初期研修2年目で「もう辞めたい」と感じている先生へ。当直明けの体調不良、指導医との相性、症例の偏り、理由は人それぞれでも、頭をよぎるのは同じ疑問だと思います。今辞めたら医師免許はどうなるのか、専門研修に進めなくなるのか、そもそも法律上いつ辞められるのか。周囲に本音で相談しづらいテーマだからこそ、正確な情報が手元にないまま1人で抱え込んでいる先生も多いはずです。この記事では、厚生労働省の通知・統計と民法の規定という一次情報にもとづき、感情論を挟まずに事実だけを整理します。読み終える頃には、自分が今どの選択肢にいて、次に誰に何を相談すべきかが具体的になります。

結論: 「辞める」は制度上「未修了」か「中断」に分かれる

先に結論を書きます。初期研修を2年目の途中でやめる場合、制度上は「未修了」と「中断」という2つの扱いのどちらかになります。どちらになるかは、主に休止(欠勤)日数で決まります。厚生労働省医政局医事課長通知「臨床研修を長期にわたり休止又は中止する場合の取扱いについて」(医政医発0224第1号・平成27年2月24日)は、この基準を次のように定めています。

研修期間(2年間)を通じた休止の合計日数が90日以内であれば、当初の研修期間のまま2年で研修を修了できます。90日を超えた場合は、研修期間終了時の評価が「未修了」となります。原則として同一の研修プログラムで、超えた日数分以上の研修を追加で行うことになります。そのうえで、研修管理委員会からの中断の勧告、または本人からの中断の申出を管理者が認めた場合には、その時点で「中断」の取扱いとなります。求めに応じて「臨床研修中断証」が交付されます。

つまり、あなたが最初に確認すべきなのは「辞めたいかどうか」ではなく「今年度、自分は何日休んでいるか」です。この数字が、選べる選択肢の幅を決めます。感情の整理と制度上の手続きは、切り離して考えたほうがうまくいきます。「辞めたい理由」を突き詰める作業は後回しにして構いません。まずは日数という客観的な指標から現在地を確認するのが、遠回りに見えて一番早い進め方です。

図1: 「辞めたい」から中断・再研修までの全体フロー

90日ルールと、あなたの残り日数を計算する

90日という数字にはもう少し中身があります。同通知によれば、休止の理由は問われません。妊娠・出産・育児、傷病、研究や留学などの多様なキャリア形成、その他正当な理由であれば、いずれも同じ「休止」として扱われます。「辞めたい」という気持ちの背景に体調不良がある場合も、まずは休止日数の枠組みで考えて構いません。

次のチャートで、自分がどちらの分岐にいるかを確認してください。

図2: 休止日数90日ルールの判断チャート

ここで実務上重要なのが、「未修了」と「中断」は似ているようで扱いが大きく異なる点です。未修了は、あくまで同一病院・同一プログラムでの研修継続が前提になります。一方、中断は研修そのものをいったん区切る扱いで、中断証をもとに、同じ病院でも別の病院でも研修を再開できます。「今の病院に残る前提で少し休みたいのか」「今の病院・環境そのものから離れたいのか」で、目指すべき着地点が変わります。

図3: 「未修了」と「中断」はどう違うか

なお、同通知は募集定員や補助金の扱いにも触れています。未修了者への継続研修や中断者の研修再開は、各病院の募集定員とは関係なく行うことができます。指導体制さえ確保できれば、定員オーバーを理由に断られることはありません。また、研修を再開する病院が受け取る臨床研修費等補助金は、休止・中止までに実施した研修期間を24か月から差し引いた期間が対象になります。これは受け入れ側の病院にとっての制度的なメリットです。「中断者は受け入れてもらいにくいのでは」という不安を和らげる材料になります。

日数の数え方も具体的に確認しておきます。休止日数は「研修機関において定める休日は含めない」とされているため、通常の週休や祝日は休止日数にカウントされません。カウントされるのは、本来出勤するはずだった研修日に休んだ日数です。たとえば4月から数えて8月末までに欠勤や休職で通算60日を休んでいる場合、残りの研修期間で新たに休止できるのは30日程度という計算になります。この計算は自己流で済ませず、研修管理委員会に確認して公式な日数を出してもらうことをお勧めします。自己申告の感覚値と病院側の記録がずれているケースは珍しくありません。

実際にどれくらいの研修医が中断しているか

「こんなことで辞めるのは自分だけではないか」という感覚は、多くの研修医が抱くものですが、統計を見ると実情は違います。厚生労働省の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会の資料によると、平成18〜21年度に研修を開始した研修医30,656人のうち392人が研修を中断しています。平均の中断率は1.3%でした。年度別では平成18年度1.4%、19年度1.2%、20年度1.1%、21年度1.4%と、毎年一定数が発生し続けています。

中断理由の内訳を見ると、最も多いのは病気療養で48%です。次いで研修内容への不満が10%、妊娠・出産・育児が8%、家族等の介護が6%、研修体制の不備が2%、その他が27%となっています。

図4: 臨床研修の中断理由の内訳

同資料では、中断した研修医のうち62%が履修計画を提出して研修を再開しているというデータもあります。理由別に見ると、研修内容への不満(85%)や研修体制の不備(86%)を理由に中断した場合の再開率は高くなっています。病気療養(60%)を理由とする場合はやや低い傾向があります。中断は「そこで終わり」ではなく、多くの場合が再開に向けた一時停止であることが、このデータから読み取れます。

なお、このデータは平成18〜21年度という古い時点のものです。より新しい年度の公式な中断者数の集計は、本記事執筆時点で確認できていません。ただし、90日ルールを定めた通知自体は現在も有効であり、制度の骨格は変わっていません。

同じ資料では、研修医の受入実績に対する中断者数の割合を大学病院と臨床研修病院(市中病院)に分けても集計しています。4年間の平均で見ると、大学病院は14,040人中167人(1.2%)、臨床研修病院は16,616人中225人(1.4%)が中断しています。両者に大きな差はありません。「大学病院のほうが厳しいから中断が多い」「市中病院なら安心」といった単純な図式は、少なくともこの統計からは読み取れません。中断の主因が病気療養である以上、施設の種類よりも個人の健康状態や働き方のほうが強く影響していると見るのが自然です。

専門研修(専攻医)への応募にどう影響するか

2年目で中断や未修了になった場合、専門研修(専攻医)への道が閉ざされるのではないかという不安を持つ先生も多いと思います。日本専門医機構のFAQでは、専門研修の開始が4月以降にずれ込む可能性がある場合の扱いについて考え方が示されています。「統括責任者の承認、領域学会へのご連絡があれば、来年4月以降の研修開始となることに問題ございません」というものです。つまり、専攻医としての登録・応募自体は、初期研修の修了が予定より遅れる場合でも一律に不可能になるわけではありません。統括責任者や学会への事前連絡という手続きを踏むことが前提になります。

ここから言えるのは、「今年度中に決着をつけなければ専門研修に一生進めなくなる」という思い込みは正確ではないということです。ただし、実際の運用は診療領域やプログラムごとに異なる部分もあります。専門研修への影響を具体的に知りたい場合は、志望する領域の学会窓口や日本専門医機構の専攻医相談窓口に、自分の状況を伝えて個別に確認することをお勧めします。不確かな情報のまま諦めるより、確認したうえで選択肢を絞るほうが後悔は少なくなります。

法律上、今の雇用契約は途中で辞められるのか

制度上の扱いとは別に、法律上の退職の自由も確認しておく必要があります。多くの臨床研修病院では、研修医は病院と2年間の期間の定めのある雇用契約を結んでいます。期間の定めのない雇用契約であれば、民法627条により2週間前の予告で退職できます。ただし、期間の定めのある契約はこれとは扱いが異なります。

民法628条は、期間を定めた雇用契約であっても「やむを得ない事由」があるときは、各当事者が直ちに契約を解除できると定めています。ただし、その事由が自分の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負うともされています。つまり、体調不良や安全配慮義務違反にあたるような労働環境など、客観的にやむを得ない理由があれば直ちに辞められます。一方、単なる意欲の低下だけを理由に一方的に飛ぶことは、契約上のリスクを伴う可能性があるということです。実務上は、前述の「中断」の枠組みを使い、病院側と正式な手続きを踏む方法が現実的です。この法的リスクを避けながら退職・異動できます。

もう一つ押さえておきたいのが、研修医が労働基準法上の「労働者」に当たるという最高裁判例です。関西医科大学の研修医が過労死した事案で、最高裁判所第二小法廷は平成17年6月3日に判断を示しました(平成14年(受)第1250号・民集59巻5号938頁)。臨床研修として研修プログラムに従い指導医の指導のもとで医療行為等に従事する医師は、病院開設者の指揮監督下にあると評価できる限り、労働基準法9条の労働者に当たるという判断です。この判断により、研修医にも労働基準法や労働契約法の労働者保護規定(有給休暇、安全配慮義務など)が及ぶことが確立しています。「研修だから労働者ではない」という整理は誤りです。過重労働そのものが問題である場合は、労働問題として労働基準監督署や後述の相談窓口に相談する余地があります。

実務面で言えば、この労働者性が認められていることは、退職・中断を進めるうえでの武器にもなります。労働者である以上、それまでに付与された年次有給休暇は、退職・中断の際にも消化する権利があります。病院側の都合だけで一方的に消化を拒否することはできません。引き継ぎや当直の調整で「有給を使わせてもらえる空気ではない」と感じる場面があっても、法的な権利としては別問題です。感情的な対立を避けたい場合でも、有給消化の希望は早めに、書面かメールなど記録が残る形で伝えておくことをお勧めします。

「辞めたい」の背景にある労働時間を数字で確認する

当直や長時間労働が「辞めたい」の引き金になっているケースは少なくありません。2024年4月からは、医師の時間外労働にも上限規制が適用されています。厚生労働省労働基準局の解説によると、一般の医療機関に適用されるA水準は月100時間未満(例外あり)・年960時間が上限です。救急医療など地域医療の確保に必要な業務や、臨床研修・専門研修のために長時間労働がやむを得ない場合には、B水準・連携B水準・C水準が適用されます。これらは月100時間未満(例外あり)・年1,860時間が上限とされています。このうちC水準は「集中的技能向上水準」と呼ばれます。初期研修医や専攻医の研修を対象とするC-1水準と、6年目以降の医師を対象とするC-2水準に分かれます。

1,860時間という上限自体、平成28年度の調査で上位10%の勤務医の時間外労働がこの水準を超えていた実態を踏まえて設定された数字です。「上限内だから健康的な水準」という意味ではありません。同解説では、1か月の時間外・休日労働が155時間を超えた場合の対応が示されています。当直・連続勤務の制限や就業時間の制限といった、労働時間短縮のための具体的な措置を講じることが想定されています。自分の勤務先がどの水準の指定を受けているか、直近数か月の時間外労働がどの程度かは、労務担当や36協定の掲示で確認できる情報です。制度上の上限に近い、あるいは超えている状態であれば、それは「甘え」ではなく是正されるべき労働条件の問題として扱われます。

こうした水準を確認する作業は、病院と対立するためのものではありません。「自分の勤務先はどの水準の指定を受けているか」「実際の時間外労働は制度上の上限に対してどの位置にあるか」を、まず把握してください。感覚的な「きつさ」と、制度上是正が必要な状態とを切り分けて考えられるようになります。後者に当てはまるのであれば、それは個人の忍耐で解決すべき問題ではなく、施設側に是正の義務がある問題です。

中断する場合の具体的な手順

「辞めたい」という気持ちを制度に乗せて進める場合、順番を誤ると不利になります。標準的な流れを時系列で整理します。

図5: 「辞めたい」と感じてからのタイムライン

最初にやるべきことは、指導医または研修管理委員会への相談です。ここを飛ばして自己判断で欠勤を重ねると、90日という枠組みを本人が把握しないまま「未修了」の側に倒れてしまうことがあります。相談の際は、休止日数の見込みと、体調や状況を事務的に伝えることが大切です。感情的な訴えよりも、いつからいつまで、何日休止する見込みかという事実ベースの共有のほうが、病院側の判断を早めます。

管理者が中断を認めた場合は、臨床研修中断証の交付を必ず求めてください。この書類がなければ、他院で研修を再開する際に、それまでの研修実績が正しく引き継がれない可能性があります。中断証を受け取った後は、地方厚生局の相談窓口に連絡することをお勧めします。前掲の通知は、各地方厚生局が臨床研修の休止・中止に関する手続きの問い合わせや研修医からの相談を受け付ける体制を整えていると明記しています。受け入れ先の病院探しは個人の伝手だけに頼らず、この公的な相談窓口も併用したほうが選択肢が広がります。

受け入れ先については、中断者の受け入れを明示的に案内している病院も実在します。たとえば北九州市立八幡病院は、研修医募集ページの中に初期臨床研修中断者向けの受け入れ案内を設けています。すべての病院がこうした案内を公開しているわけではありませんが、中断者の受け入れ自体は珍しいことではありません。地方厚生局に相談すれば、受け入れ実績のある病院の情報を得られる可能性があります。「中断した経歴では、どこも採ってくれないのではないか」という不安だけで選択肢を狭めてしまう必要はありません。

面談に臨む前の準備も成果を左右します。休止(欠勤)日数の記録、体調不良がある場合は受診歴や診断書、これまで指導医や同僚に相談した経緯があればそのメモを、事前に手元でまとめておいてください。また、1人で抱え込まず、家族やパートナーなど生活を共にする相手には早い段階で状況を共有しておくことをお勧めします。中断・再研修は収入や引っ越しを伴う場合もあり、当人以外の生活設計にも影響するテーマだからです。

なお、体調不良が理由の場合は、医師のメンタルヘルス休職の手続きも参考にしてください。決定から復職までの手続きを並行して進める必要があります。過重労働が理由の場合は、医師の過労死ラインの基準とA/B/C水準の関係も併せて確認してください。自分の勤務実態を客観視しやすくなります。

辞める前に確認しておきたい6項目

ここまでの内容を、行動チェックリストの形に落とし込みます。すべてが埋まっていなくても構いません。埋まっていない項目こそ、次に相談すべき相手を教えてくれます。

図6: 動く前に確認する6項目

1つ目は休止日数の把握です。90日という基準の内側にいるのか、すでに超えているのかで、選べる選択肢がまったく変わります。2つ目は指導医・研修管理委員会への相談実績です。相談を経ずに欠勤を重ねると、後から状況を説明する側が不利になります。3つ目は体調不良がある場合の受診歴と診断書の有無です。客観的な記録は、やむを得ない事由の説明にも、中断の申出にも使えます。

4つ目は雇用契約の確認です。自分の契約が有期か無期か、契約書や就業規則にどう書かれているかを、感覚ではなく文書で確認してください。5つ目は臨床研修中断証を交付してもらえる見込みです。これは病院側の運用にも関わるため、早めに確認しておく価値があります。6つ目は次の受け入れ先や地方厚生局の相談ルートです。行き先が白紙のまま退職・中断の意思だけを伝えると、条件面で不利な交渉を迫られやすくなります。

よくある疑問

今の病院を辞めたら、医師免許自体はどうなりますか。 医師免許そのものが失効することはありません。ただし、初期臨床研修を修了していないと、単独での保険診療や多くの常勤ポストへの応募に制約が生じます。免許と研修修了は別の話として整理してください。

指導医に「辞めたい」と切り出しにくい場合はどうすればよいですか。 いきなり退職や中断の意思を伝える必要はありません。まずは「今の休止日数と体調について相談したい」という事実確認の体裁で面談を申し込むほうが、双方にとって話しやすい入り口になります。直属の指導医に話しにくい事情があるなら、研修管理委員会や病院の相談窓口、地方厚生局を先に頼っても構いません。

中断の経験は、その後の転職やキャリアで不利になりますか。 中断そのものより、その後どう再開し、何を積み上げたかのほうが評価に影響します。統計上も中断者の6割超が再開しており、特別な事情ではありません。伝え方に迷う場合は、体調管理や環境要因など事実ベースで簡潔に説明する準備をしておくと安心です。

まとめ: 感情ではなく、日数と手続きで判断する

「研修医を辞めたい」という気持ちそのものは、否定されるべきものではありません。厚生労働省の統計が示すとおり、毎年一定数の研修医が実際に中断し、その多くが体調や状況を整えたうえで研修を再開しています。大切なのは、その気持ちを勢いのまま行動に移すのではなく、休止日数・雇用契約・相談窓口という3つの事実に照らして、自分がどの段階にいるかを先に確認することです。今日できる最初の一歩は、指導医か研修管理委員会に、事実ベースで現状を伝えることです。そこから先の手続きは、1人で抱え込む必要はありません。地方厚生局、専門領域の学会、そして今の病院の外にいる先輩医師まで、相談先は複数用意されています。

参考文献