医師の求人票を前にして、どの欄にどこまで書けばよいのか判断がつかない。紹介会社の書式に合わせて埋めたものの、面接で条件を詰める段階になって数字が動き、「求人票と違う」と言われた経験がある。この記事は、求人票という書面の記載欄を上から順にたどり、各欄が法定の明示事項に当たるのか、医師の求人でどこがずれやすいのか、書き方の選択肢は何かを条文と厚生労働省の資料で確認していきます。求人媒体の選び方や募集の進め方は医師求人の出し方で扱っているため、ここでは書面そのものに絞ります。
求人票の書き方は、欄ごとに「どの法律の明示事項か」を確かめる作業
求人票に書く内容を決めるルールは一本ではありません。募集の段階を規律するのが職業安定法5条の3第1項で、募集を行う者は、募集に応じて労働者になろうとする者に対し、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。その具体的な項目は職業安定法施行規則4条の2第3項に列挙されており、病院が直接雇用する場合に関係するのは派遣に関する8号を除く10の事項です。同条4項は、これらを書面の交付で明示すること、相手が希望した場合はファクシミリや電子メール等でもよいことを定めています。
一方、労働契約を結ぶ時点の明示義務は労働基準法15条1項と労働基準法施行規則5条1項です。こちらは退職手当、賞与、災害補償、表彰・制裁、休職まで含み、求人票より項目が多い。さらに面接後に条件を絞ったり変えたりした場合は、職業安定法5条の3第3項の変更明示という第三の義務が挟まります。
つまり同じ条件を、募集時・変更時・契約締結時の3回、別々の根拠条文に基づいて明示することになります。求人票はその1回目にあたり、あとの2回と整合しない書き方をすると、採用の終盤で修正できない矛盾が残ります。労働基準法施行規則5条2項が「明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」と定めていることも、求人票の段階から効いてきます。
以下、求人票の記載欄を上から順に見ていきます。各欄で確認するのは、法定の明示事項かどうか、医師の求人でどこがずれるか、選べる書き方は何かの3点です。
欄1 事業者名・施設名: 誰が雇うのかを先に確定させる
最初の欄は、施行規則4条の2第3項7号の「労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称」です。医療法人名と病院名が異なる場合、雇用主は医療法人であり、病院名は就業場所の情報にあたります。両方を書き分けておくと、後の欄との対応が崩れません。
紹介会社に依頼する求人で、施設名を出さない非公開求人にすることはできます。ただし匿名にできるのは紹介事業者が求職者へ提示する媒体の表示上の扱いであって、求人者が紹介事業者に対して明示する義務(職業安定法5条の3第2項)そのものは消えません。紹介会社に渡す求人申込書の段階で雇用主を曖昧にしておくと、条件の突き合わせが誰の責任でも行われないまま面接に進みます。紹介会社との取引条件の詰め方は医師紹介会社を選ぶ前に決める発注条件で整理しています。
グループで複数法人を運営している場合は、応募者から見て入職先の法人がどこかを一読で判別できる書き方にします。雇用主が変われば、退職金規程の通算、社会保険の資格、勤続年数の扱いがすべて変わるためです。
欄2 職種と業務の内容: 2024年4月に「変更の範囲」が加わった
施行規則4条の2第3項1号は「労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む)」です。括弧の部分が2024年4月から加わった箇所で、入職後に命じる可能性のある業務の範囲まで書くことが求められます。
医師の求人では、募集時に想定していた業務と実際の業務の距離が開きやすい。外来担当として採用したのに病棟主治医を持つ、常勤内科として採用したのに健診や産業医業務、訪問診療に入る、といった変化です。将来的にこれらを担ってもらう見込みがあるなら、変更の範囲としてあらかじめ書いておく必要があります。
書き方には幅があります。担当を限定するなら「一般内科外来のみ(病棟業務なし)」と書き切る。幅を持たせるなら「一般内科外来。変更の範囲: 内科病棟の主治医業務、法人が実施する健診業務」のように、命じる可能性がある業務を列挙します。避けたいのは「その他付随する業務」だけで済ませる書き方です。条文が求めているのは変更の「範囲」であり、範囲を示さない包括条項は、書いていないのと同じ結果になります。診療科、担当患者数の目安、指導医の有無といった医師固有の情報は、この欄の具体性を上げる材料になります。
欄3 就業場所: 分院・健診センター・応援当直をどこまで書くか
3号は「就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含む)」です。こちらも変更の範囲が2024年4月に加わりました。
複数施設を持つ法人では、この欄が実務上いちばん揉めます。本院で採用した医師に、分院の外来、健診センター、系列老健の配置医、訪問診療の同行、系列病院への応援当直を求める運用は珍しくありません。これらはすべて就業場所の変更であり、命じる可能性があるなら範囲として書きます。
範囲の書き方は、施設名を列挙する方法と、地理的な範囲で示す方法があります。「変更の範囲: 当法人○○病院、○○クリニック、○○健診センター」と施設を挙げるのが明確です。訪問診療のように就業場所が日々動く場合は、「訪問診療先(○○市および隣接市内の患者宅・施設)」のように区域で示します。テレワークを認める場合、遠隔読影のように自宅での勤務を含むなら、それも就業場所として書く対象になります。読影業務の勤務形態は放射線科医の遠隔読影という働き方で扱っています。
欄4 雇用形態・契約期間・試用期間・更新上限
契約期間は2号、試みの使用期間は2号の2、有期契約を更新する場合の基準は2号の3です。2号の3には「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む」という括弧が2024年4月に入りました。
医師の求人でここが問題になるのは、任期付きのポストと、定年後の再雇用、それに「常勤」という言葉の多義性です。大学の関連病院や公的病院では、1年契約を更新していく形の常勤医が存在します。この場合、雇用形態の欄に「常勤」と書くだけでは契約期間の明示になりません。「期間の定めあり(1年)、更新の基準: 勤務実績および担当診療科の体制を勘案して判断、通算契約期間の上限5年」のように、期間・更新基準・上限を分けて書きます。
ここで切り分けておきたいのが、無期転換の扱いです。2024年4月の改正では、通算5年を超えて有期契約が更新される場面を念頭に、無期転換申込みに関する事項と、無期転換後の労働条件を明示する義務が加わりました。ただしこれは労働基準法施行規則5条5項・6項に置かれた義務であり、条文の建て付け上は労働契約の締結時、つまり労働条件通知書で明示する事項です。求人段階の明示事項を定める職業安定法施行規則4条の2第3項には、無期転換に関する号はありません。求人票に書く義務はないが、契約締結時には書かなければならない事項という位置づけになります。
この違いを知らずに、求人票に無期転換の説明を入れないまま、契約締結時に初めて「通算5年で無期転換の申込みができる」と示すと、応募者には条件が後から増えたように見えます。1年契約を積み上げる形の常勤ポストを募集するなら、求人票の段階で無期転換後の想定(職種・就業場所・賃金が有期のときと同じか違うか)まで書いておくほうが、契約締結時の説明が矛盾しません。
上限の定めがないなら「上限の定めなし」と書けば足ります。逆に、内部では5年で切ると決めているのに求人票に書かないという運用は、2号の3の趣旨から外れます。試用期間についても、期間中の労働条件が本採用後と異なる場合は、施行規則4条の2第6項がそれぞれの条件を示すことを求めています。基本給を下げる、当直を免除する、手当を支給しないといった差があるなら、両方を書きます。
欄5 労働時間と時間外労働の有無: 医師は上限規制の水準まで書く
4号は「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項」です。医師の求人票でこの欄が薄くなるのは、実際の労働時間が読めないまま募集をかけている場合です。
書くべき最低線は、始業終業時刻、休憩時間、所定外労働の有無です。そのうえで、医師の求人では時間外労働の上限規制の水準を書き添える意味があります。2024年4月以降、診療に従事する勤務医の時間外・休日労働の上限は、A水準および連携B水準で年960時間、B水準・C水準で年1,860時間、いずれも月100時間未満(面接指導等の要件を満たす場合の例外あり)とされています(厚生労働省)。自院がどの水準の指定を受けているかは応募者にとって労働時間の上限を示す情報であり、書いておけば面接での説明が短くなります。
研鑽の扱いも書ける項目です。基発0701第9号は、所定労働時間外に行う研鑽が、診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ上司の明示・黙示の指示によらずに行われる限り、在院して行う場合であっても一般的に労働時間に該当しないとしつつ、指示による場合や業務上必須の場合は労働時間に該当するとしています。院内で研鑽の申出手続を定めているなら、その運用を一行入れておくと、労働時間の範囲について認識の差が生まれにくくなります。
欄6 休日: 「4週8休」と書けるかは当直の扱いで決まる
休日も4号の対象です。「週休2日制」「4週8休」「年間休日120日」のいずれで書くかで情報量が変わります。
医師の求人で注意が要るのは、当直明けの扱いです。当直明けを休日と数えて年間休日を積み上げると、実際に休める日数と乖離します。当直明けに通常勤務が続く運用なら、休日欄で数えず、勤務時間の欄で当直と翌日勤務の連続として書くのが実態に合います。勤務間インターバルを設けているなら、「当直翌日は原則として9時間の連続した休息を確保」のように書けます。
休日の欄は、応募者が生活設計を判断する起点です。ここを実態より良く見せると、入職後3カ月で辞意が出る形で戻ってきます。採用にかかった費用の構造は医師採用のコスト構造で分解していますが、早期離職はその全額を無駄にします。
欄7 賃金: 幅だけを示す書き方と、内訳で示す書き方
5号は「賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則第8条各号に掲げる賃金を除く)の額に関する事項」です。明示の対象は月々支払われる賃金の額であり、賞与や臨時の賃金は求人票の明示事項からは外れます。年収見込みを書くこと自体は禁じられていませんが、年収だけを幅で示す書き方は、この欄を埋めたことになりません。
「年収1,500万円〜2,000万円(経験により決定)」という表示は、医師の求人で広く使われています。この書き方には三つの問題があります。第一に、月々の賃金の額が読めないため5号を満たしません。第二に、上限に反応して応募した医師に下限近くの条件を提示すると、そこで職業安定法5条の3第3項の変更明示が必要になり、条件交渉が仕切り直しになります。第三に、当直手当や時間外手当を含めた額を年収として示していると、実際の勤務量が変わった月に支給額が下がり、労働基準法15条2項の「明示された労働条件が事実と相違する場合」に近づきます。
固定残業代を賃金に含める場合の書き方は、厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークが示している3要素が基準になります。①固定残業代を除いた基本給の額、②固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、③固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨、の3つをすべて明示することとされています。医師手当や役職手当の名目で時間外相当分を含めている場合も、名称にかかわらず固定残業代として同じ扱いになります。
判別できるように分けておく意味は、割増賃金の計算に直結する点にもあります。基本給と時間外相当分を判別できない賃金の定め方では、支払った額をもって労働基準法37条の割増賃金を支払ったとは認められないと判断された裁判例が、厚生労働省のリーフレットにも引かれています。求人票の書き方は、賃金規程の設計が判別可能になっているかを点検する機会でもあります。
実際、求人票と労働条件の相違として持ち込まれる申出の内容別で最も多いのは賃金です。
欄8 当直・宿日直: 許可の有無で法的な意味がまったく違う
医師の求人票で最も誤差が出るのが当直欄です。「当直月4回(1回3万円)」という一行だけでは、その当直が労働時間なのかどうかが読めません。
分岐は労働基準法施行規則23条の許可の有無です。宿直または日直の勤務で断続的な業務について所轄労働基準監督署長の許可を受けている場合、労働基準法41条3号により労働時間・休憩・休日の規定の適用が外れます。許可を受けていない当直は、通常の労働時間として扱われ、時間外・深夜の割増賃金の対象になり、36協定と上限規制の枠の中に入ります。同じ「当直月4回」でも、前者と後者では年間の労働時間が数百時間単位で違います。
許可の基準は、基発0701第8号「医師、看護師等の宿日直許可基準について」が定めています。通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること、宿日直中に従事する業務は特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務に限ること、宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得ることが条件です。許可を受けた宿日直中に通常の勤務時間と同態様の業務がまれにあった場合は許可を取り消す必要はないとしつつ、その時間については労働基準法33条または36条1項の手続をとり、37条の割増賃金を支払う扱いとされています。担当患者数や夜間来院の発生率からみて通常業務が常態と判断される場合は、許可を与えることはできないとも明記されています。
同通達は、許可を診療科・職種・時間帯・業務の種類を限って与えられるとしています。病棟の宿日直のみ許可されていて外来対応は許可の範囲外というケースがあり得るため、求人票には「宿日直許可の有無」だけでなく、どの範囲に許可があるかを書くのが実態に近づきます。許可の範囲外の時間は通常の労働時間として、時間の欄に書きます。当直単価が宿日直許可の有無によってどう変わるかは、当直バイトの単価と相場で医師側の視点から整理しています。
欄9 社会保険・労働保険と受動喫煙対策
6号は健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用に関する事項です。常勤医であれば適用されることが前提ですが、非常勤や週の所定労働時間が短い契約では適用の有無が分かれるため、この欄を空欄にできません。非常勤医の社会保険の判定は医師の非常勤勤務と社会保険で扱っています。
9号は就業の場所における受動喫煙を防止するための措置です。敷地内禁煙か、屋外に喫煙場所を設けているかを書きます。
この2欄は事務的に埋まる欄ですが、令和6年度の申出等でも社会保険・労働保険に関するものが152件あります。非常勤の掛け持ちが多い医師の求人では、適用の有無が報酬の手取りに直結するため、書き漏らさない欄として扱います。
面接後に条件が動いたとき: 変更明示は求人票とは別の義務
求人票を正確に書いても、面接を経て条件が動くことはあります。その場合に働くのが職業安定法5条の3第3項の変更明示です。施行規則4条の2第1項は、当初明示した範囲内で条件を特定する場合、明示した条件を削除する場合、条件を追加する場合を挙げ、同2項でそれぞれ特定・削除・追加した内容を明示することとしています。
「年収1,500万円〜2,000万円」から「1,550万円」に確定させるのは、範囲内での特定にあたります。当直回数を月4回から月6回に増やすのは追加です。いずれも、労働契約を締結しようとする局面で相手方に明示する必要があります。口頭の合意で済ませて労働条件通知書だけを出すと、求人票との差分がどこで生じたのかを説明できなくなります。
変更明示を前提に考えると、求人票を幅で書くことの実務負担が見えてきます。幅を残せば、応募者ごとに特定の明示が必要になります。最初から条件を確定して書けるポストは確定して書くほうが、手続も交渉も短くなります。
書いた内容が事実と違ったときに起きること
求人票の記載が実際と違った場合の帰結は、三方向に分かれます。
第一に、労働者側の権利です。労働基準法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。3項では、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担することとされています。遠方から招聘した医師の場合、この規定が現実の負担として効いてきます。
第二に、職業安定法上の禁止です。5条の4第1項は、求人や募集に関する情報を提供するときに虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないと定め、2項は募集を行う者が情報を正確かつ最新の内容に保つことを義務づけています。募集が終わった求人を放置することも、この2項に触れます。
第三に、罰則です。職業安定法65条は、虚偽の広告をなし、または虚偽の条件を提示して労働者の募集を行ったとき(9号)、虚偽の条件を提示して公共職業安定所または職業紹介を行う者に求人の申込みを行ったとき(10号)に、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。求人票の数字を良く見せる書き方は、この条文の射程に入り得ます。
行政の統計を見ると、産業別で申出等が最も多いのは医療・福祉です。全体は令和5年度の3,761件から令和6年度は3,297件に減っているのに、医療・福祉は687件から725件へ増えて最多になっています。
応募が集まらない原因を求人票の文章表現に求める前に、条件そのものが母集団と噛み合っているかを見る手順は医師の求人に応募が来ないクリニックの条件を需給で診断するにまとめています。求人票を正確に書くことは、応募数を絞る行為ではなく、入職後に辞めない医師とだけ話を進めるための絞り込みです。
まとめ: 欄を一つずつ、条文に当てて埋め直す
求人票の書き方は、文章のうまさではなく、欄ごとの対応関係で決まります。事業者名は7号、業務の内容と変更の範囲は1号、就業場所と変更の範囲は3号、契約期間・試用期間・更新上限は2号系、労働時間と休日は4号、賃金の額は5号、社会保険は6号、受動喫煙対策は9号。この対応を一度紙に落とせば、次回以降の求人は差分の更新で済みます。
医師特有の論点は二つに絞られます。宿日直許可の有無と範囲を書くこと、そして賃金を基本給・固定残業代の時間数と金額・超過分の追加支給に分けて書くことです。この二つを外すと、書面としては整っていても、面接と契約締結の局面で必ず作り直しになります。
手元の求人票を開いて、上の欄から順に、その記載が労働条件通知書と一致するかを確かめてください。一致しない欄が見つかったら、直すのは通知書ではなく求人票です。
