2025年4月から、男性の育児休業取得率の公表義務が「常時雇用する労働者が300人を超える事業主」に広がりました。病院は看護師や医療技術職を含めると300人を超えやすく、新たに対象になった法人も少なくありません。一方で、分母と分子に医師をどう入れるか、当直で休めない男性医師の取得をどう扱うかは、条文を読まないと迷う部分です。この記事では、事務長・人事担当者向けに、対象判定から公表、次世代法の行動計画、助成金までを1年の実務の順に整理します。

結論: 300人超の法人は年1回の公表が義務、100人超は行動計画に数値目標が必要

最初に結論を整理します。根拠になる法律は2本です。

1本目は育児・介護休業法22条の2です。条文は「常時雇用する労働者の数が三百人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、毎年少なくとも一回、その雇用する労働者の育児休業の取得の状況として厚生労働省令で定めるものを公表しなければならない」と定めています(e-Gov法令検索 育児・介護休業法)。「しなければならない」という書き方で、努力義務ではなく義務です。

この300人という基準は、令和6年法律第42号による改正で入りました。改正前の対象は1,000人超でした。厚生労働省のリーフレットも、300人超1,000人以下の企業に「令和7(2025)年4月1日施行」で義務が広がったと説明しています(厚生労働省・都道府県労働局 リーフレット)。

2本目は次世代育成支援対策推進法(次世代法)12条です。常時雇用する労働者が100人を超える一般事業主は、一般事業主行動計画を策定し、届け出なければなりません(12条1項)。令和7年4月施行の改正で、計画の策定・変更時に男性の育児休業等の取得状況と労働時間の状況を把握し、目標を「数値を用いて定量的に定めなければならない」とされました(12条3項、e-Gov法令検索 次世代育成支援対策推進法)。

100人以下の事業主については、同じ内容が努力義務にとどまります。12条5項は届出を「届け出るよう努めなければならない」とし、6項は3項を準用したうえで「定めなければ」を「定めるよう努めなければ」と読み替えています。

整理すると次のとおりです。

  • 300人超: 取得状況の公表が義務。行動計画の把握・数値目標・届出・公表も義務
  • 101〜300人: 公表義務の対象外。行動計画の把握・数値目標・届出・公表は義務
  • 100人以下: 公表義務の対象外。行動計画は届出・数値目標とも努力義務

図1: 対象判定から助成金まで、病院の人事が1年で回す7つの工程を並べた概念図

公表をしない場合の扱いも確認しておきます。育児・介護休業法には22条の2違反に直接かかる罰金はありません。厚生労働大臣は56条で報告の徴収、助言、指導、勧告ができ、56条の2は、22条の2などに違反して勧告を受けた事業主が「これに従わなかったときは、その旨を公表することができる」と定めています。罰則がないから放置してよい、という性質のものではありません。採用広報の観点でも、病院名が公表される不利益は小さくありません。

工程1: 対象かどうかは「法人の常時雇用労働者数」で判定する

数える単位は病院ではなく事業主、つまり雇用契約の相手方である法人です。複数の病院や介護施設を持つ医療法人なら、すべての事業所を合算します。大学病院であれば、病院ではなく大学法人全体の人数になります。

「常時雇用する労働者」の範囲は、厚生労働省のリーフレットが示しています。期間の定めなく雇用されている者に加え、有期や日々雇用でも、過去1年以上引き続き雇用されている者、または雇入れ時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者が含まれます(前掲リーフレット)。

医師の扱いで迷うのはここです。1年契約を更新している常勤医、1年以上続けて雇用している非常勤医は、雇用形態を問わず常時雇用に入る可能性があります。研修医も、病院と雇用契約を結んでいれば同じ基準で判定します。一方、大学医局から派遣され、雇用契約が大学側にある医師は、その病院の労働者には数えません。人数が300人前後の法人は、医師の契約関係を一人ずつ確かめてから判定するのが安全です。

図2: 法人の常時雇用労働者数ごとに、取得状況の公表と行動計画の義務・努力義務を分けた判断チャート

工程2: 公表する割合は2つの算定式から選ぶ

何を公表するかは、育児・介護休業法施行規則71条の6が定めています(e-Gov法令検索 育児・介護休業法施行規則)。次の2つの割合の「いずれか」です。

算定式①は、公表前事業年度に配偶者が出産した男性労働者の数に対する、同じ年度に育児休業等をした男性労働者の数の割合です。

算定式②は、分母は同じで、分子に「育児を目的とした休暇制度」を利用した男性労働者を加えた割合です。対象は小学校就学前の子を育てる男性労働者で、育児休業等、法定の子の看護等休暇、法23条の3第1項第4号の休暇は除かれます。

「公表前事業年度」とは、公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度です。4月始まりの法人が2026年度中に公表するなら、2025年度の実績を出すことになります。

図3: 施行規則71条の6が定める算定式①(育児休業等のみ)と算定式②(育児目的休暇を含む)の分母・分子の比較

どちらを選ぶかは、病院の休暇制度で決まります。配偶者出産休暇のような特別休暇が就業規則に「育児目的」として定められていれば、算定式②で数えられます。ただし、②で公表した数字は「育休を取った割合」ではありません。医師採用の場面で数字だけが独り歩きすると、応募者の期待とずれることがあります。公表欄にどちらの式かを明記し、年度ごとに同じ式で比べるのが実務上の基本になります。

数え方の細かな点は、同じリーフレットのQ&Aが答えています。産後パパ育休とそれ以外の育児休業は分けずに計算します。同じ子について分割して2回取った場合や、育児休業と育児目的休暇の両方を取った場合は1人と数えます。事業年度をまたいで取った場合は、育児休業を開始した日を含む年度の取得として数え、分割取得なら最初の取得だけを対象にします(前掲リーフレットQ2〜Q4)。

もう1点、条文の構造からくる注意があります。施行規則71条の6の分子は「公表前事業年度において育児休業等をしたもの」で、配偶者の出産がその年度内であることまでは求めていません。前年度の3月に子が生まれ、4月から育休を取った医師は、出生の年度の分母には入り、分子は翌年度に入ります。人数の少ない法人では、割合が年度ごとに大きく振れたり、100%を超えたりすることがあります。公表欄に注記を添えると、問い合わせを減らせます。

工程3: 医師を含めて集計する

公表の対象は「その雇用する労働者」で、職種による除外はありません。男性医師も、看護師や事務職と同じ母数に入ります。医師だけを別に公表する義務はなく、法人全体の1つの割合を出せば足ります。

集計で最も手間がかかるのは分母です。病院は、男性医師の配偶者が出産したことを自動的には知りません。拾い出す手がかりになるのは、育児・介護休業法21条1項の手続です。労働者が本人または配偶者の妊娠・出産を申し出たとき、事業主は育児休業制度などを知らせ、取得の意向を確認する措置を講じなければなりません。この申出と個別周知の記録を台帳にしておけば、分母と分子を同じ資料から数えられます。健康保険の被扶養者異動や出産関係の手続とも突き合わせると、漏れが減ります。

医局や診療科ごとに勤怠管理の担当が分かれている病院では、医師の出生情報が人事に上がってこないことがあります。年度末にまとめて探すのではなく、申出を受けた時点で人事に集める流れを決めておくと、翌年の公表が楽になります。

計算の流れを、架空の数字で一度たどっておきます(以下は説明用の仮の数値です)。4月始まりの医療法人で、2025年度に配偶者が出産した男性労働者が12人、うち医師が5人だったとします。同じ年度に育児休業等を始めた男性は8人で、このうち2人は前年度の2月・3月に子が生まれた医師でした。算定式①の割合は8÷12で約67%となりますが、分母の12人のうち実際に育休を取ったのは6人です。残る2人の分子は前年度に生まれた子の分です。この構造を知らずに「12人中8人が取得」と説明すると、内部の数字と合わなくなります。台帳には、出生日、申出日、休業開始日、休業日数、職種の5項目を並べておくと、公表用の割合と内部管理用の実人数の両方をすぐ出せます。

自治体が直接運営する公立病院は、次世代法の「一般事業主」(国及び地方公共団体以外の事業主)には当たりません。行動計画は、同法19条の特定事業主行動計画として自治体側で策定されます。医療法人、社会医療法人、学校法人などが運営する病院は、国・地方公共団体以外の事業主として12条の対象です。地方独立行政法人が運営する病院の扱いは、管轄の都道府県労働局で確かめておくと確実です。自院がどちらの枠組みに入るかを、最初に確かめてください。

工程4: 決算後おおむね3か月以内にインターネットで公表する

公表の方法は、施行規則71条の5が「インターネットの利用その他の適切な方法」と定めています。病院のウェブサイトでも構いませんが、厚生労働省は同省が運営する「両立支援のひろば」での公表を勧めています(前掲リーフレット)。採用担当者が他院と比べる際にも、同じサイトに載っていると探しやすくなります。

時期について、法律が定めるのは「毎年少なくとも一回」だけです。厚生労働省のリーフレットは、公表前事業年度の終了後おおむね3か月以内の公表を求め、初回の目安を事業年度末ごとに示しています。3月決算なら2025年6月末、9月決算なら2025年12月末、12月決算なら2026年3月末です。

図4: 改正法の施行日と、決算月別の初回公表期限の目安を並べたタイムライン

適用開始は、令和6年改正法の附則4条が「施行日以後に開始する事業年度から適用する」と定めています。2026年10月時点で、多くの300人超の法人は初回の公表を終えています。3月決算の法人であれば、次の更新は2027年6月末が目安です。初回を終えた法人は、2回目に向けて集計の手順を固める段階に入っています。

任意の公表項目もあります。リーフレットは、女性の育児休業取得率や育児休業の平均取得日数をあわせて公表することを勧めています。男性医師の取得日数が短いことは、多くの病院が抱える課題です。取得率だけが高く日数が短い場合、平均取得日数を並べて出すかどうかは、採用広報の方針として判断してください。

平均取得日数の計算方法に法令上の決まりはありません。厚生労働省は計算例として、公表前々事業年度に生まれた子の1歳までの合計取得日数を取得人数で割る方法、公表3事業年度前に生まれた子の2歳までの合計で割る方法、公表前事業年度に復職した労働者の合計で割る方法の3つを示しています。両立支援のひろばの「育児休業等の取得の状況に関する備考」欄に、どの方法で、どの年度の子を対象にしたかを書き添える形式です(厚生労働省「育児休業平均取得日数」を公表する場合の公表・計算例)。男性医師の取得は出生直後の短期間に集中しやすいため、1歳までの実績で計算すると、短期の取得が多いかどうかがそのまま平均に表れます。どの方法を選んでも、翌年以降も同じ方法で続けることが比較の前提になります。

図5: 全国の男性の育児休業取得率の推移(令和5〜7年度)と、事業所規模別の取得率公表割合(令和7年度)

全国の水準も把握しておきます。厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」によると、令和5年10月から令和6年9月の1年間に配偶者が出産した男性のうち、育児休業を開始した者の割合は50.9%でした。前回の令和6年度調査は40.5%、令和5年度調査は30.1%です。男性の育児休業・育児目的休暇の取得率を公表している事業所は全体で26.2%、規模500人以上の事業所では82.3%でした(厚生労働省 令和7年度雇用均等基本調査 事業所調査結果概要)。いずれも全産業の数値で、医師に限った値ではありません。

工程5: 当直で取れない構造には、分割取得と休業中の就業で対応する

男性医師の取得が進まない理由として多いのは、当直表と手術枠です。長期で抜けると当直が回らない、という懸念は現実のものです。ここでは、法律が用意している制度上の選択肢だけを整理します。

1つ目は分割取得です。出生時育児休業(産後パパ育休)は、子の出生後8週間の期間内に4週間以内で取れる休業です(9条の2第1項)。2回まで分けて取ることができ、2回取った場合や日数が28日に達した場合は、それ以上の申出はできません(同条2項)。通常の育児休業も、子が1歳になるまでに2回まで分割できます(5条2項)。当直表の作成単位に合わせて、出生直後に1回、退院後の生活が落ち着いた時期にもう1回、と分けることができます。公表上は、同じ子について分割しても1人として数えます。

2つ目は、出生時育児休業中の就業です。9条の5は、労使協定で就業させることができる労働者を定めていることを前提に、本人が就業可能日を申し出て、事業主が提示した日時に本人が同意した場合に限り、就業させることができると定めています。範囲は施行規則21条の17が上限を置いています。就業日数の合計は休業期間の所定労働日数の2分の1以下、労働時間の合計も所定労働時間の合計の2分の1以下です。休業の初日と末日に就業させる場合は、その日の所定労働時間未満でなければなりません。

この仕組みは、病院側の都合で医師を呼び戻すためのものではありません。申出は労働者からで、同意は撤回できます。休業開始後の撤回は省令で定める特別の事情がある場合に限られます(9条の5第5項)。労使協定がなければ、そもそも使えません。外来の一枠だけを担当する、といった使い方を本人が望む場合に限る選択肢です。

3つ目は申出の時期です。出生時育児休業は原則として開始予定日の2週間前までの申出で取れますが、9条の3第4項の労使協定で、雇用環境の整備などの措置を定めた場合は、2週間超1か月以内の期間に延ばせます。当直表を1か月単位で組む病院では、この協定が勤務調整の時間を確保する手段になります。

当直体制そのものの見直しは、時間外労働の上限規制や宿日直許可の運用とも関係します。勤務計画との整合は医師の労働時間短縮計画の作り方と宿日直許可の申請実務で扱っています。医師本人から見た制度の使い方は男性医師の産後パパ育休にまとめています。

工程6: 行動計画に取得率と労働時間の数値目標を入れる

次世代法の行動計画は、育児・介護休業法の公表と同じ数字を使います。施行規則1条の2は、計画を策定・変更するとき、直近の事業年度について、男性の育児休業等の取得割合(育児目的休暇を含める式も可)と、労働者1人当たりの各月の時間外労働・休日労働の合計時間数などを把握しなければならないと定めています。把握した事項は、行動計画策定指針を踏まえて分析することも求められています(e-Gov法令検索 次世代育成支援対策推進法施行規則)。

この2つは、男性医師の育休と医師の働き方改革を同じ表で扱う枠組みになっています。取得率の目標だけを立て、医師の時間外労働を見ないまま計画を作ると、条文の求める分析を満たしません。病院の場合、医師の時間外・休日労働の時間数は、時短計画や勤怠システムの数字がそのまま使えます。

策定した計画は、厚生労働省令に従って公表し(12条4項)、労働者に周知しなければなりません(12条の2第1項)。100人超の事業主が届出や公表をしない場合、厚生労働大臣は勧告することができます(12条7項)。

くるみん認定を目指す場合の基準も変わっています。厚生労働省の資料は、改正後のくるみん認定の男性の育児休業等取得率の基準を30%としています(厚生労働省 令和6年度末までの計画期間を含む行動計画の経過措置)。この資料は、令和6年度末までに始まった計画で令和7年度以降に申請する場合、令和7年度以降の期間だけを計画期間とみなせる経過措置も示しています。なお、次世代法の附則2条は、法律の効力を令和17年3月31日までと定めています。

工程7: 助成金は規模要件を先に確認する

両立支援等助成金(出生時両立支援コース)は、令和8年4月8日改正の支給要領で次の構成になっています(厚生労働省 両立支援等助成金 出生時両立支援コース 支給要領)。

男性労働者の育児休業取得では、雇用環境整備の措置を複数行い、業務を代替する労働者の業務見直しを含む規定を整えたうえで、出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育休を取らせた場合に、1人目20万円が支給されます。措置を4つ以上行った場合は30万円です。2人目は連続10日以上で10万円、3人目は連続14日以上で10万円で、いずれも1事業主1回限りです。

男性労働者の育児休業取得率の上昇等では、取得率が前事業年度から30ポイント以上上がり、かつ50%以上になった場合などに、1事業主当たり60万円が支給されます。プラチナくるみん認定を受けていれば15万円が加算されます。両立支援のひろばで男性・女性の取得率と平均取得日数を公表した場合の情報公表加算は2万円です。

病院が最初に確認すべきなのは規模要件です。育児休業取得の区分は中小企業事業主のみが対象です。取得率上昇等の区分は「特定事業主」が対象で、要領は、資本金・出資の総額が3億円(小売業(飲食店を含む)・サービス業は5,000万円、卸売業は1億円)以下、または常時雇用する労働者が300人を常態として超えない事業主と定めています。公表義務がかかる300人超の法人は、人数基準では外れます。資本金・出資の基準に当たるかどうかは、法人の形態や主たる事業の区分によって判断が分かれるため、申請前に管轄の都道府県労働局で確認してください。

もう1つの共通要件は、次世代法12条1項に基づく行動計画を策定して届け出ており、申請時に有効であることです。計画の公表と労働者への周知も求められます。100人以下の病院にとって行動計画は努力義務ですが、助成金を使うなら事実上の前提条件になります。なお、本コースでは、育児休業中に就業した日は育児休業日数に数えません。工程5の休業中就業を使った場合、連続日数の要件を満たすかどうかを事前に確かめておく必要があります。また、9条の3第4項の協定で申出期限を2週間超に延ばしている事業主は、求められる雇用環境整備の措置が1つ多くなります(1人目なら3つ以上)。

金額と要件は毎年度改正されます。申請の時点で、その年度の要領とQ&Aを確認してください。

まとめ: 公表・行動計画・助成金を1本の台帳で回す

男性育休の取得率をめぐる病院の実務は、法律が2本、助成金の要領が1本に分かれています。ただ、使う数字はほとんど同じです。配偶者が出産した男性労働者の数、育休を取った人数、医師を含む時間外労働の時間数。この3つを1つの台帳で管理すれば、公表、行動計画、助成金の申請を同じ資料で回せます。

図6: 事務長・人事が年度内に確認する7項目のチェックリスト

数字を公表すると、医師採用の比較材料として見られます。取得率を上げることと、男性医師が実際に休める当直体制をつくることは、同じ取り組みの表と裏です。定着の観点からの整理は医師の定着率を上げる病院の取り組みでも扱っています。