「院長をお願いしたい。ただ、今の病院の外勤や当直は続けてもらって構わない」。診療所の管理者を打診されたとき、こうした条件を提示されることがあります。院長になっても週1回の非常勤は続けたい、別の分院の院長も兼ねてほしいと言われた、という相談も珍しくありません。

結論から言うと、医療法が直接禁じているのは「2か所以上の病院・診療所を管理すること」であり、院長が他院で一勤務医として働くこと自体を禁じる条文はありません。ただし、管理者には「原則として勤務時間中常勤」という行政解釈があり、2026年4月からは健康保険法上の保険医療機関の管理者にも要件と責務が置かれました。兼業できるかどうかは、この3つのルールを重ねて判断することになります。

この記事では、医療法10条・12条・15条、医療法施行規則9条、医師法の臨床研修修了登録、厚生労働省の通知と事務連絡、健康保険法70条の2を順に確認し、雇われ院長が非常勤バイトを続ける場合の確認点を整理します。条文は e-Gov 法令API(2026年11月1日取得)で、通知は厚生労働省・自治体の掲載資料で確認しました。個別の可否は開設地の保健所や都道府県の判断になるため、最終的には事前相談で確かめてください。

図1: 院長の兼業を縛る3つのルール(概念図)

管理者になれる医師:医療法10条と臨床研修修了登録

10条は「開設者が管理させる義務」

医療法10条1項は次のとおりです。

「病院(第三項の厚生労働省令で定める病院を除く。次項において同じ。)又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は臨床研修等修了医師に、歯科医業をなすものである場合は臨床研修等修了歯科医師に、これを管理させなければならない。」

義務の名宛人は開設者で、管理者になれるのは「臨床研修等修了医師」に限られます。この言葉は医療法7条1項で定義されており、医師法16条の6第1項の規定による登録を受けた者を指します。医師法16条の6第1項は、厚生労働大臣が、臨床研修を修了した者について、その申請により臨床研修を修了した旨を医籍に登録すると定めています。

つまり、臨床研修を終えただけでなく、修了の登録を受けていることが前提です。登録は申請によって行われるため、研修修了から年数が経っている医師でも、就任前に臨床研修修了登録証の所在を確認しておくと手続きが滞りません。医療法施行規則8条(12条1項ただし書の許可申請)でも、管理者にしようとする者の臨床研修修了登録証または医師免許証の写しを添えることとされています。

病院の管理者には別の上乗せがある

10条3項は、地域医療支援病院や一部の公的医療機関などの病院について、管理者を「第五条の二第一項の認定を受けた」臨床研修等修了医師に限るとしています。いわゆる医師少数区域経験認定の仕組みで、施行規則7条の2に対象病院と例外が並んでいます。この記事のテーマである診療所の院長には直接かかりませんが、将来病院の院長職を視野に入れる場合は確認しておくべき規定です。

2か所目の管理は許可制:医療法12条2項

条文は「管理しない者でなければならない」

12条2項の書き出しは次のとおりです。

「病院、診療所又は助産所を管理する医師、歯科医師又は助産師は、次の各号のいずれかに該当するものとしてその病院、診療所又は助産所の所在地の都道府県知事の許可を受けた場合を除くほか、他の病院、診療所又は助産所を管理しない者でなければならない。」

制限されているのは「管理」です。院長のまま別の医療機関の管理者に就くには、各号のいずれかに当たるとして知事の許可を受ける必要があります。違反した場合は89条1号で「二十万円以下の罰金」の対象規定に12条が含まれています。

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許可されうる5つの類型

12条2項の各号は次の5つです。

図2: 医療法12条2項:2か所目の管理が許可されうる場合

1号は医師の確保を特に図るべき区域内に開設する診療所、2号は介護老人保健施設その他の厚生労働省令で定める施設に開設する診療所、3号は事業所等に従業員等を対象として開設される診療所、4号は地域における休日または夜間の医療提供体制の確保のために開設される診療所、5号はその他厚生労働省令で定める場合です。

2号の施設は施行規則9条2項で、介護老人保健施設、介護医療院、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、社会福祉法62条1項の社会福祉施設と列挙されています。5号の省令事項は9条3項で、医師の確保を特に図るべき区域に準ずる地域内に開設する診療所を管理する場合であって都道府県知事が適当と認めた場合と、その他都道府県知事が適当と認めた場合の2つです。

申請するのは開設者、問われるのは距離と連絡時間

施行規則9条1項は、許可を受けようとするときは「病院、診療所又は助産所の開設者が」申請書を提出すると定め、記載事項として次の4点を挙げています。

  • 現に管理する施設と新たに管理させようとする施設の名称、所在の場所、診療科名、病床数、従業者の定員
  • 新たに管理させようとする理由
  • 現に管理する施設と新たに管理させようとする施設との距離および連絡に要する時間
  • 12条2項各号のうち該当する規定

距離と連絡時間を書かせている点から、2つの施設の管理が実際に両立するかを見る仕組みであることが読み取れます。分院の院長兼務を打診されたら、どの号に当たる想定なのか、申請を誰がいつ行うのかを開設者側に確認してください。

2023年の事務連絡が示した考え方

厚生労働省医政局総務課は、2023年12月27日付けの事務連絡「複数の診療所の管理について」で、許可がなされる場合を「地域の医療提供体制が不足している場合や、施設の規模・診療時間を鑑みて複数の診療所の管理をしても各診療所の管理が適切になされる場合」と説明しています。そのうえで、1号から4号以外の場合も施行規則9条3項(5号)で特例的に認められること、同項2号では都道府県知事等が適当と認めた場合としていることを周知しました。例として、へき地や医師少数区域等の診療所、地域の専門的な医療ニーズに対応する診療所が挙げられています。

ここから言えるのは、5号の「知事が適当と認めた場合」には幅があり、許可の運用は自治体ごとの判断に委ねられているということです。同じ条件でも自治体によって結論が変わりうるため、事前相談が欠かせません。

「常勤」の中身:通知の変遷

法律に「常勤」の文字はない

医療法の条文には、管理者が常勤でなければならないとは書かれていません。根拠になっているのは行政解釈です。

1954年の「管理者の常勤しない診療所の開設について」(昭和29年10月19日医収第403号)は、富山県からの照会への回答です。近くの病院に勤務する医師を管理者とし、その医師が午前・午後おのおの1時間程度だけ在所するエックス線診療所の開設について、認めることは適当でないとしました。理由として「医療法第十条に規定する病院又は診療所の管理者は、当該病院又は診療所における管理の法律上の責任者であるから、原則として診療時間中当該病院又は診療所に常勤すべきことは当然である」と述べています。

図3: 診療所管理者の「常勤」をめぐる行政解釈の推移

2019年通知で例外が明文化された

2019年9月19日の「診療所の管理者の常勤について(通知)」(医政総発0919第3号・医政地発0919第1号)は、この昭和29年通知のほかに具体的な考え方が示されておらず各都道府県が個別に判断してきたことを踏まえ、次の考え方を示しました。

第一に、診療所の管理者は医療法に規定する管理者の責務を果たす必要があることから、原則として勤務時間中常勤とすること。第二に、へき地や医師少数区域等の診療所、地域の専門的な医療ニーズに対応する役割を担う診療所で常勤の医師を確保することが困難な場合や、管理者となる医師の育児・介護等の家庭の事情により一定期間弾力的な勤務形態を認める必要性が高い場合などには、例外的に常勤でなくとも管理者として認められること。ただしこの場合も、常時連絡を取れる体制を確保するなど、管理者の責務を確実に果たせるようにする必要があるとしています。

通知はさらに、例外的な取扱いを行う診療所(へき地や医師少数区域等の診療所を除く)がある場合、都道府県は医療法30条の18の2第1項に基づく外来医療の提供体制に関する協議の場でその情報を報告するとしています。常勤でない管理者を認めることが、地域の外来医療機能の情報として扱われているわけです。

通知は地方自治法245条の4第1項に基づく技術的助言と明記されています。例外に当たるかを判断するのは開設地の都道府県等です。

2023年事務連絡:「診療時間中」と「勤務時間中」の区別

先ほどの2023年12月27日の事務連絡は、末尾で次の趣旨を添えています。管理者は原則として勤務時間中常勤であり、診療所が定める勤務時間を勤務しなければならず、常時連絡が取れ速やかに対応できる体制を確保する必要があるが、必ずしも診療所の診療時間中常勤である必要はない、という内容です。

昭和29年通知の「診療時間中常勤」から、「診療所が定める勤務時間中常勤」へと基準の置き方が整理されたと読めます。たとえば診療時間が午前9時から午後7時の診療所で、院長の勤務時間を別に定め、それ以外の時間帯は別の医師が診療する形も、責務を果たせる体制があることを前提に想定されていると考えられます。ただし勤務時間をどう定めれば足りるのか、週何時間ならよいのかといった数値基準は、確認した通知・事務連絡には示されていません。

院長が非常勤バイトを続ける場合

12条2項の対象外だが、常勤と責務の側で効いてくる

ここまでを踏まえると、雇われ院長が他の医療機関で外来や当直の非常勤勤務をすること自体は、12条2項の「管理」には当たらないと読むのが条文の文言に沿った解釈です。条文上、許可が要るのは他の施設を管理する場合です。ただし、これは条文の文言からの読み方であり、この点を正面から述べた通知は確認できませんでした。非常勤先で事実上の管理的な役割を担う場合などは、保健所の判断を確認してください。

一方で、院長には診療所が定める勤務時間中の常勤が原則として求められます。非常勤先の勤務がその時間帯と重なれば、常勤の原則と衝突します。また医療法15条1項は、管理者に対し、勤務する医師・薬剤師その他の従業者を監督し、管理及び運営につき必要な注意をすることを義務づけています。不在の時間帯にも連絡がつき、必要な判断ができる体制がなければ、この義務を果たしているとは言いにくくなります。

図4: 他院で働く前の判定フロー(概念図)

よくある3つの組み合わせ

一つ目は、平日は院長として勤務し、土曜や夜間に他院の外来や当直に入る形です。院長としての勤務時間外であれば、常勤の原則とはぶつかりにくい組み合わせです。ただし当直明けで翌日の院長業務に入る場合の労働時間は、別の論点として残ります。

二つ目は、平日の一部を大学病院や前任病院の外勤に充て、残りの日を院長として勤務する形です。院長の勤務時間をどう定めるかで評価が変わります。週の半分近くを不在にする形は、常勤の原則からは説明が難しく、2019年通知の例外に当たる事情があるかを保健所に確認することになるでしょう。

三つ目は、同じ法人の分院の院長を兼ねる形です。これは「勤務」ではなく「管理」の兼任なので、12条2項の許可が必要です。法人内の人事だから届出だけで足りる、という扱いにはなりません。

労働時間の通算と就業規則

雇用契約で院長を務め、別の医療機関とも雇用契約を結ぶ場合は、労働基準法38条1項により事業場を異にする場合も労働時間が通算されます。医師の時間外労働の上限規制のもとでは、兼業先の時間も含めて管理されるのが原則です。兼業を受け入れる医療機関側の手順は 兼業医師の労働時間管理 で整理しています。

また、院長として雇われる法人の就業規則に兼業の許可制や届出制が置かれていることがあります。打診の段階で「外勤は続けてよい」と言われていても、書面に残っていなければ後から問題になりえます。オンライン診療の非常勤を検討している場合は オンライン診療バイトの注意点 もあわせて確認してください。

2026年4月からの保険医療機関の管理者要件

健康保険法70条の2

2026年4月1日に施行された健康保険法70条の2第1項は、保険医療機関の管理者は保険医であること、臨床研修修了後に保険医療機関(病院に限る)で保険医として3年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者であることを求めています。第2項は、管理者が従業者を監督し、管理及び運営につき必要な注意をしなければならないと定めます。医療法15条とほぼ同じ構造の義務が、保険診療の側にも置かれたことになります。

図5: 保険医療機関の管理者の要件(2026年4月施行)

厚生労働省の案内ページによると、2026年4月1日時点で臨床研修を終えている医師は、臨床研修期間を含め、病院または診療所において3年以上保険診療やその他の業務に従事した経験があればよいとされています。まだ研修を終えていない医師は、修了後に病院で3年以上保険診療に従事した経験が必要です。キャリア形成プログラムの適用者、日本専門医機構の専門医、公務員として5年以上の勤務経験がある者などにも別の道が設けられています。

経験に数える勤務の基準

同じページでは、3年の経験は週4日以上常態として勤務し、かつ所定労働時間が週31時間以上であることを基本とし、1か月単位で判断するとしています。配慮措置として、医局や法人の人事の都合で1週間に複数の保険医療機関で勤務する場合は「1つの保険医療機関において週2日以上常態として勤務、かつ、勤務する保険医療機関における診療に従事する時間の合計が週31時間以上」、育児・介護で所定労働時間が短縮された場合は週30時間以上のみ、とされています。

これは院長になる前の経験年数の数え方であり、院長に就任した後の勤務時間の基準ではありません。ただ、非常勤中心の働き方を続けてきた医師は、経験年数が要件に届いているかを就任前に確認する必要があります。

経過措置と責務違反の帰結

2026年4月1日時点で管理者である医師は、同一の保険医療機関の管理者である限り、3年間は引き続き管理者でいられます。別の医療機関に移って院長になる場合は経過措置の外になるため、新しい要件で判断されます。

厚生労働省のページは、管理者が故意または重大な過失により責務を怠り、不正または不当な診療または診療報酬の請求が行われた場合は、管理者の保険医の資格を取り消すことがあり得るとしています。院長の責任と契約上の負担の分け方は 雇われ院長の責任とリスク で詳しく扱っています。

開設者が医師の場合の12条1項

個人開設のクリニックで、開設者である医師が別の医師を院長に据える場面もあります。12条1項は、開設者が管理者となることができる者である場合は自ら管理しなければならず、所在地の知事の許可を受けた場合に限り他の者に管理させることができると定めています。

承継の過渡期に前院長が開設者のまま残り、新しい医師が院長を務めるような形では、この許可が取られているかを確認してください。施行規則8条の申請書には、許可の事由と、管理者にしようとする者の住所・氏名と、臨床研修修了登録証などの写しを添えることになっています。

よくある3つの誤解

誤解1「院長は他院で一切働けない」:条文上の制限は12条2項の「管理」の兼任です。院長の勤務時間外に他院で外来や当直に入ることを直接禁じる規定は、確認した範囲の医療法・施行規則には見当たりません。問題になるのは、その勤務が院長としての常勤や監督義務と両立するかどうかです。

誤解2「診療時間中はずっと院内にいなければならない」:昭和29年通知は「診療時間中」常勤としていましたが、2023年の事務連絡は、診療所が定める勤務時間を勤務し、常時連絡が取れ速やかに対応できる体制を確保することを前提に、必ずしも診療時間中常勤である必要はないとしています。ただし、勤務時間の定め方が実態に合っているかは保健所の確認対象になりえます。

誤解3「同じ法人の分院なら院長を兼ねられる」:12条2項は開設者が同じかどうかで区別していません。同一法人の分院でも、2か所目を管理するなら許可が必要です。施行規則9条1項で申請者が開設者とされているのは、施設の配置と管理体制を決めるのが開設者だからと考えられます。

就任前に確認する7項目

図6: 院長就任・兼業の前に確認する7項目

1. 臨床研修修了登録:医師法16条の6の登録を受けているか。登録証の所在。

2. 保険医療機関の管理者要件:経験3年の数え方に照らして要件を満たしているか。施行時点で研修を修了していたかで基準が変わります。

3. 院長としての勤務時間:診療時間とは別に、院長の勤務時間が何曜日の何時から何時と定められるのか。

4. 管理の兼任:分院長などを兼ねる予定があるなら、12条2項のどの号に当たる想定か、申請者と時期。

5. 非常勤先との時間の重なり:外勤や当直の日時が院長の勤務時間と重ならないか。

6. 不在時の体制:常時連絡が取れる手段と、不在時に診療する医師の名前を書面で決めたか。

7. 契約と就業規則:兼業の許可・届出の定め、労働時間の通算を誰がどう管理するか。

このうち3と6は、口頭で「柔軟にやってもらえれば」と言われやすい部分です。保健所への届出や立入検査で説明を求められるのは管理者本人であることを前提に、書面で確認しておくことをおすすめします。

まとめ:禁止されているのは「管理の兼任」、問われるのは常勤と責務

医療法12条2項が禁じているのは、許可なく2か所以上を管理することです。院長が他院で非常勤として働くこと自体は条文上の制限の対象ではありません。ただし行政解釈では管理者は原則として勤務時間中常勤とされ、2023年の事務連絡で「診療時間中」ではなく「診療所が定める勤務時間中」と整理されました。さらに2026年4月からは、保険医療機関の管理者にも要件と責務が置かれています。

院長を引き受ける前に、自分の勤務時間がどう定められるのか、不在時に誰が診療するのかを確認し、判断に迷う点は開設地の保健所に事前相談してください。開業や独立の時期を考えている場合は 医師の独立のタイミング も参考になります。

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参考資料

  • 医療法(昭和23年法律第205号)第7条・第10条・第12条・第15条・第89条(e-Gov法令API、2026年11月1日取得)
  • 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第7条の2・第8条・第9条(e-Gov法令API、2026年11月1日取得)
  • 医師法(昭和23年法律第201号)第16条の2・第16条の6(e-Gov法令API、2026年11月1日取得)
  • 健康保険法(大正11年法律第70号)第70条の2、労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条(e-Gov法令API、2026年11月1日取得)
  • 厚生省医務局長「管理者の常勤しない診療所の開設について」昭和29年10月19日医収第403号
  • 厚生労働省医政局総務課長・地域医療計画課長「診療所の管理者の常勤について(通知)」令和元年9月19日医政総発0919第3号・医政地発0919第1号
  • 厚生労働省医政局総務課 事務連絡「複数の診療所の管理について」令和5年12月27日
  • 厚生労働省「保険医療機関の管理者の要件・責務について」