年収2,000万円の勤務医でも、年収1,000万円台の同僚とほぼ同じ額の厚生年金しか受け取れない。その原因は、保険料と年金額の計算に使う報酬に上限があることです。

この記事では、日本年金機構と厚生労働省の一次資料をもとに、医師の年金がどこで頭打ちになるのかを計算式で確かめます。そのうえで「勤務医一筋」「途中で開業」「非常勤中心」の3つのキャリア別に、ご自身で概算できる手順を示します。数字はすべて2026年10月1日時点の制度で計算しています。

結論:勤務医一筋でも公的年金は年300万円前後が目安

先に答えを置きます。以下は本記事の前提(後述)で計算した概算です。

  • 勤務医一筋(26〜64歳の38年間、厚生年金に加入): 年約310万円(月約25.8万円)
  • 14年勤務医ののち40歳で開業(以後は国民年金のみ): 年約168万円(月約14万円)
  • 非常勤中心で、厚生年金に一度も入っていない: 年約85万円(月約7.1万円)

ポイントは3つです。1つ目は、本記事の前提では年収がおおむね1,200万円を超えると、それ以上いくら稼いでも厚生年金は増えないこと。2つ目は、開業して国民健康保険・国民年金だけになった期間は、老齢基礎年金の分しか積み上がらないこと。3つ目は、非常勤中心で働き方によって厚生年金の適用外になっていた期間も、同じく基礎年金しか残らないことです。

医師の生涯年収を考えると、公的年金が老後の支出に占める割合は一般の会社員より小さくなります。そこで、自分の年金額を早いうちに概算しておくことが、資産形成や働き方を考える出発点になります。

図1: 公的年金の3階建て構造と医師の働き方ごとの位置づけ(概念図)

年金額を決める2つの部品

公的年金は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金(報酬比例部分)」の2つでできています。まず、それぞれの計算方法を確認します。

老齢基礎年金:令和8年度は満額で月70,608円

厚生労働省によると、令和8年度の年金額は前年度から国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられました。老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以後に生まれた方で月額70,608円です(厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」)。年額にすると847,296円です。

満額を受け取れるのは、20歳から60歳までの40年間(480月)の保険料をすべて納めた場合です。未納や免除の月があれば、その分だけ比例して減ります。学生納付特例を使ったまま追納していない医師は少なくありません。医学部の在学期間がちょうどこれに当たるため、ねんきん定期便で納付月数を一度確かめておくと安心です。

厚生年金に加入している期間は、国民年金の第2号被保険者として基礎年金の加入期間にも数えられます。つまり、勤務医として働いた期間は、基礎年金と厚生年金の両方に同時に積み上がっています。

老齢厚生年金:報酬比例部分は「平均×5.481/1000×月数」

報酬比例部分は、平成15年4月以降の加入期間について次の式で計算します(日本年金機構「報酬比例部分」)。

平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以後の加入月数

平均標準報酬額とは、加入期間中の「標準報酬月額」と「標準賞与額」を合計し、加入月数で割った値です。実際の計算では、過去の報酬を現在の価値に置き換える再評価率がかかります。この記事の概算ではこの再評価を省き、現在の報酬水準がそのまま続く前提で計算します。

平成15年3月以前の期間は別の乗率(7.125/1000)で、賞与を含まない計算になります。この記事の読者の多くは平成15年以降に就職しているため、以下は5.481/1000だけで話を進めます。

高年収医師の年金が頭打ちになる仕組み

標準報酬月額は65万円、標準賞与額は1回150万円が上限

厚生年金の保険料と年金額は、実際の給与そのものではなく「標準報酬月額」という区切りのよい金額で計算します。日本年金機構の保険料額表によると、標準報酬月額は第1級の8万8千円から第32級の65万円までです。報酬月額が63万5千円以上であれば、100万円でも200万円でも65万円として扱われます。

賞与についても、1回あたりの標準賞与額の上限は150万円です。賞与が年3回を超えて支給される場合は賞与ではなく報酬として扱われるため、ほとんどの医師は年2回の賞与が上限の対象になります。

つまり、厚生年金の計算に乗る報酬には天井があります。月給が約63万5千円を超え、賞与が1回150万円を超えた部分は、保険料にも年金額にも反映されません。

年収別に計算すると、1,200万円付近で完全に平らになる

具体的な数字で確認します。前提は次のとおりです。

  • 年収を16分割し、月給12か月分と賞与2回(各2か月分)で支給されると仮定
  • 標準報酬月額の等級による端数の丸めは無視
  • 再評価率は省略し、1年加入あたりの報酬比例部分を計算

この前提で1年加入するごとに増える報酬比例部分(年額)は次のとおりです。

年収月給計算上の平均標準報酬額1年加入で増える年金額
600万円37.5万円50.0万円約32,900円
800万円50.0万円約66.7万円約43,800円
1,000万円62.5万円約83.3万円約54,800円
1,500万円93.75万円90.0万円約59,200円
2,000万円125万円90.0万円約59,200円
3,000万円187.5万円90.0万円約59,200円

年収1,500万円と3,000万円で、1年加入あたりに増える年金額はまったく同じです。月給は65万円、賞与は150万円×2回で、どちらも上限に達しているためです。この前提では、月給が65万円に届く年収1,040万円で月給側が、賞与が150万円に届く年収1,200万円で賞与側も上限に達します。

計算例を1つ示します。平均標準報酬額が90万円の場合、900,000円×5.481/1000=4,932.9円が1か月加入するごとの年金額(年額)です。12か月で約59,195円になります。

図2: 年収別の「1年加入で増える報酬比例部分」(本記事の前提による計算値)

理論上の最大値も出しておきます。標準報酬月額65万円に加え、標準賞与額150万円の賞与が年3回ある場合、平均標準報酬額は102.5万円です。このとき1年加入あたりの報酬比例部分は約67,400円で、これが現行制度の天井です。現実の医師の給与体系でここまで達するケースはまれです。

保険料も上限で止まる

頭打ちは年金額だけではありません。保険料も同じ上限で止まります。厚生年金保険料率は18.3%で、労使折半のため本人負担は9.15%です。標準報酬月額65万円なら本人負担は月59,475円で、年収2,000万円でも3,000万円でもこの額から増えません。

保険料の上限と年金額の上限はセットです。「払った分だけ戻る」構造は上限の手前までで、それを超えた所得は公的年金の外で老後資金を準備する必要があります。

令和7年年金制度改正法:施行済みと予定を分けて確認する

2025年(令和7年)6月に成立した年金制度改正法には、高年収の医師に関係する項目が2つあります。施行済みのものと、これから施行されるものを分けて整理します。

図3: 医師に関係する年金制度改正のタイムライン(施行済み/予定)

施行済み:在職老齢年金の基準額が65万円に(令和8年4月〜)

在職老齢年金は、60歳以降に厚生年金に加入しながら働く人の老齢厚生年金を、給与と年金の合計に応じて減らす仕組みです。改正法では支給停止の基準額を62万円に引き上げると定めました。この62万円は令和6年度の賃金水準で表した額です。賃金の変動に合わせて改定された結果、令和8年度の実際の基準額は65万円です(厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」)。令和8年3月分までの基準額は51万円でした。

計算式は次のとおりです(日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」)。

支給停止額(月額)=(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)×1/2

基本月額は老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額です。総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額と、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額の合計です。老齢基礎年金は支給停止の対象になりません。

予定:標準報酬月額の上限を75万円まで段階的に引き上げ

改正法では、標準報酬月額の上限を次のように引き上げることが決まっています(厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」)。いずれも2026年10月時点ではまだ施行されていません。

  • 令和9年(2027年)9月から:68万円
  • 令和10年(2028年)9月から:71万円
  • 令和11年(2029年)9月から:75万円

上限が75万円になると、賞与を含まない単純計算で、1年加入あたりの報酬比例部分は上限到達者で約6,600円増えます(75万円と65万円の差10万円×5.481/1000×12か月)。一方、本人負担の保険料も月約9,150円(10万円×9.15%)増えます。高年収の勤務医にとっては、年金額が少し増えるのと引き換えに、手取りが確実に減る改正です。

キャリア別に概算する:3つのモデルケース

ここからは、医師によくある3つのキャリアで年金額を概算します。共通の前提は次のとおりです。

  • 20〜60歳の国民年金保険料は全期間納付済み(学生期間も追納済み)
  • 厚生年金加入中の年収は1,500万円以上で、平均標準報酬額は上限付近の90万円
  • 再評価率・マクロ経済スライドなど将来の改定は考慮しない
  • 65歳から受給開始、令和8年度の年金額で計算
  • 加給年金・配偶者の年金は含めない

図4: 3つのキャリア別に見た公的年金の概算額(本記事の前提による計算値)

ケース1:勤務医一筋(26〜64歳まで厚生年金)

26歳で初期研修を始め、64歳まで常勤で勤務した場合、厚生年金の加入期間は38年(456月)です。

  • 報酬比例部分:900,000円×5.481/1000×456月=約224.9万円
  • 老齢基礎年金:70,608円×12か月=約84.7万円
  • 合計:年約309.7万円(月約25.8万円)

年収が2,000万円でも3,000万円でも、この数字はほとんど変わりません。65歳以降も常勤で働き続ける場合は、在職老齢年金による支給停止が問題になります。例えば総報酬月額相当額が100万円で、報酬比例部分の月額が約18.7万円なら、(18.7万円+100万円-65万円)×1/2=約26.9万円が支給停止額です。これは報酬比例部分の月額を上回るため、報酬比例部分は全額が停止になり、基礎年金だけが支給されます。65歳以降の働き方と年金の関係は医師の定年は65歳?その後の働き方で詳しく扱っています。

ケース2:40歳で開業(以後は国民年金のみ)

26歳から39歳まで14年(168月)勤務医として厚生年金に加入し、40歳で個人開業したケースです。個人開業医は国民年金の第1号被保険者となり、医療保険は医師国保などの国民健康保険になります。この期間は厚生年金が積み上がりません。

  • 報酬比例部分:900,000円×5.481/1000×168月=約82.9万円
  • 老齢基礎年金:約84.7万円
  • 合計:年約167.6万円(月約14.0万円)

勤務医一筋と比べて、年約142万円の差がつきます。開業後の収入が勤務医時代より多くても、公的年金は減る方向に働く点を押さえておく必要があります。

なお、開業後に医療法人化し、理事長として法人から役員報酬を受け取る場合は、法人が厚生年金の適用事業所になります。この場合は再び厚生年金に加入するため、ケース1に近い積み上がり方に戻ります。一方、個人開業の診療所は、常時5人以上の従業員がいれば厚生年金の強制適用事業所になります。それでも事業主である院長本人は厚生年金に加入できず、国民年金のままです。

ケース3:非常勤中心で厚生年金の適用外

複数の医療機関で非常勤やスポットの勤務を組み合わせ、どの勤務先でも厚生年金の加入要件を満たさなかったケースです。この場合、国民年金の第1号被保険者として保険料を自分で納めることになります。

  • 報酬比例部分:なし
  • 老齢基礎年金:約84.7万円
  • 合計:年約84.7万円(月約7.1万円)

年収が2,000万円あっても、公的年金はこの水準です。非常勤中心の働き方でも、1つの勤務先で週の所定労働時間などの要件を満たせば厚生年金の対象になります。ご自身の加入状況は、ねんきんネットの加入履歴で確認できます。

ご自身の数字で概算する手順

3つのケースの計算は、次の4ステップで自分の数字に置き換えられます。

  1. ねんきん定期便またはねんきんネットで、厚生年金の加入月数と国民年金の納付月数を確認する
  2. 厚生年金加入中の平均的な年収から、上の表で平均標準報酬額を読み取る(年収1,200万円以上なら90万円)
  3. 平均標準報酬額×5.481/1000×厚生年金の加入月数で、報酬比例部分を出す
  4. 70,608円×12×(納付月数÷480)で老齢基礎年金を出し、合計する

50歳以上の方のねんきん定期便には、60歳まで今の条件で加入し続けた場合の見込額が記載されています。50歳未満の場合は「これまでの加入実績に応じた年金額」なので、今後の加入期間分を上の式で足してください。

公的年金の上乗せ:医師が使える制度の位置づけ

公的年金が頭打ちになる以上、上乗せ部分をどう準備するかが実務上のテーマになります。ここでは制度の位置づけだけを整理します。特定の商品を勧めるものではありません。

図5: 働き方別に使える上乗せ制度の判断チャート(概念図)

付加年金(第1号被保険者向け)

国民年金の第1号被保険者(個人開業医や非常勤中心の医師)は、月400円の付加保険料を上乗せで納められます。受け取れる付加年金は、年額で200円×付加保険料の納付月数です(日本年金機構「付加保険料の納付」)。例えば40年間(480月)納めると年96,000円になり、2年受け取れば払った保険料を上回ります。

額は小さいものの、物価スライドがない代わりに仕組みが単純です。国民年金基金に加入している場合は付加保険料を納められない点に注意してください。

国民年金基金(第1号被保険者向け)

国民年金基金は、第1号被保険者が老齢基礎年金に上乗せする公的な年金制度です(国民年金基金連合会)。掛金は全額が社会保険料控除の対象になります。iDeCoと合わせた掛金の上限は月68,000円で、この枠を両制度で分け合う形になります。

開業医にとっては、厚生年金がない分を埋める選択肢の1つです。ただし、終身年金を中心とした設計のため途中解約ができず、加入時の予定利率が長期間固定されます。

日本医師会の医師年金

日本医師会の会員が任意で加入できる、積立型の私的年金です(日本医師会「医師年金」)。公的年金とは別の、医師会が運営する制度という位置づけになります。勤務医も開業医も会員であれば加入でき、公的年金の加入区分にかかわらず利用できる点が特徴です。税制上の扱いは国民年金基金やiDeCoと異なるため、加入前に医師会の案内で掛金と控除の扱いを確認してください。

iDeCo・企業型DC(勤務医・開業医共通)

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、勤務医・開業医・非常勤医師のいずれも加入できます。掛金の上限は働き方と勤務先の企業年金の有無で異なります。上限額の詳細は医師のiDeCo上限額を、病院の企業型DCについては病院の企業型DCとはをご覧ください。資産形成全体の順番を知りたい方は医師の資産形成の始め方も参考になります。

年金額を左右する、見落としやすい5つの点

最後に、医師の年金額で見落とされやすいポイントを確認します。

図6: 年金額を確認するためのチェックリスト(概念図)

1. 学生時代の未納・学生納付特例 医学部の6年間のうち、20歳以降の期間は国民年金の加入期間です。学生納付特例を使って追納していない場合、その月数分だけ基礎年金が減ります。追納できるのは承認された月から10年以内です。

2. 大学院・研究生期間の空白 大学院生や無給医の期間は、厚生年金に入っていないことがあります。この間の国民年金の納付状況を確認してください。

3. 複数の勤務先での二重加入 2か所以上で厚生年金の加入要件を満たすと、各勤務先の報酬を合算して標準報酬月額を決めます。この場合も上限は65万円です。上限に達している医師にとって、年金額の上乗せはありません。

4. 70歳以降の厚生年金 厚生年金の加入は70歳までで、それ以降は保険料を納めなくなります。ただし、70歳以降も在職老齢年金による支給停止の仕組みは適用されます。

5. 繰下げ受給と在職老齢年金の関係 受給を66歳以降に繰り下げると、1か月あたり0.7%年金額が増えます(最大75歳まで、84%増)。ただし、在職老齢年金で支給停止される分は繰下げによる増額の対象になりません。高年収のまま65歳以降も働く医師は、この点を知らずに繰下げを選ぶと、期待したほど増えないことがあります。

まとめ:まずは自分の加入記録から概算を

医師の公的年金は、年収が一定を超えると頭打ちになります。本記事の前提では、勤務医一筋でも年約310万円、40歳で開業した場合は年約168万円、厚生年金に一度も入らなければ年約85万円が目安です。

次の一歩として、ねんきんネットで加入月数と納付月数を確認し、本記事の手順で概算してみてください。そのうえで、令和9年9月から始まる標準報酬月額の上限引き上げと、在職老齢年金の基準額65万円を踏まえ、65歳以降にどう働くかを考えるのが順番です。

公的年金で足りない部分は、付加年金や国民年金基金、iDeCo、医師年金など、働き方ごとに使える制度が異なります。制度ごとの税制上の扱いや掛金の上限を比べたうえで、ご自身に合った組み合わせを選んでください。

参考文献