医師の給与を「年俸○○万円、残業代込み」と1行で決めている病院は少なくありません。採用の場では分かりやすい提示ですが、この書き方は最高裁で否定された形そのものです。この記事は、病院の事務長・人事担当の方に向けて、医師の給与を基本給・固定残業代・当直手当・オンコール手当・インセンティブの5つの部品に分け、部品ごとに「法的に有効にする要件」「よくある無効パターン」「設計例」を整理したものです。根拠は労働基準法と同施行規則の条文(e-Gov法令検索)、最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決、令和元年7月1日基発0701第8号、厚生労働省の宿日直許可FAQ、令和7年賃金構造基本統計調査です。2026年10月9日時点の内容です。
医師個人の立場から年俸制の残業代を確認する視点は「医師の年俸制と残業代」で扱いました。本記事は病院側が規程と契約書を作る実務に絞ります。
先に答え: 年俸額より「内訳を判別できる形」が先
医師の給与体系を設計するときに最初に決めるべきなのは、年俸の総額ではありません。総額のうち、どこまでが通常の労働時間の賃金で、どこからが割増賃金なのかを、契約書と賃金規程の上で切り分けることです。
割増賃金を支払う義務は労働基準法第37条第1項にあります。時間外・休日労働について、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に、政令で定める率以上の率を掛けた割増賃金を「支払わなければならない」と定めており、これは同法第119条の罰則の対象となる義務規定です。率を定める政令は、延長した労働時間を2割5分、休日労働を3割5分としています。同条第1項ただし書は、時間外労働が1か月60時間を超えた部分について5割以上、第4項は午後10時から午前5時までの深夜労働について2割5分以上の割増を求めています。
年俸制はこの義務を免除しません。年俸制は賃金を年単位で決める方式にすぎず、時間外労働があれば割増賃金は発生します。労働時間規制の適用が外れるのは、同法第41条に列挙された者(第2号の監督若しくは管理の地位にある者、第3号の監視又は断続的労働に従事する者で行政官庁の許可を受けたもの、など)に限られます。
そのうえで、割増賃金を年俸や基本給に「あらかじめ含めて」払うことは可能です。可能であるための条件を示したのが、医師の年俸制を正面から扱った最高裁判決です。
最高裁平成29年7月7日判決(医療法人社団康心会事件)の事案と判断
事件名は判決本文の表記では「地位確認等請求事件」で、康心会事件は被上告人の法人名による通称です。事件番号は平成28年(受)第222号、最高裁判所第二小法廷の判決で、裁判官全員一致です。裁判所ウェブサイトに判決本文が掲載されています。
判決が確定した事実として引く内容は次のとおりです。医療法人に雇用された医師(労基法41条2号の管理監督者には当たらないとされています)の年俸は1,700万円で、本給月額86万円、諸手当月額34万1,000円、賞与(本給3か月分相当額を基準に成績で勘案)で構成されていました。病院には医師時間外勤務給与規程があり、時間外手当の対象を、勤務日の午後9時から翌午前8時30分までと休日に発生した緊急業務に限っていました。そして、この規程で払われるもの以外の時間外労働等の割増賃金は年俸1,700万円に含まれる、という合意がありました。ただし、年俸のうち割増賃金に当たる部分は明らかにされていませんでした。
原審の東京高裁は、医師の業務の特質、労務の提供を自らの裁量で律することができたこと、給与額が相当高額だったことなどを理由に、この合意を有効と判断しました。最高裁はこれを是認できないとして、割増賃金と付加金の部分を破棄し、高裁に差し戻しました。
判断の骨格は2段です。まず、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて払う方法自体は、直ちに労基法37条に反するものではないとしました。そのうえで、その方法で払う場合には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを「判別することができることが必要」であり、割増賃金に当たる部分が法定の方法で計算した額を下回るときは、使用者が差額を払う義務を負う、としています。本件では割増賃金部分が明らかでなかったため判別できず、年俸の支払で割増賃金が支払われたとはいえない、という結論です。
この判決から病院実務に持ち帰るべき点は3つあります。1つ目は、高額な年俸であることや、医師の裁量が大きいことは、判別要件を免除する理由にならないことです。原審はまさにそれを理由に合意を有効としましたが、最高裁はそれらの事情によって判別要件を緩めることなく、原審の判断を是認しませんでした。2つ目は、時間外勤務規程で一部を別払いしていても、残りを年俸に「含む」とした部分の判別ができなければ、その部分は割増賃金の支払いと認められないことです。3つ目は射程です。本件は一つの医療法人の雇用契約についての判断で、どのような書き方なら判別できるとされるかまでを網羅的に示したものではありません。判別の手段として金額か時間数を契約書に明記するのが、実務上確実な方法だということになります。
設計の前提: 割増賃金の「単価」を決める条文
部品ごとの設計に入る前に、割増賃金の単価がどう決まるかを押さえます。部品の名前の付け方を誤ると、この単価が想定と変わるからです。
単価の計算方法は労働基準法施行規則第19条にあります。月によって定められた賃金は、その金額を月の所定労働時間数で割ります(月ごとに所定労働時間数が違う場合は、1年間の1か月平均所定労働時間数で割ります。第1項第4号)。出来高払制その他の請負制による賃金は、その賃金算定期間の出来高給の総額を、その期間の総労働時間数で割ります(同第6号)。複数の種類の賃金からなる場合は、種類ごとに計算して合計します(同第7号)。
算定基礎から外せる賃金は限定列挙です。労基法第37条第5項が家族手当と通勤手当を、同施行規則第21条が、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の5つを挙げています。ここに名前のない手当、たとえば役付手当・職務手当・調整手当・医師手当・資格手当は、原則として算定基礎に入ります。康心会事件で原審が確定した事実関係では、病院の時間外手当は本給月額86万円と月の平均所定労働時間を基礎に計算され、諸手当34万1,000円は基礎に入っていませんでした。最高裁は差額の有無の審理を高裁に差し戻しており、この計算の当否までは判断していませんが、諸手当の扱いは設計で必ず確認すべき点です。
除外を予定する手当を作るときは、規則第21条の各号のどれに当たるのかを規程に書き、支給基準がその趣旨に沿っているかを労基署や社会保険労務士に確認しておくのが安全です。
部品1: 基本給(本給)
有効にする要件
基本給は割増賃金の単価の土台です。要件として押さえるのは、月額で定めること、月の所定労働時間数を就業規則で確定させること、の2点です。労基法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、賃金の決定・計算・支払の方法を就業規則に記載して届け出ることを義務付けています(同条第2号)。医師だけ個別契約で決め、就業規則の賃金規程に医師の条項がない状態は、この義務との関係で整理が必要です。
よくある無効パターン
年俸を12で割った金額をそのまま「基本給」とし、その中に残業代も当直も含むとする書き方です。康心会事件の構造と同じで、判別ができません。もう1つは、基本給を低く抑えて「調整手当」を厚くする設計です。調整手当は規則第21条に挙がっていないため算定基礎から外れず、単価を下げる効果はありません。
設計例
年俸総額を「基本給(月額)」「固定残業代(月額・時間数)」「当直手当(回数払い)」「賞与」の行に分けて契約書に書きます。基本給の行には、月の所定労働時間数と、そこから計算される1時間あたりの単価も併記しておくと、後で差額精算の計算根拠になります。
部品2: 固定残業代(定額の割増賃金)
有効にする要件
固定残業代は、康心会事件判決が示した判別要件をそのまま満たす形で作ります。要件として整理すると次の3つです。
第一に、通常の賃金と割増賃金の部分が契約書で区別されていること。金額と、それが何時間分の時間外・深夜労働に当たるかの両方を書くのが確実です。第二に、実際の時間外労働等から法定の方法で計算した割増賃金の額が固定額を上回ったら、差額を払うこと。判決は差額を払う「義務を負う」としています。第三に、深夜労働と月60時間超の時間外労働は率が違うため、固定額がどの率の何時間分に当たるかを計算で示せることです。第一審は、月60時間を超えた部分と深夜労働の割増賃金を年俸に含めて支払ったとはいえないと判断していました。
よくある無効パターン
時間数だけ書いて金額を書かない、または金額だけ書いて何の割増か書かない契約書です。もう1つは、毎月の実労働時間を集計せず、差額精算の仕組みがない運用です。2024年4月から医師の時間外・休日労働の上限規制が始まり、医師の勤怠を集計する仕組みは多くの病院で整えられているはずです。その集計を賃金計算に接続していないと、固定額を超えた月の差額が未払いのまま積み上がります。
設計例
数値は架空の例です。基本給月額100万円、月の所定労働時間数を160時間とすると、1時間の単価は6,250円です。時間外労働20時間分の固定残業代は、6,250円×1.25×20時間で15万6,250円になります。契約書には「固定残業代 月額156,250円(時間外労働20時間分)。実際の時間外労働に基づき計算した割増賃金がこれを超える場合は、その差額を翌月の賃金で支払う」と書きます。深夜労働を含める場合は、深夜分の時間数と金額を別の行で示します。
部品3: 当直手当(宿日直手当)
有効にする要件
当直手当の設計は、宿日直許可を取っているかどうかで別物になります。
宿日直許可は労基法第41条第3号と同施行規則第23条に基づくものです。規則第23条は、宿直または日直の勤務で断続的な業務について、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に、法第32条にかかわらず使用することが「できる」と定めています。許可の取得は病院の義務ではなく、取れば労働時間規制から外せるという構造です。申請実務は「宿日直許可の申請手順」で詳しく扱っています。
許可がない当直は、その時間全体が労働時間です。当直手当を定額で払っていても、それが割増賃金の判別要件を満たしていなければ、別に割増賃金が発生します。康心会事件でも、当直13回に対して当直手当合計42万円が払われていましたが、原審の「月額給与及び当直手当に含めて支払われた」という判断は最高裁で是認されませんでした。
許可がある当直では、手当額に下限があります。基発0701第8号は、医師等の宿日直について、記の1⑶で一般の宿日直の許可の際の条件を満たすことを求めています。厚生労働省の宿日直許可FAQは、その一般的な条件の1つとして、宿日直手当額が同種の業務に従事する労働者の1人1日平均額の3分の1以上であることを挙げています。
さらに、許可を受けた宿日直中に通常の勤務時間と同態様の業務(突発的な救急患者の診療など)に従事した時間は、通達の記の2により、時間外労働の手続をとり、法第37条の割増賃金を払うよう取り扱うこととされています。許可は当直全体の割増賃金を消すものではありません。
よくある無効パターン
許可を取っていないのに、当直を「1回3万円の手当で完結」させている例です。もう1つは、許可はあるが手当額を何年も据え置き、常勤医の基本給改定で1日平均額が上がった結果、3分の1を割り込んでいる例です。3つ目は、当直中の救急対応の時間を記録しておらず、その時間の割増賃金を払う仕組みがない例です。
設計例
宿直許可がある場合、手当の下限を計算式で規程に書きます。算定に使う「1人1日平均額」の取り方は、労基署と事前に確認してください。ここでは考え方を示すため、令和7年賃金構造基本統計調査の医師(男女計・企業規模計)の所定内給与額102万7,700円を、月の所定労働日数を仮に20日として日額にすると5万1,385円、その3分の1は約1万7,128円です。FAQには、宿直を全て非常勤医で対応し割増賃金の基礎となる賃金がない場合に、賃金構造基本統計調査の医師の賃金から算出した日額の3分の1を参考に評価した事例がある、と書かれています。日数の置き方で金額は変わるため、この数字は目安の示し方にとどめてください。
参考になる公的な水準として、国家公務員の一般職給与法第19条の2は、入院患者の病状の急変等に対処するための医師の宿日直勤務の手当を、1回2万2,500円を超えない範囲内で人事院規則で定める額としています(2026年4月1日施行の改正を反映したe-Gov収録版で確認)。これは国の機関の上限額であり、民間病院の基準ではありませんが、相場観の比較には使えます。
部品4: オンコール手当
有効にする要件
オンコールは、院外で呼出しに備える待機です。設計では「待機そのものへの手当」と「呼び出されて実際に働いた時間の賃金」を別の部品として扱います。呼出しを受けて病院で診療した時間は労働時間で、時間外・深夜に当たれば第37条の割増賃金の対象です。往復の移動時間の扱いも含め、規程で計算方法を決めておきます。
待機時間そのものが労働時間に当たるかは、呼出しの頻度、応答までに求められる時間、行動の制約の程度などの実態によって評価が分かれうる論点で、本記事では一律の結論を示しません。頻度が高い診療科では、労働時間と評価されるリスクを前提に設計し、社会保険労務士や労基署に確認してください。
よくある無効パターン
「オンコール手当1回5,000円に呼出し時の対応を含む」とする定額一本の設計です。呼出し対応の時間が割増賃金の判別要件を満たさず、固定残業代と同じ問題が生じます。また、オンコール手当は規則第21条の除外賃金に当たらないため、毎月払っていれば算定基礎に入る点も見落とされがちです。
設計例
待機は「1回あたりの待機手当」として定額で払い、呼出し時は「実労働時間×単価×割増率」で別に払う2本立てにします。呼出し記録(呼出し時刻、来院時刻、退院時刻)を電子カルテのログや当直日誌と突き合わせられる形で残すと、後日の労働時間の争いにも備えられます。
部品5: インセンティブ(業績給・手術手当など)
有効にする要件
手術件数や外来患者数に応じた手当は、労基則第19条第1項第6号の「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金」に当たる可能性があります。その場合の単価は、賃金算定期間の出来高給の総額を、同じ期間の総労働時間数で割って求めます。月の所定労働時間ではなく総労働時間で割る点が、基本給と違うところです。
支払の周期も単価に影響します。規則第21条第5号は「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を算定基礎から除外しています。毎月払いのインセンティブは算定基礎に入り、四半期・半期ごとの業績賞与として払うものは、要件を満たせば除外されます。注意が必要なのは年俸制です。厚生労働省の労働条件ポータルや沖縄労働局の解説は、平成12年3月8日基収第78号を引いて、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は、規則第21条第4号・第5号のいずれにも当たらず算定基礎から除外できない、としています。年俸の一部を「賞与」の名目で年2回に分けて払っても、額が確定していれば単価に入ります。また、名称を「賞与」にしても、実態として毎月の出来高を分割して後払いしているだけなら除外の扱いが争われうるため、算定期間と支給基準を規程に明記します。
よくある無効パターン
インセンティブを「時間外労働の対価も兼ねる」とする設計です。業績連動の金額は時間外労働の時間数と連動しないため、割増賃金の判別要件を満たすことが難しくなります。インセンティブは成果の対価、割増賃金は時間の対価と、目的を分けて規程に書きます。
設計例
手術手当を件数×単価で毎月払う場合は、その月の出来高給の総額を総労働時間で割った単価(規則第19条第1項第6号)を求め、それをもとに時間外労働の時間数分の割増賃金を計算して加算する式を、賃金計算システムに組み込みます。割増率の掛け方は労基署に確認してから設定してください。計算の負担が大きい場合は、業績部分を四半期ごとの支給に切り替えることも選択肢です。
総額の水準をどこに置くか: 統計で見る医師の賃金
部品の設計と別に、総額の水準も決める必要があります。令和7年賃金構造基本統計調査の職種第1表によると、医師(男女計、企業規模計10人以上)は、平均年齢45.7歳、勤続年数7.8年、所定内実労働時間数158時間、超過実労働時間数19時間、きまって支給する現金給与額116万3,200円、所定内給与額102万7,700円、年間賞与その他特別給与額116万4,100円でした。きまって支給する現金給与額の12か月分に年間賞与を足すと約1,512万円になります(この合計は本記事の試算です)。
企業規模別に見ると、所定内給与額は1,000人以上で88万5,000円、100〜999人で121万900円、10〜99人で149万4,700円でした。年間賞与は逆に1,000人以上が133万6,400円と最も高く、10〜99人は23万300円です。企業規模が小さいほど月給を厚くし賞与を薄くする構造が読み取れます。業績などで額が変動する賞与を薄くして月給に寄せると、規則第21条第5号で外せていた部分が算定基礎に入り、割増賃金の単価が上がります。逆に、年俸制で額が確定した賞与は、前述の基収第78号の扱いにより最初から算定基礎に入るため、配分を変えても単価は下がりません。総額を同じにしても、配分の変更は時間外の人件費を動かします。
公的病院の物差しとしては、一般職給与法の医療職俸給表(一)(別表第八イ、1級から5級)と、同法第10条の4の初任給調整手当があります。初任給調整手当は、医療職俸給表(一)の適用を受ける官職のうち採用による欠員補充が困難と認められるものについて、月額41万7,600円を超えない範囲内で、採用の日から35年以内の期間、1年ごとに減額しながら支給する仕組みです。俸給表を低めに置き、採用難の度合いに応じた手当で総額を調整する設計で、民間病院が「基本給」と「医師確保のための手当」を分けて考える際の参考になります。ただし、この手当も規則第21条の除外賃金には当たらない点は同じです。
採用後に辞めない給与体系かどうかという観点は「医師の定着率を上げる方法」で、求人票への書き方は「医師求人票の書き方」で扱っています。
導入手順: 規程・契約・勤怠の3点をそろえる
給与体系を改定するときは、次の順で進めると手戻りが少なくなります。
まず、現行の医師全員の雇用契約書と賃金規程を並べ、5つの部品のどれにも当てはまらない「込み」の表現を洗い出します。次に、過去数か月の勤怠記録から、時間外・深夜・休日の実績と、当直中の通常業務の時間を集計し、固定残業代の時間数と当直手当の下限を決める根拠にします。そのうえで賃金規程を改定し、就業規則の変更として労基署に届け出ます(労基法第89条の義務)。最後に、個々の医師と新しい雇用契約書を取り交わします。労基法第15条は、労働契約の締結に際して賃金・労働時間その他の労働条件を明示することを使用者の義務としています。
既存の医師について給与の構成を変える場合、総額が同じでも、従来の基本給の一部を固定残業代に付け替えると基本給が下がり、労働条件の不利益変更の問題になりえます。個別の同意の取り方は、社会保険労務士や弁護士と相談して進めてください。
まとめ: 総額交渉の前に部品表を作る
医師の採用競争では年俸の総額に目が行きがちですが、紛争になったときに問われるのは内訳です。最高裁平成29年7月7日判決は、年俸1,700万円という高額な事案でも、割増賃金の部分を判別できなければ割増賃金を払ったことにならないと判断しました。基本給は単価の土台として月額と所定時間で確定させ、固定残業代は金額と時間数を書いて差額を精算し、当直手当は宿日直許可の有無で設計を分け、オンコールは待機と呼出しを分け、インセンティブは支払周期と算定基礎の関係を確認する。この5つの部品表を先に作ってから、総額の水準を統計と照らして決める順番をおすすめします。
参考資料
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条・第37条・第41条・第89条(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則 第19条・第21条・第23条(e-Gov法令検索)
- 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷 平成29年7月7日判決 平成28年(受)第222号(裁判所ウェブサイト)
- 厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」令和元年7月1日基発0701第8号
- 厚生労働省「医療機関の宿日直許可に関するFAQ(2024年8月6日ver.)」(mhlw.go.jp/content/10800000/001508614.pdf)
- 厚生労働省 令和7年賃金構造基本統計調査 職種第1表(e-Stat)
- 一般職の職員の給与に関する法律 第10条の4・第19条の2・別表第八(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A 年俸制と割増賃金(平成12年3月8日基収第78号の引用)
- 沖縄労働局 労働相談事例 賃金・賞与・退職金Q4(同上)
