昇給や当直手当の積み上がりで、給与が2,000万円の線を越えた年。12月の給与明細に年末調整の精算行がなく、事務から「今年は先生ご自身で確定申告を」と言われて初めて気づく方は少なくありません。この記事では、給与が2,000万円を超えると年末調整の対象から外れる理由を条文で確かめ、申告で何をそろえ、申告後に何が届くかを時系列で整理します。年収2,100万円の勤務医で追加納付が生じる仕組みも、前提を明記した計算例で示します。税額や控除額は、2026年10月16日に国税庁タックスアンサーとe-Gov法令検索の本文を開いて確認した令和8年分の内容です。

答え: 給与が2,000万円を超えた年は、年末調整されず確定申告が必要

結論は2点です。

第一に、年末調整は給与2,000万円以下の人だけが対象です。所得税法第190条は、年末調整の対象を「第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるもの」に限っています。国税庁タックスアンサーNo.2665「年末調整の対象となる人」も、12月の年末調整から除かれる人として「1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人」を挙げています。

第二に、確定申告が不要になる特例も、給与2,000万円以下の人に限られます。所得税法第121条第1項は、給与等の金額が2,000万円以下で、ほかの所得が20万円以下などの要件を満たす人について、確定申告書の提出を要しないと定めています。2,000万円を超えると、この例外に入りません。国税庁No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」は、確定申告が必要な人の1番目に「給与の年間収入金額が2,000万円を超える人」を置いています。ただし同ページは、確定申告をすれば税金が還付される人を除くとしています。

つまり、2,000万円超の年は「勤務先が精算しない」「本人が申告で精算する」の二段構えです。申告期限は翌年2月16日から3月15日まで(所得税法第120条第1項の第三期)です。令和8年分なら2027年3月15日が期限になります。

図1: 給与2,000万円超の勤務医の申告カレンダー(概念図・所得税法と国税庁タックスアンサーから作成)

なぜ2,000万円を超えると年末調整されないのか

年末調整は「勤務先が代わりに申告を済ませる」仕組み

年末調整は、毎月の源泉徴収税額の合計と、1年間の正しい税額との差を、勤務先がその年最後の給与で精算する手続きです(所得税法第190条、国税庁No.2665)。不足額があれば最後の給与から徴収し、払いすぎなら還付します(国税庁No.2675)。

勤務先が計算に入れられる控除は、条文で決まっています。第190条第2号は、給与から天引きした社会保険料、保険料控除申告書に書かれた生命保険料や地震保険料、扶養控除等申告書に書かれた配偶者や扶養親族などを列挙しています。医療費控除や寄附金控除は、この列挙に入っていません。年末調整は、勤務先が把握できる範囲で税額を確定させる簡便な仕組みだと言えます。

2,000万円の線は「勤務先ごと」と「本人の合計」で2回出てくる

ここが見落としやすい点です。190条の2,000万円は、扶養控除等申告書を提出した勤務先が支払う給与で判定します。年の途中で転職し、前の勤務先にも扶養控除等申告書を出していた場合は、前職分も合算します(同条第1号括弧書)。一方で、121条の2,000万円は、本人がその年に受け取る給与等の金額で判定します。

この違いから、次のような組み合わせが生じます。

  • 本務先だけで2,100万円: 本務先は年末調整をせず、本人が確定申告する
  • 本務先1,800万円と外勤先300万円: 本務先は年末調整をするが、合計が2,000万円を超えるので確定申告も必要
  • 本務先1,800万円だけ: 年末調整で完了し、他の所得が20万円以下なら申告不要

外勤先の給与は、扶養控除等申告書を出していない「従たる給与」として、源泉徴収税額表の乙欄で天引きされます。従たる給与は原則として年末調整できず、本人の確定申告で精算します(国税庁No.2520)。

図2: 年末調整と確定申告の判定チャート(概念図・所得税法第190条・第121条から作成)

外勤の給与が20万円以下でも申告不要にならない点も押さえておきます。121条第1項第2号の申告不要の特例も「給与等の金額が二千万円以下であるもの」が前提なので、合計が2,000万円を超えた時点で外れます。外勤や副業そのものの申告手順は、医師の副業の確定申告の手順で扱っています。この記事は、本業の給与が2,000万円を超える場面に絞ります。

「収入」と「所得」の2,000万円は別の線

2,000万円という数字は、申告後の手続きにも出てきます。こちらは「所得」で判定するものがあるので、混同しないようにします。

給与所得は、給与収入から給与所得控除を引いた額です。国税庁No.1410によれば、令和8年分の給与所得控除は収入850万円超で195万円が上限です。給与収入2,100万円なら、給与所得は1,905万円になります。なお令和8年分は、給与所得控除の最低保障額が74万円に引き上げられました(収入220万円までの区分)。勤務医の本給には影響しませんが、配偶者がパート勤務の場合などに関係します。

図3: 給与収入と給与所得の関係と、2,000万円の2つの基準(計算値・国税庁No.1410の算式による)

給与だけの人なら、所得が2,000万円を超えるのは収入2,195万円を超えたところからです。後で触れる財産債務調書は、この「所得」の基準を使います。

年収2,100万円の勤務医で、申告の結果はどう変わるか

給与2,000万円超で申告が必要になっても、毎回大きな追加納付が出るわけではありません。差を生むのは、天引きの仕組みと年税額の「ずれ」です。2つのケースで計算します。

計算の前提(いずれも仮定): 令和8年分。独身で扶養親族なし。賞与なし。本務先で天引きされる社会保険料は年180万円(月15万円)と仮定。ほかの所得や所得控除はなし。税額は復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)を含みます。

ケースA: 本務先1か所で2,100万円(月175万円×12)

年税額: 給与所得1,905万円から、社会保険料控除180万円と基礎控除62万円を引くと、課税所得は1,663万円です。基礎控除は国税庁No.1199の表で、合計所得655万円超2,350万円以下の令和8年分が62万円です。所得税の速算表(国税庁No.2260)では33%の区分です。1,663万円×33%−153.6万円=395.19万円で、復興特別所得税を加えると約403.5万円です。

天引き額: 令和8年分の源泉徴収税額表(月額表)の甲欄・扶養0人を使います。社会保険料控除後の月額160万円は「96万円を超え171万円に満たない金額」の行です。96万円の税額121,820円に、96万円を超える部分の33.693%を加えて、月約33.7万円になります。年間では約404.9万円です。

結果: 天引きが年税額を約1.5万円上回り、申告すると還付になります。理由の一つは、令和8年分の月額表が前提とする基礎控除と、令和8年分の改正後の基礎控除の差です。国税庁が公表する電算機計算の特例(令和8年分)では、月額の基礎控除の額は48,334円で、年58万円に相当します。改正後の62万円との差4万円が、33%の税率帯でそのまま還付側に効きます。国税庁の令和8年度税制改正Q&Aによれば、基礎控除の引上げは2026年12月1日施行で、12月の年末調整で反映されます。年末調整がない2,000万円超の人は、この反映を確定申告で受けることになります。

このケースでは、生命保険料控除などを申告で入れれば、還付はさらに増えます。たとえば新契約の保険料控除が上限の12万円まで使える場合、課税所得は1,651万円に下がり、税額は12万円×33%×1.021=約4.0万円減ります。年末調整があれば勤務先が自動で入れていた控除なので、申告で入れ忘れると、そのまま払いすぎになります。

ケースB: 本務先1,800万円(月150万円)と外勤先300万円(月25万円)

本務先の年末調整: 本務先の給与は2,000万円以下なので、本務先は年末調整をします。課税所得は、給与所得1,605万円から社会保険料180万円と基礎控除62万円を引いた1,363万円です。年調年税額は約302.4万円になります。

外勤先の天引き: 外勤先には扶養控除等申告書を出していないので、月額表の乙欄です。社会保険料なしの月25万円は「24万8千円以上25万1千円未満」の行で、乙欄の税額は35,500円です。年間42.6万円です。

申告後の年税額: 2か所の給与を合算すると2,100万円で、年税額はケースAと同じ約403.5万円です。天引き済みは302.4万円+42.6万円=約345.0万円なので、差の約58.5万円を3月15日までに納付します。

図4: 本務1,800万円+外勤300万円の医師の年税額と天引き額の差(計算値・前提は本文参照)

追加納付が生じる仕組み

ケースBの差は、外勤分の税率のずれから生まれます。乙欄の月25万円の天引き35,500円は、収入の約14%です。ところが合算後の課税所得は1,663万円で、上乗せされた300万円には33%(復興特別所得税込みで33.693%)がかかります。300万円×33.693%=約101.1万円の税額に対し、天引きは42.6万円でした。本務先の分は年末調整で精算済みなので、この差の約58.5万円がそのまま申告で納める金額になります。

外勤の時給や日当が高い医師ほど、この差は大きくなります。外勤収入を見込んで、3月に納める資金を別に確保しておくと安心です。手取りの全体像は勤務医の年収と手取りの関係、税率帯の境目は年収1,500万円の境界線でも整理しています。

申告で何をするか: 源泉徴収票と控除の書類をそろえる

1月末までに、全勤務先の源泉徴収票を集める

給与の支払者は、翌年1月31日までに源泉徴収票を本人に交付しなければなりません(所得税法第226条第1項)。本務先、外勤先、年の途中で辞めた勤務先のすべてが対象です。給与所得控除は、源泉徴収票が2枚以上あるときは支払金額の合計で計算します(国税庁No.1410)。1枚でも漏れると、その分の収入が申告から落ちます。

年末調整がないので、保険料控除は自分で入れる

年末調整があれば勤務先が入れてくれた控除を、自分で申告書に書きます。

生命保険料控除は、新契約の一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の各最大4万円、合計で最大12万円です(国税庁No.1140)。令和8年分以降、23歳未満の扶養親族がいる人は、新生命保険料の控除の上限が6万円になりました(同ページ)。いずれも保険会社の控除証明書をもとに入力します。

配偶者控除は、本人の合計所得金額が1,000万円を超えると受けられません(国税庁No.1191)。給与2,000万円超の医師は、配偶者の収入にかかわらず配偶者控除の対象外です。勤務先に配偶者を申告していても、申告では控除が生じない点に注意してください。

図5: 年末調整があれば勤務先が入れていた控除と、2,000万円超の人が自分で入れる控除(所得税法第190条第2号、国税庁No.1140・No.1155から作成)

ふるさと納税はワンストップ特例が使えない

ふるさと納税のワンストップ特例は、確定申告が不要な給与所得者のための制度です。国税庁No.1155は、確定申告を行う人について「ワンストップ特例の申請が無効となる」としています。特例を申請した寄附も含めて、全額を寄附金控除として申告書に記載します。記載しないと、住民税の控除も受けられないおそれがあります。所得税の確定申告書は個人住民税の申告書を兼ねており、第二表の「住民税に関する事項」も必ず記入します(同ページ、地方税法第45条の3・第317条の3)。

上限額の目安は、医師のふるさと納税の上限で計算方法を説明しています。

e-Taxなら証明書の添付を省略できる

確定申告書はe-Taxで提出できます。国税庁No.1904によれば、e-Taxで提出する場合、生命保険料控除・地震保険料控除・寄附金控除などの証明書は、記載内容を入力して送信すれば添付を省略できます。ただし法定申告期限から原則5年間は、税務署から提示を求められることがあります。証明書は捨てずに保管します。医療費控除は「医療費控除の明細書」に入力して送信すれば、医療費通知の提出も省略できます(同ページ)。

図6: 2,000万円超の勤務医が申告前にそろえる書類と確認の6項目(所得税法・国税庁タックスアンサーから作成)

申告後に起きること: 予定納税・住民税・財産債務調書

翌年7月と11月に予定納税がくることがある

確定申告で納付税額が出ると、翌年に予定納税が始まる場合があります。所得税法第104条は、前年分の税額を基に計算した「予定納税基準額」が15万円以上なら、その3分の1ずつを第1期(7月1日〜31日)と第2期(11月1日〜30日)に納付しなければならないと定めています。国税庁No.2040によれば、予定納税額は税務署長から6月15日までに通知されます。

ケースBでは、申告納税額が約58.5万円なので15万円以上です。翌年7月と11月に約19.5万円ずつの予定納税が見込まれます。予定納税で納めた額は、翌年の確定申告で差し引かれます。一方でケースAのように還付になる年は、予定納税は生じません。

なお国税庁No.2040は、令和8年度税制改正の基礎控除の見直しは予定納税額の計算に考慮されておらず、確定申告の際に精算されると注記しています。

住民税は、確定申告書の内容から計算される

確定申告書は、個人住民税の申告書も兼ねています。所得税の確定申告書を提出した日に住民税の申告書も提出されたものとみなされます(国税庁No.1155の注、地方税法第45条の3・第317条の3)。住民税のために別の申告書を出す必要は通常ありません。ふるさと納税など住民税に関わる項目は、第二表に漏れなく書いておきます。

財産債務調書は「所得2,000万円超かつ財産3億円以上」から

所得が多い医師が気にしておきたいのが財産債務調書です。国外送金等調書法第6条の2は、確定申告書を提出すべき人などで、総所得金額と山林所得金額の合計が2,000万円を超え、かつ12月31日時点で財産の価額の合計が3億円以上(または有価証券等が1億円以上)の場合に、翌年6月30日までの提出を義務づけています。国税庁No.7457は、これとは別に、財産が10億円以上の居住者も対象になるとしています。

ここでの2,000万円は「所得」です。給与だけなら、前述のとおり収入2,195万円を超えたところから所得要件を満たします。財産の価額は、債務を差し引く前の総額で判定します(国税庁No.7457)。不動産投資や自社株などで資産規模が大きい医師は、所得と財産の両方を毎年確認します。

調書を期限内に出していれば、記載した財産に関する申告漏れの過少申告加算税等が5%軽減されます。提出がない場合や記載漏れがある場合は、5%加重されます(国税庁No.7457)。

申告を忘れたときの負担

給与2,000万円超で申告しなかった場合、期限後申告として扱われます。国税庁No.2024によれば、税務署の調査の事前通知の前に自主的に期限後申告をした場合、無申告加算税は納付税額の5%です。調査の事前通知の後になると、納付税額のうち50万円までは10%、50万円超300万円までは15%、300万円超は25%に上がります(令和5年分以降)。

さらに延滞税がかかります。国税庁No.9205によれば、令和8年中の延滞税の割合は、納期限の翌日から2か月を経過する日までは年2.8%、それ以降は年9.1%です。期限後申告の場合、納期限は申告書を提出した日です。

一方で、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し、納付税額の全額を期限内に納めているなど一定の要件を満たせば、無申告加算税はかかりません(国税庁No.2024)。気づいた時点で早く申告するのが、負担を最も小さくします。

令和9年分からは天引きの税率構成が変わる

令和9年1月1日以後に生ずる所得については、復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられ、防衛特別所得税(所得税額の1%相当)が併せて源泉徴収されます(国税庁No.2260)。国税庁No.2665も、年末調整で精算する税を「令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税」と表記しています。また、令和8年度税制改正Q&Aによれば、改正後の源泉徴収税額表は2027年1月1日以後に支払う給与から使われます。

2,000万円超の医師にとっては、2027年分から天引き額の計算の前提が変わり、翌年の申告で精算する差額の出方も変わります。前年の申告結果をそのまま当てはめず、源泉徴収票の源泉徴収税額と申告書の年税額を毎年見比べておくと、差額の理由を追いやすくなります。

よくある疑問

「2,000万円」は額面か、手取りか

額面です。国税庁No.1410は、給与等の収入金額を「給与所得の源泉徴収票の支払金額」と説明しています。社会保険料や税を引く前の金額で判定します。

年の途中で2,000万円を超えそうなとき、誰が判定するか

年末調整は給与の支払者が行う手続きで、190条の判定は「その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額」で行います。年末に支払確定額が2,000万円を超えれば、勤務先は年末調整をしません。本人の側で確実にすべきことは、翌年1月に源泉徴収票を受け取り、申告期限までに申告することです。

還付になる年でも申告は必要か

国税庁No.1900は、確定申告が必要な人から「確定申告をすれば税金が還付される人」を除いています。根拠は所得税法第120条第1項の括弧書で、源泉徴収税額が年税額から控除しきれない場合を申告義務から除いています。ケースAのように還付になる年は、法律上の申告義務の対象からは外れます。ただし還付を受けるには申告が必要で、ふるさと納税や生命保険料控除を反映させるにも申告が要ります。実務上は、2,000万円を超えた年は毎年申告すると決めておくのが確実です。

まとめ: 2,000万円を超えた年の段取り

給与が2,000万円を超えた年は、年末調整されず(所得税法第190条)、申告不要の特例も使えません(同法第121条)。やることは次の順番です。

1月末までに全勤務先の源泉徴収票を集め、2月16日から3月15日までに確定申告をします。生命保険料控除やふるさと納税など、年末調整なら勤務先が入れていた控除は自分で入れます。外勤の給与が乙欄で天引きされている場合は、合算後の税率との差が追加納付になります。ケースBの計算では約58.5万円でした。申告で納付税額が15万円以上になれば、翌年7月と11月に予定納税があります。所得2,000万円超で財産3億円以上なら、6月30日までに財産債務調書を出します。

令和8年分は、基礎控除の引上げが年末調整のない人には確定申告で反映されます。天引き額と年税額のずれを把握しておけば、3月の納付で慌てずに済みます。

参考資料

  • 所得税法(昭和40年法律第33号)第104条・第120条・第121条・第190条・第226条(e-Gov法令検索、2026年10月16日確認)
  • 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律 第6条の2(e-Gov法令検索)
  • 国税庁 タックスアンサー No.1900・No.2665・No.2675・No.2520・No.1199・No.1410・No.2260・No.1140・No.1191・No.1155・No.1904・No.2040・No.7457・No.2024・No.9205(いずれも2026年10月16日確認)
  • 国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」(月額表・電算機計算の特例)
  • 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(令和8年5月)」