住宅ローン控除(正式には住宅借入金等特別控除)は、年末のローン残高の0.7%を所得税から差し引く制度です。令和8年度税制改正で、入居期限が令和12年12月31日まで5年延びました。一方で、この控除には「その年の合計所得金額が2,000万円以下」という要件があります。勤務医でも、常勤先の給与に外勤や当直のアルバイトを足すと、この線を越える年は珍しくありません。
この記事では、給与収入から合計所得金額を計算して「どこから控除がゼロになるか」を示し、夫婦の名義の分け方で13年間の控除額がどう変わるかを試算します。根拠は国税庁タックスアンサー(No.1211-1、No.1410、No.1411、No.2665)と質疑応答事例、国土交通省の公表資料で、いずれも2026年10月20日に本文を開いて確認しました。個別の購入判断や名義の決め方を助言するものではありません。
先に答え: 給与収入2,195万円を超えると、その年の控除はゼロ
国税庁No.1211-1は、新築等の住宅について控除を受けるための共通要件の一つに、「この特別控除を受ける年分の合計所得金額が、2,000万円以下であること」を挙げています。判定は年ごとです。ある年に2,000万円を超えればその年分は受けられず、翌年に2,000万円以下へ戻れば、その年分から再び受けられます。
給与だけの人なら、境目は計算で出せます。国税庁No.1410によると、給与収入が850万円を超えると給与所得控除は上限の195万円で頭打ちになります。令和8年度改正で給与所得控除の最低額は74万円に引き上げられましたが(令和8年12月1日施行、令和8年分・9年分に適用)、上限195万円は変わっていません。したがって次のようになります。
- 給与所得 = 給与収入 − 195万円(収入850万円超の場合)
- 給与所得が2,000万円になる給与収入 = 2,000万円 + 195万円 = 2,195万円
つまり、常勤先と外勤先の源泉徴収票の支払金額を合計して2,195万円を超えると、他に所得がなくても、その年の住宅ローン控除はゼロになります。No.1410には「同一年分の給与所得の源泉徴収票が2枚以上ある場合には、それらの支払金額の合計額により」表を適用するとあり、外勤先の分も合算されます。
境目が上にずれる人もいます。国税庁No.1411の所得金額調整控除です。給与収入が850万円を超え、23歳未満の扶養親族がいる場合などは、(給与収入(1,000万円が上限) − 850万円) × 10%が給与所得から差し引かれます。給与収入が1,000万円以上なら15万円です。この控除が使える人の境目は、2,195万円 + 15万円 = 2,210万円になります。なお、この控除は扶養控除と違い、夫婦の双方が要件を満たせば双方が受けられるとNo.1411に明記されています。
「合計所得金額」には給与以外も入る
2,000万円の判定に使うのは、給与所得ではなく「合計所得金額」です。国税庁の専門用語集は、合計所得金額を、事業所得・不動産所得・給与所得・総合課税の雑所得などの合計に、退職所得金額と山林所得金額を加え、さらに申告分離課税の所得がある場合はその金額(長期・短期譲渡所得は特別控除前の金額)を加えたもの、と説明しています。
医師の場合、次の所得が判定を押し上げる可能性があります。
- 講演料・原稿料・産業医報酬など、給与以外で受け取る報酬(雑所得や事業所得)
- 投資用不動産の不動産所得
- 株式や投資信託を特定口座で売却した利益(申告分離課税で申告した場合)
- 不動産を売った年の譲渡所得(特別控除前の金額で算入)
- 退職金を受け取った年の退職所得
5番目は見落とされやすい点です。用語集の注記では、退職所得金額は確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があるとされています。医局人事で病院を移った年や、開業のために勤務先を辞めた年は、退職所得の分だけ合計所得金額が増えます。4番目も同様で、自宅を買い替えて旧居を売った年は、譲渡所得の扱いを個別に確認する必要があります。
逆に、合計所得金額は控除の前の金額なので、iDeCoの掛金(小規模企業共済等掛金控除)やふるさと納税(寄附金控除)、医療費控除といった所得控除では下がりません。所得控除は合計所得金額を出した後に差し引くものだからです。「節税をしたから2,000万円以下になる」とは限らない点は押さえておいてください。
数字で見る境目: 給与収入別の合計所得金額
給与のほかに所得がない人について、No.1410の速算(収入850万円以上は「収入金額 − 195万円」)で計算すると次のようになります。所得金額調整控除の適用はないものとしています。
| 給与収入(全勤務先の合計) | 合計所得金額 | その年の控除 |
|---|---|---|
| 2,000万円 | 1,805万円 | 受けられる |
| 2,100万円 | 1,905万円 | 受けられる |
| 2,195万円 | 2,000万円 | 受けられる |
| 2,200万円 | 2,005万円 | 受けられない |
| 2,300万円 | 2,105万円 | 受けられない |
この境目には段差があります。控除額は所得に比例して減るのではなく、2,000万円を1円でも超えると全額がなくなります。たとえば常勤先の給与が2,150万円の医師が、年末に当直のアルバイトを60万円分追加したとします。給与収入は2,210万円、合計所得金額は2,015万円になり、後述の試算と同じ前提(認定住宅・特例対象個人で年末残高等5,000万円以上)なら、その年の控除35万円がなくなります。手取りで見ると、追加した60万円から所得税・住民税を引いた額より、失う控除のほうが大きくなることもありえます。外勤の量は収入だけで決めるものではありませんが、年末が近づいたら合計所得金額の見込みを一度計算しておくと、判断の材料になります。
退職金を受け取る年の計算例
退職所得は、国税庁No.1420によると原則として「(収入金額 − 退職所得控除額) × 1/2」で計算します。退職所得控除額は勤続20年以下なら「40万円 × 勤続年数」(80万円未満なら80万円)です。
医師に関係が深いのは、勤続5年以下の「短期退職手当等」の扱いです。No.1420では、退職金から退職所得控除額を引いた額のうち300万円を超える部分には、2分の1の計算が適用されないとされています。数年ごとに病院を移る勤務医では、この規定に当たる退職金が出ることがあります。
計算例を示します。勤続4年で退職金400万円を受け取った場合、退職所得控除額は160万円、差し引き240万円で300万円以下なので、退職所得は120万円です。この年の給与収入が2,100万円なら、合計所得金額は1,905万円 + 120万円 = 2,025万円となり、2,000万円を超えます。給与だけなら控除を受けられた年でも、退職金で線を越えることがあるわけです。
その年に控除を受けられるかの判定順
国税庁No.1211-1の共通要件は、床面積と所得の組み合わせになっています。
- 床面積50平方メートル以上: その年の合計所得金額が2,000万円以下
- 床面積40平方メートル以上50平方メートル未満(特例居住用家屋・特例認定住宅等): その年の合計所得金額が1,000万円以下
国土交通省は、令和8年度改正の概要として、40平方メートル以上への床面積要件の緩和を既存住宅にも広げたうえで、「合計所得金額1,000万円超の者及び子育て世帯等への上乗せ措置利用者は50㎡以上」と説明しています。都心のコンパクトなマンションを検討している医師で、合計所得金額が1,000万円を超える人は、40平方メートル台の物件では控除の対象になりません。
もう一つ押さえておきたいのが、控除期間との関係です。No.1211-1の表は、控除期間を居住の用に供した年から数える形で示しています。2,000万円を超えて受けられなかった年があっても、その分だけ期間が後ろに延びるわけではありません。13年の控除期間のうち3年が2,000万円超なら、実際に控除を受けられるのは10年分です。
令和8年度改正で何が変わったか(施行済みの内容)
国土交通省の報道発表(令和7年12月26日)によると、住宅ローン減税を含む住宅関連税制の改正は令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれ、関連税制法は令和8年3月31日に国会で成立しています。主な内容は次のとおりです。
- 適用期限を5年延長し、令和8年1月1日から令和12年12月31日までの入居を対象とする
- 省エネ性能の高い既存住宅について、借入限度額を引き上げ、子育て世帯・若者夫婦世帯への上乗せを設け、控除期間を13年に拡充する
- 床面積40平方メートル以上への緩和を既存住宅にも適用する(合計所得金額1,000万円超の者と上乗せ措置の利用者は50平方メートル以上)
- 令和10年以降に建築確認を受ける省エネ基準適合住宅は対象外とする(登記簿上の建築日付が令和10年6月30日までのものは対象)
- 令和10年以降の入居では、災害レッドゾーンの新築住宅を対象外とする(建替え・既存住宅・リフォームは対象)
合計所得金額2,000万円以下という要件は、この改正後も国税庁No.1211-1の共通要件に残っています。改正で所得制限が緩んだわけではありません。
新築等の場合の年間の控除上限は、国税庁No.1211-1の表で次のように整理されています。各年の控除額は「年末残高等 × 0.7%」で、表の金額が上限です。
表の「特例対象個人」は、No.1211-1で「年齢40歳未満であって配偶者を有する者、年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者または年齢19歳未満の扶養親族を有する者」と定義されています。判定は居住年の12月31日の現況です。初期研修を終えて結婚し、30代で住宅を買う医師夫婦の多くはここに当たります。たとえば認定住宅なら上限が31.5万円から35万円に上がり、借入限度額に換算すると4,500万円から5,000万円になります。
省エネ基準適合住宅の上限は、令和6・7年入居の21万円(特例対象個人28万円)から、令和8・9年入居では14万円(同21万円)に下がっています。「省エネ基準を満たすだけ」の新築を選ぶか、ZEH水準や認定住宅にするかで、上限は最大で倍以上違います。
夫婦の名義で控除額はどう変わるか(試算)
医師夫婦では、片方の合計所得金額が2,000万円を超え、もう片方は超えない、という組み合わせがよくあります。この場合、ローンをどちらの名義で組むかで、控除の総額が大きく変わります。
試算の前提
数字はすべて説明用の計算値です。実際の控除額は、借入額、金利、返済方法、物件の区分、毎年の所得で変わります。
- 夫: 給与収入2,400万円(合計所得金額2,205万円、13年間ずっと2,000万円超と仮定)
- 妻: 給与収入1,200万円(合計所得金額1,005万円)
- 令和8年に入居、新築の認定住宅、夫婦とも特例対象個人に当たる(年間上限35万円、借入限度額5,000万円)
- 借入6,000万円、金利1.0%、35年の元利均等返済。年末残高は毎月返済で計算
- 各人の所得税と住民税から、計算した控除額を引き切れると仮定
試算結果
| パターン | 夫の控除(13年) | 妻の控除(13年) | 合計 |
|---|---|---|---|
| A 夫が単独で6,000万円 | 0円 | — | 0円 |
| B 妻が単独で6,000万円 | — | 約430万円 | 約430万円 |
| C ペアローン 夫3,000万・妻3,000万 | 0円 | 約225万円 | 約225万円 |
| D ペアローン 夫4,000万・妻2,000万 | 0円 | 約150万円 | 約150万円 |
Bでは、年末残高が5,000万円を上回る最初の数年は上限の35万円、その後は残高 × 0.7%で計算しています。6,000万円の借入でも、限度額5,000万円を超える部分は控除の計算に入りません。
この結果だけを見ると「所得の低い方の名義にすればよい」と読めますが、そう単純ではありません。注意点を3つ挙げます。
第一に、名義と実際の負担の関係です。ローンの名義人でない配偶者が実質的に返済したり、持分を超えて資金を出したりすると、贈与税の問題が生じる余地があります。控除額の大小だけで名義を決めるのではなく、持分・借入・返済の実態をそろえる必要があります。
第二に、所得の変化です。夫の所得が最初の数年は2,000万円以下で、途中から超える場合を考えます。夫が単独で6,000万円を借り、6年目までは2,000万円以下、7年目から超えたとすると、控除は1〜6年目の35万円 × 6年 = 210万円で止まります(上の前提での計算値)。妻の側も、常勤への復帰や外勤の増加で合計所得金額が上がれば、同じ問題が起きます。
第三に、税額の上限です。控除は所得税から引き、引き切れない部分は住民税から引きます。住民税側には上限があり、鹿児島市の案内では、令和4年1月から令和7年12月までに入居した人の住民税からの控除限度額は、所得税の課税総所得金額等の5%(最高97,500円)です。令和8年以降の入居分の住民税の上限は、本稿では一次資料を確認できていないため、お住まいの市区町村の案内で確認してください。妻が育児休業などで収入が大きく下がる年は、所得税額が小さくなり、控除を引き切れない可能性があります。
連帯債務とペアローンの違い
夫婦で借りる方法には、2本のローンを組むペアローンと、1本のローンを2人で負う連帯債務があります。No.1211-1は、連帯債務がある場合に「(付表)連帯債務がある場合の住宅借入金等の年末残高の計算明細書」が必要になると案内しています。連帯債務では、各人が負担する部分の年末残高を計算して申告する仕組みです。
一方、国税庁の質疑応答事例「連帯債務により家屋を取得し単独所有とした場合の借入金の額の計算」では、夫婦の連帯債務で借りても家屋が夫の単独所有なら、原則として借入金の総額が夫の控除の対象になる、という回答が示されています。登記の持分と債務の形によって結論が変わるため、契約前に金融機関の書類と登記の予定を並べて確認することをおすすめします。
年末調整で受けられる年、受けられない年
給与所得者は、控除を受ける最初の年分は確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で受けられます(No.1211-1)。勤務先には、税務署から届く「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関の年末残高等証明書を出します。
ただし、国税庁No.2665によると、1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人は、年末調整の対象から除かれます。給与収入が2,000万円を超えて2,195万円以下の人は、合計所得金額は2,000万円以下なので控除は受けられますが、年末調整ではなく確定申告で受けることになります。常勤先1か所で年末調整を受け、外勤分を合わせて確定申告している医師なら、住宅ローン控除も確定申告書の中で計算します。
また、年末調整で控除を受けた後に外勤収入や雑所得が判明し、合計所得金額が2,000万円を超えたとわかった場合は、確定申告で精算する必要があります。年末調整は勤務先が把握している給与だけで計算するため、外勤や講演料まで含めた判定は本人が行うことになります。
医師から出やすい3つの疑問
開業して事業所得に変わったら、判定はどうなるか。 合計所得金額は、事業所得なら収入から必要経費などを差し引いた後の所得の金額で計算します。給与所得のように一律の195万円の控除ではないため、同じ売上や報酬でも合計所得金額は経費の額によって変わります。勤務医時代に住宅を買い、数年後に開業する予定があるなら、開業後の所得見通しも控除の13年に関わります。
医局人事で単身赴任になったら、控除は続くか。 No.1211-1の共通要件には、「この特別控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること」があります。本人が転居した場合の取扱いは、家族が住み続けるかどうかなどで変わりうるため、異動が決まった段階で税務署の案内を確認してください。医師は異動の可能性が他職種より高いので、購入前から意識しておきたい要件です。
2,000万円を超えた年は、何も手続きしなくてよいか。 その年は控除を受けないので、控除の申告は不要です。ただし翌年に2,000万円以下へ戻ったときに再び申告できるよう、金融機関から届く年末残高等証明書は毎年保管しておくのが確実です。年末調整用の証明書(税務署から送られてくる控除証明書)も、使わなかった年の分を捨てないようにしてください。
購入前に確認しておきたいこと
ここまでの内容を、購入前の確認項目にまとめます。
特に、今後数年の所得の見通しは重要です。専門医取得後の昇給、外勤の増加、医局人事での異動と退職金、開業準備など、医師のキャリアでは合計所得金額が大きく動く年があります。住宅ローン控除の13年は、その変化をまたぐ長さです。物件の区分(認定住宅・ZEH水準・省エネ基準適合)、床面積、名義の組み方は、購入後に変えにくい項目です。
関連する記事として、住宅ローンの審査で医師がどう見られるかは医師の住宅ローン審査、夫婦ともに働く医師の税金の考え方は医師夫婦の共働きと税金、年収2,000万円を超えたときの申告は年収2,000万円の医師の確定申告、よくある誤解は勤務医の節税の誤解で扱っています。
まとめ: 所得の見通しと名義を先に決めてから物件を選ぶ
- 住宅ローン控除は、その年の合計所得金額が2,000万円を超えると、その年分はゼロになる。給与だけなら給与収入2,195万円が境目(所得金額調整控除の対象者は2,210万円)
- 合計所得金額には外勤・講演料・不動産所得・株式の売却益・退職所得も入る。iDeCoなどの所得控除では下がらない
- 受けられなかった年があっても控除期間は延びない
- 令和8年度改正で入居期限は令和12年末まで延長された。所得要件は変わっていない
- 夫婦で所得に差がある場合、名義と持分の組み方で13年間の控除額は大きく変わる(試算では0円から約430万円)。ただし名義は返済の実態とそろえる
税額の計算や名義の判断は、ご自身の所得と物件の条件で個別に確かめてください。
参考資料
- 国税庁 タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
- 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.1411「所得金額調整控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁 タックスアンサー No.2665「年末調整の対象となる人」
- 国税庁 タックスアンサー 専門用語集「合計所得金額」
- 国税庁 質疑応答事例「連帯債務により家屋を取得し単独所有とした場合の借入金の額の計算」
- 国土交通省 報道発表資料「住宅ローン減税等の延長・拡充が閣議決定されました!」(令和7年12月26日、令和8年4月追記)
- 国土交通省「住宅ローン減税」
- 鹿児島市「個人住民税(市民税・県民税)からの住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)」
