60歳や65歳の定年で一度退職し、同じ病院に嘱託として再雇用される。このとき年収がどれだけ下がるかを、提示を受ける前に正確に見積もれる医師は多くありません。給与が下がる幅は病院によって違います。ただ、その下がり方を補う公的な仕組みと、逆に手取りを削る仕組みは法律で決まっており、計算できます。

この記事では、2026年10月時点の条文と厚生労働省・日本年金機構・人事院の一次資料をもとに、定年後の再雇用・嘱託でお金がどう動くかを4つの部品に分けて確かめます。部品は、高年齢者雇用安定法が病院に求めていること、再雇用後の給与水準の決まり方、高年齢雇用継続給付、在職老齢年金です。定年後のキャリアを何歳から準備するかという逆算の話は「医師の定年65歳、その後は55歳から逆算する」で扱っているので、本記事はお金の計算に絞ります。

結論:再雇用で守られるのは「雇用」で、「給与水準」ではない

先に要点を置きます。

  • 法律が病院に義務づけているのは、65歳までの雇用の確保です。 再雇用後の給与水準について、高年齢者雇用安定法は数字を定めていません。
  • 70歳までの就業確保は努力義務です。 65歳から70歳までは、制度がない病院も法律違反にはなりません。
  • 高年齢雇用継続給付は、2025年4月以降に60歳になった人は最大でも賃金の10%です。 さらに、再雇用後の月給が397,369円以上なら1円も出ません。月給がこの水準を超えることが多い常勤医には、ほぼ届かない給付です。
  • 在職老齢年金の支給停止基準額は、令和8年度は65万円です。 給与が高いまま65歳以降も厚生年金に加入して働くと、老齢厚生年金が減るか、全額止まります。老齢基礎年金は止まりません。
  • 国家公務員は定年が段階的に引き上げられている途中ですが、病院・診療所の医師は扱いが違います。 一般職員は令和7年4月から令和9年3月までの定年が62歳で、60歳を超えると給与は7割水準です。一方、国の病院・診療所に勤務する医師は経過期間中も定年65歳で、7割措置の対象外です。公立病院は各自治体の条例で決まります。

つまり、定年後の手取りは「病院が提示する給与」から「年金の支給停止」を差し引き、条件が合えば「雇用継続給付」を足したものになります。下の図は、その関係を1枚にしたものです。

図1: 定年後の手取りを決める4つの部品(概念図)

高年齢者雇用安定法が病院に求めていること

定年は60歳以上、65歳未満なら3つの措置のどれか

民間病院・医療法人・独立行政法人などの雇用主には、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)が適用されます。第8条は、定年を定める場合には60歳を下回ることができないとしています。

第9条第1項は、65歳未満の定年を定めている事業主に、65歳までの安定した雇用を確保するため、次のいずれかを講じるよう義務づけています。

  1. 定年の引上げ
  2. 継続雇用制度の導入(希望する高年齢者を定年後も引き続き雇用する制度)
  3. 定年の定めの廃止

病院で最も多いのは2の継続雇用制度、つまり60歳でいったん定年退職し、1年ごとの有期契約で嘱託として再雇用する形です。第9条第2項により、グループ内の特殊関係事業主(親会社・子会社など)で雇用する形も継続雇用制度に含まれます。

「対象者を絞る基準」は2025年3月で終わった

以前は、労使協定で再雇用の対象者を限定する基準を設けることが経過措置として認められていました。厚生労働省によると、この経過措置は2025年3月31日で終了しています。2025年4月1日以降、継続雇用制度を選ぶ事業主は、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度にしなければなりません。

ただし、これは「65歳まで同じ条件で働ける」という意味ではありません。厚生労働省も、経過措置の終了によって65歳定年が義務になるわけではないと明記しています。義務の中身は雇用の場の確保であり、職務内容や給与を定年前と同じにすることまでは求めていません。

65歳から70歳までは努力義務

第10条の2第1項は、65歳以上70歳未満の定年を定めている事業主や、70歳未満までの継続雇用制度を導入している事業主に、65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならないとしています。2021年4月1日に施行された改正です。

措置の選択肢は5つあります。定年の引上げ、65歳以上継続雇用制度の導入、定年の廃止の3つに加え、過半数労働組合などの同意を得たうえで、70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度、または社会貢献事業に従事できる制度を設けることもできます(同条ただし書・第2項)。

厚生労働省は、この改正が70歳までの定年年齢の引上げを義務づけるものではないと説明しています。65歳以降の嘱託を断られても、それだけで法律違反を主張することはできない、というのが条文から言えることです。なお、65歳までの義務(第9条)に違反している事業主には、厚生労働大臣が指導・助言・勧告を行い、勧告に従わない場合は公表できます(第10条)。

図2: 年齢ごとに病院が負う義務の強さ(高年齢者雇用安定法 第8条・第9条・第10条の2)

再雇用・嘱託の給与水準はどう決まるか

法律に「何割」という数字はない

高年齢者雇用安定法は、再雇用後の給与について割合を定めていません。給与は病院と本人の契約で決まります。提示の形も、定年前の月給を一定割合で下げる方式、外来日数に応じた日給制などさまざまで、医師に限った再雇用後の給与水準を示す公的な統計は見当たりません。本記事では、後述する国家公務員の「7割水準」を一つの参考線として使います。

有期契約になると「不合理な待遇差」の規定がかかる

嘱託として1年ごとの有期契約で再雇用されると、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)の対象になります。第8条は、基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて、職務の内容、職務の内容と配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしています。

ここで大事なのは「それぞれの待遇ごとに」比べるという点です。例えば、定年前と同じ外来枠と当直を担い、責任の範囲も変わらないのに、当直手当だけが大きく下がるといった場合は、その手当の目的に照らして説明が求められます。一方で、管理職から外れ、病棟の主治医業務がなくなるなど職務の内容が変わる場合、基本給が下がることには理由があると判断されやすくなります。また、「定年後に再雇用された者であること」は、条文の「その他の事情」として考慮され得ます。

説明を求める権利がある

同法第14条第2項により、有期雇用労働者から求めがあった場合、事業主は通常の労働者との待遇の相違の内容と理由を説明しなければなりません。同条第3項は、説明を求めたことを理由とする不利益な取扱いを禁じています。

再雇用の条件提示を受けたら、「どの業務が減るから、どの項目がいくら下がるのか」を項目別に確認するのが実務上の第一歩です。総額だけで判断すると、当直手当や賞与の扱いの違いを見落とします。

図3: 再雇用の給与提示を項目別に分解して確認する(概念図)

国家公務員・公立病院の医師は「7割水準」と段階的な定年引上げ

定年は2年に1歳ずつ、令和13年度に65歳

国立病院機構などの独立行政法人は公務員ではないため、各法人の就業規則で定年が決まります。一方、国の機関に勤める医師には国家公務員法が、都道府県立・市町村立病院に勤める医師には地方公務員法と各自治体の条例が適用されます。

国家公務員法第81条の6第2項は、定年を65歳と定めています。ただし同法附則第8条により、令和5年4月から段階的に引き上げている途中です。

期間一般職員の定年特例定年の上限
令和5年4月〜令和7年3月61歳66歳
令和7年4月〜令和9年3月62歳67歳
令和9年4月〜令和11年3月63歳68歳
令和11年4月〜令和13年3月64歳69歳
令和13年4月以降65歳70歳

同条第2項ただし書は、職務と責任に特殊性があること、または欠員の補充が困難であることにより65歳定年が著しく不適当と認められる官職の医師・歯科医師などについて、65歳を超え70歳を超えない範囲で人事院規則が定める年齢を定年とすると定めています。人事院規則11-8第2条は、この特例の対象を刑務所・少年院、入国者収容所、国立ハンセン病療養所、地方厚生局などで医療業務に従事する医師・歯科医師とし、年齢を70歳としています。表の右列は、この特例定年の経過期間中の上限です。

注意したいのは、国の病院・診療所の医師です。改正前から定年が65歳だった職員について、附則第8条第2項は第1項の段階的な定年を適用せず、人事院規則11-8附則第2条は病院・診療所に勤務し医療業務に従事する医師をここに含めています。このため国の病院・診療所の医師は、経過期間中も定年が65歳のままです。一般職の職員給与法附則第9項も、これらの職員を後述の7割措置の対象から外しています。

地方公務員についても、総務省の資料によれば、国家公務員と同様に定年を2年に1歳ずつ65歳まで段階的に引き上げ、具体的な内容は条例で定める仕組みです。

60歳を超えると俸給は7割、管理職は降任

人事院によると、60歳を超えた職員の給与は、民間の実情などを踏まえ、当分の間、60歳前の7割水準に設定されています(一般職の職員の給与に関する法律附則第8項)。先に見たとおり、国の病院・診療所の医師など、改正前から定年が65歳だった職員はこの措置の対象外です。俸給月額は原則として60歳前の7割に下がり、俸給月額と連動する諸手当も7割水準になります。

あわせて役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)が導入されており、管理監督職の職員は、60歳に達した日後の最初の4月1日までに管理監督職以外の官職へ降任などをされます。公務の運営に著しい支障が出る場合に限り、例外として管理監督職のまま勤務させる特例任用があります。

公立病院の医師の定年と給与は、国の扱いを基準に各自治体の条例で決まります。国の一般職員と同じ62〜65歳の段階的な定年と7割水準が適用されるのか、国の病院の医師と同じく65歳定年で7割措置の対象外なのかは、勤務先の条例と規則で確かめる必要があります。管理職であれば、役職定年で60歳の翌年度から役職を離れるかどうかも同時に確認します。定年前に退職を選んでも、当分の間は定年退職と同じ扱いで退職手当が計算されます。退職手当の税金の計算は「医師の退職金の税金計算 転職が多いと本当に損か」で解説しています。

図4: 国家公務員(一般職員)の定年と特例定年の上限(国家公務員法附則第8条)

高年齢雇用継続給付:医師にはほとんど届かない

支給率は最大10%に縮小

高年齢雇用継続基本給付金は、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の人が、60歳時点に比べて75%未満の賃金で働き続ける場合に支給されます(雇用保険法第61条)。

厚生労働省によると、60歳に達した日が2025年3月31日以前の人は賃金の最大15%、2025年4月1日以降の人は最大10%です。現行の雇用保険法第61条第5項でも、賃金が60歳時点の64%未満なら支給率は10%、64%以上75%未満ならそこから逓減する率と定められています。

月給397,369円以上なら支給はゼロ

医師にとって決定的なのは、上限が2つあることです。ハローワークのリーフレット(令和8年8月1日以降の額)によると、次のとおりです。

  • 支給限度額 397,369円: 支給対象月の賃金がこの額以上なら、給付金は支給されません。賃金と給付金の合計がこの額を超える場合は、超えない額まで減ります。
  • 60歳到達時の賃金月額の上限 522,000円: 60歳前の月給が100万円でも、計算上は522,000円として扱われます。

どちらの額も令和9年7月31日までの額で、毎年8月1日に改定されます。60歳時の賃金月額が上限の522,000円なら、その75%の391,500円以上で支給要件を外れるため、実際には397,369円より手前で給付はゼロになります。

例えば、60歳前の月給が120万円の医師が、再雇用後に月給80万円になった場合を考えます。賃金は3分の2に下がっていますが、80万円は支給限度額397,369円を超えているため、給付金はゼロです。

逆に、週3日の嘱託で月給30万円になった場合は、計算上の60歳時点の賃金522,000円に対して約57.5%まで下がっているため、支給率は10%で月3万円が支給されます。賃金30万円と合わせても397,369円以下に収まります。

つまり、この給付は常勤のまま再雇用される医師にはほぼ関係がなく、勤務日数を大きく減らした場合にだけ効いてきます。また、65歳未満で老齢厚生年金を受けている人がこの給付を受けると、年金の一部(標準報酬月額の最大4%)が支給停止される調整もあります。

図5: 高年齢雇用継続給付の支給額(60歳時賃金が上限の522,000円の場合)

在職老齢年金:65万円の基準で厚生年金が止まる

令和8年度の基準額は65万円

厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取ると、給与と年金の合計に応じて年金が減ります。これが在職老齢年金です。日本年金機構によると、計算式は次のとおりです。

基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下: 全額支給 65万円を超える場合: 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2

基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額です。総報酬月額相当額は、その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足したものです。65万円は令和8年度の支給停止調整額で、前年度の51万円から引き上げられました。

ここで止まるのは老齢厚生年金だけです。老齢基礎年金は、給与がいくら高くても支給停止されません。

3つの働き方で計算する

報酬比例部分が年180万円(基本月額15万円)の医師が、65歳以降に次の3通りで働く場合を計算します。標準報酬月額の上限は65万円、1回の標準賞与額の上限は150万円です(いずれも2026年10月時点)。

A: 常勤嘱託で月給100万円、賞与なし 標準報酬月額は上限の65万円です。15万円+65万円-65万円=15万円、その半分の7.5万円が停止され、年金は月7.5万円になります。

B: 常勤嘱託で月給65万円以上、賞与が年2回各150万円以上 総報酬月額相当額は65万円+300万円÷12=90万円です。(15万円+90万円-65万円)÷2=20万円で、基本月額15万円を上回るため、老齢厚生年金は全額停止です。

C: 週3日の嘱託で月給50万円、賞与なし 標準報酬月額を50万円とすると、15万円+50万円=65万円で基準額以下のため、全額支給です。

Aを見ると、月給100万円でも計算上は標準報酬月額の上限65万円で止まることがわかります。高年収の医師ほど、賞与の有無が年金の停止額を左右します。給与を月給に寄せるか賞与に寄せるかで年金の手取りが変わるため、嘱託契約の給与設計を確認する価値があります。

なお、厚生年金の加入要件を満たさない非常勤勤務だけで働く場合は、在職老齢年金の調整は受けません。勤務先の数や勤務時間によって加入の有無が変わるため、非常勤の契約の組み方は「医師の非常勤契約は何日前に辞められる?契約類型別の解約ルール」もあわせて確認してください。年金額そのものの見積もりと、繰下げ受給との関係は「医師の年金はいくら?年収が高くても上限で頭打ちの理由」で計算しています。

図6: 在職老齢年金の計算例(基本月額15万円、令和8年度の基準額65万円)

手取りで比べると、どこで差がつくか

ここまでの部品を1人の医師に当てはめます。前提は、60歳前の年収1,800万円(月給150万円・賞与なし)、報酬比例部分が年180万円、老齢基礎年金が満額(令和8年度 月70,608円)です。税金と社会保険料は含めない額面の概算です。

期間働き方給与雇用継続給付年金合計(月)
60〜64歳常勤嘱託・月給7割105万円0円受給前105万円
60〜64歳週3日嘱託30万円3万円受給前33万円
65歳以降常勤嘱託・月給100万円100万円対象外厚生7.5万円+基礎約7.1万円約114.6万円
65歳以降週3日嘱託・月給50万円50万円対象外厚生15万円+基礎約7.1万円約72.1万円

60〜64歳の常勤嘱託では、給与が7割に下がっても雇用継続給付は出ません。65歳以降は、月給を50万円下げても年金が7.5万円増えるだけで、合計の差は約42.5万円残ります。年金の停止を避けるために勤務を減らすと、多くの場合は手取りが減る、というのが計算から言えることです。

判断の軸は年金の停止額ではなく、働く時間あたりの手取りと、何歳まで働きたいかです。在職老齢年金で停止された分は後から戻ってこない一方、65歳以降の厚生年金加入期間の分は退職時や在職定時改定で年金額に反映されます。

再雇用の条件提示を受けたら確認する7項目

  1. 定年年齢と再雇用の上限年齢: 就業規則で定年と、嘱託契約を更新できる上限年齢を確認します。65歳以降の制度があるかもここでわかります。
  2. 職務の内容: 外来枠、病棟主治医、当直・オンコール、管理職の有無が定年前とどう変わるか。
  3. 給与の項目別の内訳: 基本給、当直手当、賞与、退職金の扱いを項目ごとに定年前と比べます。差の理由はパートタイム・有期雇用労働法第14条第2項に基づき説明を求められます。
  4. 月給と賞与の配分: 65歳以降は、賞与の額が総報酬月額相当額に入り、在職老齢年金の停止額に影響します。
  5. 厚生年金・雇用保険の加入: 週の勤務時間で加入の有無が変わります。加入の有無は年金停止と雇用継続給付の両方に関わります。
  6. 60歳到達時の賃金月額: 雇用継続給付を受ける可能性がある場合、ハローワークの受給資格確認で示される額を確認します。
  7. 契約の更新条件: 1年ごとの有期契約なら、更新の判断基準と、65歳以降の更新の扱いを書面で確認します。

外部の病院での非常勤や常勤の条件を並べてから判断すると、提示された再雇用条件が相場に比べてどうかが見えます。

まとめ:法律が守るのは65歳までの雇用、給与は交渉で決まる

高年齢者雇用安定法が病院に義務づけているのは65歳までの雇用の確保で、給与水準は契約で決まります。70歳までは努力義務にとどまります。高年齢雇用継続給付は2025年4月以降に60歳になった人で最大10%、月給397,369円以上なら支給されないため、常勤の医師にはほぼ届きません。65歳以降は、令和8年度の基準額65万円を超えると老齢厚生年金が減りますが、勤務を減らして年金の停止を避けるより、働いた分の給与のほうが多くの場合は大きくなります。

国家公務員の一般職員は、令和7年4月から令和9年3月までの定年が62歳で、60歳を超えると給与は7割水準です。ただし国の病院・診療所の医師は定年65歳のままで7割措置の対象外です。公立病院の医師は、勤務先の条例で確認してください。

まずは就業規則で定年と再雇用の上限年齢を確認し、提示された条件を項目別に分解してください。そのうえで外部の選択肢と比べるのが順番です。

参考文献