医師紹介会社の選定を任されたものの、各社の提案書を並べても違いが手数料率しか見えない、という状態はよくあります。会社の優劣を比べる前に必要なのは、自院が何をどの条件で外部に発注するのかを言語化することです。この記事では、厚生労働省の公開データと職業安定法の条文から、発注側が自分で立てられる評価軸を組み立てます。特定の紹介会社の順位づけは扱いません。
結論: 選定作業は「発注仕様を決める」ことから始まる
医師紹介会社の選び方を比較表から始めると、ほぼ必ず手数料率の高低だけの議論になります。理由は単純で、各社が自発的に開示する情報は料率と実績件数に偏っており、それ以外は横並びに見えるためです。判断材料が料率しかない状態では、料率が最も低い1社を選び、結果として候補が集まらないという失敗が起きます。
順序を逆にします。先に自院側の発注条件を4層に分けて確定させ、その条件を満たせるかどうかで各社を評価します。4層とは、①契約の型(職業紹介か、紹介予定派遣か)、②手数料の建て方(上限制か届出制か、実額の上限)、③リスク分担(返戻金規定と違約金規約)、④運用条件(併用の可否、情報管理、報告頻度)です。この4層が固まっていれば、提案書の比較は実務的な作業になります。
先に押さえておきたい前提が1つあります。医師紹介の手数料には、法令上の料率上限が事実上存在しません。職業安定法第32条の3第1項は、手数料の徴収方法を第1号の上限制手数料と第2号の届出制手数料の2つに限定しています。届出制は事業者が手数料表を厚生労働大臣に届け出る方式で、同条第4項が定める変更命令の要件は「特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき」と「手数料の種類、額その他手数料に関する事項が明確に定められていないことにより、当該手数料が著しく不当であると認められるとき」の2つだけです。料率が高いこと自体は変更命令の理由になっていません。つまり相場を超える料率の妥当性は、行政ではなく発注者である病院が判断する構造になっています。
自院の求人が市場でどう見えているかを先に確認する
発注条件を決める前に、自院の求人が紹介会社から見てどの位置にあるかを把握しておく必要があります。ここで使えるのが厚生労働省の職業紹介事業報告書です。令和6年度の集計結果(速報、2026年3月31日公表)によると、有料職業紹介事業における医師の常用求人数は415,631人でした。前年度比15.1%増です。一方で医師の新規求職申込件数は193,113件(同9.4%増)にとどまります。
そして常用就職件数は19,324件で、前年度の23,553件から18.0%減少しました。求人数415,631人に対して就職19,324件ですから、単純計算で求人の4.6%しか成立していません。この数字は同一の求人が複数の事業者に重複計上されている影響を含むため、実際の充足率そのものではありません。それでも、紹介会社の側には案件が大量に積み上がり、そのごく一部だけが成約している構図は読み取れます。
この構図が意味するのは、紹介会社の担当者は常に案件を選別しているということです。求人票の条件が市場水準から外れている場合、契約は結べても実際には動かない案件として滞留します。会社選定の前に、自院の提示条件が同一医療圏の他院と比べてどう見えるかを確認しておく価値があります。求人条件の作り方は医師求人の出し方で扱っています。
なお、医師の臨時日雇求人は令和6年度で1,961,274人日、臨時日雇就職は674,397人日でした。常用と日雇では成立率の構造がまったく違います。常勤医の補充と当直スポットの手配を同じ会社に同じ条件で任せると、評価軸が混ざって判断できなくなります。発注は分けて考えるのが実務的です。
軸1: 契約の型を決める — 医師は「派遣」が原則禁止
最初に固めるのは契約の型です。医師の場合、選べる型が法令で絞られています。労働者派遣法施行令第2条第1号は、医師法第17条に規定する医業のうち病院等・助産所・オンライン診療受診施設・介護老人保健施設・介護医療院・居宅で行われるものを、労働者派遣の禁止業務として列挙しています。したがって、病院が常勤医を派遣契約で受け入れることは原則としてできません。
同条には例外が明記されています。第一に紹介予定派遣をする場合、第二に労働者派遣法第40条の2第1項第4号または第5号に該当する場合、すなわち産前産後休業・育児休業・介護休業を取得する労働者の代替業務です。第三に就業の場所がへき地にある場合、第四に地域における医療の確保のために必要と認められるものとして厚生労働省令で定める場所(へき地にあるものを除く)である場合です。
紹介予定派遣を選ぶ場合は、費用の発生点が2つに分かれることも押さえておきます。派遣期間中は派遣料金が発生し、派遣期間終了後に直接雇用へ切り替える時点で職業紹介の手数料が発生する設計が一般的です。見極め期間を確保できる一方、総額は単純な職業紹介より膨らみます。発注条件としては、派遣料金と紹介手数料の合計額を年収比で試算し、直接雇用に至らなかった場合の負担も含めて比較してください。
この整理が発注条件に直結します。育休代替の欠員を埋めたい場合は派遣も選択肢に入りますが、通常の常勤医補充は職業紹介か紹介予定派遣のどちらかです。提案を受ける段階で「派遣で医師を出せます」と説明された場合は、それがどの例外に該当する契約なのかを書面で確認してください。例外に該当しない派遣は違法です。発注者側が知らずに受け入れると、自院がその契約の当事者になります。
軸2: 手数料の建て方は2種類しかない
手数料の水準そのものは別記事で扱っていますので、ここでは建て方の見分けに絞ります。上限制手数料を選ぶ事業者の場合、徴収できる額は職業安定法施行規則の別表(第20条関係)で決まっています。求人の申込みを受理した場合の受付手数料は1件710円(免税事業者は660円)です。紹介手数料は、支払われた賃金額の11%(免税事業者は10.3%)に相当する額が原則です。
同一の者に引き続き6か月を超えて雇用された場合は、6か月間の賃金の11%相当額が上限になります。期間の定めのない雇用契約で6か月を超えて雇用された場合は、6か月間の賃金の11%相当額か、臨時に支払われる賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いた額の14.8%(免税事業者は13.9%)相当額のいずれか大きい額が上限です。
届出制手数料は、前述のとおり料率の法定上限がありません。医師紹介の実務はほぼ全面的にこちらです。令和6年度の集計結果では、医師の職種で徴収された届出制手数料が283億630万円(28,306,300千円)に対し、上限制手数料は11万9千円(119千円)でした。金額比で見れば、上限制はほぼ使われていません。
参考として実額の水準も押さえておきます。令和6年度の手数料収入は全職種で約9,835億円(前年度比17.6%増)、うち常用就職に係る手数料が約9,136億円、常用就職1件あたりの手数料は約103万円(同10.9%増)でした。医師の届出制手数料283億630万円を常用就職19,324件で割ると約146万円になりますが、この分子には臨時日雇分の手数料も含まれるため、1件あたりの上限寄りの概算と見るべき数字です。料率の相場については医師紹介手数料の相場、採用コスト全体の内訳は医師採用コストの構造で整理しています。
発注条件として書くべきことは、料率ではなく計算基礎です。年収のどの範囲を基礎にするのか、賞与や当直手当、住宅手当、学会参加費の補助を含むのか、複数年契約の場合はどの年の年収を使うのかを、契約前に確定させてください。同じ25%でも、計算基礎の定義で実額は数十万円動きます。
支払時期と分割の条件も同時に決めます。入職日に全額を支払う契約と、入職後3か月・6か月で分割する契約では、早期離職が起きた場合の回収リスクがまったく違います。返戻金による事後回収より、支払を分割して未払分を発生させない設計のほうが実務上は確実です。消費税の扱いも書面で確認します。前述の上限制の料率が免税事業者で低く設定されているのは、消費税相当分が織り込まれているためです。届出制の場合、提示された料率が税抜きか税込みかで実額は約1割動きます。
軸3: 返戻金規定は「免除事由」から読む
早期離職のリスクをどう分担するかが3層目です。返戻金制度は法令上の定義があります。職業安定法施行規則第24条の5第1項第2号は、返戻金制度を「その紹介により就職した者が早期に離職したことその他これに準ずる事由があつた場合に、当該者を紹介した雇用主から徴収すべき手数料の全部又は一部を返戻する制度その他これに準ずる制度」と定義し、これに関する事項を求人者への明示事項としています。
明示のタイミングも同条第2項が定めており、求人の申込みまたは求職の申込みを受理した後、速やかに書面や電子メール等の方法で行わなければなりません。さらに同条第4項は、手数料表と返戻金制度に関する事項を記載した書面、業務の運営に関する規程について、事業所内の見やすい場所への掲示やインターネットの利用などで情報提供することを義務づけています。つまり返戻金規定は、交渉して開示させるものではなく、最初から開示されているべき情報です。
規定を読むときに見る箇所は、返戻率そのものよりも適用範囲です。まず対象期間です。入職後1か月、3か月、6か月で返戻率が段階的に下がる設計が一般的ですが、起算日が入職日か内定日かで実質的な保護期間が変わります。次に免除事由です。病院側の事情による離職、経営統合や診療科再編に伴う配置変更、医師の傷病による離職などが返戻対象から外されていないかを確認します。
もう1点、返戻金制度の有無は次に述べる離職率の開示方法とも連動します。施行規則第24条の8第6項は、返戻金制度を設けている事業者が、無期雇用就職者のうち返戻金制度に基づき手数料を免除する事由に該当した者の数を集計する方法で離職者数を集計する場合、雇用主への調査を行わなくてよいと定めています。返戻金の免除事由が狭い事業者は、開示される離職者数も小さく出る可能性があります。数字の出し方まで含めて読む必要があります。
軸4: 2025年4月に義務化された違約金規約の明示
発注側にとって重要な制度変更が、令和7年4月1日に施行されています。職業安定法に基づく省令と指針の一部改正により、求人者に対する違約金規約を設けている事業者は、その規約を明示することが義務づけられました。厚生労働省のリーフレットでは、違約金の額、違約金が発生する条件、契約の解除方法を含む契約の内容について、分かりやすく明瞭かつ正確に記載した書面または電子メール等の適切な方法で、あらかじめ求人者に誤解が生じないよう明示することが求められています。
明示の対象となる場面として、本人が採用辞退後に別ルートで採用した際に違約金を適用する場合や、利用契約の更新に関するルールが例示されています。ここは実務で揉めやすい論点です。学会で知り合った医師が後日自院に直接応募してきた場合、紹介会社の候補者リストに登録されていたために手数料や違約金が発生する、という構図がありえます。
明示の方法についても具体的な運用が示されています。利用規約を対面で見せるだけ、あるいはホームページの該当箇所を教示する、ホームページ上でスクロールさせて同意ボタンを押させるといった方法のみでは、求人者が同一の文面を再読できない可能性があるため適切な明示とはいえない、とされています。対面の場合は書面を手交し、非対面の場合は郵送または電子メールで送付するのが基本です。契約締結後に自院の手元に規約が残っているかどうかが、そのまま法令上の判断基準になっているということです。
「違約金」という名称は例示であり、事業の利用に関連して求人者が負担する金銭はすべて明示対象です。金額が事前に定まっていない場合は算定方法を示すことが求められています。発注条件のひとつとして、想定していない請求が起こりうる場面をすべて書面で列挙させてください。
軸5: 成功報酬型が生む利益相反をどこで検知するか
医師紹介の手数料は、就職が成立した時点で発生する成功報酬型が基本です。この構造には、発注側が認識しておくべき利益相反が内在します。事業者の収益は成約件数と年収額に比例し、定着期間には比例しません。返戻金制度が設けられていても、返戻対象期間を過ぎた離職は事業者の収益に影響しません。むしろ離職した医師が再度転職すれば、次の成約機会になります。
この構造を非難しても採用は進みませんので、検知できる指標を持つ方が実用的です。ここで使えるのが施行規則第24条の8第3項の情報提供義務です。有料職業紹介事業者は、インターネットを利用して次の情報を提供しなければなりません。第1号は紹介により就職した者の数および無期雇用労働契約を締結した者の数、第2号は無期雇用就職者のうち離職した者の数(解雇により離職した者および就職した日から6か月経過後に離職した者を除く)、第3号は第2号に該当するかどうか明らかでない者の数、第4号は手数料に関する事項、第5号は返戻金制度に関する事項です。
第3号の存在が実務上の鍵になります。離職したかどうか不明な人数が多い事業者は、雇用主への追跡を行っていないと読めます。第2号だけを見て離職率が低いと判断するのは早計で、第2号と第3号を合わせて母数と比較する必要があります。
もう1つの利益相反は年収提示に現れます。手数料が年収に比例する以上、提示年収が上がれば事業者の収益も上がります。候補者から年収の上積みを求められた際、それを病院に取り次ぐ動機は事業者側にも存在します。ここは不正ではなく構造の問題です。対処は、年収レンジの上限を先に自院で確定し、上限を超える提案は診療実績や管理職務の追加といった根拠とセットでなければ検討しない、という運用を決めておくことです。
第4号の平均手数料率についても、算定方法が条文で定められています。同項第4号は、届出に係る手数料の合算額を、あっせんにより就職した求職者が従事すべき業務につき1年間に支払われることが見込まれる賃金額で除したもの、と定めています。分母は実際の年収ではなく見込み年収です。自院が提示した年収レンジの上限で計算されていれば、公開される料率は実際の負担より低く見えます。
軸6: 契約前に公開情報だけで候補を絞る
ここまでの評価軸は、契約前に公開情報で確認できます。厚生労働省は、医療・介護・保育分野の求人事業主向けに、人材サービス総合サイトの使い方を示したリーフレットを公開しています。このサイトでは国内すべての職業紹介事業者について、あっせんした就職者数、就職者数のうち採用後6か月以内の離職者数、紹介手数料の実績、返戻金制度の有無と内容などを確認できます。
検索手順もリーフレットに具体的に示されています。トップページで職業紹介事業を選び、都道府県を選択したうえで詳細検索条件を開きます。「法第32条の16第3項に関する事項(情報提供)その②」の「取扱業務の職種」から職種を選びますが、医師の場合は「g医師」を選択します。看護師は「023看護師、准看護師」です。手数料実績率・額を条件に加えると、0.1〜999.9の範囲で料率を指定して検索できます。検索結果では手数料実績率の昇降順に並べ替えができ、詳細情報から過去5年分の就職者数と離職者数を確認できます。
候補の母数についても認識しておきます。令和6年度に事業報告書を提出した有料職業紹介事業所は30,561事業所ですが、そのうち就職実績のあった事業所は13,946事業所でした。許可を持っていても直近年度に成約のない事業所が半数を超えています。医師の常用就職に絞れば、実績を持つ事業所はさらに限られます。前述の平均手数料率の掲載義務が、常用就職の実績が多い上位5職種に限られ、常用就職の年間実績が10件以下の場合は掲載不要とされている点にも注意が必要です。医師の料率が掲載されていない事業者は、医師の常用就職実績が年間10件以下である可能性があります。
許可の有効性も確認対象です。職業安定法第32条の6は、有料職業紹介事業の許可の有効期間を許可の日から3年、更新を受けた場合は満了日の翌日から5年と定めています。許可番号と許可年月日は人材サービス総合サイトの検索結果に表示されます。同法第32条の4第2項により、許可証は事業所ごとに備え付け、関係者から請求があったときは提示しなければならないとされています。提示を求めることは正当な確認行為です。
厚生労働省は、医療・介護・保育の関係団体の協力を得て定めた基準を満たす事業者を「適正な有料職業紹介事業者」として認定し、公表しています。認定事業者は特設サイトで確認できます。また、契約や利用条件でトラブルが生じた場合の相談先として、都道府県労働局に「医療・介護・保育」求人者向けの特別相談窓口が設置されています。無料の選択肢として、主要なハローワークの人材確保対策コーナーで求人充足に向けたコンサルティングやマッチングイベントが実施されていることも、発注設計の前提に入れておく価値があります。
軸7: 複数社併用は「何を分けるか」で決める
複数社に同時に依頼すべきかは、よく相談を受ける論点です。データから言えるのは、併用が業界の標準的な前提になっているということです。令和6年度の集計結果には、求人者および求職者が複数の職業紹介事業者を利用する場合があるため、新規求職申込件数および求人数には重複計上があると明記されています。医師の求人415,631人という数字自体が、重複を含む延べ件数です。
併用の是非を一般論で決めるのは難しいため、分け方で設計します。実務的に機能しやすい分け方は3つです。診療科や勤務形態で分ける、地域で分ける、常勤とスポットで分ける。いずれも候補者が重複しにくい切り口です。逆に、同一条件の常勤求人を同じ医療圏で3社に出すと、同一候補者が別々の会社経由で提示される事態が起こります。このとき、どちらの会社の紹介による成約とみなすかは契約条項次第です。だからこそ軸4の違約金規約と、直接応募との線引きを事前に確認する必要があります。
併用時の運用条件として、候補者情報の取扱いも決めておきます。施行規則第24条の5第1項第1号は、求人者の情報および求職者の個人情報の取扱いに関する事項を明示事項としています。自院が提供した情報がどの範囲で使われるのか、面接記録や不採用理由がどう扱われるのかは、明示を受ける対象です。
契約後に測る3つの数字
選定は契約で終わりません。次回の発注条件を更新するために、会社ごとに3つの数字を残します。1つ目は打診から面接設定に至った比率です。案件が滞留しているかどうかが見えます。2つ目は入職後6か月時点の在籍率です。人材サービス総合サイトの公開値と自院の実績を比べれば、自院の受け入れ体制側の課題か、マッチング側の課題かを切り分けられます。3つ目は実支払額を年収で割った実効料率です。契約上の料率ではなく、返戻金の受領額や追加費用を反映した後の数字を使います。
この3つを1年分そろえると、翌年の発注条件は感覚ではなくデータで書けます。医師の常用就職件数が前年度から18.0%減少している市場では、料率の削り合いより、動く案件として扱われる発注条件を作ることのほうが成果に近いはずです。
まとめ: 評価軸は自院側にしか作れない
医師紹介会社の選び方に、汎用のランキングは成立しません。届出制手数料に法定の料率上限がなく、変更命令の要件が差別的取扱いと不明確性の2つに限られている以上、料率の妥当性を判断するのは発注者です。契約の型、手数料の計算基礎、返戻金と違約金の適用範囲、併用の分け方という4層を自院の言葉で定義し、人材サービス総合サイトの公開値と書面明示で照合する。この手順なら、担当者が交代しても同じ判断を再現できます。
最初の一歩は、現在契約している全社分の手数料表と返戻金規定を並べ、計算基礎の定義が揃っているかを確認することです。揃っていなければ、それが次の交渉の議題になります。
