2024年9月まで、年収の高い医師世帯の多くは児童手当の「特例給付」すら対象外でした。そのため「うちはもらえない制度」という認識のまま、手続きを一度もしていない家庭が少なくありません。所得制限は令和6年10月分から撤廃されましたが、児童手当は請求しなければ1円も振り込まれない制度です。この記事では、撤廃後に医師世帯が取りこぼしやすい手続きを、申請漏れ・遡及の限界・転居と異動の3点から点検します。数字と制度は、こども家庭庁の案内と児童手当法の条文(e-Gov法令検索、2026年10月1日取得)で確認しています。

結論: 所得制限はなくなったが「自動では振り込まれない」

最初に要点を示します。令和6年10月分から、児童手当は次のように変わりました(こども家庭庁「児童手当制度のご案内」)。

  • 所得制限の撤廃(年収にかかわらず全額支給。特例給付の区分もなくなった)
  • 支給対象を高校生年代まで延長(18歳に達する日以後の最初の3月31日まで)
  • 第3子以降は月3万円に増額
  • 支払月を年3回から年6回(2・4・6・8・10・12月の偶数月)に変更

医師世帯にとって重要なのは1点目です。以前は夫婦のうち所得の高い方の所得が上限額を超えると、手当も特例給付も受けられませんでした。勤務医の多くがこの層に入っていたため、子どもが生まれても認定請求書を出していない、あるいは一度出したが資格消滅の通知を受けてそのままになっている、という家庭が多く生まれました。

制度が変わっても、この「未請求の状態」は自動では解消されません。児童手当法は、手当の支給を受給資格者が認定の請求をした日の属する月の翌月から始めると定めています(児童手当法 第8条第2項、要約)。つまり権利があっても、請求していない月の分は原則として発生しません。これが撤廃後の最大の落とし穴です。

図1: 児童手当は認定請求をした翌月分から支給される。出生・転入の翌日から15日以内なら特例あり

金額の目安

月額は子の年齢と、何番目の子かで決まります(こども家庭庁「児童手当制度のご案内」)。

区分第1子・第2子第3子以降
3歳未満月15,000円月30,000円
3歳〜高校生年代月10,000円月30,000円

たとえば第1子が出生の翌月から高校卒業年代の3月まで受給すると、3歳未満のおよそ36か月×15,000円=約54万円、3歳から18歳年度末までの約180〜191か月×10,000円=約180万〜191万円で、合計はおよそ234万〜245万円になります(誕生月によって変わります。早生まれほど少なくなります)。所得制限で「ゼロ」だった世帯にとって、これは決して小さな額ではありません。

図3: 児童手当の月額。3歳未満15,000円、3歳〜高校生年代10,000円、第3子以降は30,000円

取りこぼし1: 撤廃前から「未請求のまま」になっている

最も多いのは、そもそも一度も認定請求をしていないケースです。

撤廃が決まった際、新たに受給資格が生じる世帯には経過措置が設けられました。令和7年(2025年)3月31日までに申請すれば、令和6年10月分にさかのぼって支給するという扱いです(令和6年法律第47号附則第13条第6項、こども家庭庁の案内)。この期限はすでに過ぎています。2026年10月の時点でまだ請求していない場合、これから請求しても支給は請求した月の翌月分からになり、過去分をまとめて受け取ることはできません。

「もう遅い」と思うかもしれませんが、損失を止めることはできます。1か月遅れるごとに、子ども1人あたり10,000〜30,000円が失われ続けるからです。今日請求すれば、来月分からは受け取れます。

確認の方法は単純です。通帳やネットバンキングで、偶数月の上旬〜中旬に市区町村(または勤務先)から入金があるかを見てください。2024年12月以降、偶数月に入金がなければ、未請求か、何らかの理由で認定されていない可能性が高いと言えます。

「受給者」を誰にするか

児童手当は、子どもを養育している父母のうち生計を維持する程度の高い方(通常は所得の高い方)が受給者になります(児童手当法 第4条第3項、要約)。共働きの医師夫婦で、なんとなく妻の名義で申請しようとして窓口で差し戻される、ということが起こります。所得制限はなくなりましたが、誰が受給者になるかの判定は残っています。夫婦とも医師の場合は、前年の所得が高い方の名義で請求するのが原則です。どちらが主たる生計維持者か迷うときは、市区町村に相談してください。

取りこぼし2: 出生時の「15日」を過ぎる

2人目・3人目が生まれたときにも、同じ落とし穴があります。

児童手当は、子が増えても自動で増額されません。第2子以降の出生時にも「額改定請求」または認定請求が必要です。そして、ここで効いてくるのが15日特例です。出生日や転入日(異動日)の翌日から15日以内に請求すれば、請求が翌月にずれ込んでも、異動日の属する月の翌月分から支給されます(こども家庭庁の案内。転居については児童手当法 第8条第3項に規定があります)。なお、第2子以降の出生による増額も、原則は請求した月の翌月から改定されます(同法 第9条第1項)。

逆に言えば、15日を1日でも過ぎれば、その遅れた月の分は戻ってきません。たとえば6月25日に生まれ、7月20日に請求した場合、特例が使えず、支給は8月分からになります。7月分の15,000円(第3子以降なら30,000円)を失う計算です。

医師世帯でこの15日を過ぎやすい典型は次の3つです。

1つ目は里帰り出産です。母子とも実家にいる間に15日が過ぎてしまいます。請求者は通常、住所地に住む主たる生計維持者(夫が医師なら夫)なので、夫が1人で手続きできます。出生届と同時に認定請求(額改定請求)を出すのが最も確実です。

2つ目は当直・オンコールの多い時期と重なることです。平日の日中に役所へ行けない勤務医は少なくありません。多くの自治体では、マイナポータル(ぴったりサービス)からの電子申請に対応しています。

3つ目は、配偶者の育休中で「妻が出してくれたと思っていた」という夫婦間の思い込みです。受給者が夫なら、請求するのも夫です。

取りこぼし3: 転居したら「転入先で出し直し」

医師は転居の多い職業です。医局人事で数年ごとに県をまたぐ勤務医にとって、ここが最大の盲点です。

児童手当の支給主体は、受給者が住む市区町村です。別の市区町村へ引っ越すと、旧住所地での資格は消滅し、新住所地であらためて認定請求をしなければなりません。転出の手続きをしただけでは、手当は引き継がれません。こども家庭庁の案内でも、転入時には現住所の市区町村に認定請求書を提出するよう明記されています。

ここでも15日特例が働きます。住所を変更した後15日以内に新住所地で請求すれば、住所を変更した月の翌月分から途切れずに受け取れます(児童手当法 第8条第3項)。4月1日付の異動で3月末に引っ越し、着任の忙しさで請求が5月にずれ込むと、支給は6月分からとなり、4月分と5月分が抜け落ちます。

なお、同じ市区町村の中での転居なら、住所変更の届出で足ります。受給者は内閣府令で定める事項を市区町村長に「届け出なければならない」と法律で定められており(児童手当法 第26条第3項)、住所の変更はこども家庭庁の案内で届出が必要な場合として挙げられています。努力義務ではなく義務です。正当な理由なく届出をしないと、支払が一時差し止められることがあります(同法 第11条)。

また、単身赴任で受給者と子の住所が分かれる場合や、医師夫婦が別々の場所で働く場合は、受給者の住所地がどこになるかで請求先が変わります。夫婦の住所が別なら、どちらの住所地に請求するかも含めて窓口で確認してください。

取りこぼし4: 公務員と民間を行き来するときの「二重の手続き」

児童手当は、原則として市区町村が支給します。ただし、受給者が常時勤務の公務員の場合は、勤務先(所属庁)から支給されます(児童手当法 第17条、こども家庭庁の案内)。自治体が直営する病院に常勤で勤める医師は、通常この扱いを受けます。

図2: 児童手当の申請先。公務員医師は勤務先、民間病院の勤務医・開業医は住所地の市区町村

問題は、公務員と民間の間を異動するときです。市立病院から民間病院へ、あるいはその逆へ移る場合は、次の2つの手続きが必要になります。

  • 旧支給元(勤務先または市区町村)での受給資格の消滅の届出
  • 新支給元での新たな認定請求

公務員になった場合も、公務員でなくなった場合も、こども家庭庁は、現住所の市区町村と勤務先の両方への届出・申請を求めています。このときも15日以内が目安です(児童手当法 第17条第3項は、公務員の認定者が変わった場合に第8条第3項の15日特例を読み替えて適用しています)。医局人事で公立病院と民間病院を行き来するキャリアでは、異動のたびに必ずこの点を確認してください。

注意したいのは、国立大学法人や独立行政法人、地方独立行政法人の病院に勤める医師です。法人の種類によって扱いが異なり、職員が公務員でない法人も多いため、その場合は住所地の市区町村に請求することになります。「国立だから勤務先経由のはず」と思い込み、どこにも請求していなかった、ということが起こりえます。判断に迷ったら、勤務先の人事担当に「児童手当はどちらに請求するのか」と一言確認するのが確実です。

取りこぼし5: 第3子の加算を「数え損ねる」

第3子以降の月3万円は、医師世帯でも金額の差が大きい部分です。ここでは「第何子か」の数え方に注意が要ります。

令和6年10月分からは、22歳に達する日以後の最初の3月31日まで(大学生年代)の上の子も、きょうだいの数に入れられるようになりました(児童手当法 第6条第2項第2号、こども家庭庁の案内)。ただし、その上の子について、親が監護に相当する世話をし、生活費の負担をしていることが条件です。この場合は、市区町村(公務員は勤務先)に監護相当・生計費の負担についての確認書を提出する必要があります。

たとえば、20歳の大学生・15歳・10歳の3人の子がいる世帯を考えます。大学生の長子をカウントに入れれば、10歳の第3子は月30,000円になります。確認書を出さずに長子がカウントされない場合、10歳の子は「第2子」として月10,000円にとどまります。差額は月20,000円、年24万円です。

医学部進学などで子が下宿している場合でも、仕送りで生活費を負担していれば対象になりえます。上の子が22歳年度末を迎えるタイミングで加算は外れるため、毎年の状況も確認が必要です。

図4: 2024年10月の児童手当拡充から2026年4月の子ども・子育て支援金徴収開始、高校就学支援金の所得制限撤廃までの流れ

高所得の医師世帯で気になる「扶養控除との関係」

児童手当が高校生年代まで延びたことで、16〜18歳の子の扶養控除をどうするかが税制上の論点になってきました。ここは決まったことと、決まっていないことを分けて読む必要があります。

まず現行制度です。扶養控除の対象(控除対象扶養親族)は、その年12月31日現在で16歳以上の扶養親族です。16〜18歳の子は「一般の控除対象扶養親族」にあたり、所得税の控除額は38万円です(国税庁 タックスアンサーNo.1180 扶養控除)。16歳未満の子は扶養控除の対象になっていません。

次に議論の状況です。高校生年代の扶養控除の縮小は、児童手当の延長とあわせて議論されてきましたが、令和7年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」には、高校生年代の扶養控除を縮小する措置は盛り込まれていません(財務省「令和8年度税制改正の大綱」。全121ページを検索して確認)。

したがって2026年10月時点では、縮小は決まっていません。高校生の子がいる医師世帯は、現行どおり扶養控除を受けながら児童手当も受け取れます。

所得税の税率が高い医師ほど、控除額が縮小されたときの影響は大きくなります。今後の税制改正で見直しが決まる可能性はあるため、年末調整の書類を書く際は、その年の確定した制度を確認してください。

なお、児童手当として受け取った金銭を標準として租税を課すことはできないと定められています(児童手当法 第16条)。受け取った手当は課税されません。

所得制限が「なくなった制度」と「残る制度」

児童手当の撤廃で「子育て支援はすべて所得に関係なくなった」と受け取るのは早計です。医師世帯が関わる主な制度を整理します。

図5: 所得制限が撤廃された制度(児童手当・高校就学支援金)と、自治体により所得要件が異なる制度(子ども医療費助成・授業料上乗せ等)の比較

高校の授業料支援(高等学校等就学支援金) は、令和8年度から所得制限が撤廃されました。授業料に対する支給限度額は、全日制で公立が年11万8,800円、私立が年45万7,200円です(授業料の範囲内)(政府広報オンライン「令和8年度から、高校生等の修学支援が新しくなりました」)。以前は所得制限があり、高所得の医師世帯の多くは対象外でした。こちらも申請が必要な制度で、入学後に学校から申請書類が配布されます。在籍校を通じて手続きをしているかを確認してください。なお、都道府県が独自に行う支援は制度ごとに要件が異なるため、個別に確認が必要です。

子ども医療費助成 は、一般に市区町村が独自に上乗せしている制度で、対象年齢や所得要件の有無は自治体によって異なりえます。転居の際は、転居先の条件を児童手当と合わせて確認してください。

保育料 は、3〜5歳クラスは無償化の対象ですが、0〜2歳クラスは一般に世帯の所得等に応じて市区町村が定めます。具体的な階層や金額は、お住まいの市区町村で確認してください。

このように、所得制限が残っているかどうかは制度と自治体によってばらばらです。「国の制度で所得制限が撤廃されたのは児童手当と高校の就学支援金」と覚えておくと、判断を誤りにくくなります。

2026年度からの「負担側」の変化: 子ども・子育て支援金

受け取る側だけでなく、負担する側の変化にも触れておきます。児童手当の拡充などの財源として、子ども・子育て支援金の徴収が令和8年(2026年)4月分から始まりました。医療保険料に上乗せして徴収される仕組みで、健康保険の被保険者は給与から天引きされます(こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」)。

被用者保険の令和8年度の支援金率は国が示す一律の0.23%で、基本的に半分は事業主が負担します(令和8年4月保険料分から、5月の給与で天引き)。健康保険の標準報酬月額の上限は第50級の139万円なので(健康保険法 第40条)、上限に該当する勤務医であれば、139万円×0.23%÷2=約1,598円、月およそ1,600円が給与から差し引かれる計算です。国民健康保険の開業医は、市区町村の条例に基づき所得等に応じて決まります。

支援金は子の有無にかかわらず負担するものです。負担が始まっている以上、受け取れる手当を確実に受け取ることの意味はより大きくなったと言えます。

よくある質問: 医師世帯から出やすい疑問

Q. 夫婦とも医師で、年によって所得の高い方が入れ替わる。受給者は変えるべきか 受給者は、原則として主たる生計維持者です。育休や時短勤務で配偶者の所得が逆転しても、世帯の生計を主に誰が支えているかで判断されます。所得の逆転が一時的なものか、継続するものかによって扱いが変わりうるため、自己判断で名義を切り替えず、市区町村に相談してください。受給者を変更する場合は、旧受給者の消滅と新受給者の認定請求が必要です。ここでも15日以内が目安になります。

Q. 海外留学中の子や、海外赴任に子を連れて行く場合は 児童手当は、原則として児童が国内に住所を有することが要件です。留学目的で海外に住む子については、一定の要件のもとで支給対象となる扱いがあります(児童手当法 第3条第1項、こども家庭庁の案内)。研究留学で家族ごと海外に渡る医師は、出国前に住所地の市区町村に扱いを確認し、帰国後は改めて認定請求をしてください。

Q. 大学病院の医員から市中病院へ移ったが、住所は変わっていない 民間同士の異動で住所も同じなら、手続きは原則不要です。支給元は住所地の市区町村のまま変わりません。手続きが要るのは、住所が別の市区町村に変わるときと、公務員の身分が変わるときです。

Q. 口座を変えたい 受取口座の変更は、市区町村(公務員は勤務先)に届け出ます。旧口座を解約してから届け出ると、振込が不能になり支給が遅れることがあります。

医師世帯の取りこぼし点検リスト

最後に、ここまでの内容を点検リストにまとめます。1つでも当てはまれば、今月中に手続きをしてください。

図6: 医師世帯の児童手当 取りこぼし点検リスト6項目

  1. 2024年9月まで所得超過で受給していなかった世帯は、認定請求をしたか
  2. 第2子以降の出生時、翌日から15日以内に請求(額改定請求)したか
  3. 別の市区町村へ転居した際、新住所地であらためて認定請求したか
  4. 公務員と民間の間で異動した際、旧支給元の消滅と新支給元への請求を両方したか
  5. 22歳年度末までの上の子を数えるための確認書を提出したか
  6. 受給者を主たる生計維持者(通常は所得の高い方)にしているか

以前は毎年6月に現況届が必要でしたが、令和4年6月分以降は原則として不要になっています(離婚協議中で別居している場合や、市区町村から案内があった場合などを除く。こども家庭庁の案内)。そのため、「毎年書類が来ないから、自分は対象外なのだろう」と思い込むのも危険です。書類が来ないことと、受給資格がないことは別です。

関連する家計の論点は、次の記事でも扱っています。子の教育費の総額は医師の子どもの教育費はいくらかかるか、勤務医の手取りの構造は勤務医の年収と手取り、ふるさと納税の上限は医師のふるさと納税の上限額、親を扶養に入れられるかは医師が親を扶養に入れる判定を参照してください。

まとめ: 今月中に「入金の有無」だけは確認する

所得制限の撤廃で、医師世帯も児童手当を受け取れるようになりました。しかし手当は請求主義で、請求していない月の分は原則として戻りません。15日特例も、使えるのは出生や転居・異動などの場面に限られます。

次の一歩は、偶数月の入金履歴を確認することです。入金がなければ、住所地の市区町村(公務員なら勤務先)へ今月中に認定請求をしてください。そのうえで、転居や異動の予定があれば、手続きの時期を今のうちにカレンダーへ入れておくと安心です。

参考文献