非常勤バイトや原稿料・講演料など、本業以外の収入がある医師の多くは、年が明けてから「今年もまた確定申告をしなければならない」と気づきます。毎年同じ手順のはずなのに、いざ取り掛かると何から着手すべきか迷う、という声もよく聞きます。当直や外勤で予定が読みにくいなかでは、申告作業をまとめて片付ける時間を確保すること自体が難しく、直前になって書類が揃わず慌てるケースも珍しくありません。この記事では、1月の書類収集から3月15日の申告期限までを時系列で追い、それぞれの時点で具体的に何をすればよいかを、国税庁の一次情報に基づいて整理しました。

結論: 副業のある医師の確定申告は、4段階を1月から順に進める

先に全体像を示します。副業収入のある医師の確定申告は、①1月〜2月上旬の書類収集、②2月上旬のマイナポータル連携範囲の確認、③2月中旬〜下旬の確定申告書等作成コーナーでの入力、④3月上旬〜15日の提出・納付、という4段階で進みます(国税庁「確定申告書等作成コーナー」)。会社員の副業一般を対象にした解説記事は数多くありますが、複数の医療機関から給与を受け取り、かつ原稿料や講演料といった雑所得も持つ、という組み合わせを前提に手順を示したものは多くありません。この記事は、その組み合わせを前提に、実際の作業順序を示します。

図1: 医師の副業、確定申告の年間スケジュール

各段階でつまずきやすい点は決まっています。書類収集の段階では、非常勤バイト先ごとの源泉徴収票をどこまで揃えればよいかが分かりにくく、入力の段階では、給与所得と雑所得を別々に扱う必要がある点が見落とされがちです。段階ごとに「今の時点で何が終わっていればよいか」を先に知っておけば、直前に慌てて全工程をまとめて片付ける必要はなくなります。この記事では、この4段階を順に、実際の操作画面を意識しながら解説します。

なお、非常勤バイト代(給与所得)と原稿料・講演料等(雑所得)は税務上の扱いが異なり、合算できる所得とできない所得があります。この区分自体の詳しい解説は、医師のポイ活、税金はかかるか 一時所得と確定申告ラインを整理で扱っていますので、区分の考え方から確認したい方はそちらもご覧ください。本記事では、区分を踏まえたうえでの実際の申告手順に絞って解説します。

1月〜2月上旬: 書類を集める

年が明けたら、まず書類を集めます。集める書類は所得の種類によって異なるため、自分にどの所得があるかを先に整理しておくと、収集漏れを防げます。本業病院、非常勤バイト先、原稿料・講演料の支払元を紙1枚に書き出し、それぞれから何が届く予定かをチェックする欄を作っておくと、2月に入ってから「あの病院の分だけ届いていない」と気づく事態を避けられます。

給与所得(本業・非常勤バイト) については、勤務先ごとに「給与所得の源泉徴収票」が発行されます。本業の病院からは年末調整済みのものが交付されますが、非常勤バイト先が複数ある場合は、その数だけ源泉徴収票を集める必要があります。年末調整が済んでいない給与先がある場合、その分は確定申告で改めて所得税額を計算し直すことになります。

源泉徴収票は、見るべき欄が決まっています。

図2: 給与所得の源泉徴収票、4つの主要な欄

作成コーナーへの入力で使うのは、主に「支払金額」と「源泉徴収税額」です。年末調整済みの本業分については「給与所得控除後の金額」と「所得控除の額の合計額」も記載されていますが、非常勤バイト分の源泉徴収票にはこれらの欄が空欄になっているのが一般的です。空欄だからといって記入漏れではなく、年末調整をしていない給与である以上、正しい状態です(国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」)。

雑所得(原稿料・講演料等) については、源泉徴収票のような統一書式はありません。支払者から「支払通知書」や「支払明細」が送られてくる場合はそれを保管し、送られてこない場合は自分で年間の入金額と源泉徴収された金額を集計します。原稿料や講演料は、多くの場合支払時点で10.21%が源泉徴収されているため、通帳の入金額だけを見ると実際の収入額より少なく記録されてしまいます。たとえば、入金額が3万3,000円だった場合、源泉徴収前の金額はおおよそ3万3,000円÷(1-0.1021)で計算でき、この額面ベースの金額が申告すべき収入金額になります(実際の源泉徴収額は支払通知書の記載を優先してください)。

非常勤バイト先の源泉徴収票は、多くの医療機関で1月中に交付されますが、部署の事務処理状況によっては2月にずれ込むこともあります。年内に退職・契約終了した先がある場合は特に、交付が漏れやすいため、1月の時点で交付予定の先を書き出し、届いた分から消し込んでいく管理方法が確実です。

この時期にあわせて確認しておきたいのが、医療費控除やふるさと納税、生命保険料控除など、所得控除に関わる書類です。医療費の領収書、寄附金受領証明書、控除証明書のたぐいも、1月のうちに一箇所にまとめておくと、後の入力作業が滞りません。生命保険料控除証明書や地震保険料控除証明書は、多くの場合10月から11月にかけて保険会社から送付されますが、電子交付を選んでいると紙で届かないこともあるため、保険会社のマイページも合わせて確認しておくと収集漏れを防げます。iDeCoに加入している場合は、国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」も同様に必要です。ふるさと納税でワンストップ特例を申請していた場合でも、確定申告をする年はワンストップ特例の適用が無効になり、寄附金控除として改めて申告し直す必要がある点も、書類を集める段階で思い出しておいてください。

2月上旬: マイナポータル連携の範囲を確認する

書類が揃ったら、次に確認したいのがマイナポータル連携です。マイナンバーカードとマイナポータルを連携させておくと、確定申告書等作成コーナーでの入力時に、対象となるデータを自動で取り込めます(国税庁「マイナポータルと連携した所得税確定申告手続」)。連携には、マイナポータルアプリのインストールとマイナンバーカードによる利用者登録という事前準備が必要です。この準備自体は入力作業とは切り離して済ませられるため、1月のうちに済ませておくと、2月の作業をスムーズに始められます。

ただし、自動入力できる範囲は限られています。

図3: マイナポータル連携で自動入力できるデータ

給与所得の源泉徴収票情報が連携対象に加わったのは令和6年2月からで、比較的新しい機能です(国税庁「令和6年度におけるオンライン(e-Tax)手続の利用状況等について」)。連携には、勤務先がe-Tax等で源泉徴収票を提出していることに加え、本人が事前登録を済ませている必要があります。非常勤バイト先の中には、この対応をしていない医療機関も少なくありません。連携できなかった給与については、源泉徴収票を見ながら手入力することになります。

雑所得にあたる原稿料や講演料は、そもそもマイナポータル連携の対象になっていません。支払者側が作成する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は税務署への提出書類であり、本人のマイナポータルに自動連携される仕組みではないためです。原稿料・講演料は、この段階でも引き続き自分で集計した金額を使うことになります。

一方、医療費控除を使う予定がある場合は、医療費通知情報の連携が特に役立ちます。連携すると、保険診療分の医療費について1月から12月診療分をまとめて取得でき、作成コーナー側で医療費控除の明細書を自動作成してくれます。ただし取得できるのは医療保険者が把握している保険診療分のみで、自由診療分や、年末近くに受診した分など保険者への通知が間に合っていない分は、自分で領収書を見ながら追加入力する必要があります。連携すれば全て自動で済む、と考えていると、直前になって不足に気づくことになります。

この段階で「連携できる範囲」と「手入力が必要な範囲」の見当をつけておくと、次の入力作業の見積もりが立てやすくなります。連携の可否は毎年変わる可能性があるため、確定申告の時期が近づいたら国税庁のマイナポータル連携特設ページで最新の対象範囲を確認してください。

2月中旬〜下旬: 確定申告書等作成コーナーで入力する

書類と連携範囲の確認が済んだら、確定申告書等作成コーナーで申告書を作成します。マイナンバーカードでログインすると、前年に作成コーナーを利用していた場合は前年のデータを引き継いで作成を続けられます。以降は画面の案内に沿って金額を入力していけば、税額は自動計算されます(国税庁「確定申告書等作成コーナー」)。

入力の順序で押さえておきたいのは、給与所得と雑所得を別々の入力欄で扱う点です。本業と非常勤バイトの源泉徴収票は「給与所得」の欄にまとめて入力し、原稿料・講演料は「雑所得(業務・その他)」の欄に、支払者ごとの金額を入力します。マイナポータル連携で自動入力された給与については、内容が源泉徴収票の記載と一致しているかを画面上で確認してください。連携できなかった非常勤バイト分は、この段階で源泉徴収票を見ながら1件ずつ追加していきます。

非常勤バイト分の源泉徴収票で「給与所得控除後の金額」欄が空欄になっていても、心配はいりません。作成コーナーは、各源泉徴収票の「支払金額」を合算したうえで給与所得控除を自動計算するため、空欄のまま「支払金額」と「源泉徴収税額」だけを入力していけば、複数勤務先分の給与所得は自動的にまとめて再計算されます。この自動計算こそが、年末調整では終わらなかった部分を確定申告で仕上げる、という作業の実体です。

雑所得の入力欄では、収入金額から必要経費を差し引いた金額が所得金額として計算されます。原稿執筆や講演のために支出した交通費・資料代などは必要経費として計上できるため、レシートや明細を1月の書類収集の段階でまとめておくと、この入力がスムーズになります。原稿料等の規模が大きく、事業所得との区分が問題になりそうな場合の考え方は、医師のポイ活、税金はかかるか 一時所得と確定申告ラインを整理で扱っている所得区分の基準を参照してください。

入力の途中で、自分が確定申告をする義務があるかどうかを再確認しておくと安心です。国税庁No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」は、複数のケースを挙げています。給与を1か所から受けていて年末調整が完了している場合は、給与・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超えると申告が必要です。一方、給与を2か所以上から受けている場合は、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与・退職所得以外の所得との合計額が20万円を超えると申告が必要になります。非常勤バイトを掛け持ちしている医師の多くは後者に該当するため、原稿料等が仮に少額でも、非常勤バイトの給与と合算した時点で申告義務が生じるケースが少なくありません。

具体的な数字で確認します。本業病院の給与は年末調整済みで、非常勤バイト先からの給与(年末調整未了)が50万円、原稿料が15万円だったとします。この場合は給与を2か所以上から受けているケースにあたり、年末調整されなかった給与50万円と原稿料15万円の合計65万円が20万円を超えるため、確定申告が必要です。一方、非常勤バイトがなく、原稿料だけが18万円だった場合は、給与を1か所から受けていて年末調整が完了しているケースにあたり、給与以外の所得18万円は20万円以下のため、所得税の確定申告義務は生じません(前述のとおり、住民税の申告は別途必要になる場合があります)。同じ「副収入18万円」でも、非常勤バイトの有無で判定の枠組み自体が変わる点に注意してください。

なお、この20万円という基準は所得税の確定申告義務についての規定であり、住民税の申告義務には別の基準が適用されます。所得税の申告が不要な年でも、住民税の申告は別途必要になる場合があるため、居住する自治体の窓口で確認しておくと確実です。

所得の入力が終わったら、所得控除の入力に進みます。社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除、ふるさと納税による寄附金控除など、1月に集めた書類をもとに入力していきます。前年の申告データを引き継いでいる場合、扶養家族の状況は前年のまま表示されるため、結婚・出産・扶養親族の異動があった年は、この画面で必ず修正してください。異動を反映し忘れると、扶養控除や配偶者控除の金額が実態とずれたまま計算されてしまいます。控除の入力まで終えると、納付額または還付額が画面に表示されます。

e-Tax送信の準備を整える

申告書の内容が固まったら、提出方法を選びます。現在の主な提出方法はe-Taxによる電子送信で、マイナンバーカード方式が基本です。送信前に、次の3点を確認しておくと当日つまずきません。

図4: e-Tax送信の準備、何が揃っていれば送信できるか

マイナンバーカードの読み取りには、対応するスマートフォンかICカードリーダライタが必要です(国税庁「e-Taxの利用方法」)。また、電子証明書には有効期限があり、期限切れの場合は市区町村窓口での更新手続が先になります。パスワードは利用者証明用(数字4桁)と署名用(英数字6〜16文字)の2種類があり、どちらを忘れても、送信当日に窓口での再設定が必要になります。なお、ID・パスワード方式は暫定的な代替手段として運用されてきましたが、令和7年10月以降は新規発行が停止されており、これから初めてe-Taxを利用する場合はマイナンバーカード方式が前提になります。

カード読み取りの手間自体は、年々簡略化されています。国税庁によれば、令和7年1月からはスマホ用電子証明書をAndroid端末に搭載しておくことで、その端末単体でカードをかざさずにログイン・送信できるようになりました。令和7年9月からは同様の機能がiPhoneにも拡大しています(国税庁「令和6年度におけるオンライン(e-Tax)手続の利用状況等について」)。事前に対応の可否を確認しておくと、当直明けの空き時間などでも申告作業を進めやすくなります。

対応するスマートフォンやICカードリーダライタがどうしても用意できない場合は、e-Taxでの送信にこだわらず、作成コーナーで作った申告書を印刷し、書面で税務署に郵送または持参する方法も選べます。この場合はマイナンバーカードやパスワードは不要ですが、マイナポータル連携による自動入力も使えないため、源泉徴収票や支払通知書を見ながらすべて手入力することになります。時間に余裕がない医師ほど、e-Tax送信のための準備を早めに済ませておくメリットが大きいといえます。

e-Taxでの所得税申告の利用率は、この5年で大きく伸びています。

図5: 所得税確定申告のe-Tax利用率の推移

令和2年度の55.2%から令和6年度は74.1%まで上昇しており、書面提出よりもe-Taxのほうが標準的な提出方法になりつつあります。国税庁は所得税申告のオンライン利用率について、令和7年度末の目標を80%としており、今後さらに伸びる見込みです(国税庁「令和6年度におけるオンライン(e-Tax)手続の利用状況等について」)。マイナポータル連携による自動入力とあわせて使うと、非常勤バイトが複数ある医師でも入力の手間を抑えられます。

3月上旬〜15日: 提出・納付

申告書の送信自体は、内容が固まればいつでも行えますが、提出期限は決まっています。所得税の確定申告の期限は、原則として翌年3月15日です。土日にあたる場合は翌平日にずれます(国税庁「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」)。納付についても、この期限までに済ませる必要があります。

図6: 申告書提出後、納付までのスケジュール

納付方法は複数あり、選び方によって実際の引き落とし時期が変わります。現金納付や電子納税、クレジットカード納付などは、申告期限までに各自で手続きを済ませる必要があります。一方、振替納税を選んでいる場合は、納期限までに振替納税依頼書を提出しておけば、実際の口座引き落としは1か月ほど後になります。参考として、令和7年分の確定申告では、法定納期限が令和8年3月16日、振替日は令和8年4月23日でした。振替納税は一度手続きをしておけば翌年以降も自動的に継続されるため、初めて確定申告をする年に申し込んでおくと、次年度以降の手間が減ります。手数料はかからず、納付額を口座残高に合わせて先に確保しておける点も、現金納付や電子納税にはないメリットです。

非常勤バイトの掛け持ちや原稿料の増加で、その年だけ納税額が大きくなり、期限までに全額を用意しづらい場合は、延納という選択肢もあります。確定申告により納付する税金の2分の1以上の金額を申告期限までに納付すれば、残りの額をその年の6月1日頃まで延納できます。ただし延納期間中は利子税がかかるため、あくまで一時的な措置として捉えておくべきです(国税庁「確定申告書等作成コーナー」延納に関する案内)。

e-Taxで送信すると、税務署からの受信通知がe-Taxのメッセージボックスに届きます。この通知が、申告書が正常に提出されたことを示す唯一の記録になるため、送信ボタンを押して終わりにせず、受信通知が届いているかまで確認してから作業を終えるようにしてください。金融機関などから確定申告の控えの提出を求められる場合は、この受信通知の画面をあわせて保存しておくと、後日の対応がスムーズです。

提出が完了しても、それで終わりではありません。前年の所得税額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上になると、翌年は予定納税の対象になります。対象者にはその年の6月15日までに税務署から通知が届き、7月31日までに基準額の3分の1を第1期分として、11月30日までに残りの3分の1を第2期分として納付します(国税庁No.2040「予定納税」)。副業収入が安定して増えている医師ほど対象になりやすいため、確定申告のタイミングで、翌年に予定納税の通知が届く可能性があることも念頭に置いておくとよいでしょう。

まとめ: 次にすべきことは、今の時点でどの段階にいるかの確認

副業のある医師の確定申告は、書類収集・連携確認・入力・提出納付という4段階に分ければ、特別な手続きではありません。つまずきやすいのは、非常勤バイトの給与所得と原稿料等の雑所得を同じ感覚で扱ってしまう点と、マイナポータル連携で自動入力できる範囲を実際より広く見積もってしまう点です。この記事で示した各段階のチェック内容を、実際の作業に入る前に一度確認しておくことをおすすめします。

今の時点で1月をすでに過ぎている場合は、まず自分がどの段階にいるかを確認してください。源泉徴収票や支払通知書がまだ手元に揃っていなければ①の途中、揃っていてマイナポータルの連携範囲を確認していなければ②が次の一歩です。年内にできる準備としては、非常勤バイト先や原稿料の支払元ごとに、年間の収入と源泉徴収額を記録する簡単な一覧を作っておくことも有効です。翌年以降、同じ作業を1月にまとめて行う必要がなくなり、確定申告の負担そのものを年々軽くしていけます。

確定申告は年に一度の作業ですが、そこで使う控除や制度の選び方は、年間を通じた資産形成や節税の方針とつながっています。単年の手続きを終えることをゴールにせず、翌年以降の副業収入や控除の使い方まで見据えて振り返っておくと、次の確定申告はさらに短い時間で終えられるはずです。

所得区分の基本的な考え方や、20万円ルールと合算対象になる所得の詳しい整理については、医師のポイ活、税金はかかるか 一時所得と確定申告ラインを整理医師・勤務医の節税、5つの誤解を一次情報で正すもあわせてご覧ください。