「来期から理事に入ってもらえないか」。院長や理事長からそう声をかけられた勤務医は少なくありません。名誉職のように聞こえても、理事は法律上の役員であり、職員とは立場がまったく違います。本記事では、理事になると何が変わるかを「責任」「報酬」「労働者としての立場」「辞め方」の4項目に分け、医療法などの条文に沿って整理します。最後に、承諾前に確認したい8項目のチェックリストを付けました。

理事になると何が変わるか、4項目で判定する

医療法人の理事就任で変わるのは、法人との契約の種類です。勤務医としての立場は雇用契約ですが、理事としての立場は委任です。医療法46条の5第4項は「医療法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う。」と定めています。この一点から、責任の負い方、報酬の税務、社会保険の扱い、辞め方のすべてが職員とは別のルールになります。

図1: 理事就任の打診を受けたときに判定する4項目(責任・報酬・労働者としての立場・辞め方)

4項目の要点を先に示します。責任の面では、任務を怠ると法人に対して損害賠償責任を負い、悪意や重大な過失があれば第三者に対しても責任を負います。報酬の面では、役員報酬は法人税法上の「役員給与」として扱われ、支給の仕方に制約がかかります。労働者としての立場の面では、理事であることと職員であることは両立しうるものの、社会保険・雇用保険・税務でそれぞれ判断の物差しが違います。辞め方の面では、委任はいつでも解除できるのが原則ですが、後任が決まるまで義務が残る場面があります。

なお、本記事は病院・診療所の「管理者」としての責任は扱いません。管理者責任については別記事「雇われ院長の責任」で整理しています。ここでは理事という役員の立場に絞ります。ただし、医療法46条の5第6項は医療法人が開設する病院等の管理者を理事に加えなければならないと定めているため、院長就任と理事就任がセットで打診されることがある点は押さえておきます。同条7項により、この理事は管理者の職を退いたときに理事の職も失います。

前提:医療法人の機関と、社員・理事の違い

判定に入る前に、医療法人の機関構成を確認します。医療法46条の2第1項は、社団たる医療法人に「社員総会、理事、理事会及び監事」を置かなければならないと定めています。財団たる医療法人では、社員総会の代わりに評議員・評議員会を置きます(同条2項)。

混同されやすいのが「社員」と「理事」です。社員は社員総会の構成員で、株式会社でいえば株主に近い立場です。理事は業務執行に関わる役員で、取締役に近い立場です。社団たる医療法人の役員は社員総会の決議によって選任され(46条の5第2項)、いつでも社員総会の決議で解任できます(46条の5の2第1項)。つまり、理事は社員総会に選ばれ、社員総会に解任されうる立場です。打診されているのが社員なのか理事なのか、両方なのかは最初に確認すべき点です。

役員の員数は、医療法46条の5第1項により理事3人以上・監事1人以上が原則です。ただし都道府県知事の認可を受けた場合は、理事を1人または2人とすることができます。理事のうち1人は理事長となり、原則として医師または歯科医師である理事から選出されます(46条の6第1項)。理事長は法人を代表し、業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を持ちます(46条の6の2第1項)。

理事会は全ての理事で組織され(46条の7第1項)、業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選出・解職を行います(同条2項)。同条3項は、重要な資産の処分・譲受け、多額の借財、重要な役割を担う職員の選任・解任などを、理事会が個々の理事に委任できない事項として挙げています。理事に就任すると、こうした意思決定に一票を持つことになります。

項目1:責任 理事は何に対して責任を負うか

法人に対する任務懈怠責任(医療法47条)

医療法47条1項は「社団たる医療法人の理事又は監事は、その任務を怠つたときは、当該医療法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。財団たる医療法人の理事にも同条4項で準用されます。

「任務」の中身は、民法と医療法の両方から導かれます。委任の受任者は、民法644条により「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」とされます。いわゆる善管注意義務です。加えて医療法46条の6の4は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)の理事に関する規定の一部を医療法人の理事に準用しており、その中に一般法人法83条が含まれます。83条は「理事は、法令及び定款並びに社員総会の決議を遵守し、一般社団法人のため忠実にその職務を行わなければならない。」と定める忠実義務の規定です。

図3: 勤務医(職員)・理事・兼務の比較。法人との関係、義務、賠償責任、報酬の税務、雇用保険

利益相反取引と、賛成した理事の推定

勤務医が理事になって注意したいのが、自分と法人との取引です。医療法46条の6の4で準用される一般法人法84条1項は、理事が自己または第三者のために法人と取引をしようとするときなどに、重要な事実を開示して承認を受けなければならないと定めています。医療法人の場合、承認機関は社員総会ではなく理事会に読み替えられます(46条の6の4)。

この取引で法人に損害が生じたとき、医療法47条3項は、取引をした理事、取引を決定した理事、そして「当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事」について、任務を怠ったものと推定します。自分が当事者でなくても、賛成票を投じた理事は推定の対象に入るということです。

さらに、医療法46条の7の2が理事会に準用する一般法人法95条5項は、理事会の決議に参加した理事であって議事録に異議をとどめないものは「その決議に賛成したものと推定する」と定めています。反対したつもりでも、議事録に異議が残っていなければ賛成と推定されうるわけです。名目上の理事であっても、理事会に出席する以上は議事録の記載を確認する意味があります。

第三者に対する責任(医療法48条)

第三者への責任は医療法48条に置かれています。直前の47条の2は責任の免除に関する準用規定なので、条番号を取り違えないよう注意が必要です。48条1項は、役員等が「その職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。同条2項は、理事が事業報告書等の重要事項について虚偽の記載をした場合や虚偽の登記・公告をした場合に、注意を怠らなかったことを証明しない限り同様の責任を負うとしています。

複数の役員が同じ損害について責任を負う場合、医療法49条によりそれらの者は連帯債務者となります。

責任の免除と「最低責任限度額」

責任の免除については、医療法47条の2第1項が一般法人法112条から116条を準用しています。一般法人法112条は、任務懈怠責任は総社員の同意がなければ免除できないとしています。一方、113条1項は、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときに限り、一定額(最低責任限度額)を控除した残りを社員総会の決議で免除できるとしています。医療法47条の2第2項は、この社員総会決議に出席者の3分の2以上の賛成を求めています。

最低責任限度額は、在職中に受けた職務執行の対価の1年あたりの額に、役員の区分ごとの数を乗じて算定されます。一般法人法113条1項は代表理事を6、業務を執行した理事や使用人を兼ねる理事を4、それ以外を2としています。医療法人に準用する際は、医療法施行令5条の5の11が「代表理事」を「理事長」に、「使用人」を「職員」に読み替えます。つまり医療法人では、理事長が6、業務を執行した理事や職員を兼ねる理事が4、それ以外の理事・監事が2です。算定方法の細部は厚生労働省令によります。勤務医として働きながら理事を兼ねる場合、職員を兼ねる理事として「4」の区分に入ることが条文上想定される点は知っておく価値があります。

図5: 責任の一部免除をしても残る額(最低責任限度額)の倍数。理事長6、業務を執行した理事・職員を兼ねる理事4、それ以外の理事・監事2

ここまでの責任は、いずれも「任務を怠った」「悪意又は重大な過失があった」ことが前提です。理事になった途端に法人の損失をすべて負うわけではありません。ただ、理事会に出て決議に加わり、議事録に署名するという行為そのものが責任の根拠になりうる点で、職員とは重みが違います。

項目2:報酬 役員報酬は何が違うか

定期同額給与の原則

理事として報酬を受ける場合、法人側の税務では「役員給与」の規律がかかります。法人税法34条1項は、役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金の額に算入しないと定めています。同条2項は、これらに該当する場合でも「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入としています。

定期同額給与について、国税庁タックスアンサーNo.5211は、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額であるものなどと説明しています。改定は、原則として事業年度開始から3か月を経過する日までに行う改定、職制上の地位の変更などの臨時改定事由による改定、経営状況の著しい悪化による減額改定に限られます。同ページは、一時的な資金繰りの都合や業績目標に届かなかったことは業績悪化改定事由に含まれないとしています。

勤務医にとっての実務上の意味は、年度途中で「理事報酬を上げる・下げる」という調整が自由にはできないことです。報酬額や支給方法が決まるタイミングと、その決定がどの機関で行われたかは、就任時に確認しておく必要があります。報酬の決め方は法人側の税務の問題でもあるため、理事個人が判断することではありませんが、説明を受けておくことは無駄になりません。医療法人の設立や役員報酬の考え方全般は「医師の法人化のメリット」もあわせて参照してください。

使用人兼務役員という区分

勤務医が理事を兼ねる場合に出てくるのが「使用人兼務役員」です。法人税法34条1項のかっこ書は、損金算入の制限の対象から「使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの」を除いています。つまり、使用人兼務役員に支払う給与のうち使用人としての職務に対する部分は、定期同額給与などの要件とは別に扱われます。

使用人兼務役員の定義は同条6項にあります。役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものです。政令で除かれる役員は法人税法施行令71条1項に列挙されており、代表理事、副社長・専務・常務などに準ずる地位の役員、監事などが含まれます。同項5号は、同族会社の役員で一定の所有割合の要件をすべて満たす者も除いています。国税庁タックスアンサーNo.5205も同じ範囲を示しています。

図2: 勤務医の理事が使用人兼務役員になりうるかの判断の流れ

条文から言えることは、理事長は使用人兼務役員になれないこと、そして「部長」「医長」などの職制上の地位があり常時その職務に従事していることが要件になることです。単に「理事」の肩書だけで職制上の地位がない場合は、使用人兼務役員には当たりません。持分のある医療法人で出資の割合が大きい場合に同族会社の役員の要件がどう当てはまるかは、法人の出資構成によるため、ここでは一般化しません。

項目3:労働者としての立場 社会保険と雇用保険

労働基準法上の「労働者」

労働基準法9条は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。理事としての職務は委任であって、この意味での「使用される」関係ではありません。一方、理事に就任した後も、医師として指揮命令を受けて診療に従事し、その対価として賃金を受けているなら、その部分は雇用関係として残りえます。労働時間の管理、時間外労働の割増賃金、年次有給休暇などが理事就任後も適用されるかは、この「職員としての部分」が実態として続いているかにかかっています。

就任時に「理事になったのだから当直手当は出ない」「管理側だから時間管理は対象外」と説明された場合は、その根拠がどこにあるのかを確認したほうがよいでしょう。肩書が変わっても、働き方が変わらなければ判断は変わらないのが原則です。

健康保険・厚生年金:役員も報酬があれば被保険者

健康保険・厚生年金の扱いは、役員かどうかでは決まりません。日本年金機構が公開する疑義照会回答(厚生年金保険 適用)の中で、昭和24年7月28日保発第74号通知の「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」という扱いが引かれています。同資料が引く別の疑義照会回答(昭和27年保文発第7241号等)では、判断の基準は、法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が業務の対価として経常的に支払われるものかどうかです。

勤務医としてすでに被保険者であれば、理事就任で資格が失われるわけではありません。変わりうるのは標準報酬月額の算定です。役員報酬が上乗せされれば、報酬の合計で保険料が決まります。

雇用保険:役員は原則対象外、兼務役員は例外

雇用保険は扱いが異なります。福岡労働局(福岡南公共職業安定所)が公開している「兼務役員雇用実態証明書 提出書類のご案内」は、法人の役員は原則として雇用保険被保険者になれないとしたうえで、代表役員は被保険者になれず、使用人兼任役員は例外として被保険者となる場合があると説明しています。使用人兼任役員として被保険者の扱いを受けるには、労働者名簿、出勤簿、使用人給与と役員報酬を区別した賃金台帳、役員就任時の総会議事録、登記事項証明書、定款、兼務役員雇用実態証明書などを提出します。

実務上の注意点は、理事就任後に何も手続をしないままだと、雇用保険の扱いが曖昧なまま時間が経つことです。雇用保険は失業給付や育児休業給付の前提です。将来の転職や育休の可能性があるなら、就任時に人事・総務に「兼務役員としての届出をするのか」を確認しておくことが、自分の身を守ることにつながります。

項目4:辞め方 任期と辞任のルール

任期は2年以内

医療法46条の5第9項は「役員の任期は、二年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。」と定めています。理事の任期は最長2年で、再任は可能です。任期の満了日は定款等の定めによりますが、少なくとも2年を超える約束で縛られることはない、というのが条文の構造です。

図4: 理事の就任から退任まで。社員総会での選任、任期2年以内、辞任、後任就任まで

辞任は原則いつでも可能、ただし時期に注意

役員と法人の関係は委任ですから、民法651条1項により「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」が適用されます。理事は原則として、いつでも辞任できます。ただし同条2項は、相手方に不利な時期に解除したときなどは、やむを得ない事由があった場合を除いて相手方の損害を賠償しなければならないとしています。

もうひとつ重要なのが、医療法46条の5の3第1項です。法律や定款等で定めた役員の員数が欠けた場合、任期の満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します。理事3人の法人で1人が辞めれば員数を欠くため、後任が決まるまで辞任した理事に権利義務が残ります。同条3項は、理事または監事のうち定数の5分の1を超える者が欠けたときは1か月以内に補充しなければならないとしています。

退職と辞任の関係も整理しておきます。勤務医としての退職は雇用契約の終了で、理事の辞任は委任の終了です。法的には別の行為ですから、退職届と辞任届は別々に出すのが筋です。前述の管理者を兼ねる理事は、管理者の職を退いたときに理事の職を失います(46条の5第7項)が、それ以外の理事は退職しても自動的に理事でなくなるわけではありません。外勤先や非常勤先の契約の終わらせ方については「非常勤契約の解除」で整理しています。

解任される側に回ったとき

逆に、社員総会の決議で解任されることもあります。医療法46条の5の2第2項は、解任された者は、解任に正当な理由がある場合を除き、解任によって生じた損害の賠償を請求できると定めています。継承やM&Aで経営陣が入れ替わる局面では、理事の交代が議題になることがあります。法人の承継局面の全体像は「クリニック継承とM&A」を参照してください。

監事を頼まれた場合は話が違う

理事ではなく監事を頼まれることもあります。医療法46条の5第8項は「監事は、当該医療法人の理事又は職員を兼ねてはならない。」と定めています。その法人に勤める勤務医は、その法人の監事にはなれません。監事を打診された場合は、勤務先とは別の医療法人からの依頼であるはずです。監事の職務は業務・財産の監査で、毎会計年度に監査報告書を作成し、会計年度終了後3か月以内に社員総会等と理事会に提出することなどが46条の8に定められています。

承諾する前に確認したいこと

理事就任の打診に対して、その場で即答する必要はありません。確認すべき点は、定款上の位置づけ、理事会の運営、報酬、労働者としての扱い、辞め方の5つに集約されます。

図6: 理事就任を承諾する前の8項目チェックリスト

具体的には、定款または寄附行為で理事の員数と任期がどう定められているか、理事会がどの頻度で開かれ議事録がどう作成されているかを確認します。報酬については、役員報酬が出るのか、出るならその額と支給方法、そして使用人としての給与とどう区分されるのかを書面で確認します。社会保険・雇用保険の扱い、特に兼務役員としての雇用保険の届出の有無は人事に確認します。辞めるときの手続と、後任選任の見通しも聞いておきます。自分や家族が法人と取引をする予定があるなら、利益相反取引の承認手続が必要です。役員賠償責任保険に法人が加入しているかも、責任の重さを考えれば確認しておく価値があります。

これらは個別の法人の定款や契約によって答えが変わるため、本記事では一般論にとどめます。迷う点があれば、法人側の顧問の専門家や、ご自身で依頼する弁護士・税理士・社会保険労務士に確認してください。

よくある質問

名前を貸すだけで理事会には出ない約束でも責任はあるか

医療法47条の任務懈怠責任は、名目上の理事かどうかで適用が変わる規定ではありません。理事会は理事の職務執行を監督する機関であり(46条の7第2項)、理事はその構成員です。出席しないことが任務を怠ったと評価される余地もあるため、「出なくてよい」という約束が責任を軽くする根拠にはなりにくいと考えておくのが安全です。

理事になると当直や時間外の手当はなくなるのか

理事であることだけで、職員としての労働条件が自動的に消えるわけではありません。医師として指揮命令を受けて働き、賃金を受け取っている部分は、労働基準法9条の労働者としての関係が続きえます。手当の扱いが変わると言われた場合は、雇用契約や就業規則のどこが変わるのかを確認してください。

まとめ:肩書ではなく、4つの契約関係を確認する

医療法人の理事就任で変わるのは、委任という契約関係が加わることです。責任では、任務懈怠責任(医療法47条)と第三者責任(48条)、議事録に異議を残さない場合の賛成推定がポイントになります。報酬では、定期同額給与の規律と、使用人兼務役員の要件が論点です。労働者としての立場では、健康保険・厚生年金は報酬があれば被保険者、雇用保険は原則対象外で兼務役員は例外という違いがあります。辞め方では、任期は2年以内、辞任はいつでも可能でも、員数を欠けば後任就任まで義務が残ります。

打診を受けたら、まず定款と報酬の書面を見せてもらうことから始めてください。それだけで、引き受けるかどうかの判断材料の多くがそろいます。