医師の採用にあたって、人材紹介会社からの請求額に驚いた経営者・採用担当者は少なくありません。しかし紹介手数料は医師採用コストの一部でしかなく、採用担当者の稼働時間や欠員期間中の機会損失といった間接費用は、通常の会計上「採用コスト」として一本化されず見えにくくなっています。この記事では、医師採用にかかるコストを直接費用と間接費用に分解し、採用チャネルごとの違いと早期離職時の返戻金制度まで、公的統計と業界団体の一次資料にもとづいて整理します。
医師の採用コストは、紹介手数料だけで測れない
医師採用のコストは、大きく直接費用と間接費用の2つに分かれます。直接費用は人材紹介会社への紹介手数料や求人サイトの掲載料など、請求書として明確に発生するものです。間接費用は、採用担当者や医局対応者の稼働時間、欠員期間中の応援医師・非常勤の手配費用、患者受け入れの制約による機会損失などを指します。これらは院内の複数部署にまたがって発生し、会計上「採用コスト」の科目にはまとまりません。
直接費用のうち最も大きいのが紹介手数料です。厚生労働省が人材サービス総合サイトの掲載情報をもとに集計した実績では、医師を取り扱う職業紹介事業者の令和6年度における平均手数料率は22.0%でした。年収1,500万円の医師であれば、1件あたり330万円前後が目安になります。この水準自体は、後述するとおり他の専門職と比べて特段高いわけではありません。問題は、医療機関が診療報酬という公定価格の中で運営しているため、採用コストの増加分を価格に転嫁できない点にあります。
間接費用は数値化されにくいため見落とされがちですが、欠員期間が長引くほど確実に積み上がります。この記事では、直接費用と間接費用のそれぞれについて、一次資料にもとづく水準を確認したうえで、採用チャネル別の違いと早期離職時の対応まで順に見ていきます。
直接費用――紹介手数料はどのように決まるか
有料職業紹介事業の手数料は、職業安定法第32条の3によって枠組みが定められています。同条は、有料職業紹介事業者が受け取れる手数料を、厚生労働省令で種類・額を定めた「上限制手数料」か、あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表にもとづく「届出制手数料」のいずれかに限定しています。医師紹介で実務上広く使われているのは届出制手数料で、手数料表の水準そのものは事業者ごとの届出内容によって異なります。手数料率に法律上の一律の上限が明記されているわけではなく、各事業者が届け出た手数料表の範囲内で徴収する仕組みです。
この仕組みの透明性を高める目的で、令和7年4月から新しい義務が加わりました。職種別の平均手数料率実績を、人材サービス総合サイトで公開することです。対象は常用就職の実績が多い上位5職種で、事業所ごとの前年度実績を確認できます。この情報公開制度によって集計された、主な職種別の平均手数料率実績は以下のとおりです。
医師の平均手数料率実績22.0%は、看護(21.6%)や介護(20.2%)とほぼ同水準で、法人・団体管理職員(33.9%)や保育(24.3%)よりもむしろ低い部類に入ります。日本医師会・四病院団体協議会も、この点について「他分野と比較して、医療分野の紹介手数料率は特段高いわけではない」と整理しています。医師採用のコストが問題になるのは手数料率そのものの高さではなく、公的財源で運営される医療機関にとって、この費用を価格転嫁できない構造的な事情によるところが大きいといえます。
なお、令和4年度実績にもとづく別の集計では、医師を取り扱う事業所(n=91)の手数料率実績平均値は21.5%、6か月以内離職率の平均値は5.3%という数値も示されています。集計対象や年度が異なれば数値も変わるため、事業者を比較する際は同一時点・同一集計方法の数値で確認することが重要です。
厚生労働省が案内する検索手順では、人材サービス総合サイトの「職業紹介事業」から都道府県と取扱職種を選びます。医師は「g医師」の区分です。さらに手数料実績率のレンジを指定すると、事業所ごとの許可番号・所在地・就職者数・6か月以内離職者数・手数料実績率が一覧で表示されます。詳細情報を開けば、直近5年分の就職者数・離職者数の推移や、職種ごとの手数料実績も確認できます。契約前にこの情報を確認する運用を院内で定めておくと、事業者ごとの水準を横並びで比較しやすくなります。
医師採用の紹介手数料、実額で見るとどの水準か
手数料率だけでなく、実際に医療機関が支払っている金額を複数の調査で確認します。調査によって対象範囲や年度が異なるため、単純に一つの数字に集約せず、それぞれの前提を押さえたうえで比較することが大切です。
東京都病院協会が2024年3月に公表した報告書(2022年度実施)では、医師の平均手数料率は22.7%、平均手数料額は335.9万円でした。紹介手数料が医業収益に占める割合は平均1.16%とされています(日本医師会・四病院団体協議会の報告書に引用された数値)。この調査は「実際に紹介会社を利用して医師を採用した病院」を対象としています。
独立行政法人福祉医療機構が2025年10月に公表した調査(2024年度、回答412法人)でも、近い水準が確認できます。常勤・非常勤医師・医師以外の職種を含めて人材紹介会社を利用し正規職員を採用した病院における紹介手数料の総額は平均1,469万円、医業収益に占める割合は平均0.60%でした。分布を黒字施設と赤字施設で比べると、紹介手数料が医業収益の2.0%以上を占める病院の割合は、黒字施設で5.4%、赤字施設で8.1%です。負担割合の高い病院ほど、赤字に多い傾向が見られます。
一方、中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査(令和7年実施、医療機関等調査)では、一般病院全体(施設数732、令和6年度実績)における紹介手数料は1施設あたり平均178.0万円でした。前年度からの伸び率は34.4%です。この調査は紹介会社を利用していない病院も含めた全数の単純平均であるため、福祉医療機構の調査より低い水準になっています。同じ調査では、一般病院の給与費が医業収益に占める割合は58.6%(令和6年度)でした。人件費全体の6割近くを給与費が占める構造のなかに、紹介手数料は組み込まれています。
医療経済実態調査の勘定科目上、紹介手数料は「委託費」の内訳として、派遣労働者の受け入れ費用を含む「人材委託費」からさらに区分して集計されています。つまり紹介手数料と派遣費用は、同じ「人手を外部から調達する費用」でありながら、会計上は別の性質を持つものとして扱われているということです。採用コストを議論する際に、この2つを合算して見るか分けて見るかによって、負担の全体像は変わってきます。
日本医師会が実施した「令和7年病院の緊急経営調査」では、人材紹介手数料を支払っている病院の100床当たりの手数料額が示されています。令和5年度の654.8万円から令和6年度は706.6万円へ、7.9%増加しました。医療法人に限ると、令和6年度の100床当たり平均は843.5万円です。病床規模の異なる病院間で負担感を比較する際には、この「100床当たり」の指標が参考になります。
厚生労働省の職業紹介事業報告書の集計では、医師分の紹介手数料徴収総額は2022年度の304.3億円をピークに2023年度は247.6億円へ減少しています。一方で看護職分は2023年度に579.9億円まで増加しており、医療分野全体で見ると人材紹介市場への依存度はむしろ強まっています。福祉医療機構の調査でも、常勤医師を募集する際に使用した媒体・経路として「人材紹介会社」が78.4%と最も高くなっています。採用に結び付く効果が最も高かった媒体・経路としても43.9%で、他の手段を上回りました。非常勤医師の募集でも傾向は同じです。人材紹介会社の使用率は71.7%、効果が最も高かった割合は48.4%と、常勤以上に依存度が高い結果になっています。
紹介手数料が病院の収支に与える影響は、病院の経営状態によっても違いが見られます。福祉医療機構の調査で、紹介手数料が医業費用に占める割合の分布を黒字施設・赤字施設で比べると、0.0〜1.0%の範囲に収まる病院は黒字施設で84.8%、赤字施設で72.7%でした。赤字施設のほうが紹介手数料の負担割合が高い病院の比率が高く、採用コストの構造が経営状況と無関係ではないことがうかがえます。
間接費用――紹介手数料の外側にあるコスト
紹介手数料が入職時点で一括して確定するのに対して、間接費用は欠員が続く期間の長さに応じて積み上がっていきます。採用担当者や医局の対応者が候補者対応・条件交渉・院内調整に割く時間、欠員を埋めるための応援医師や非常勤医師の手配費用、そして病床稼働や外来枠に生じる制約による機会損失です。これらは会計上「紹介手数料」という単一の科目にはまとまらないため、採用コストの全体像を議論する際に見落とされやすい部分です。
福祉医療機構の調査によれば、職員が不足していると回答した病院(n=324)で、いくつかの影響が確認されています。68.5%が「現場負担の増加による退職や休職の増加」、25.3%が「患者の断り事例の増加」、19.8%が「病床の休床や廃止」を経験していました。欠員が慢性化すると、その病院自体の離職率をさらに押し上げる悪循環にもつながりかねません。対応策としては「派遣職員の受入れ」が38.9%の病院で実施されていますが、これも外部委託費用という形で間接費用の一部を構成します。
早期離職も間接費用を押し上げる要因です。福祉医療機構の調査では、2024年度に正規職員の退職者がいた病院は97.2%にのぼり、退職理由として最も多かったのは「他の医療機関への転職」で75.6%でした。医師については、勤続年数3年未満の退職者が平均3.7人、3年以上の退職者が平均2.4人で、比較的早い段階での転職が一定数含まれています。採用した医師が短期間で離職すれば、後任探しの過程がそのまま繰り返され、紹介手数料が再度発生する可能性があります。日本医師会・四病院団体協議会の報告書は、この点を「早期離職による経済的損失を医療機関のみが一方的に負担するのは不合理」と指摘しています。そのうえで、離職リスクを紹介事業者側とも分担する仕組みの必要性を提言しています。次に見る返戻金制度は、この分担の仕組みにあたります。
採用チャネルごとにコスト構造は異なる
紹介手数料は人材紹介会社を利用した場合に発生する費用であり、医局人事や大学からの派遣、自院サイト経由の直接応募、院内医師からの紹介といった他のチャネルでは、原則として直接費用は発生しません。ただし、これらのチャネルは使用率や効果の面で紹介会社に及ばない場合も多く、コストと実効性のバランスで判断する必要があります。
福祉医療機構の調査では、常勤医師の募集に使用した媒体・経路が複数回答で聞かれています。人材紹介会社(78.4%)に次いで医局人事(44.9%)、病院ホームページ(43.9%)、経営陣の人脈(35.5%)、院内医師からの紹介(25.1%)の順でした。採用に最も効果的だった媒体・経路としても人材紹介会社(43.9%)が突出しており、医局人事(23.7%)、経営陣の人脈(18.7%)が続きます。病院ホームページは使用率こそ43.9%と高いものの、最も効果的だったと回答した割合は2.0%にとどまりました。掲載しているだけでは、採用に直結しにくいことが読み取れます。
医局人事や大学からの派遣は直接費用を伴わない一方、医局側の人事権や派遣可能な人員数に左右されるため、病院側が採用時期や条件を主導しにくい面があります。経営陣の人脈や院内医師からの紹介は費用を抑えられる反面、属人的で再現性に乏しく、恒常的な採用チャネルとして設計しにくいという制約があります。自院サイトでの直接応募強化は、中長期的に紹介手数料への依存度を下げる選択肢になります。福祉医療機構が公開した病院の自由記述回答でも「紹介会社依存率を下げるため、採用ページを一新した」といった取り組みが報告されています。ただし、効果が出るまでに一定の期間を要する点は前提として押さえておく必要があります。
もう一つ、直接費用が発生しないチャネルとしてハローワークがあります。日本医師会・四病院団体協議会の報告書によれば、2023年度の医療分野における就職実績はハローワーク経由が48,686人、民間職業紹介事業所経由が112,114人でした。民間職業紹介の実績は、ハローワークの約2.3倍です。ハローワークには医療・介護・保育分野に特化した「人材確保対策コーナー」が設置され、令和8年度からは全ハローワークで病院や施設を直接訪問するアウトリーチ型支援も本格化する方針です。また日本医師会ドクターバンクは、厚生労働省の指定事業として医師の無料職業紹介を行っています。都道府県医師会のドクターバンクとの全国ネットワーク化も進められています。無料の選択肢を組み合わせて求人を出すこと自体が、紹介手数料への依存度を下げる一つの手段になります。
早期離職と返戻金制度をどう読むか
紹介手数料は本来、採用した医師が長く定着することを前提に支払われるものです。しかし早期離職が起きた場合に、その手数料の一部または全部を紹介事業者から医療機関へ返す「返戻金制度」は、法律上すべての事業者に義務づけられているわけではありません。職業安定法に基づく指針では、返戻金制度を設けることが望ましいとされているにとどまり、法的な拘束力はないというのが現状です。
このため厚生労働省の委託事業として、「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」が運営されています。この制度は返戻金制度を設けていることを認定の必須基準とし、2024年度からは基準を引き上げました。現在は、就職後6か月以内の離職に対する返戻金制度を有することが必須要件です。認定事業者かどうかは、人材サービス総合サイトで確認できます。
ただし、返戻率は期間経過とともに急速に逓減する設計が一般的です。日本医師会・四病院団体協議会の報告書が示す例では、1週間以内の離職なら返戻率100%であっても、2〜3か月以内では10〜30%程度、6か月以内ではわずか5%程度まで下がります。同報告書は、多くの事業者で「3か月〜6か月以内では5〜10%程度とほとんど返金されない状況にある」と指摘しています。6か月という認定基準の区切り自体が、現場の実感とはずれているとの声も紹介されています。契約時に確認すべきなのは、返戻金制度の有無だけでなく、返戻率が期間ごとにどう変化するか、そして起算日が入職日か契約締結日かという点です。この起算日の違いによって、実質的な保証期間が数週間単位で変わることもあります。
福祉医療機構の調査でも、人材紹介会社の「保証期間・返戻保証率」に不満・やや不満と回答した病院は87.4%にのぼり、「紹介手数料」への不満・やや不満(92.2%)に次いで高い水準でした。返戻金制度は早期離職のリスクを紹介事業者側とも分担する仕組みですが、その設計次第で医療機関側が実質的に負担するリスクの大きさは大きく変わることになります。
もっとも、この認定制度自体の認知はまだ広がっていません。福祉医療機構の調査で、この認定制度を「よく知っている」または「やや知っている」と回答した病院は50.0%にとどまりました。残り半数は、制度の存在を十分に把握していません。認知している病院のうち、認定事業者を「利用するようにしている」と回答した割合は59.9%です。事業者を選ぶ際にまず人材サービス総合サイトで手数料実績と返戻金制度の内容を確認し、認定事業者かどうかも判断材料に加えることが、制度を実際に活用するための最初の一歩になります。
まとめ
医師採用のコストは、紹介手数料という直接費用だけでなく、採用担当者の稼働時間や欠員期間の機会損失といった間接費用を合わせて把握することで、はじめて全体像が見えてきます。押さえるべき点は3つです。人材サービス総合サイトで職種別の手数料率実績や返戻金制度の内容を確認すること。採用チャネルごとに直接費用の有無と実効性を分けて評価すること。そして契約時に、返戻率の期間ごとの変化と起算日を確認すること。この3点を押さえておくだけで、採用コストに関する意思決定の精度は変わってきます。
紹介手数料の水準そのものは、他の専門職と比べて突出しているわけではありません。負担が重く感じられる背景には、診療報酬という公定価格のもとでコストを価格に転嫁できない医療機関特有の構造があります。だからこそ、直接費用を単体で見るのではなく、間接費用まで含めた採用コストの全体を院内で共有することが重要です。複数の採用チャネルを組み合わせながら、紹介会社への依存度を管理していく視点が、今後さらに求められます。
参考文献
- 職業安定法 第32条の3(手数料)(デジタル庁 e-Gov法令検索 / 厚生労働省法令等データベースサービス) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75001000&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省職業安定局需給調整事業課「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001622750.pdf
- 日本医師会・四病院団体協議会「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~」(2026年3月) https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20260318_1.pdf
- 中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和7年実施-」(令和7年11月) https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/25_houkoku_iryoukikan.pdf
- 東京都病院協会「新型コロナウイルス感染症下における東京都内病院の運営状況~人材紹介会社の紹介手数料の状況も含めて~」(2024年3月、令和5年度東京都医師会調査研究委託事業) https://tha.or.jp/important/20240710.html
- 独立行政法人福祉医療機構「2025年度病院の人材確保に関する調査結果」(2025年10月15日) https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/251015_No005.detail.pdf
- 公益社団法人日本医師会「令和7年病院の緊急経営調査結果-令和5年度、6年度実態報告-」 https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20251022_4.pdf
- 厚生労働省「医療・介護・保育分野の人手確保のために 有料職業紹介事業者を利用される求人事業主の皆さまへ」 https://www.mhlw.go.jp/content/001338300.pdf
- 厚生労働省「『医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度』の認定基準見直しについて」 https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/001223822.pdf
