医師の行政処分は、報道で見かけても自分には縁がないものと感じやすい制度です。ただ、交通事故や院外での言動、診療報酬の請求など、日常の延長線上にある出来事が処分の対象になることもあります。この記事では、医師法の条文と、厚生労働省の医道審議会医道分科会が定めた「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」を原文で確認し、どのような行為がどの程度の処分につながるのか、処分までにどのような手続きを踏むのかを順に整理します。直近の処分件数も、厚労省が公表している議事要旨の実数で示します。個別の事案の見通しは、必ず弁護士に相談することが前提です。
先に結論:処分の重さは「刑事処分の量刑」を起点に、医師としての倫理で加重される
医道分科会の「行政処分の考え方」は、処分内容の決定にあたり「司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本」とすると書いています(医道審議会医道分科会、平成31年1月30日改正版。2026年10月9日時点で厚生労働省サイトに掲載されている版を確認し、令和以降の改正は確認できませんでした)。そのうえで、医師に求められる倫理に反すると判断される行為は、これを考慮して厳しく判断するという構造です。
つまり、処分の重さを決める軸は二つあります。一つは刑事手続きでどのような判決が出たか。もう一つは、その行為が医師という立場や診療の機会を利用したものか、医療の非営利性に反するものかという倫理上の評価です。同じ罪名でも、診療の場で立場を利用した場合は重くなります。
処分の種類は医師法7条1項が定める三つに限られます。条文は「医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる」とし、「戒告」「三年以内の医業の停止」「免許の取消し」を列挙しています(医師法・e-Gov 法令API 原文)。条文の文言は「できる」であり、該当すれば必ず処分されるという規定ではありません。処分するかどうか、どの程度にするかは、医道審議会の意見を聴いたうえで大臣が判断します(同条3項)。
処分の対象になる入口:医師法4条と7条1項
7条1項が処分の入口として挙げるのは、4条各号に該当する場合と、「医師としての品位を損するような行為」があった場合です。4条は免許の相対的欠格事由を定めた条文で、各号は次のとおりです(医師法4条・原文)。
- 一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
- 二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
- 三 罰金以上の刑に処せられた者
- 四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
実務上の件数が多いのは3号の「罰金以上の刑に処せられた者」です。条文は罰金と懲役等を区別していないため、本人の感覚では「罰金を払って終わった」出来事でも、医師法上は処分の入口に該当します。後述の答申を見ると、道路交通法違反や過失運転致傷が処分理由として繰り返し現れます。
4号は、刑事罰に至らなくても「医事に関し」犯罪または不正の行為があれば対象になるという規定です。さらに「行政処分の考え方」は、医事に関する犯罪について、刑の言渡しが効力を失った後であっても4号に該当するものとして「当然に処分の対象となる」と明記しています。執行猶予期間が満了したから無関係になる、という理解は医師法上は成り立ちません。
事案の類型ごとに見る処分の考え方
「行政処分の考え方」は、事案別に15の類型を挙げています。ここでは勤務医に関わりやすいものを中心に、原文の趣旨を要約します。
なお、考え方の「はじめに」は、行政処分の根拠を「医師法第7条第2項」と記載しています。一方、e-Gov で確認できる現行の医師法では、処分の種類は7条1項に置かれ、7条2項は再免許の規定です。考え方の本文を読むときは、条番号が現行法とずれている点に注意が必要です。
考え方の「基本的考え方」は、倫理に反する行為を五つの観点で整理しています。業務上当然に負うべき義務(応招義務や診療録に真実を記載する義務を含む)を果たしていないこと、医療を提供する機会や医師の身分を利用した行為、業務外での他人の生命・身体を軽んずる行為、医業における不正な利潤追求、医事に関する犯罪です。以下の類型別の考え方は、この五つの観点の当てはめとして読むと理解しやすくなります。
交通事犯:基本は戒告等、ただし悪質なものは別
自動車等による業務上過失致死傷等について、考え方は、医師に限らず不慮に犯し得る行為であり、医師の業務と直接の関連性はなく、品位を損する程度も低いとして、「基本的には戒告等の取り扱いとする」としています。ただし、救護義務を怠ったひき逃げ等の悪質な事案は行政処分の対象とし、医師としての倫理が欠けていると判断される場合は重めの処分とするとしています。
後述する直近の答申を見ると、過失運転致傷や道路交通法違反で医業停止数か月から1年6月、危険運転致死傷で医業停止3年といった処分が並んでいます。「交通事犯は戒告で済む」と単純化はできず、事案の内容によって幅があると理解しておくのが妥当です。
医療過誤:刑事事件にならなくても対象になりうる
医療過誤(業務上過失致死傷等)について、考え方は、処分の程度は基本的に司法処分の量刑などを参考に決めるとしつつ、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、通常求められる注意義務が欠けている事案は重めの処分とするとしています。同時に、病院の管理体制、医療体制、他の医療従事者の注意義務の程度、生涯学習に努めていたかなども考慮して処分の程度を判断すると書いています。
個人の過失だけでなく、組織の体制も考慮要素に入る点は重要です。また「はじめに」の部分では、刑事事件とならなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などは処分の対象として取り扱うとしています。ただし、後述の公表件数を見る限り、医療過誤を理由とする処分は全体の中では少数です。
診療報酬の不正請求:金額の多寡にかかわらず一定の処分
診療報酬の不正請求により保険医等の登録取消処分を受けた医師について、考え方は、健康保険法に基づく処分とは別に医師法による行政処分を行うとしています。そして処分の程度は、不正請求を行ったという事実に着目し、「不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とする」と書いています。特に悪質性の高い事案は考慮するとしたうえで、健康保険法等の検査を拒否して保険医の取消を受けた事案は、より重い処分とするとしています。
勤務医にとっての含意は、請求事務を医事課任せにしていても、自分の名前で行った診療の請求内容には責任が及びうるということです。保険医の登録取消と医師法上の処分は、別の手続きとして二重にかかります。
わいせつ行為:診療の機会を利用したものは重い処分
わいせつ行為について、考え方は、医師としての社会的信用を失墜させ、人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為であるとし、特に診療の機会に医師としての立場を利用した行為は「国民の信頼を裏切る悪質な行為であり、重い処分とする」としています。後述の答申でも、免許取消の理由として強制わいせつ・不同意わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反などが繰り返し現れます。
詐欺・文書偽造・税法違反:立場を利用したかどうかで重さが変わる
詐欺・窃盗、文書偽造、税法違反の各類型について、考え方は、いずれも医師の業務に直接関わる事犯ではないものの、品位を損ない信頼感を喪失させるとして処分の対象にしています。そのうえで、虚偽の診断書の作成・交付など医師の立場を利用した事犯は重い処分、診療収入に係る脱税など医業に係る事案は重めの処分としています。
ここで考え方の基本に置かれているのは、医業の非営利原則です。考え方は、医業を行うにあたり自己の利潤を不正に追求する行為は厳正な処分の対象となり、経済的利益を求めた不正は業務と直接の関係がなくても当然に処分の対象になるとしています。副業や院外の収入の申告漏れも、この文脈で見られる可能性があります。副業の収入と勤務先・税務の関係は、医師の副業は勤務先にばれるのかで整理しています。
その他の類型
このほか考え方は、医師法違反(無資格医業の共犯、無診察治療等)、医療関係職種の身分法違反、医療法違反、医薬品医療機器等法(考え方の原文では旧名称の薬事法)違反、麻薬・覚醒剤・大麻関係法違反、再生医療等安全性確保法違反、殺人・傷害、贈収賄、指定医の指定取消の理由となった行為を挙げています。医師法・医療法・身分法違反は、医療に関する基本的な法令に医師自らが違反したものとして重い処分とする、という整理です。
オンライン診療のアルバイトでは、医師法20条との関係が論点になります。同条は、医師は自ら診察しないで治療をし、診断書や処方せんを交付してはならないと定める禁止規定(義務)であり、努力義務ではありません。働き方の注意点はオンライン診療バイトの始め方と注意点にまとめています。
処分までの手続き:意見の聴取と弁明の聴取は別物
処分の種類によって、本人が言い分を述べる手続きが異なります。ここは条文の構造をそのまま確認しておく価値があります。
**免許取消の場合は「意見の聴取」**です。医師法7条4項は、大臣が免許の取消処分をしようとするときは、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め、それをもって大臣による聴聞に代えることができると定めます。5項で行政手続法の聴聞の規定(第3章第2節、一部を除く)が準用されます。
**医業停止の場合は「弁明の聴取」**です。7条10項は、医業の停止の命令をしようとするときは、都道府県知事に弁明の聴取を求め、それをもって大臣による弁明の機会の付与に代えることができると定めます。12項により、医道審議会の委員に弁明の聴取を行わせることもできます。
弁明の聴取の通知について、11項は、聴取の日時までに相当な期間をおいて、処分の根拠と内容、処分の原因となる事実、弁明の聴取の日時・場所を書面で通知しなければならないとしています。13項は、通知を受けた者は「代理人を出頭させ、かつ、証拠書類又は証拠物を提出することができる」と定めます。弁護士を代理人とし、反省の状況や再発防止の取り組み、勤務先の評価などを資料として出せる、ということです。
聴取を行った知事や医道審議会委員は、聴取書と報告書を作成して大臣に提出し、処分についての意見があれば報告書に記載しなければなりません(14項)。そのうえで、7条3項により大臣は医道審議会の意見を聴いて処分を決めます。
調査の権限:診療録の提出命令や立入検査もある
7条の3は、処分をすべきか否かを調査する必要があると認めるとき、大臣は事案の関係者や参考人から意見や報告を徴し、診療録その他の物件の提出を命じ、職員に病院等へ立ち入らせて検査させることができると定めます。同条3項は、この立入検査の権限は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」としています。刑事手続きとは別の、行政処分のための調査という位置づけです。
公表資料で見る処分の実数:2024年11月から2026年7月の6回
厚生労働省は医道審議会医道分科会の議事要旨で、諮問された人数、処分の答申人数、行政指導(厳重注意)の人数、処分の内訳と罪名を公表しています。以下は議事要旨に記載された医師分の実数です(歯科医師分は除いています)。表の「処分」は医師法7条1項の処分の件数で、「厳重注意」は処分ではなく行政指導の人数です。
| 開催日 | 諮問 | 処分 | 免許取消 | 医業停止 | 戒告 | 厳重注意 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024年11月27日 | 20名 | 14件 | 2件 | 11件 | 1件 | 6名 |
| 2025年3月19日 | 24名 | 17件 | 2件 | 14件 | 1件 | 7名 |
| 2025年8月6日 | 20名 | 12件 | 1件 | 7件 | 4件 | 8名 |
| 2025年12月3日 | 22名 | 16件 | 1件 | 12件 | 3件 | 6名 |
| 2026年2月4日 | 24名 | 16件 | 3件 | 13件 | 0件 | 8名 |
| 2026年7月15日 | 12名 | 8件 | 4件 | 3件 | 1件 | 4名 |
医業停止の件数は、議事要旨が期間別(医業停止3年、2年、3月など)に記載している件数を合計したものです。
2025年に開かれた3回(3月・8月・12月)を合計すると、医師の諮問は66名、処分の答申は45件で、内訳は免許取消4件、医業停止33件、戒告8件でした。このほか21名が行政指導(厳重注意)です。厳重注意は医師法7条1項の処分(戒告・医業停止・免許取消)ではなく、処分に至らなかった者に対する行政指導であり、上の表でも処分件数とは別の列に分けています。諮問されても処分に至らず厳重注意となる例が一定数あることが分かります。
罪名から見える傾向
議事要旨に並ぶ罪名を読むと、全体像がつかめます。6回分の医師の処分83件のうち、罪名に業務上過失致死または業務上過失傷害を含むものは3件、診療報酬不正請求を含むものは1件でした。数として目立つのは、過失運転致傷・道路交通法違反などの交通関係、迷惑行為防止条例違反や児童買春・児童ポルノ禁止法違反などの性的な事犯、詐欺・窃盗、麻薬・覚醒剤・大麻関係の事犯です。
医療過誤が処分理由になる例は、公表された件数の上では少数です。勤務医にとって現実的なリスクは、診療そのものよりも、交通事犯や業務外での言動、金銭に関わる不正にあると言えます。処分の多くが罰金以上の刑を入口にしていることを考えると、刑事手続きの段階で弁護士に相談することが、行政処分の見通しにも直結します。
処分の後:再教育研修と再免許
再教育研修は戒告・医業停止を受けた医師に命じられうる
医師法7条の2第1項は、大臣は戒告または医業停止の処分を受けた医師、または再免許を受けようとする者に対し、「医師としての倫理の保持又は医師として具有すべき知識及び技能に関する研修として厚生労働省令で定めるもの」を受けるよう命ずることができると定めます。これが再教育研修です。
医師法施行規則7条は、研修の種類を倫理研修と技術研修の二つと定めています。大臣が行う団体研修の手数料は規則8条で、戒告処分を受けた者が4,300円、1年未満の医業停止処分を受けた者が8,600円、それ以外が44,800円です。団体研修以外の個別研修では、助言指導者の協力を得て個別研修計画書を作成し、研修開始の30日前までに提出する必要があります(規則9条)。
修了すると、申請により再教育研修を修了した旨が医籍に登録され、再教育研修修了登録証が交付されます(法7条の2第2項・3項)。医業停止の期間が明けても、研修命令を受けていれば修了まで手続きは続く、と理解しておく必要があります。
再免許には「5年」の制約がある
免許取消を受けた後の再免許について、7条2項は、取消の理由となった事項に該当しなくなったときその他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至ったときは、再免許を与えることができると定めます。ただし括弧書きで、4条3号・4号に該当し、または品位を損する行為があった者として取消処分を受けた者については、「その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く」としています。
罰金以上の刑や品位を損する行為で取り消された場合、少なくとも処分の日から5年は再免許の対象になりません。5年を過ぎれば自動的に戻るわけでもなく、「再び免許を与えるのが適当である」と認められる必要があり、医道審議会の意見も聴かれます(7条3項)。2024年11月27日、2025年12月3日、2026年2月4日の議事要旨には、いずれも元医師1名の再免許について諮問がなされ、再免許が適当である旨の答申はなされていないと記載されています。
勤務医として押さえておく実務上の論点
刑事手続きと行政処分は連動する。罰金以上の刑は4条3号の入口になり、考え方も刑事処分の量刑を基本にしています。略式手続きの罰金を軽く見ず、刑事段階で行政処分の可能性も含めて弁護士に相談するのが合理的です。
医療過誤では組織の体制も考慮される。考え方は、病院の管理体制や他の医療従事者の注意義務の程度を考慮要素に挙げています。事故後の院内調査の記録、当時の人員配置や指示系統の資料は、本人の弁明の材料にもなります。民事の賠償責任と保険の関係は、勤務医に医師賠償責任保険は必要かで条文から整理しています。
聴取では代理人と証拠提出が認められている。7条13項のとおり、代理人の出頭と証拠書類の提出ができます。通知書に書かれた処分の内容と原因事実を確認し、事実関係に争いがあるのか、情状を述べるのかを整理したうえで臨むことになります。
心身の不調は処分とは別の制度で扱われる。4条1号は心身の障害を欠格事由に挙げていますが、これは懲罰ではなく業務の適正な遂行の観点からの規定です。不調を抱えたまま働き続けて事故につながるより、休職などの制度を使うほうが、本人にも患者にも安全です。手順は医師がメンタル不調で休職するときの手順にまとめています。
まとめ:条文と公表資料で「自分に関係する範囲」を把握する
医師の行政処分は、医師法7条1項の三つの処分(戒告、3年以内の医業停止、免許取消)に限られ、処分の程度は刑事処分の量刑を基本としつつ、医師の立場の利用や非営利原則への違反といった倫理上の要素で加重されます。手続きは、免許取消なら意見の聴取、医業停止なら弁明の聴取を経て、医道審議会の意見を聴いたうえで決まります。処分後には再教育研修が命じられることがあり、取消後の再免許には原則として5年の制約があります。
公表されている件数を見ると、2025年の3回で医師45件の処分があり、その多くは交通事犯や業務外の犯罪でした。医療過誤による処分は少数です。過度に恐れる必要はありませんが、罰金刑でも入口に該当すること、診療報酬の不正請求は金額にかかわらず一定の処分とされることは、知っておいて損のない事実です。
参考資料
- 医師法(昭和23年法律第201号)4条、7条、7条の2、7条の3(e-Gov 法令API v1)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/323AC0000000201
- 医師法施行規則(昭和23年厚生省令第47号)7条〜10条(e-Gov 法令API v1)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/323M40000100047
- 医道審議会医道分科会「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」(平成14年12月13日、平成31年1月30日改正)https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001332059.pdf
- 厚生労働省「医道審議会医道分科会議事要旨」2024年11月27日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46259.html
- 同 2025年3月19日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_55617.html
- 同 2025年8月6日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61167.html
- 同 2025年12月3日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66694.html
- 同 2026年2月4日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70275.html
- 同 2026年7月15日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74772.html
