34,967円のはずですが、明細は○○円です」という形です。

社会保険料の控除誤りは、さかのぼって精算されるのが通常です。時間外手当の未払いは、賃金請求権の消滅時効にかかります。労働基準法115条は賃金の請求権を行使できる時から5年としていますが、同法附則143条3項により、当分の間、退職手当を除く賃金の請求権は3年とされています。つまり、毎月の時間外手当は支払日から3年を過ぎた分から順に請求できなくなっていきます。気づいた時点で早めに記録をそろえることが大切です。記録として残しておくとよいのは、給与明細、出退勤の記録、当直表、時間外の申請記録です。

個別の事情で判断が分かれる点、例えば年俸の中にどれだけの時間外の対価が含まれているか、自己研鑽と労働時間の線引きなどは、規程と運用を見たうえで専門家に相談するのが確実です。

勤務医の年収全体と手取りの関係は勤務医の年収と手取りで扱っています。

まとめ: 控除欄は表で照合し、支給欄は規程で照合する

勤務医の給与明細は、支給欄と控除欄で照合の仕方が違います。控除欄の健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・所得税は、標準報酬月額の等級、令和8年度の保険料額表と雇用保険料率、令和8年分の源泉徴収税額表があれば、誰が計算しても同じ答えになります。厚生年金保険料は標準報酬月額650,000円が上限なので、59,475円を超えることはありません。住民税は前年の所得で決まり、6月に切り替わります。

支給欄は、時間外手当の単価の基礎、60時間超と深夜の率、当直の宿日直許可の有無を、労働基準法と自分の病院の規程で確かめます。次の一歩として、手元の6月分と9月分の明細を並べ、住民税と社会保険料が切り替わっているかを見てください。