講演料や原稿料、産業医の報酬が年に数十万から数百万円入るようになり、「開業届を出して青色申告にすれば65万円控除が使える」と聞いて調べている先生は多いと思います。ただ、青色申告特別控除は事業所得か不動産所得がある人の制度で、雑所得には使えません。最初に決めるべきは、その副業収入が事業所得なのか雑所得なのかです。この記事では、国税庁のタックスアンサー、所得税基本通達35-2とその解説、租税特別措置法25条の2、所得税法の条文を2026年10月21日に開いて確認した内容をもとに、勤務医の副業ごとに所得区分を判定する考え方と、事業所得になった場合の65万円控除の要件と税額の目安を整理します。個別の判断は、帳簿と契約書を持って税理士か税務署に確認してください。

結論: 65万円控除は「事業所得になる副業」にしか使えない

先に答えを示します。勤務医が副業で青色申告の65万円控除を受けるには、次の3つを順に満たす必要があります。

  1. 副業収入が給与ではなく、事業所得に区分される
  2. 青色申告の承認を期限内に受けている
  3. 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告し、さらにe-Taxか優良な電子帳簿保存を行う

国税庁は、青色申告ができるのは不動産所得、事業所得、山林所得のある人だと明記しています(国税庁 No.2070「青色申告制度」)。雑所得しかない人は青色申告の承認を受けることができず、65万円控除の入口に立てません。

また、病院の非常勤当直や外来の非常勤で雇用契約を結び、源泉徴収票を受け取っている収入は給与所得です。所得税法28条1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」に係る所得と定めています(e-Gov法令検索 所得税法28条)。いくつ非常勤先を掛け持ちしても、給与で受け取る限り事業所得にはならず、青色申告とは関係しません。ここを取り違えて開業届を出しても、控除は受けられません。

図1: 副業収入から65万円控除までの判定の流れ。給与か、事業所得か雑所得か、青色の承認と記帳・電子要件を満たすかを順に確認する(概念図)

事業所得と雑所得はどこで分かれるか

法律上の定義

所得税法27条1項は、事業所得を「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得」と定めています。国税庁のタックスアンサーも同じ趣旨で、事業所得は総収入金額から必要経費を引いて計算すると説明しています(国税庁 No.1350「事業所得の課税のしくみ」)。

雑所得は、利子、配当、不動産、事業、給与、退職、山林、譲渡、一時のいずれにも当たらない所得です。国税庁は例として「副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)」を挙げ、業務に係る雑所得を「副業に係る収入のうち営利を目的とした継続的なもの」と説明しています(国税庁 No.1500「雑所得」)。

つまり、同じ副業収入でも、活動の規模によって事業所得にも雑所得にもなります。この境目を示したのが、令和4年10月に改正された所得税基本通達35-2です。

所得税基本通達35-2の「注」

通達35-2は、講演料や原稿料などを業務に係る雑所得の例として挙げたうえで、「事業所得又は山林所得と認められるものを除き」と限定しています。例示の4号は「原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得」です。

そのうえで(注)は、「事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する」としています。さらに、取引を記録した帳簿書類の保存がない場合は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除いて、業務に係る雑所得に該当すると定めています(国税庁 所得税基本通達 法第35条関係)。

国税庁の解説が示す目安

この改正に合わせて国税庁が公表した解説は、判定の目安をもう少し具体的に書いています(国税庁 所得税基本通達35-1・35-2の解説(令和4年10月))。要点は次の4つです。

  • 帳簿に記録して保存している場合は、一般に営利性・継続性・企画遂行性があり、事業所得に区分される場合が多い
  • ただし、帳簿があっても収入が僅少な場合は個別に判断する。例として「例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満」が挙げられ、「例年」は概ね3年程度とされる
  • 例年赤字で、赤字を解消する取組をしていない場合も、営利性が認められない例として個別判断になる
  • 帳簿の記録や保存がない場合は、原則として事業所得に区分されない。ただし収入金額が300万円を超える規模の活動なら、帳簿がないことだけでは区分を判定しない

解説はまた、社会通念による判定の根拠として最判昭和56年4月24日を引き、事業所得を「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」とした部分を紹介しています。この記事では判決本文を確認していないため、事案の中身には立ち入りません。判決は医師の副業を対象にしたものではなく、解説は判決の定義を、営利性や継続性などを総合勘案する際の物差しとして使っています。

図2: 国税庁解説の区分イメージ。収入300万円超か以下か、帳簿保存の有無で、概ね事業所得、業務に係る雑所得、個別判断に分かれる

勤務医にとっての「10%」の重さ

ここが勤務医にとって最も重要な点です。主たる収入が年1,500万円の給与だとすると、その10%は150万円です。副業収入が例年300万円以下で、かつ主たる収入の10%未満なら「僅少」の例に当たり、帳簿を付けていても事業所得と認められるとは限りません。

逆に言えば、帳簿を付けて保存していることは事業所得の必要条件に近いものの、それだけで決まるわけではありません。300万円以下・10%未満は「必ず雑所得」という基準でもなく、個別判断に回るという位置づけです。解説の文言は「該当すると考えられます」であり、法律の要件ではない点も押さえておく必要があります。

副業の種類ごとに区分を考える

ここからは、勤務医に多い副業を5つ取り上げ、どこに論点があるかを整理します。いずれも一般論で、実際の区分は契約の形と活動の実態で決まります。

講演・原稿

講演料と原稿料は、通達35-2の4号に業務に係る雑所得の例として名指しされています。年に数回の講演や、依頼があったときに書く原稿は、収入が主たる収入の10%に届かないことが多く、雑所得として申告するのが一般的な扱いです。講演料や原稿料は支払の際に源泉徴収されるのが原則で(前掲 No.1500)、確定申告で精算する流れになります。

一方、講演や執筆を自ら企画・営業し、継続的に受注し、帳簿を付けて収支を管理しているなら、事業所得と認められる余地があります。製薬企業からの講演料にはCOI開示の論点も重なるため、医師の講演料とCOI開示もあわせて確認してください。

産業医

産業医は契約の形が分かれます。企業に雇用されて給与を受け取るなら給与所得です。複数の企業と業務委託契約を結び、報酬を受け取る形なら、事業所得か雑所得かの判定に入ります。嘱託産業医を複数社で継続的に受け、事務所や移動の費用を管理しているような働き方は、営利性・継続性の面で事業所得に寄る要素があります。

業務委託の報酬が増えると、消費税とインボイスの論点も出てきます。登録の要否は医師の業務委託とインボイスで3段に分けて整理しています。

オンライン診療の業務委託

オンライン診療のプラットフォームや医療機関と業務委託契約を結び、件数や時間で報酬を受ける形もあります。契約書の名前が業務委託でも、勤務時間や方法を相手方が細かく指示する実態なら給与に近いと判断される可能性があり、まずここを確認します。業務委託として成立している場合、継続的に相当の時間を割き、収入が大きくなるほど事業所得に寄ります。

健診・読影などの単発業務

健診や読影を件数単位で受ける業務も、雇用か業務委託かで扱いが変わります。病院の非常勤として雇用契約で給与を受けているなら給与所得で、青色申告とは無関係です。支払の形式は源泉徴収票か支払調書かで見分けがつくことが多いので、手元の書類を確認してください。

自由診療クリニックへの経営参画

自由診療クリニックへの関わり方は複数あります。医療法人の理事として役員報酬を受けるなら給与所得です(所得税法28条1項)。法人に出資して配当を受けるなら配当所得の論点になり、事業所得ではありません。自ら個人でクリニックを開設して診療するなら、典型的な事業所得です。「経営参画」と一口に言っても、所得区分は受け取る名目で決まります。法人化を含めた設計は医師の法人化のメリットで扱っています。

図3: 勤務医の副業5種と所得区分の関係。雇用か委託か、名目は何かで給与・配当・事業・雑に分かれる(概念図)

事業所得なら何が変わるか

青色申告特別控除の3段階

国税庁 No.2072によると、青色申告特別控除は65万円、55万円、10万円の3段階です(国税庁 No.2072「青色申告特別控除」)。根拠は租税特別措置法25条の2で、第3項が55万円、第4項が65万円への読み替え、第1項が10万円を定めています(e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2)。

55万円の要件は、事業所得(または不動産所得)を生ずべき事業を営んでいること、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳していること、その記帳に基づく貸借対照表と損益計算書などを確定申告書に添付し、期限(翌年3月15日)までに提出することの3つです。

65万円は、この55万円の要件に加えて、次のどちらかを満たす場合です。

  • 仕訳帳と総勘定元帳について優良な電子帳簿の要件を満たして電子データで備付け・保存し、届出書を期限までに提出する
  • 確定申告書、貸借対照表、損益計算書等を期限までにe-Taxで送信する

勤務医の副業であれば、会計ソフトで複式簿記の記帳をし、e-Taxで期限内に申告する方法が現実的です。No.2072は、イメージデータでの送信はできないと注記しています。また、控除額は事業所得の金額が上限で、事業所得が40万円なら控除も40万円までです。期限を1日でも過ぎると55万円・65万円は使えず、要件を満たさない青色申告者は10万円になります。

青色申告の承認申請の期限

青色申告承認申請書は、原則として青色申告をしようとする年の3月15日までに提出します。その年の1月16日以後に新たに業務を開始した場合は、開始した日から2か月以内です(前掲 No.2070)。2027年分から青色にするなら、2027年3月15日が期限です。期限を過ぎると、その年は白色申告になります。

開業届の位置づけ

開業届(個人事業の開廃業等届出書)は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出するとされています(国税庁 No.2090「新たに事業を始めたときの届出など」)。

注意したいのは、開業届を出したことで事業所得になるわけではない点です。所得区分は活動の実態で判定され、届出の有無は判定基準として通達に挙げられていません。開業届は「事業を始めた」という本人の申告にすぎず、税務署が事業所得と認めたことを意味しません。開業届を出し、青色の承認を受けていても、実態が僅少な副業なら雑所得と判断される可能性は残ります。

図4: 青色申告に切り替えるまでのタイムライン。開業から2か月以内または3月15日までの承認申請、日々の記帳、翌年3月15日までのe-Tax申告(概念図)

損益通算は「赤字が出る副業」で効く

事業所得の損失は、給与所得など他の所得と損益通算できます。所得税法69条1項は、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の損失を他の各種所得から控除すると定め、国税庁も雑所得の損失は他の所得から控除できないと説明しています(国税庁 No.2250「損益通算」)。

ただし、ここに落とし穴があります。前述の解説は、例年赤字で赤字解消の取組をしていない場合を営利性が認められない例に挙げています。副業の赤字で給与の税金を減らすことを目的にした事業所得の申告は、まさに区分が否認される典型です。損益通算は、事業として黒字化を目指して活動した結果として赤字が出た年に効くものと考えてください。

65万円控除で税金はいくら変わるか

計算の前提

控除の効果は、その人の所得税の税率で決まります。ここでは次の前提で計算します。

  • 副業は事業所得と認められ、事業所得の金額が65万円以上ある
  • 給与と合わせた課税される所得金額が、控除の前後で同じ税率の帯に収まっている
  • 所得税は国税庁の速算表の税率(国税庁 No.2260「所得税の税率」)、復興特別所得税は基準所得税額の2.1%(令和9年分以後は復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%に分かれるが、合計は2.1%のまま)
  • 住民税の所得割は標準税率の10%(道府県民税4%・市町村民税6%、総務省「個人住民税」資料)で、控除後の所得が住民税にもそのまま反映される

勤務医の給与水準では、課税される所得金額が900万円から1,799.9万円の帯(所得税33%)に入る人が多いと考えられます。

税率の帯ごとの軽減額

65万円の控除による税負担の軽減額は、65万円 ×(所得税率 × 1.021 + 10%)で求められます。

  • 所得税23%の帯: 65万円 ×(23% × 1.021 + 10%)= 約21.8万円
  • 所得税33%の帯: 65万円 ×(33% × 1.021 + 10%)= 約28.4万円
  • 所得税40%の帯: 65万円 ×(40% × 1.021 + 10%)= 約33.0万円

33%の帯で比べると、65万円と55万円の差である10万円分は約4.4万円、65万円と10万円の差である55万円分は約24.0万円になります。e-Taxで申告するだけで55万円が65万円になるので、複式簿記で記帳しているなら紙で出す理由はほとんどありません。

図5: 65万円控除による年間の税負担軽減額(計算値)。所得税23%・33%・40%の帯ごとに、所得税・復興特別所得税・住民税10%の合計で示す

手間と比べてどうか

約28万円という数字は、複式簿記の記帳、会計ソフトの費用、帳簿の7年保存(前掲 No.2070、書類によっては5年)と引き換えです。副業収入が年50万円程度の講演だけなら、そもそも事業所得と認められにくく、控除額も事業所得の金額が上限になるため、効果は限られます。逆に、産業医やオンライン診療の業務委託で年数百万円の収入があり、継続して経費も発生しているなら、記帳の手間に見合う可能性が高いと言えます。

もう一つの比較軸は、雑所得のままでも帳簿の負担がゼロではない点です。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えると、現金預金取引等関係書類の保存が必要になり、1,000万円を超えると収支内訳書などの添付が必要です(前掲 No.1500)。収入が300万円を超える規模なら、雑所得でも書類管理は避けられません。

小規模な副業向けには、収入や経費を現金の出入りで計上する現金主義の特例もあります。雑所得では前々年分の収入金額が300万円以下なら、確定申告書に記載することで使えます(前掲 No.1500)。青色申告者にも前々年分の所得が300万円以下の場合の現金主義の特例がありますが、届出が必要で、これを選ぶと55万円・65万円の控除は受けられません(前掲 No.2072)。簡便さを取るか控除額を取るかの選択になります。

65万円控除以外の青色申告の特典

青色申告の効果は特別控除だけではありません。No.2070は主な特典として、青色事業専従者給与、貸倒引当金、純損失の繰越しと繰戻しを挙げています(前掲 No.2070)。

青色事業専従者給与は、生計を一にする配偶者などの親族で15歳以上の人が、その事業に専ら従事している場合に、事前に届け出た範囲内で労務の対価として適正な額を必要経費にできる制度です。勤務医の副業では、配偶者が事務を専ら担うほどの規模になることは多くないため、使える場面は限られます。また、専従者給与を受ける人は同一生計配偶者や扶養親族になれない点にも注意が必要です。

純損失の繰越しは、損益通算をしてもなお控除しきれない損失を、翌年以後3年間繰り越せる制度です。前年も青色申告をしていれば、前年分に繰り戻して還付を受ける選択肢もあります。勤務医は給与所得が大きいため、事業所得の赤字は通常その年の損益通算で吸収され、繰越しまで残ることはあまりありません。開業準備の初期投資が大きい年など、限られた場面で意味を持つ特典と考えておくとよいでしょう。

青色申告に切り替える前のチェック

最後に、勤務医が副業で青色申告を検討するときの確認事項をまとめます。

図6: 青色申告65万円控除を検討する前のチェックリスト6項目(概念図)

まず、その収入は給与か業務委託かを源泉徴収票と支払調書で確認します。非常勤の当直や外来で給与として受け取っている分は対象外です。次に、業務委託の収入について、例年の収入額と給与に対する割合を見ます。300万円以下で10%未満が続いているなら、事業所得と主張できるか慎重に考える必要があります。

そのうえで、黒字化に向けた営業や受注の取組をしているか、複式簿記で記帳・保存する体制を作れるかを確認します。青色の承認申請は期限があり、e-Taxで期限内に申告することが65万円の条件です。

確定申告の具体的な流れは医師の副業の確定申告の手順で整理しています。区分に迷う場合は、契約書・帳簿・過去数年の収入の推移を持って、税理士か所轄の税務署に相談してください。

まとめ: 区分の判定が先、控除の要件は後

青色申告の65万円控除は、事業所得になる副業にしか使えません。講演料や原稿料は通達で雑所得の例に挙げられ、勤務医の副業は主たる収入に比べて僅少になりやすいため、まず区分を判定することが出発点です。事業所得と認められるなら、承認申請の期限、複式簿記、e-Taxの3点を押さえれば、税率33%の帯で年約28万円の軽減が見込めます(前提は本文のとおり)。開業届は区分を決めるものではないことも覚えておいてください。

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