「当直あり」「症例数豊富」とだけ書いた求人票に応募が来ない、あるいは採用しても早期に辞められてしまう。こうした悩みの原因は、求人票そのものの作り方にあることが少なくありません。求人票は病院の裁量で自由に書ける文書ではなく、職業安定法が定める明示事項という土台の上に、医師特有の情報をどう積み上げるかで完成度が決まります。この記事では、法律が求める必須記載事項、2024年4月改正で追加された項目、医師求人ならではの記載のポイント、そして募集情報等提供事業としての掲載ルールまで、求人票を作成・掲載する実務に絞って整理します。
医師求人の出し方は、法定事項・医師特有の記載・掲載先ルールの3層で決まる
結論から述べます。医師の求人票は、①職業安定法が全業種に義務づける労働条件の明示事項、②診療科・当直体制・症例数の目安・指導医の有無といった医師特有の記載、③求人を掲載する媒体側のルール、という3つの層が重なって完成します。どれか一つが欠けても、求人票としては成立しません。①を欠けば法律違反になり、②を欠けば医師にとって判断材料の乏しい求人になり、③を理解していないと掲載後の運用でつまずきます。
①の土台となるのが職業安定法第5条の3です。同条は「公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。これは自院サイトで直接募集する場合も、職業紹介事業者を介する場合も、ハローワークを使う場合も等しく適用される、求人者としての基本義務です。
以下では、この3層を順番に、条文と記載例に沿って解説していきます。
求人票に書かなければならないこと — 施行規則が定める必須項目
職業安定法第5条の3第4項は、明示事項の具体的な中身を厚生労働省令に委ねており、これを受けた職業安定法施行規則第4条の2第3項が、書面等で明示すべき事項を号ごとに列挙しています。派遣労働者として雇用する場合に限られる第8号を除き、常勤・非常勤を問わずすべての求人に共通する項目は次のとおりです。
労働者が従事すべき業務の内容(第1号)、労働契約の期間(第2号)、試みの使用期間、すなわち試用期間の有無と長さ(第2号の2)、就業の場所(第3号)、始業及び終業の時刻・所定労働時間を超える労働の有無・休憩時間及び休日(第4号)、賃金の額(臨時に支払われる賃金や賞与等を除く。第5号)、健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の適用の有無(第6号)、募集者の氏名又は名称(第7号)、就業場所における受動喫煙を防止するための措置(第9号)です。これらは労働基準法第15条・同法施行規則第5条が定める労働契約締結時の明示事項とほぼ対応しており、求人段階と契約段階で二重に確認できる構造になっています。
明示の方法は原則として書面の交付によりますが、求職者側が希望すればファクシミリや電子メールでの明示も認められています。重要なのは、これらの項目が「書いてあれば形式は自由」ではなく、後述する的確表示義務とセットで運用されるという点です。曖昧な書き方をすれば、記載自体はあっても実質的に明示義務を果たしていないと評価されるリスクが残ります。
明示のタイミングにも注意が必要です。求人票・募集広告の段階での明示は職業安定法第5条の3に基づくものであり、実際に労働契約を締結する段階では労働基準法第15条に基づく明示が別途必要になります。求人票の記載内容と、内定後に交付する労働条件通知書・雇用契約書の記載内容が食い違っていると、求職者との間でトラブルの原因になるだけでなく、そもそも求人段階の明示が不正確だったという評価にもつながりかねません。求人票の項目は、内定時に渡す書面のひな形としてもそのまま使える形で作成しておくと、この食い違いを防ぎやすくなります。第7号の「募集者の氏名又は名称」も見落とされがちな項目です。紹介会社経由の非公開求人などで病院名を伏せて募集する運用は実務上珍しくありませんが、この場合も採用の最終段階までには病院名を含めた明示が必要になる点は変わりません。
2024年4月改正で何が変わったか — 「変更の範囲」を書く
職業安定法施行規則は2024年4月1日に改正され、従来の9項目に加えて次の3つが明示事項に追加されました。①従事すべき業務の変更の範囲、②就業場所の変更の範囲、③有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)です。厚生労働省の説明資料によれば、「変更の範囲」とは雇い入れ直後の内容にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲を指します。この改正は、労働基準法に基づく労働契約締結時の明示義務にも同時に反映されており、求人段階と契約段階の両方で同じ水準の情報開示が求められる形になっています。
一般的な求人での記載例を見ると、業務内容であれば「(雇入れ直後)法人営業(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」、就業場所であれば「(雇入れ直後)大阪支社(変更の範囲)本社および全国の支社、営業所」のように、直後の配置と今後あり得る変更幅をセットで書きます。厚生労働省は「諸般の事情を総合的に考慮したうえで判断する」といった抽象的な記載ではなく、「勤務成績、態度により判断する」「会社の経営状況により判断する」など、具体的な記載を望ましいとしています。
医師求人にこの考え方を当てはめると、業務内容の変更の範囲には「診療科の異動はなし」「関連施設への応援診療が月◯回程度発生し得る」といった記載が該当し、就業場所の変更の範囲には「本院のみ」「グループ内の関連病院への異動があり得る」といった記載が該当します。有期契約の医師であれば、契約更新の基準と、更新に上限があるかどうかも明示事項に含まれます。これらは医局人事のように将来の配置転換があらかじめ想定される働き方において、特に見落とされやすい項目です。
とりわけ、医局からの派遣・出向を前提とした求人や、地域医療機関への応援診療・応援当直が組み込まれた勤務形態では、この「変更の範囲」を書かないまま採用してしまうと、入職後に「聞いていなかった」という不満につながりやすくなります。逆に、変更があり得ることをあらかじめ求人票に明示しておけば、応募する医師の側もその条件を織り込んだ上で意思決定でき、双方にとってのミスマッチ予防になります。有期労働契約についても同様で、任期付きの診療科部長職や、専攻医としての一定期間の勤務を前提とする採用では、更新の有無・基準・上限を求人票の段階から明確にしておくことが、契約更新のたびに条件をめぐる交渉を繰り返す事態を避けることにつながります。
医師求人ならではの記載事項 — 診療科・当直体制・症例数の目安・指導医の有無
施行規則が定める9項目に加えて11号までの明示事項は職種を問わない一般的な項目であるため、診療科・当直体制・症例数の目安・指導医の有無といった医師特有の情報を個別に書くよう法律が名指しで求めているわけではありません。しかし、これらは「業務の内容」という明示必須項目そのものの中身であり、書き方次第で法が求める的確表示の水準を満たすかどうかが変わってきます。
職業安定法第5条の4は、求人等に関する情報を的確に表示する義務を求人者に課しており、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁止しています。「内科」とだけ書く求人と、「消化器内科、内視鏡検査を含む一般内科診療」と書く求人とでは、どちらも虚偽ではありませんが、後者のほうが応募者にとって業務内容を正確に把握できる記載になります。当直体制も同様で、「当直あり」という記載は誤りではなくても、月あたりの回数や翌日勤務の扱いまで含めて記載したほうが、応募段階でのミスマッチを防ぎやすくなります。症例数についても、正確な実数の開示が難しい場合であっても、診療科の患者構成や年間の手術件数の目安など、業務内容を具体的にイメージできる情報を添えることが、的確表示義務の趣旨に沿った運用といえます。指導医の有無は、専攻医・後期研修医向けの求人では特に重要で、専門医研修における指導体制の有無という業務内容の一部として記載する意味があります。
指導医の有無をめぐっては、専門医研修プログラムを運営する各基本領域学会・日本専門医機構が、プログラムの認定要件として指導医の配置を求める仕組みを設けています。専攻医が応募先を選ぶ際に指導体制の有無を重視するのはこの制度設計を踏まえた自然な判断であり、指導医が不在または非常勤にとどまる場合は、その旨を明示しないまま「指導体制あり」とだけ書くと、的確表示義務との関係で問題になり得ます。反対に、指導医が常勤していない場合でも、非常勤指導医による定期的な症例検討や、連携施設での研修機会があるといった実態を具体的に書けば、虚偽にならない範囲で業務内容を正確に伝えることができます。
なお、これらの記載は診療内容や治療方針そのものを患者向けに広告するものではなく、あくまで採用担当者が医師に対して労働条件・業務内容を説明する目的の記載です。医療法上の広告規制(患者向けの医療広告ガイドライン)とは適用場面が異なる点にも注意しておく必要があります。
募集情報等提供事業としての掲載ルール — どこに載せても求人者の義務は変わらない
求人票を自院サイトに載せる場合と、求人サイトや紹介会社を通じて掲載する場合とでは、関わる事業者の種類が変わります。職業安定法上、求人情報や求職者情報の提供を仲介する事業者は「募集情報等提供事業者」と位置づけられ、2022年10月1日施行の改正職業安定法によって、この事業者に対する規制が大きく整備されました。
改正の柱の一つが、求人等に関する情報の的確な表示の義務化です。対象となるのは、①求人情報、②求職者情報、③求人企業に関する情報、④自社に関する情報、⑤事業の実績に関する情報の5種類で、求人企業(病院)にも、職業紹介事業者・募集情報等提供事業者にも、それぞれ虚偽表示・誤解を招く表示の禁止と、情報を正確・最新に保つ措置が課されています。求人企業側の具体的な義務としては、募集を終了・内容変更したら速やかに求人情報の提供を終了・変更すること、求人メディア等の募集情報等提供事業者を利用している場合はその事業者にも終了・変更を反映するよう依頼すること、いつの時点の求人情報かを明らかにすること、事業者から訂正・変更を依頼された場合には速やかに対応することが挙げられています。同じ改正で、特定募集情報等提供事業者(求職者に関する情報を収集する事業者)の届出制度と、個人情報の取扱いに関するルールも整備されました。
さらに2025年4月1日からは、募集情報等提供事業者に対する規制が追加で強化されています。求職者になろうとする者への金銭やギフト券等の提供が原則禁止となり、利用料金や違約金に関する定めを募集主に誤解が生じないようあらかじめ明示することも義務づけられました。病院側から見れば、掲載先の求人サイトや紹介会社がこうした料金体系の明示義務を果たしているかどうかも、契約前に確認すべきポイントの一つになります。紹介手数料の水準そのものについては別記事「医師紹介手数料の相場は年収の何%か」で、料率を作っている法律構造を詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
苦情処理体制についても、職業紹介事業者には職業安定法第32条の13に基づき、取扱職種の範囲・手数料に関する事項・苦情の処理に関する事項などを、事業所内の一般の閲覧に便利な場所に掲示する義務があります。2024年4月の改正でこの掲示義務は緩和され、事業所内掲示に代えて自社ホームページでの情報提供も認められるようになりました。ただし、求人企業を紹介するサービスを利用する側の閲覧に便利な場所への掲載が望ましいとされている点、および人材サービス総合サイト上での手数料表・返戻金制度の情報提供は掲示義務緩和後も引き続き必要とされている点は押さえておく必要があります。
ここで、自院サイトでの直接募集と、届出制の対象になる「募集情報等提供事業者」を混同しないよう整理しておきます。届出が必要になるのは、求職者に関する情報(氏名等の個人情報だけでなく、メールアドレス・経歴・閲覧履歴等を含む)を収集して第三者に提供する事業者、たとえば会員登録を求めて求人情報を配信する求人サイトや、閲覧履歴に基づいて情報提供を行うサービスです。病院が自院の採用ページで自院の求人だけを掲載し、応募者の情報を第三者提供することなく採用選考に使う限り、この届出制の対象にはなりません。自院サイトの運営者としての立場は、あくまで「求人者」として的確表示義務(前述の①〜⑤のうち①・③・④・⑤に相当する自院の求人情報・自院に関する情報・実績情報)を負う立場であり、第三者として他社の求人情報を収集・提供する募集情報等提供事業者とは法律上の位置づけが異なります。この区別を理解しておくと、採用ページのリニューアルや会員登録機能の追加を検討する際に、どちらの義務が発生するのかを判断しやすくなります。
応募が集まりやすい求人票にするために — 具体性と透明性の位置づけ
ここまで見てきた法定の明示事項、変更の範囲、医師特有の記載事項、掲載先の的確表示義務は、それぞれ別々の話に見えて、実は一つの原則に収れんします。それは、求人票の記載は抽象的であるほど法が求める的確表示の水準から遠ざかり、具体的であるほど応募者が労働条件を正確に理解できる、という原則です。厚生労働省が「変更の範囲」の記載例で「具体的に記載いただくことが望ましい」と繰り返し強調しているのも、この原則の表れです。
したがって、応募が集まりやすい求人票を作る取り組みは、法令遵守の取り組みと切り離せません。業務内容・就業場所・変更の範囲・当直体制・症例数の目安・指導医の有無を具体的に書くことは、単なる採用マーケティング上の工夫ではなく、職業安定法第5条の3・第5条の4が求める明示・的確表示の水準を実務レベルで満たす作業そのものです。逆に言えば、法令が求める項目を一つずつ具体的に埋めていく作業こそが、応募者にとって読みやすい求人票を作る最短の道筋になります。
もう一点、公開後の運用も的確表示義務の範囲に含まれることを忘れてはなりません。募集を終了したのに求人サイトに情報が残っている、条件を変更したのに紹介会社に伝わっていない、といった状態は、単なる更新漏れではなく、正確・最新の内容を保つ義務に反する状態です。求人票は作成して終わりではなく、募集状況の変化に応じて掲載先ごとに更新を反映させる運用まで含めて、初めて法が求める水準を満たすことになります。
複数チャネルへの出し分け — 自院サイト・医局・紹介会社・ハローワーク
求人票の中身が整っても、どの媒体に載せるかによって、関わる法的義務と実務上の勘所は変わります。自院サイトでの掲載は、募集情報等提供事業者を介さない分、的確表示義務は病院自身が単独で負います。医局人事を通じた紹介は、職業安定法上の「募集」ではなく人事異動としての性質が強く、当事者間の情報共有が中心になります。有料職業紹介事業者を利用する場合は、事業者側にも取扱職種の範囲や手数料に関する事項の明示義務(第32条の13)が生じ、病院側は契約時にこれらの明示内容を確認する立場になります。ハローワークは無料の職業紹介であり、費用負担なく求人を出せる一方、掲載形式は公共職業安定所の様式に従うことになります。
独立行政法人福祉医療機構が2025年10月に公表した調査によれば、常勤医師の募集で使用した媒体・経路は、人材紹介会社が78.4%と最も多く、次いで医局人事が44.9%、病院ホームページが43.9%、経営陣の人脈が35.5%、院内医師からの紹介が25.1%という結果でした。同調査では、実際に採用に最も効果的だったと回答された割合も併せて集計されており、人材紹介会社は使用率の高さに比例して効果も最も高い(43.9%)一方、医局人事は使用率(44.9%)に対して効果は23.7%にとどまるなど、チャネルごとに使用率と効果率の乖離に差がある実態が見て取れます。
このデータが示すのは、特定のチャネルが一律に優れているということではなく、使用率と効果率が必ずしも一致しないという事実です。費用をかけずに使える医局人事や病院ホームページは、使用率の高さの割に効果率が低く出ており、単独では採用が完結しにくいチャネルであることがうかがえます。逆に人材紹介会社は費用が発生する分、効果率も高く出ています。採用コストの構造や紹介手数料の負担については別記事「医師採用のコスト構造、直接費用と間接費用の内訳」で扱っていますので、本記事の求人票の作り方とあわせてご覧いただくと、掲載先の選定と費用対効果の両面から採用活動を整理しやすくなります。実務上は、費用のかからないチャネルに求人票を広く出しつつ、有料職業紹介事業者は明示義務を果たしている事業者を選んで併用するという組み合わせが、多くの病院で採られている現実的な出し分けです。
まとめ: 求人票は「法定事項を具体的に埋める作業」として作る
医師求人の出し方は、職業安定法第5条の3が定める法定の明示事項を土台に、2024年4月改正で追加された「変更の範囲」を明示し、その上に診療科・当直体制・症例数の目安・指導医の有無といった医師特有の情報を具体的に積み上げ、掲載先が募集情報等提供事業者であれば的確表示義務を踏まえて運用する、という一連の作業として理解すると全体像がつかみやすくなります。特定の求人媒体や紹介会社を推奨することよりも、まず自院の求人票がこの3層を満たしているかを点検することが、応募の質と量の両方を改善する出発点になります。
法律が定める最低限の記載事項は、裏を返せば「これだけは書かないと求人票として成立しない」という最低ラインでもあります。そのラインを満たした上で、医師にとって判断材料になる具体的な情報をどこまで積み増せるかが、他院との違いを生む部分です。求人票の作成を採用担当者だけの作業にせず、診療科の責任者や指導医と連携して業務内容・当直体制・症例数の目安を具体化していくことが、法令遵守と採用力の両方を同時に満たす実務的な進め方になります。
求人票の見直しに着手する際は、まず現行の求人票を施行規則第4条の2第3項の項目に照らして一つずつ点検し、次に2024年4月改正で追加された「変更の範囲」が抜けていないかを確認し、最後に診療科・当直体制・症例数の目安・指導医の有無といった医師特有の情報がどこまで具体的に書けているかを見直す、という順序で進めると、法定事項の抜け漏れを防ぎながら記載の充実度も同時に高めることができます。
