大学病院の給与に、週1回の外勤、月数回の当直バイト、ときどきのスポット健診。勤務先が3か所、4か所と増えると、11月に届く年末調整の書類をどこに出せばよいのか、出さなかった勤務先の税金はどうなるのか、迷う方が多くなります。この記事では、勤務先が複数ある医師の年末調整の仕組みを所得税法と国税庁タックスアンサーで確かめ、源泉徴収票の集め方から確定申告までを時系列で整理します。数値と制度は、2026年10月31日に国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)とe-Gov法令検索の条文を開いて確認した内容です。
答え: 申告書は1か所だけ。ほかの勤務先は乙欄で天引きされ、確定申告で精算する
結論は3点です。
第一に、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、勤務先が2か所以上あっても1か所にしか出せません。所得税法第194条第1項は、この申告書を「その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者」を経由して提出すると定めています。
第二に、申告書を出した勤務先の給与は「主たる給与」として源泉徴収税額表の甲欄で、それ以外の勤務先の給与は「従たる給与」として乙欄で天引きされます(国税庁No.2520)。年末調整をするのは、申告書を出した勤務先だけです。国税庁No.2665は、年末調整の対象を扶養控除等申告書を提出している一定の人としています。
第三に、従たる給与は原則として年末調整できず、本人が確定申告で精算します(国税庁No.2520)。外勤先が1か所でもあれば、確定申告まで含めて1年の手続きが完了すると考えておくのが安全です。
扶養控除等申告書はどこに出すか
「主たる給与等の支払者」は本人が選ぶ1か所
扶養控除等申告書は、毎年最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出する書類です(所得税法第194条第1項)。勤務先が複数ある場合は、そのうち1か所を「主たる給与等の支払者」として提出します。法律は、どこを主たる支払者にすべきかを給与額で決めてはいません。申告書を出した先が主たる給与の支払者になる、という順番です。
実務上は、常勤の本務先に出すのが一般的です。年間を通じて給与が支払われ、社会保険料も天引きされるので、年末調整で精算する金額の基礎がそろうからです。常勤先がなく非常勤だけで働く医師は、どこか1か所を選ぶことになります。年間を通じて勤務が続き、12月の最後の給与まで支払を受ける見込みの勤務先を選ぶと、年末調整の対象から外れる事態を避けやすくなります。
2か所に出すとどうなるか
所得税法第194条第1項は、支払者が二以上ある場合の提出先を「主たる給与等の支払者」としており、2か所に出すことは想定されていません。仮に外勤先でも申告書を出した扱いになり甲欄で天引きされると、扶養控除などを織り込んだ天引きが2か所で行われるため、甲欄と乙欄の違いから考えて、1年分の天引きは正しい税額より少なくなりやすいと考えられます。その場合も、最後は確定申告で合算して正しい税額に直し、不足分を3月に納めることになります。外勤先から申告書の提出を求められたら、他に主たる勤務先があることを伝えて、提出しない扱いにしてもらいます。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」は別の書類
紛らわしいのが「従たる給与についての扶養控除等申告書」です。国税庁No.2520によれば、これは主たる給与だけでは控除しきれない配偶者や扶養親族の控除を、従たる給与の天引きで受けるための書類です。主たる給与の金額が、社会保険料と基礎控除・扶養控除等の合計に満たないと見込まれる場合に使うもので、本務先で十分な給与がある医師が提出する場面はほとんどありません。名前が似ていても、年末調整をしてもらうための書類ではない点に注意します。
甲欄・乙欄・丙欄で天引き額が変わる
乙欄は控除を前提にしない高めの天引き
源泉徴収税額表は、扶養控除等申告書の提出の有無と給与の支払方法によって使い分けます(国税庁No.2511)。月ごとや日割りで支払う給与について、申告書を出した人には甲欄、出していない人には乙欄を使います。
甲欄は、配偶者や扶養親族の人数に応じて税額が決まり、基礎控除なども織り込んだ天引きです。乙欄は、そうした控除を前提にしないため、同じ給与額でも甲欄より天引きが高く設定されています。ただし、乙欄の天引きは本人の1年間の税率に合わせて計算されるものではありません。本務先の給与が高く、合算すると税率33%や40%の区分に入る医師では、外勤分の正しい税額が乙欄の天引きを上回り、確定申告で追加の納付が生じます。
スポット勤務の日給は丙欄になることがある
健診や当直のスポット勤務で、日給や時間給を勤務日ごとに受け取る場合は、もう一つの欄があります。国税庁No.2514とNo.2511によれば、あらかじめ定められた雇用契約の期間が2か月以内の場合や、日々雇い入れて継続して2か月を超えて支払をしない場合の日雇賃金は、日額表の丙欄で天引きします。
丙欄も乙欄と同じく扶養控除等申告書を前提にしない欄で、日給の額に応じた具体的な天引き額は国税庁の源泉徴収税額表(日額表)で確認できます。丙欄の天引きも本人の1年間の税率に合わせたものではないため、スポット勤務が多い医師ほど、天引きと正しい税額の差が積み上がり、確定申告での納付が大きくなりやすくなります。最初の契約が2か月以内でも、延長して2か月を超えた日からは丙欄を使えません(国税庁No.2514)。
年末調整の対象から外れる人
主たる勤務先の給与が2,000万円を超えると年末調整されない
扶養控除等申告書を出していても、年末調整されない場合があります。所得税法第190条は、年末調整の対象を、申告書を提出した居住者のうち「その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるもの」に限っています。国税庁No.2665も、12月の年末調整の対象から除かれる人として、1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人を挙げています。
ここで判定に使う2,000万円は、申告書を出した勤務先が支払う給与です。年の途中で転職し、前の勤務先にも扶養控除等申告書を出していた場合は、前職の給与も含めます(同条第1号括弧書、国税庁No.2668)。外勤先の給与は、この判定には入りません。
合計2,000万円超は確定申告が必要
一方で、確定申告が必要かどうかは、すべての給与を合計して判定します。国税庁No.1900は、確定申告が必要な給与所得者の1番目に「給与の年間収入金額が2,000万円を超える人」を挙げています(確定申告をすれば税金が還付される人を除きます)。所得税法第121条第1項の申告不要の特例も、給与等の金額が2,000万円以下の人に限られます。
本務先1,800万円と外勤先300万円なら、本務先は年末調整をしますが、合計は2,100万円なので確定申告が必要です。給与2,000万円を超えた年の申告の段取りや予定納税、財産債務調書については、医師の年収2,000万円超は確定申告が必要な理由で詳しく扱っています。
外勤の給与が20万円以下でも申告が要る場合
給与を2か所以上から受けている人には、申告不要の例外があります。国税庁No.1900の3番目は、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える人に申告を求めています。裏返すと、外勤の給与と副業などの所得の合計が20万円以下なら、原則として申告は不要です(所得税法第121条第1項第2号イ)。
ただし、この例外は給与等の合計が2,000万円以下の人に限られます。また、外勤先が1か所でも、年間を通じて外勤を続ける医師の多くは、外勤給与だけで20万円を超えます。「外勤は少額だから」と判断する前に、源泉徴収票の支払金額を合計して確かめます。
令和7年分・令和8年分の改正で変わったこと
基礎控除の引上げ
基礎控除は令和7年分、令和8年分と続けて改正されました。国税庁No.1199によれば、合計所得金額が655万円超2,350万円以下の人の基礎控除は、令和6年分以前の48万円から、令和7年分は58万円、令和8年分以後は62万円です。2,350万円超2,400万円以下は48万円、2,400万円超2,450万円以下は32万円、2,450万円超2,500万円以下は16万円、2,500万円超は0円で、ここは改正前と同じ水準です。
勤務医の多くは655万円超2,350万円以下の区分に入るので、令和8年分は令和6年分より14万円控除が増えます。税率33%の区分にいる医師なら、令和7年分から令和8年分への4万円の上乗せで、復興特別所得税込みの税額は約1.3万円下がる計算です。
給与所得控除の最低保障額の引上げ
国税庁No.1410によれば、給与所得控除の最低額は、令和2年分から令和6年分の55万円が、令和7年分は65万円、令和8年分・令和9年分は74万円になりました。収入850万円超の上限195万円は変わっていません。給与収入が高い医師にとって、給与所得控除の改正による影響はほとんどなく、効いてくるのは基礎控除の引上げです。
令和8年分の改正は12月の年末調整で反映される
令和8年度税制改正による基礎控除の引上げなどは、令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます(国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」Q1-1)。同Q&Aによれば、令和8年11月までの給与の天引きに変更はなく、12月の年末調整で改正後の基礎控除額などを使って1年間の税額を計算し、精算します。
12月1日以後の年末調整で改正後の控除が適用された人は、そのための確定申告は不要です(同Q&A Q7-1)。一方で、外勤先の乙欄の天引きは改正前の税額表のままなので、複数の勤務先がある医師は、確定申告で全体の税額を計算する段階で改正が反映されます。改正後の源泉徴収税額表は、令和9年1月1日以後に支払う給与から使われます(同Q&A Q1-1)。
扶養親族などの所得要件も、合計所得金額58万円以下から62万円以下に引き上げられました(同Q&A Q1-1・Q7-1)。パートで働く配偶者や、アルバイト収入のある大学生の子がいる場合は、扶養控除等申告書の記載を見直す価値があります。親を扶養に入れる判定は医師が親を扶養に入れるときの判定で扱っています。
計算例: 本務900万円と外勤2か所600万円の医師
前提を置いて、確定申告で精算する金額の出方を確かめます。令和8年分、本務先の給与900万円(甲欄・年末調整あり)、外勤先Aの給与400万円と外勤先Bの給与200万円(いずれも乙欄)、社会保険料は本務先の天引き130万円、所得控除は社会保険料控除と基礎控除62万円だけとします。復興特別所得税は2.1%で計算し、税額は概算です。
本務先の年末調整: 給与所得は900万円から給与所得控除195万円を引いた705万円です。社会保険料130万円と基礎控除62万円を引いた課税所得は513万円で、所得税の速算表(国税庁No.2260)では税率20%、控除額42.75万円の区分です。年税額は513万円×20%−42.75万円=59.85万円、復興特別所得税を加えて約61.1万円です。本務先の年末調整は、この額で完了します。
合算後の年税額: 3か所の給与の合計は1,500万円です。源泉徴収票が2枚以上ある場合は、支払金額の合計で給与所得控除を計算します(国税庁No.1410)。給与所得は1,305万円、課税所得は1,113万円で、税率33%、控除額153.6万円の区分に入ります。年税額は1,113万円×33%−153.6万円=213.69万円、復興特別所得税を加えて約218.2万円です。
差の意味: 合算後の年税額約218.2万円から、本務先の年末調整で確定した約61.1万円を引いた約157.1万円が、外勤600万円に対応する税額です。外勤600万円の約26%にあたります。外勤先A・Bの乙欄で天引きされた額の合計がこれより少なければ、差額を確定申告で納めます。多ければ還付になります。天引き額は源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄で確認できます。
外勤600万円が上乗せされることで、課税所得は20%、23%、33%の3つの区分をまたぎます。外勤の時給が高く日数が多いほど、上乗せ分は高い税率の区分にかかります。3月に納める資金を、外勤の収入から取り分けておくと慌てずに済みます。外勤や副業の申告書の書き方は医師の副業の確定申告の手順で扱っています。
源泉徴収票の集め方
全勤務先に交付義務がある
給与の支払者は、その年に支払の確定した給与について源泉徴収票を作成し、翌年1月31日までに本人に交付しなければなりません(所得税法第226条第1項)。年の途中で退職した場合は、退職の日以後1か月以内です。この義務は、本務先だけでなく、外勤先や1日だけのスポット勤務先にもあります。
同条第4項により、本人の承諾があれば、源泉徴収票を紙ではなく電子データで提供することもできます。この場合も、本人が請求すれば紙の源泉徴収票を交付しなければなりません。電子で受け取る場合は、どこで受け取るかを勤務先ごとに把握しておきます。
令和8年分の源泉徴収票の様式は、税制改正に伴う変更はありません(同Q&A Q3-3)。また、令和9年1月以後に提出する令和8年分の源泉徴収票は、市区町村に給与支払報告書を提出した場合、税務署への提出が不要になりました。ただし受給者への交付は引き続き必要です(同Q&A Q3-3)。勤務先から税務署への提出がなくなっても、本人に届く点は変わりません。
集める段取り
1年に勤務した先が多い医師ほど、源泉徴収票の取り漏れが起きます。次の順で進めると漏れを減らせます。
- 1月のうちに、前年に給与が振り込まれた口座の入金記録から、支払元を一覧にする
- 一覧と手元の源泉徴収票を突き合わせ、届いていない先を洗い出す
- 2月上旬までに、届いていない先の事務や紹介会社に交付を依頼する
- 届いた源泉徴収票の「支払金額」と「源泉徴収税額」を表にまとめ、合計を出す
入金記録から拾うのは、勤務先の名前と振込元の名前が違う場合があるからです。勤務した病院と振込元の名義が違う場合は、どの源泉徴収票がどの勤務に対応するかを最初に整理しておくと後の確認が楽になります。
確定申告書の作成
確定申告書は、国税庁の確定申告書等作成コーナーで作れます。源泉徴収票ごとに、支払者の名称、支払金額、源泉徴収税額、社会保険料等の金額を入力すれば、給与所得控除は合計の支払金額で自動計算されます。
本務先の年末調整で反映された生命保険料控除や地震保険料控除は、本務先の源泉徴収票に記載されています。確定申告では、この金額を自分で申告書に入れ直します。ふるさと納税や医療費控除は年末調整では入らない控除なので、確定申告で初めて反映されます。
確定申告までの流れ
1年の流れを、令和8年分で並べるとこうなります。
- 2026年11月ごろ: 本務先に令和9年分の扶養控除等申告書と、令和8年分の基礎控除申告書・保険料控除申告書を提出
- 2026年12月: 本務先で年末調整。改正後の基礎控除62万円が反映される
- 2027年1月31日まで: 全勤務先から源泉徴収票が交付される(所得税法第226条第1項)
- 2027年2月: 届いていない源泉徴収票の交付を依頼し、支払金額と源泉徴収税額を集計
- 2027年2月16日〜3月15日: 確定申告と納付(所得税法第120条第1項)
令和9年1月1日以後に支払われる給与からは、改正後の源泉徴収税額表が使われ、防衛特別所得税も併せて天引きされます(国税庁No.2665・No.2260)。防衛特別所得税と復興特別所得税の合計税率は、改正前と変わりません(国税庁No.2260)。令和9年分の外勤の天引き額が前年と違っても、税額表が変わったためであることが多いので、源泉徴収票で年間の合計を確かめます。
よくある疑問
外勤先の数が多いと、確定申告で必ず追加の納付になるか
必ずではありません。追加の納付になるかどうかは、外勤分の正しい税額と、乙欄・丙欄で天引きされた額の比較で決まります。本務先の給与が低めで、外勤の割合が大きい医師では、乙欄の天引きが正しい税額を上回り、還付になることもあります。計算例のように本務先の給与が高い場合は、外勤分に高い税率がかかるので、追加の納付になりやすくなります。
年の途中で本務先が変わった
前の本務先に扶養控除等申告書を出していた場合、新しい本務先が前職の源泉徴収票を確認できれば、前職の給与を含めて年末調整をします(所得税法第190条第1号、国税庁No.2668)。前職の源泉徴収票を新しい勤務先に早めに出すことが前提です。確認できないときは年末調整を行えないので(国税庁No.2668)、確定申告で精算します。
還付になる年も申告するべきか
国税庁No.1900は、確定申告が必要な人から、確定申告をすれば税金が還付される人を除いています。還付になる年は、法律上の申告義務の対象からは外れます。ただし、還付を受けるには申告が必要で、ふるさと納税や医療費控除を反映させるにも申告が要ります。複数の勤務先がある医師は、毎年申告すると決めておくのが確実です。
1日だけのスポット勤務でも源泉徴収票は届くか
届くのが原則です。所得税法第226条第1項の交付義務は、支払った給与の額や勤務日数にかかわらず、給与の支払者に課されています。源泉徴収票を作成・交付するのは給与の支払者なので、実際に働いた病院と給与の支払者が同じとは限らない場合は、雇用契約書や給与明細で支払者を確かめ、源泉徴収票が届かなければその支払者に交付を依頼します。
まとめ
勤務先が複数ある医師の年末調整は、扶養控除等申告書を出した1か所だけで行われます(所得税法第194条・第190条)。ほかの勤務先の給与は乙欄や丙欄で天引きされ、年末調整されずに残るので、確定申告で合算して精算します(国税庁No.2520)。主たる勤務先の給与が2,000万円を超えると、その勤務先でも年末調整はされません。
令和8年分は、基礎控除が62万円に引き上げられ、12月の年末調整で反映されます。外勤分は確定申告の段階で改正後の控除を使って計算されます。1月末までに全勤務先の源泉徴収票を集め、支払金額と源泉徴収税額を合計し、3月15日までに申告と納付を済ませる。この順番を毎年同じように回すことが、取り漏れと納付の遅れを防ぐいちばん確かな方法です。
参考資料
- 所得税法(昭和40年法律第33号)第120条・第121条・第190条・第194条・第226条(e-Gov法令検索、2026年10月31日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.2665・No.2668・No.1900・No.2520・No.2511・No.2514・No.1199・No.1410・No.2260(いずれも2026年10月31日確認)
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(令和8年5月)」
