初期研修を終えて大学病院の専攻医になったのに、振込額が研修医のころとあまり変わらない。2年目の6月に住民税が上がって、さらに減った。そう感じている先生は少なくありません。ただ、「大学病院だから安い」とひとくくりにすると、どこを見直せばよいかが分かりません。この記事では、国立大学法人が公開している医員の給与規程を実物で読み、本給・手当・外勤・税・社会保険の順に給与明細を分解して、手取りがどう決まるかを前提つきで試算します。
最初に答え: 専攻医の手取りは「本給の日給×勤務日数」と「外勤」でほぼ決まる
国立大学病院の専攻医の多くは、教員ではなく「医員」という有期雇用の職で採用されます。この医員の本給は、月給ではなく日給で決まっている大学があります。
- 京都大学は医員の日給を、医師免許取得後の経験年数で決めています。3〜4年目は12,250円、5〜6年目は12,650円です(国立大学法人京都大学有期雇用教職員就業規則 別表第5)。
- 岡山大学は、医員(レジデント・医師)の日給を第2号定時勤務職員(1日7時間45分)で15,980円としています。医員(医師)は同じ区分で16,850円です(国立大学法人岡山大学医員等職員就業規則 別表第6、令和8年4月1日施行版)。
月21日勤務と置くと、京都大学の3〜4年目で月257,250円、岡山大学のレジデントで月335,580円です。ここに超過勤務手当や宿日直手当が乗り、外の病院での勤務(外勤)の収入が加わります。そこから所得税・住民税・社会保険料が引かれて手取りになります。
全国医学部長病院長会議が文部科学省の委託事業としてまとめた報告書には、大学病院の専攻医・医員の年収として、都市部A大学32歳418万円、都市部B大学30歳328万円、地方C大学36歳378万円という個別大学の例が載っています(令和4年度 大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書(概要) PDFの13ページ目、AJMC調べ)。同じ報告書は、大学病院の医師は兼業・副業が多いと書いています。本給だけで生活設計が完結しにくい構造は、大学側の資料でも前提になっています。
本給を読む: 給与表は「列」と「区分」を2回確かめる
給与規程の表は、読み違えやすい作りになっています。岡山大学の別表第6は、列が「月給・日給・時間給」の3つに分かれ、行が職名と勤務区分の組み合わせです。医員(医師)の第1号定時勤務職員の17,530円は日給列の数字で、月給ではありません。同じ表で月給列に数字が入っているのは医員(研修医)だけで、医師は221,000円、歯科医師は187,600円です。短時間勤務職員の2,170円は時間給列です。
勤務区分も確認が要ります。岡山大学の規則では、第1号定時勤務職員は1日8時間・週40時間または32時間、第2号定時勤務職員は1日7時間45分・週38時間45分または31時間で雇用する職員と定義されています(同規則第2条)。週31時間の契約なら週4日勤務なので、勤務日数は月17日前後に減ります。日給制では、週何日の契約かがそのまま月収を動かします。
京都大学も同じ構造です。医員の所定勤務時間は1週38時間45分が原則ですが、1週31時間または23時間15分とすることができると定めています(京都大学有期雇用教職員就業規則第43条第2項)。日給12,250円で週5日なら月21日前後、週4日なら17日前後です。
京都大学の別表第5は、医員の日給を医師免許等取得後の経験年数で5段階に分けています。2年目11,450円、3〜4年目12,250円、5〜6年目12,650円、7〜8年目13,350円、9年目以上14,050円です。初期研修をまっすぐ終えた専攻医は3年目から始まるので、専攻医の3年間はおおむね12,250円と12,650円の区分にいます。2年ごとに上がる額は400円から800円程度で、月21日勤務なら月8,400円から16,800円の差です。専攻医の期間中に本給が大きく伸びる設計ではありません。
もう一つ、研修医との比較で見落としやすい点があります。岡山大学の医員(研修医・医師)は月給221,000円に加え、臨床研修手当が月額150,000円支給されます(同規則第31条)。ただしこの手当には、研修中の超過勤務手当・休日給・夜勤手当・宿日直手当などが含まれると定められています(同条第2項)。専攻医になると、臨床研修手当はなくなり、時間外の手当が別建てになります。「研修医のころより本給が下がった」と感じるのは、この組み替えが一因です。
手当を読む: 賞与と退職手当が「ない」ことを確かめる
常勤の教員との最大の違いは、賞与と退職手当です。
京都大学の規則は、有期雇用教職員に期末手当・勤勉手当を支給するとしつつ、括弧書きで医員と医員(研修医)を除いています(第32条)。岡山大学の規則は、医員等職員の諸手当を通勤手当・特殊勤務手当・超過勤務手当・休日給・夜勤手当・宿日直手当・臨床研修手当・在宅勤務手当と列挙しており、期末・勤勉手当は含まれていません(第23条)。退職手当は支給しないと明記されています(第35条)。
つまり、この2校の医員の年収は、ほぼ「日給×勤務日数×12か月+時間外関係の手当」です。賃金構造基本統計調査でいう「年間賞与その他特別給与額」に当たる部分が、制度上ほぼゼロになります。
超過勤務手当の単価も規程から読めます。岡山大学は日給を7.75で割った額を1時間当たりの給与額とし(第28条第3項)、1日7時間45分以内は100分の100、それを超える分は職員給与規則の例によるとしています。日給15,980円なら1時間当たり約2,062円です。
大学ごとに設計は異なります。山形大学のように年俸制の医員の規程を別に置く大学もあります(国立大学法人山形大学における年俸制の医員に関する規程)。自分の大学の規程は、大学のウェブサイトの「規則集」「例規集」で医員・専攻医の語で検索すると見つかることが多いです。
外勤を読む: 収入の柱が本院の外にある構造
全国の医師の給与水準は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査で確認できます。令和7年調査の職種「医師」(企業規模10人以上計)では、きまって支給する現金給与額が25〜29歳で月615.2千円、30〜34歳で867.5千円、年間賞与その他特別給与額は同順に189.2千円、452.7千円です(令和7年賃金構造基本統計調査 職種第5表)。単純に12倍して賞与を足すと、25〜29歳で約757万円、30〜34歳で約1,086万円になります。35〜39歳では、きまって支給額が1,119.8千円、年間賞与その他特別給与額が1,259.8千円です。専攻医を終えて専門医を取る30代前半から後半にかけて、全国平均の給与は大きく伸びます。同じ表の所定内実労働時間数は、25〜29歳で月159時間、超過実労働時間数は月36時間でした。きまって支給額には超過勤務手当が含まれるので、若い年代ほど時間外の手当が給与を押し上げている点も読み取れます。
この数字を「市中病院の平均」と読むのは誤りです。調査は企業規模別の集計で、大学病院か市中病院かという病院の種類では分かれていません。企業規模別に見ると、25〜29歳のきまって支給額は1,000人以上で575.5千円、100〜999人で809.0千円と差がありますが、企業規模は病院の種類と一致しません。この表から言えるのは、同年代の医師の給与の分布の中心がどこにあるか、までです。
一方で、先の報告書が示す大学の専攻医・医員の年収300万〜400万円台と比べると、差は大きく見えます。その差を埋めているのが外勤です。外勤は、派遣先の病院と個別に雇用契約を結ぶ給与であることが多く、本院とは別の源泉徴収票が発行されます。外勤の相場は医師バイトの相場で整理しています。
大学病院で給与が支払われないまま診療していた医師がいたことも、公的調査で確認されています。文部科学省が令和元年6月28日に公表し、令和2年2月7日に一部更新した調査では、大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師31,801名のうち、平成30年9月期に合理的な理由なく給与を支給していなかったため遡及も含め支給するとした者が804名、合理的な理由があるとして支給していなかったが専門家への相談を踏まえ今後支給するとした者が2,015名でした(文部科学省「大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査」)。この2区分を合わせると2,819名です。
この調査では、合理的な理由があるとして給与を支給していない者も4,249名いました。大学が挙げた主な理由は、自己研鑽・自己研究の目的での診療従事や、別の本務先から給与が出ていることです。大学院生として籍を置きながら診療する先生は、自分の診療が「雇用契約のある労働」なのか「研修」なのかを、契約書で確認しておく必要があります。
税を読む: 2か所給与と「専攻医2年目の住民税」
外勤があると、税の流れが研修医のころと変わります。
所得税。2か所以上から給与を受け取り、年末調整されなかった給与と、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円を超える人は、確定申告が必要です(国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人)。外勤先の源泉徴収は「乙欄」で行われるのが通常で、年間の税額とは一致しません。過不足は確定申告で精算します。
住民税。個人住民税の所得割は前年1月から12月の所得で算定されます(総務省 個人住民税)。給与からの特別徴収は、6月から翌年5月まで毎月行われます(地方税法第321条の5)。初期研修医は研修中のアルバイトが禁止されていると文部科学省の同調査も整理しており、外勤収入が生じるのは専攻医になってからが多いはずです。すると、専攻医1年目に始めた外勤の所得に対する住民税は、専攻医2年目の6月から給与天引きに乗ってきます。研修医2年目で住民税が始まる現象と同じ仕組みが、外勤の分だけ1年遅れでもう一度起きます。
研修医2年目の住民税の話は研修医2年目で辞めたいと感じたときでも触れています。
社会保険を読む: 週の契約時間と「学生」で扱いが分かれる
社会保険(健康保険・厚生年金)は、週の所定労働時間で扱いが分かれます。1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がともに通常の労働者の4分の3以上なら、一般の被保険者です。どちらかが4分の3未満の短時間労働者でも、特定適用事業所や国・地方公共団体に属する事業所などで働き、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月8.8万円以上、学生でない、の3つを満たせば加入対象です(日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用)。
ここで専攻医に関係するのが「学生でない」という要件です。大学院生として在籍しながら短時間で雇用される場合、この要件で加入対象から外れることがあります。夜間の学生や休学中の人などには例外があります。週38時間45分を基準にすると、週23時間15分の契約は4分の3に届かず、週31時間なら届きます。なお京都大学の規程は、医員の資格から学生・研究生等を除いています(別表第3)。大学院生がどの身分で診療に従事しているかは大学ごとに違うため、社会保険の加入先は自分の労働条件通知書で確かめてください。加入対象外なら、国民健康保険と国民年金に自分で加入することになります。
外勤先の社会保険は、週1日程度の勤務なら加入対象にならないのが通常です。したがって試算では、社会保険料は本院の給与からだけ引かれると置きます。
試算: 京都大学の医員3〜4年目で手取りを出す
以下は公開規程の数字に、明示した前提を置いた概算です。実際の明細は、勤務日数、時間外の実績、加入する保険者、自治体で変わります。
前提
- 京都大学の医員、医師免許取得後3年目(専攻医1年目)。日給12,250円、週5日の契約で月21日勤務
- 超過勤務手当・宿日直手当・通勤手当は含めない
- 社会保険料の本人負担を給与の約15%と置く(厚生年金9.15%に、健康保険と雇用保険の本人負担を加えた概算。実際の率は加入する保険者と標準報酬月額で変わるため、この15%は仮定です)
- 所得税は令和8年分の給与所得控除(国税庁 No.1410)と基礎控除(国税庁 No.1199)で年額を計算し、復興特別所得税を含める。令和8年分の基礎控除は合計所得金額489万円以下なら104万円です(令和8年4月1日現在法令等として掲載の表、2026年10月1日確認)
- 住民税の基礎控除は43万円で計算する
- 扶養親族なし、住民税の均等割は森林環境税を含め5,000円、調整控除2,500円
ケースA: 外勤なし 月の総支給は257,250円、年3,087,000円です。給与所得控除は1,006,100円、給与所得は2,080,900円になります。社会保険料は年約463,050円、所得税の基礎控除は合計所得が489万円以下なので104万円です。課税所得は約577,000円、所得税は復興特別所得税を含め年約29,400円、月約2,500円です。
月の手取りは、257,250円から社会保険料約38,600円、所得税約2,500円を引き、前年所得に基づく住民税を引いた額です。前年も同水準の所得だったとすると住民税は年約12.1万円、月約1万円で、手取りは月約20.6万円になります。
ケースB: 外勤を月4回、1回7万円とした場合 外勤の単価は仮置きです。外勤収入は年336万円、給与収入の合計は年644.7万円です。給与所得控除は1,729,400円、給与所得は4,717,600円です。基礎控除は合計所得489万円以下の区分なので104万円のままで、課税所得は約321.4万円、所得税は年約22.9万円です。
この年の住民税は前年の所得で決まるので、ケースAと同じ年約12.1万円のままです。年間の手取りは約563万円になります。翌年も同じ働き方を続けると、住民税は外勤込みの所得に対してかかり、年約38.5万円に上がります。所得が同じでも、2年目の手取りは年約26万円、月にして約2.2万円減る計算です。これが「専攻医2年目の住民税ショック」の正体です。
| 項目(年額) | ケースA 外勤なし | ケースB 外勤1年目 | ケースB 外勤2年目 |
|---|---|---|---|
| 給与収入 | 308.7万円 | 644.7万円 | 644.7万円 |
| 社会保険料 | 約46.3万円 | 約46.3万円 | 約46.3万円 |
| 所得税 | 約2.9万円 | 約22.9万円 | 約22.9万円 |
| 住民税 | 約12.1万円 | 約12.1万円 | 約38.5万円 |
| 手取り | 約247.3万円 | 約563.4万円 | 約537.0万円 |
所得税は、年の途中は本院の甲欄と外勤先の乙欄で源泉され、確定申告で年額に合わせて精算されます。表は精算後の年額です。
契約が週4日(週31時間)の場合も見ておきます。京都大学の日給12,250円で月17日なら、月の総支給は208,250円です。社会保険料を同じ15%で置くと約31,200円が引かれ、所得税・住民税を引く前で約17.7万円になります。空いた1日を外勤に充てる前提の契約なので、外勤がなければ生活費が足りない水準です。この場合は外勤の確保が、そのまま生活の前提になります。
同じ前提を岡山大学の医員(レジデント)に当てはめると、日給15,980円×21日で月335,580円、年約402.7万円が本給です。大学による差は、本給だけで年90万円以上あります。
専攻医数から見た「大学を選ぶ」という判断
専攻医の数は増えています。日本専門医機構の資料では、専攻医採用実績は2018年の8,410人から、2025年9,762人、2026年9,998人に増えました(令和8年度第1回医道審議会医師分科会医師専門研修部会 資料1、令和8年3月2日時点確定値)。2026年の内訳では、内科3,129人、外科996人、救急科527人などです。
内科など多くの領域では都道府県別の採用数上限(シーリング)があり、希望どおりの都市・病院で研修できるとは限りません。どの基幹施設を選ぶかは、研修の中身が第一です。そのうえで、同じ地域に大学病院と市中の基幹施設の両方の選択肢があるなら、給与規程と外勤の運用を比べる価値はあります。
比べるときに見る項目は次のとおりです。
- 本給は月給か日給か。日給なら週何日の契約か
- 期末・勤勉手当と退職手当の有無
- 超過勤務手当の単価と、実績どおり申請できる運用か
- 外勤の配分方法と、1回あたりの単価
- 社会保険の加入先(大学院在籍時を含む)
給与明細を読むときのチェックリスト
明細が届いたら、次の6点を順に確認すると、どこで手取りが決まっているかが見えます。
第一に、基本給欄の金額を日給×出勤日数で割り戻し、規程の日給と一致するかを見ます。日給が経験年数で上がる大学では、4月に区分が変わっているかも確認します。京都大学なら免許取得後5年目から12,650円の区分です。
第二に、超過勤務手当の時間数が、自分の記録と合っているかを見ます。外勤先での勤務時間も通算して管理される仕組みになっているため、本院の時間外を少なく申告する習慣は、時間管理の面でも不利です。
第三に、社会保険の欄に健康保険と厚生年金の両方が引かれているかを見ます。空欄なら、国民健康保険と国民年金に自分で加入しているかを確認します。
第四に、住民税の欄が6月にいくら変わったかを見ます。前年に外勤を始めていれば、ここで上がっているはずです。
第五に、外勤先ごとの源泉徴収票を年明けに集め、確定申告の準備をします。
第六に、翌年の住民税の増加分を、あらかじめ毎月の予算から外しておきます。
勤務医全体の年収と手取りの関係は勤務医の年収と手取りで、診療科ごとの差は医師の年収 診療科別で扱っています。
まとめ: 自分の大学の規程を1回読み、外勤の税を1年先まで見込む
専攻医の手取りは、大学が公開している給与規程の日給、週の契約日数、賞与と退職手当の有無でまず骨格が決まります。京都大学と岡山大学の規程を見るかぎり、医員には期末・勤勉手当がなく、本給は日給です。そこに外勤の給与が乗ると、確定申告が必要になり、翌年6月から住民税が上がります。
次の一歩は二つです。自分の大学の規則集で医員の給与表を開き、日給と契約時間を確認すること。外勤を始めた年のうちに、翌年の住民税の増加分を見込んでおくことです。
