給与所得の課税所得が1,800万円を超える勤務医が、証券口座で受け取る配当や売却益をどう扱うべきか。源泉徴収ありの特定口座を使っていれば多くは申告不要で済みますが、「申告したほうが得な年」と「申告すると損な選択」があります。本稿は国税庁タックスアンサーの記載だけを根拠に、限界税率で数字を出しながら判定の手順を整理します。

この記事で分かること:配当を総合課税にすると高所得の勤務医はなぜ損になるのか、源泉徴収ありの特定口座で申告不要が使える範囲、そして損失が出た年に申告すべき理由です。個別の銘柄・証券会社・商品の推奨は扱いません。

結論:源泉徴収ありの特定口座なら原則は申告不要、損失が出た年だけ申告を検討する

先に結論をまとめます。

第一に、源泉徴収を選択した特定口座(以下「源泉徴収口座」)内の上場株式等の譲渡益は、申告不要とすることができます。国税庁タックスアンサーNo.1476は、源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡による所得を「申告不要とすることができます」と明記し、申告するかどうかは口座ごとに選べるとしています(国税庁 No.1476「特定口座制度」)。

第二に、上場株式等の配当(大口株主等が受けるものを除く)は、金額にかかわらず確定申告不要制度を選べます(国税庁 No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」)。源泉徴収税率は所得税・復興特別所得税15.315%、地方税5%で、合計20.315%です。

第三に、給与の課税所得が高い勤務医が配当を「総合課税」で申告すると、累進税率がかかるため、配当控除を差し引いても源泉徴収で終わらせた場合より税額が増えることがほとんどです。後半で具体的な数字を示します。

第四に、例外は損失です。源泉徴収口座の損失を他の口座の利益と相殺する場合や、譲渡損失を翌年以後3年間繰り越す場合は、確定申告が必要です(国税庁 No.1476 注、No.1474)。

図1: 特定口座(源泉徴収あり)の配当・譲渡益が申告不要になるまでの流れ

そもそも勤務医は確定申告が必要か

株式投資の話の前に、本人に申告義務があるかを確認します。国税庁タックスアンサーNo.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」は、給与の年間収入金額が2,000万円を超える人を申告が必要な人の第一に挙げています。また、給与を1か所から受けていて全額が源泉徴収の対象になる場合でも、給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える人は申告が必要です。

年収2,000万円を超える勤務医や、複数の医療機関から給与を受けて年末調整されない給与が多い医師は、もともと確定申告をしています。この申告義務と、特定口座の申告不要は別の話です。No.1476が述べるとおり、申告不要の選択は口座ごとにできるため、給与のために確定申告書を出す年でも、源泉徴収口座の譲渡益や配当を申告書に載せない選択は残ります。

年収2,000万円前後の勤務医の申告全体の流れは、年収2,000万円の医師の確定申告で整理しています。本稿は、その申告書に証券口座の所得を載せるか載せないかの判断に絞ります。

株式の課税の基本:譲渡益は申告分離課税、配当は3つの方式から選ぶ

譲渡益は給与と合算されない

株式等を売却して得た所得は、他の所得と区分して計算する申告分離課税です。国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」は、「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」を区分し、それぞれ別の申告分離課税とすると説明しています。税率は所得税15%・住民税5%で、これに復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が加わります。

上場株式等の損失を一般株式等(非上場株式など)の利益から差し引くことはできない、という点も同じページに書かれています。勤務医が証券会社で売買する上場株式・ETF・公募投資信託は、通常は上場株式等の側に入ります。

ここで大事なのは、譲渡益はどれだけ給与が高くても約20%で済むという点です。給与の限界税率が40%を超える医師にとって、株式の譲渡益は給与より軽い税率で課税されます。

配当は総合課税・申告分離課税・申告不要の3つ

配当所得は、原則として総合課税の対象です。ただし、大口株主等(発行済株式等の3%以上を有する個人など)以外が受ける上場株式等の配当は、申告分離課税を選ぶことも、確定申告不要制度を使うこともできます(国税庁 No.1330、No.1331)。

国税庁タックスアンサーNo.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」には、3つの方式の比較表があります。要点は次のとおりです。

項目総合課税申告分離課税申告不要
税率累進税率所得税15.315%・地方税5%源泉徴収(同率)で完結
配当控除ありなしなし
上場株式等の譲渡損失との損益通算なしありなし
合計所得金額への算入含まれる含まれる含まれない

出典:国税庁 No.1331 の比較表をもとに作成

図2: 配当の3つの課税方式の比較(国税庁No.1331の表を図解)

同じページの注には、どの方式を選んだかは確定申告で決まり、選んだ方式・選ばなかった方式は修正申告や更正の請求で変更できない、とあります。申告書を出したあとで「やはり分離にしておけばよかった」と直すことはできないので、提出前に決めておく必要があります。

住民税も所得税と同じ方式になる

以前は、所得税と住民税で配当の課税方式を別々に選べました。所得税は総合課税で配当控除を受け、住民税は申告不要にする、という使い分けがありました。

この扱いは変わっています。大阪市の案内は、令和6年度課税分から、所得税で選んだ課税方式が市民税・府民税にも適用され、両者の課税方式が必ず一致すると説明しています(大阪市「株式等の配当所得等および譲渡所得等の申告・課税方法」)。現在は、所得税で総合課税を選ぶと住民税も総合課税になります。同じ案内によると、住民税の税率は総合課税が市民税8%・府民税2%の計10%、申告分離課税が市民税4%・府民税1%の計5%です。

限界税率で計算する:高所得の勤務医は配当を総合課税にすると損

総合課税で得をするかどうかは、「配当にかかる限界税率 − 配当控除率」が15.315%を下回るかで決まります。所得税の部分から順に計算します。

計算の前提

  • 配当は国内上場株式の剰余金の配当のみ、年間100万円とする(証券投資信託の分配金は含めない)
  • 給与所得控除・所得控除を差し引いた後の課税総所得金額が、配当を加える前に各税率帯の中にあり、配当100万円を加えても同じ税率帯にとどまるとする
  • 所得税の税率は国税庁 No.2260「所得税の税率」の速算表による
  • 配当控除の率は国税庁 No.1250「配当所得があるとき(配当控除)」による
  • 復興特別所得税は、配当控除後の所得税額(基準所得税額)に2.1%を掛ける
  • 住民税は所得税とは別に後で比べる。住民税側の配当控除は本計算に含めない

配当控除は課税総所得1,000万円を境に半分になる

No.1250によると、課税総所得金額等が1,000万円以下なら、剰余金の配当に係る配当所得の金額の10%が配当控除になります。1,000万円を超える場合は、1,000万円を超える部分に相当する配当には5%、それ以外の部分には10%の控除率になります(No.1250 パターン1〜3。証券投資信託の分配金がない場合)。

課税所得が1,000万円を十分に超えている勤務医では、配当の全額が1,000万円超の部分にあたるため、配当控除率は5%です。

税率帯ごとの比較(所得税+復興特別所得税、配当100万円あたり)

課税総所得金額の帯所得税率配当控除率総合課税の税額申告不要・分離の税額
695万〜899.9万円23%10%132,730円153,150円
1,000万超〜1,799.9万円33%5%285,880円153,150円
1,800万〜3,999.9万円40%5%357,350円153,150円
4,000万円以上45%5%408,400円153,150円

計算例(課税総所得2,500万円):100万円 × (40% − 5%) = 35万円。35万円 × 1.021 = 357,350円。申告不要なら 100万円 × 15.315% = 153,150円。差額は約20万円で、総合課税のほうが高くなります。

※いずれも上記前提にもとづく計算値です。実際の税額は所得構成で変わります。

図3: 配当100万円あたりの所得税等の比較(計算値)

33%以上の帯では、所得税だけで総合課税が13万円以上高くなります。住民税は総合課税が10%、分離・申告不要が5%なので、住民税でも総合課税のほうが率が高くなります。住民税にも配当控除がありますが、所得税ですでについている差を逆転させるほどにはなりません。課税所得が1,000万円を超える勤務医にとって、配当を総合課税にする理由はほぼありません。

23%の帯は住民税しだい

23%の帯だけは、所得税部分で総合課税のほうが約2万円少なくなります。一方、住民税は総合課税10%と分離・申告不要5%で、配当100万円あたり5万円の差がつきます。住民税の配当控除でこの差がどこまで縮むかで結論が変わるので、この帯の医師は、お住まいの自治体の案内で住民税の配当控除の率を確認してから決めるのが確実です。初期研修を終えて間もない時期や、時短勤務中の医師が当てはまりやすい帯です。

また、総合課税にすると配当が合計所得金額に含まれます(No.1331)。配偶者の扶養や各種の所得制限の判定に影響するため、税額だけでなくこの点も確かめてください。共働きの医師夫婦で配偶者の口座の配当をどう扱うかは、医師の共働き夫婦の税金で扱っています。

申告したほうがよい場合:損失の通算と3年間の繰越控除

源泉徴収口座の損失は、申告しないと翌年に持ち越せない

源泉徴収口座の中では、同じ口座内の利益と損失は自動で相殺されます。さらに、配当をその口座で受け取る設定(源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書の提出)をしていれば、口座内の譲渡損失と配当も相殺され、差し引いた額に15.315%がかかります(国税庁 No.1476)。

問題になるのは次の2つです。

1つ目は、複数の証券会社に口座がある場合です。A社の口座で利益、B社の口座で損失が出ても、口座の外では自動で相殺されません。No.1476の注は、他の口座の譲渡損益と相殺する場合は確定申告が必要としています。

2つ目は、年間を通じて損失が残った場合です。国税庁タックスアンサーNo.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」によると、上場株式等の譲渡損失は確定申告によって申告分離課税を選んだ配当と損益通算でき、控除しきれない金額は翌年以後3年間にわたって繰り越せます。

図4: 譲渡損失の繰越控除のタイムライン(3年間・毎年申告が必要)

繰越には「毎年の申告」が条件になる

No.1474は、繰越控除を受けるための手続として、損失が生じた年に付表と計算明細書を付けた確定申告書を出し、その後も連続して付表を付けた確定申告書を出すことを挙げています。さらに注で、上場株式等の譲渡がなかった年も、損失を翌年へ繰り越すための申告が必要だとしています。

たとえば、ある年に200万円の譲渡損失が出て、翌年に売買がなく、その翌年に150万円の譲渡益が出たとします。損失が出た年と売買のなかった年の両方で申告していれば、3年目の150万円の利益から繰り越した損失を差し引けます。1年でも申告が途切れると、繰り越した損失は使えなくなります。

年状況必要な手続
1年目譲渡損失200万円付表・計算明細書をつけて申告
2年目売買なし付表をつけて申告(繰越のため)
3年目譲渡益150万円申告して繰越損失を控除

※上の数値は手続の流れを示すための設例です。

この設例で3年目に控除できる金額は150万円で、源泉徴収で取られた税(150万円 × 20.315% = 304,725円の計算値)を取り戻せる計算になります。残る50万円は、損失が出た年の翌年以後3年内(この設例では4年目まで)なら引き続き繰り越せます。

損失を申告するなら、その口座の配当も申告に含める

No.1476には、源泉徴収口座の譲渡損失を申告する場合、その口座で受け入れた配当を申告不要にはできず、併せて申告しなければならない、とあります。損失を申告する口座の配当は申告分離課税で申告することになり、これは損益通算のためには好都合です。ただし前述のとおり、申告した配当は合計所得金額に含まれる点に注意してください。

令和9年から源泉徴収の内訳が変わるが合計税率は同じ

国税庁 No.1476とNo.1331によると、令和9年1月1日以後に生ずる所得から、復興特別所得税の税率が1.1%に下がり、防衛特別所得税(所得税額の1%相当)が併せて源泉徴収されます。No.1331は「合計税率に変更はありません」として、源泉徴収税額の計算方法は変わらないと説明しています。

源泉徴収の明細や特定口座年間取引報告書の内訳は変わりますが、15.315%+5%の手取り計算はそのままで構いません。

「超富裕層の追加課税」は勤務医にほぼ関係ない

「株の利益が多いと追加で課税される」という話を耳にした医師もいると思います。これは「特定の基準所得金額の課税の特例」(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)のことです。

国税庁タックスアンサーNo.2270によると、令和5年度税制改正で創設され、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に、(基準所得金額 − 3億3,000万円) × 22.5%が基準所得税額を上回ると、その差額が所得税に加算されます。基準所得金額には、申告不要を選んだ配当や源泉徴収口座の譲渡益も含めて計算します。

対象は基準所得金額3億3,000万円超です。給与と株式の所得を合わせてこの水準に届く勤務医はごく限られます。なお、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)では、特別控除額を1億6,500万円に引き下げ、税率を30%に引き上げる見直しが示されています(総務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」)。見直し後の水準でも、勤務医の大半には影響しません。申告不要を選んでもこの特例の計算からは外れない、という点だけ押さえておけば十分です。

判定チャート:今年、証券口座の所得を申告するか

ここまでの内容を、勤務医が年明けに確認する順番に並べます。

図5: 証券口座の所得を申告するかの判定チャート

  1. 口座の種類を確認する。特定口座(源泉徴収あり)なら次へ。一般口座や源泉徴収なしの特定口座(簡易申告口座)の譲渡益は、申告が必要です(大阪市の案内の表でも、簡易申告口座分と一般口座分は申告の要否が「必要」とされています)。
  2. その年に譲渡損失が残った口座、または繰り越している損失があるかを確認する。あれば申告を検討します。
  3. 複数の口座で利益と損失が混在しているかを確認する。混在していれば、申告して相殺できます。
  4. 上のいずれにも当てはまらず、課税所得が1,000万円を超えているなら、源泉徴収口座の所得は申告不要のままにします。
  5. 課税所得が900万円未満の帯なら、配当の総合課税を住民税も含めて試算してから決めます。

NISA口座の損失は、損益通算も繰越控除もできません(No.1474 注3)。NISAとiDeCoの使い分けは医師のNISAとiDeCoの優先順位で、資産形成の全体の組み立ては医師の資産形成の始め方で扱っています。

勤務医が迷いやすい3つの場面

年の途中で源泉徴収なしに切り替えたい

No.1476によると、源泉徴収を選ぶには、その年の最初の譲渡の時までに「特定口座源泉徴収選択届出書」を証券会社に出す必要があります。選択は年単位なので、年の途中で源泉徴収をやめることはできません。源泉徴収の有無を変えたい場合は、翌年の最初の売却より前に手続きをすることになります。

外国株の配当は配当控除の対象にならない

No.1250は、配当控除を受けられる配当を日本国内に本店のある法人からの配当などに限っています。外国法人からの配当は配当控除の対象にならないため、総合課税にしても控除で税額を減らすことはできません。本稿の比較表は国内上場株式の配当を前提にしているので、外国株の配当の比率が高い医師では、総合課税の不利はさらに大きくなります。

申告不要にしても手元の取引報告書は保管する

申告不要を選んだ年でも、特定口座年間取引報告書は手元に残してください。翌年以後に損失が出て申告することになったとき、あるいは他の口座との相殺を検討するときに、過去の年の取引状況を確かめる資料になります。

申告前のチェックリスト

確定申告書に証券口座の所得を載せる前に、次の点を確認してください。

図6: 証券口座の所得を申告する前のチェックリスト

  • 特定口座年間取引報告書を口座ごとにそろえたか
  • 配当を申告する場合、総合課税と申告分離課税のどちらにするかを決めたか(提出後は変更できない)
  • 損失を繰り越している場合、今年も付表をつけて申告するか
  • 損失を申告する口座の配当を、申告書に含めたか
  • 申告した配当や譲渡益が合計所得金額に含まれ、扶養などの判定に影響しないか
  • 住民税も所得税と同じ方式になることを踏まえて計算したか

源泉徴収口座の所得を申告すると、その所得は住民税でも申告した扱いになります。損失の繰越など明確な目的がない年は、申告不要のままにしておくのが手間も少なく、税額でも不利になりにくい選択です。

まとめ:申告不要を基本に、損失の年だけ動く

課税所得が1,000万円を超える勤務医なら、源泉徴収ありの特定口座の配当と譲渡益は申告不要のままが基本です。配当を総合課税で申告すると、配当100万円あたり所得税等で13万〜25万円程度多くなる計算です(本稿の前提による計算値)。

申告を検討すべきなのは、譲渡損失が出た年と、複数の口座で利益と損失が混在する年です。繰越控除は3年間ですが、毎年申告を続けることが条件です。年収2,000万円を超えて確定申告をする年でも、口座ごとに申告不要を選べます。

税額は所得の構成で変わります。迷う年は、確定申告書等作成コーナーで方式を変えて試算し、数字を比べてから提出してください。

参考資料

  • 国税庁 タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1476「特定口座制度」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1250「配当所得があるとき(配当控除)」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2270「特定の基準所得金額の課税の特例」
  • 総務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」
  • 大阪市「株式等の配当所得等および譲渡所得等の申告・課税方法」

※本稿は令和8年4月1日現在法令等として国税庁が公表している内容をもとにしています。個別の判断は最新の情報を確認してください。