「開業資金は総額でいくら必要か」という問いに、一次情報だけから一律の答えを出すことはできません。診療科・立地・無床か有床かで金額が大きく変わるうえ、開業医の資金調達額を診療科目別に集計した公的統計は存在しないためです。本記事は、総額の相場を提示する代わりに、開業資金を構成する4つの要素(物件取得費・内装工事費・医療機器費・運転資金)に分解し、それぞれ何で金額が変わるかと、日本政策金融公庫・福祉医療機構(WAM)の融資制度、自己資金と借入の目安比率を、一次情報にもとづいて整理します。

結論: 開業資金は「4つの構成要素」と「資金使途の2区分」で考える

開業資金は、①物件取得費、②内装工事費、③医療機器費、④運転資金という4つの構成要素の合計です。①〜③は開業前に一度だけ発生する初期投資、④は開業後の診療報酬の入金を待つ間の運転資金という性格の違いがあり、この区分は日本政策金融公庫の融資制度でも「設備資金」「運転資金」という2区分に対応しています(日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)。

総額の相場を検索すると診療科目別の目安額を掲げるコンサルティング会社の記事が多数見つかりますが、調査手法や調査年が明記されていないものがほとんどで、本記事では創作された数値としては扱いません。かわりに、公的統計・政府系金融機関が開示している一次情報(融資限度額、返済期間、資金調達額の平均・中央値、開業後の損益差額)を積み上げ、総額を逆算できる材料として提示します。開業資金というと総額の一点だけに目が向きがちですが、実際に金融機関へ相談する際に問われるのは、内訳のどの区分にいくら必要で、その根拠は何かという説明です。総額の相場観よりも、内訳を自分の言葉で説明できることのほうが、資金調達の実務では重要になります。

図1: 開業資金は4つの構成要素に分解できる

開業資金の4つの構成要素

①物件取得費: 賃貸か土地建物取得かで性格が変わる

テナント開業であれば敷金・保証金・仲介手数料などの賃貸借にかかる費用、戸建て開業であれば土地・建物の取得費用です。福祉医療機構(WAM)の医療貸付事業では、診療所の土地取得資金として融資限度額3億円という枠が設けられており(WAM「ご融資の種類(診療所)」)、戸建て開業における土地取得が、賃貸のテナント開業とは資金規模の桁が異なる支出になり得ることがうかがえます。

テナント開業と戸建て開業のどちらを選ぶかは、初期投資の大きさだけで決まる話ではありません。テナントは初期投資を抑えやすい一方、賃料が運転資金の固定費として毎月発生し続けます。戸建ては初期投資が大きくなる代わりに、開業後の固定費に賃料が含まれない(自己所有のため)という違いがあり、どちらが自院の資金計画に合うかは、後述する運転資金の考え方とあわせて検討する必要があります。

②内装工事費: 診療科によって設計要件が変わる

診察室・処置室・レントゲン室・待合室などの内装工事費です。放射線を扱う診療科は遮蔽工事が必要になり、リハビリテーションを行う整形外科などは床面積そのものが大きくなるなど、診療科ごとに設計要件が異なります。坪単価や総額を診療科目別に集計した公的統計は見当たらず、本記事では金額を明示しません。設計・施工業者から複数の見積もりを取り、自院の診療内容に即した工事範囲を確認することが実務上の出発点になります。

③医療機器費: リースと購入で資金繰りへの影響が変わる

診療に必要な医療機器の導入費用です。WAMの医療貸付事業には医療機器購入資金として融資限度額2,500万円(購入価格の80%以内)、返済期間5年という枠があり(WAM「ご融資の種類(診療所)」)、公的融資でも医療機器は建物とは別枠・短い返済期間で扱われています。「購入価格の80%以内」という融資率は、裏を返せば残り2割程度は自己資金など別の手当てが必要になることを意味します。医療機器はリース契約で導入すれば初期投資を抑えられますが、月々のリース料が運転資金を圧迫するため、購入とリースのどちらが自院の資金繰りに合うかは、後述する運転資金の必要月数とあわせて検討する必要があります。

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④運転資金: 保険診療の入金ラグが必要月数を決める

運転資金は、開業直後の人件費・賃料・水道光熱費などの固定費を賄うための資金です。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のワーキングペーパーは、医療機関の資金需要についてこう説明しています。「日常的な運転資金に関して、人件費、水道光熱費、賃料等の固定費やその他諸経費は都度支払うのに、保険診療は、請求して2ヶ月後に入金されるという構造にあるため、その間を短期資金で繋ぐ必要がある」(日医総研ワーキングペーパーNo.404「医療機関経営における金融機関の有効活用に向けて」)。開業直後は患者数も少なく収益が安定しないため、この2ヶ月のタイムラグに加えて、軌道に乗るまでの数ヶ月分を上乗せして確保するのが実務上の考え方です。WAMの医療貸付事業にも、長期運転資金(経営安定資金)として融資限度額4,000万円・返済期間7年という枠が用意されています(WAM「ご融資の種類(診療所)」)。

運転資金として何ヶ月分を積むかを考える手がかりとして、開業後の費用構造も参考になります。厚生労働省「第24回医療経済実態調査」によると、一般診療所(個人)全体の令和4年度の医業・介護費用は、医業収益等に対する構成比で68.0%を占め、その内訳は給与費25.0%、医薬品費14.8%、委託費4.1%、減価償却費4.2%、その他の医業・介護費用17.2%などとなっています(中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」)。開業直後は患者数が少なくても、給与費や賃料といった固定費の多くは収益の多寡にかかわらず発生するため、この費用構成比は、月々どの科目にどれだけの支出が生じるかを見積もる際の参考値になります。

無床診療所と有床診療所では、使える融資の枠組みが変わる

無床診療所と有床診療所の違いは、医療法第1条の5第2項で定められています。同項は「診療所」を「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、患者を入院させるための施設を有しないもの又は19人以下の患者を入院させるための施設を有するもの」と定義しており(医療法、e-Gov法令検索)、入院施設を持たないものが無床診療所、19人以下の入院施設を持つものが有床診療所にあたります。20人以上の入院施設を持つ医療機関は診療所ではなく病院に区分され、開設の手続きや融資制度の対象そのものが変わります。

この病床数の違いは、開業資金の内訳にも直接影響します。有床診療所は、病床を維持するための看護職員配置や夜間の対応体制が求められる分、内装工事費と運転資金(人件費)が無床診療所より重くなる一方、開業資金の総額だけでなく、そもそもどの融資制度を使えるかも、無床診療所か有床診療所かで変わります。WAMの医療貸付事業を例にとると、新築資金の融資限度額そのものは有床診療所5億円・無床診療所(歯科含む)3億円と、有床のほうが大きな枠を持っています。一方で、無床診療所・歯科診療所の新築資金は「診療所不足地域」に限定されており、診療所が充足している地域での無床診療所の新規開業では、この枠を使えません(WAM「ご融資の種類(診療所)」)。都市部でクリニックを新規開業する医師の多くが無床診療所を選ぶ一方、地域によってはこの公的融資の対象外になるという制約があることは、資金計画を立てる段階で確認しておくべき点です。

図2: 有床診療所と無床診療所で、WAM医療貸付事業の融資条件は変わる

有床診療所は、新築資金5億円・土地取得3億円という大きな融資枠を持つ一方、病床を維持するための人員配置基準や設備基準が無床診療所より厳しく、内装工事費・運転資金ともに無床診療所より重くなる傾向があります。逆に無床診療所は、有床診療所に比べて初期投資は抑えやすいものの、都市部の診療所充足地域では前述のとおりWAMの新築資金枠自体を使えないため、日本政策金融公庫や民間金融機関からの調達が中心になります。

日本政策金融公庫の融資制度をどう使うか

医師の開業資金調達で第一の選択肢になりやすいのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。この制度の融資限度額は7,200万円で、対象は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」、資金使途は「新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金」です。返済期間は設備資金が20年以内(据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(据置期間5年以内)で、金利は基準利率が適用されるほか、女性、35歳未満、55歳以上などの要件を満たす場合には特別利率A〜Cが適用されます(日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」)。

図3: 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」の融資条件

据置期間とは、元金の返済を猶予され、利息の支払いのみで済む期間のことです。設備資金・運転資金とも据置期間5年以内という条件は、開業直後で収益が安定しない時期に元金返済の負担を先送りできることを意味しますが、据置期間が長いほど総返済期間に占める利息負担の期間も長くなる点は、返済計画を立てる際に確認しておく必要があります。

福祉医療機構(WAM)の医療貸付事業との違いは、対象業種と地域要件です。WAMは医療・福祉分野に特化した政策金融機関で、前述のとおり無床診療所の新築資金には診療所不足地域という地域要件があります。一方、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は業種を問わず利用でき、地域要件もありません。実務上は、両制度の対象・条件を照らし合わせたうえで、自院の立地と診療形態に合う制度を選ぶか、複数の制度を組み合わせて資金調達額を積み上げる形になります。日医総研のワーキングペーパーが指摘するとおり、医療機関の資金調達は自己資金だけで完結することは近年の経営環境では難しく、間接金融(金融機関からの借入)との組み合わせが前提になります(日医総研ワーキングペーパーNo.404)。

選択肢は政府系金融機関だけではありません。日医総研のワーキングペーパーは、医療機関向け融資の担い手として、地方銀行・都市銀行に加えて医師信用組合を調査対象に含めています(日医総研ワーキングペーパーNo.404「対象と方法」)。医師信用組合は組合員である医師・医療法人を対象とした金融機関で、医療業界特有の事情を踏まえた審査が期待できる選択肢の一つです。政府系金融機関の融資枠だけで開業資金の全額をまかなえない場合、民間金融機関や医師信用組合を組み合わせて調達額を積み上げるのが一般的な進め方になります。

自己資金と借入の目安比率

診療科目別の開業資金調達額を集計した公的統計はありませんが、日本政策金融公庫総合研究所が全業種を対象に毎年実施している「新規開業実態調査」からは、開業資金調達の全国的な傾向がわかります。2024年度調査によると、開業時の資金調達額は平均1,197万円で、資金調達先の内訳は「金融機関等からの借り入れ」が平均780万円(調達額に占める割合65.2%)、「自己資金」が平均293万円(同24.5%)であり、この二つで調達額全体の89.6%を占めます(日本政策金融公庫総合研究所「2024年度新規開業実態調査」)。同調査では、開業した業種のうち「医療・福祉」が15.7%を占め、「サービス業」に次いで2番目に多い業種となっています。

図4: 開業時の資金調達額の内訳(全業種平均、2024年度)

ここで注意が必要なのは、この平均985万円(開業費用)・1,197万円(資金調達額)という数字が、飲食店や小売業なども含めた全業種の平均だという点です。不動産取得や医療機器投資の規模が大きい医療分野の開業費用は、この全業種平均を上回るのが通常であり、この調査結果を医師の開業資金の目安としてそのまま使うことはできません。一方で、自己資金と借入の比率がおおむね1対2〜3程度になるという構造自体は、医師の開業資金計画を立てる際の出発点として参考になります。「金融機関等からの借り入れ」と「自己資金」で調達額全体の89.6%を占めるということは、残る1割程度は配偶者・親族や友人・知人からの借入・出資といった、金融機関を介さない資金でまかなわれていることも同調査から読み取れます。医療法人化を検討する場合は、資金調達の主体や個人保証のあり方も変わってくるため、別記事医師の法人化のメリット、損益分岐点はどこにあるかもあわせて確認してください。

開業後の採算から、必要な運転資金を逆算する

開業資金の計画は、開業後にどれだけの収益が見込めるかと切り離して立てることはできません。厚生労働省「第24回医療経済実態調査」(令和5年実施)によると、一般診療所(個人)全体の1施設当たり損益差額(医業収益+介護収益−医業・介護費用)は、令和3年度が29,567千円(医業収益等に対する構成比32.4%)、令和4年度が31,909千円(同33.2%)でした(中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」)。この損益差額には開設者本人の報酬に相当する部分が含まれており、給与費には計上されていません。

図5: 一般診療所(個人)の1施設当たり損益差額の推移

同調査を日本医師会が集計した資料では、一般診療所(医療法人)の院長給与について、令和4年度は平均2,653万円、中央値2,160万円、最頻値1,000万〜1,500万円というデータも示されています。3つの値の乖離が大きい理由について、資料は「自由診療の比率が高いと思われる診療所など一部の高額のデータが平均値を押し上げる一方、分布はかなり左に偏っている」ためだと説明しており、「実態を正確に把握するためには、平均値ではなく中央値と最頻値を重視するべきである」としています(日本医師会「第24回医療経済実態調査報告(令和5年度実施)について」)。開業直後からこの水準の収益が得られるわけではなく、開業から収益が軌道に乗るまでの期間をどう見積もるかが、運転資金として確保すべき月数を左右します。

融資制度を選ぶ順序

ここまでの制度・データを踏まえると、資金計画を立てる実務上の順序は次のようになります。まず自院が無床診療所か有床診療所かを確認したうえで、無床診療所であれば開業予定地が診療所不足地域に該当するかを確認し、WAMの医療貸付事業を使えるかどうかを判断します。次に、設備資金と運転資金それぞれについて、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金でまかなえる範囲を確認し、不足分を民間金融機関からの借入や自己資金で補う、という順序です。

図6: 融資制度を検討する順序

どの制度を使う場合でも、金融機関は事業計画の実現可能性を審査の中心に置きます。日医総研のワーキングペーパーは、金融機関へのインタビュー調査の結果として「融資審査では、事業計画の実現可能性の他に、マネジメントやガバナンスの体制に着目する」と述べており、開業後の収益シミュレーションを伴わない資金計画は、審査の段階で通りにくいことを示唆しています(日医総研ワーキングペーパーNo.404)。物件取得費・内装工事費・医療機器費・運転資金という4つの内訳を積み上げるだけでなく、開業後何年でその投資を回収する計画かをあわせて示せるかどうかが、融資の通りやすさに直結します。

同ワーキングペーパーは、融資条件をめぐる重要な論点として、経営者の個人保証の問題も取り上げています(日医総研ワーキングペーパーNo.404「重要な個別論点」)。個人開業医が個人事業として借り入れる場合はもとより、医療法人化したあとの借入でも、理事長個人の保証を求められるケースがある点は、融資額の規模を検討する段階であらかじめ理解しておくべき条件の一つです。

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よくある質問

開業資金の総額はいくらと考えればよいですか。 診療科・立地・無床か有床かによって金額の桁が変わるため、一律の総額を示す一次情報は存在しません。本記事で示した4つの構成要素(物件取得費・内装工事費・医療機器費・運転資金)ごとに、複数の業者・金融機関から見積もりを取り、自院の条件にあわせて積み上げる必要があります。

自己資金はどれくらい用意すればよいですか。 日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金には自己資金要件そのものは設けられていませんが、自己資金の額は審査における重要な要素の一つです。全業種平均では資金調達額の24.5%程度が自己資金という調査結果がありますが、医療分野は投資額そのものが大きいため、この比率をそのまま当てはめず、金融機関に個別に確認することをすすめます。

日本政策金融公庫とWAMのどちらに相談すればよいですか。 業種を問わず利用できる日本政策金融公庫と、医療・福祉分野に特化し地域要件のあるWAMとでは対象が異なります。無床診療所を診療所充足地域で開業する場合はWAMの新築資金枠を使えないため、日本政策金融公庫や民間金融機関が中心の選択肢になります。両制度を比較したうえで、複数の金融機関に事業計画を持ち込んで相談するのが実務的な進め方です。

運転資金は何ヶ月分を用意すればよいですか。 保険診療は請求から入金まで約2ヶ月かかるため、最低でもこの期間を賄う資金が必要です。開業直後は患者数が少なく収益が安定しないことをふまえ、軌道に乗るまでの期間を上乗せしてWAMの長期運転資金(経営安定資金、融資限度額4,000万円)のような枠を活用する開業医もいます。必要月数は診療科・立地の患者見込みによって変わるため、一律の月数を示す一次情報はありません。

医療機器はリースと購入のどちらがよいですか。 一律の答えはありません。購入はWAMの医療機器購入資金(融資限度額2,500万円、購入価格の80%以内)のような公的融資を使えますが、残り2割程度の自己負担が生じます。リースは初期投資を抑えられる一方、月々のリース料が運転資金の固定費に加わります。開業後数年の収益シミュレーションと、運転資金として確保できる月数をあわせて試算したうえで判断する必要があります。

個人開業と医療法人での開業では、資金調達の進め方は変わりますか。 開業時点から医療法人を設立するケースもありますが、まず個人開業医として開業し、経営が軌道に乗ってから医療法人化を検討する医師も少なくありません。個人開業では融資の借主が医師個人になりますが、医療法人化後の借入は法人が借主になり、理事長個人の保証を求められる場合があります。どちらの形態で開業するかは、税率構造や社会保険の扱いといった開業後の論点ともかかわるため、資金計画とあわせて早い段階で方針を固めておくことをすすめます。

資金計画はいつから始めればよいですか。 一次情報として一律の準備期間を示す資料はありませんが、物件取得費・内装工事費・医療機器費・運転資金という4つの内訳ごとに、複数の業者・金融機関から見積もりと融資条件の提示を受けるプロセス自体に相応の時間がかかります。とくに戸建て開業で土地・建物を取得する場合や、WAMの新築資金・甲種増改築資金のように地域要件の確認が必要な制度を利用する場合は、テナント開業より前段階の調査に時間を要します。開業希望時期から逆算し、内訳ごとの見積もり取得・融資審査・工事期間を積み上げたスケジュールを早い段階で組んでおくことが、開業直前の資金繰り不安を避ける実務上の対策になります。

まとめ: 総額ではなく内訳から積み上げる

医師の開業資金は、物件取得費・内装工事費・医療機器費という開業前の初期投資と、開業後の入金ラグを埋める運転資金という、性格の異なる支出の合計です。無床診療所か有床診療所か、また無床診療所の場合は開業予定地が診療所不足地域に該当するかによって、WAMの医療貸付事業や日本政策金融公庫の融資制度で使える枠組みが変わるため、総額の相場感を追うより先に、自院がどの制度の対象になるかを確認することが実務上の出発点になります。

自己資金と借入の比率、必要な運転資金の月数についても、業種を問わない一般的な調査データはあっても、医師の開業に特化した公的統計は限られています。本記事で示した融資制度の条件と、開業後の損益差額のデータを土台にしつつ、実際の資金計画は、複数の金融機関への相談と、税理士・開業コンサルタントを交えた個別の事業計画の作成を通じて詰めていく必要があります。

開業は一度きりの大きな意思決定であり、内訳を積み上げる作業そのものに時間がかかります。逆に言えば、物件取得費・内装工事費・医療機器費・運転資金という4つの区分ごとに、いつまでにどの金融機関から見積もりと融資条件の提示を受けるかというスケジュールを先に決めておくことが、開業準備全体を計画的に進めるための土台になります。総額の数字だけを追いかけるのではなく、内訳のどこに自院固有の変動要因があるかを把握したうえで、専門家とともに個別の資金計画を組み立ててください。