担当していた患者さんが予期せず亡くなり、医療安全管理室から「医療事故調査制度の対象になるかもしれない」と連絡が来た。そのとき多くの医師が最初に知りたいのは、自分がこれから何を求められ、何を聞かれ、その記録がどこへ行くのかという一点だと思います。この記事では、医療法と医療法施行規則、厚生労働省の施行通知(平成27年5月8日 医政発0508第1号)、医療事故調査・支援センターの年報を実際に読み、当事者となった医師の立場から時系列で整理します。個別の事案への助言ではなく、制度の文言で「何が決まっていて、何が決まっていないか」を確認するための記事です。

当事者医師に起きることは「事情聴取」と「報告書への意見」が中心

先に全体像を示します。医療事故調査制度で、報告や調査を行う義務を負っているのは病院等の管理者です。医療法6条の10と6条の11の主語はいずれも「病院等の管理者」であり、当事者の医師個人に報告義務を課す条文はありません。当事者医師に制度上起きることは、大きく次の三つです。

一つめは、管理者が「医療事故」に当たるかを判断する段階での事情聴取です。二つめは、院内調査の中で行われるヒアリングです。三つめは、完成した報告書に対して意見を述べる機会です。センター調査に進んだ場合も、センターが説明や資料を求める相手は条文上「管理者」であり、医師はその協力の中で関わることになります。

制度の目的について、施行通知は院内調査の箇所で「本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないこと」と明記しています(厚労省 医政発0508第1号 別添)。厚労省のQ&A(Q1)も、この制度はWHOドラフトガイドラインでいう「学習を目的としたシステム」にあたると説明しています。ただし、この位置づけは「制度の目的」を述べたものであり、民事・刑事の手続そのものを止める規定ではありません。この区別は後半で条文に即して確認します。

図1: 当事者医師から見た医療事故調査制度の全体の流れ。発生、管理者判断、センター報告、院内調査、報告書、センター調査の6段階と、各段階で医師が関わる場面を示した概念図

第1段階:死亡の発生と「予期しなかった死亡」の判断

医療事故の定義は二つの要件でできている

医療法6条の10第1項は、医療事故を「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの」と定義しています(e-Gov法令API 医療法原文)。

要件は二つです。「医療に起因し、又は起因すると疑われる」ことと、「予期しなかった」ことです。過誤の有無は要件に入っていません。過誤がなくても対象になりえますし、過誤があっても予期されていた死亡であれば対象外になりえます。制度の対象になること自体が過誤の認定を意味するわけではないのは、この定義の書き方によるものです。

「医療」の範囲について、施行通知は「手術、処置、投薬及びそれに準じる医療行為(検査、医療機器の使用、医療上の管理など)が考えられる」とし、施設管理など医療に含まれない単なる管理は対象外としています。別添の表では、転倒・転落、誤嚥、身体的拘束に関連するものは「管理者が医療に起因し、又は起因すると疑われるものと判断した場合」に含まれるとされ、原病の進行や偶発的な併発症は対象外の側に整理されています。

「予期しなかった」の中身は施行規則が決めている

予期の有無について、医療法施行規則1条の10の2の2第1項は、次の三つの「いずれにも該当しないと管理者が認めたもの」を医療事故としています。要約すると、①医療の提供前に、医療従事者等が患者または家族に死亡が予期されることを説明していたと管理者が認めたもの、②医療の提供前に、死亡が予期されることを診療録その他の文書等に記録していたと管理者が認めたもの、③管理者が当該医療従事者等からの事情の聴取と医療安全管理委員会からの意見の聴取(開催している場合に限る)を行ったうえで、医療の提供前に死亡を予期していたと認めたもの、です。

当事者医師にとって重要なのは③です。管理者の判断の前に、当該医療従事者からの「事情の聴取」が条文上の手順として組み込まれています。施行通知も、管理者が判断するにあたっては「当該医療事故に関わった医療従事者等から十分事情を聴取した上で、組織として判断する」としています。つまり、最初に医師が呼ばれる場面は、責任の確認ではなく、予期していたかどうかを管理者が判断するための聴取です。

一方で、①と②の文言からわかるとおり、説明や記録は「医療の提供前」のものが問われます。事後に記録を書き足しても①②の要件は満たしません。厚労省Q&A(Q4)は、個人の病状等を踏まえない「高齢のため何が起こるかわかりません」のような一般的な死亡可能性についてのみの説明や記録は「該当しません」と回答しています。Q5も、単に合併症の発症の可能性のみを説明・記録していた場合は該当しないとしています(Q&Aは条番号を改正前の「第1条の10の2」と表記しています)。

図2: 管理者が医療事故に当たるかを判断する流れ。医療起因性の判断と、施行規則1条の10の2の2第1項の三つの号のいずれにも該当しないかの確認を示した判断チャート(概念図)

判断するのは管理者で、遺族の同意は要件ではない

医療事故に当たるかどうかを判断するのは管理者です。厚労省Q&A(Q8)は、センターへの報告前の遺族への説明は「説明であって同意を得ることを求めていない」とし、遺族から報告しないよう申出があっても管理者は報告義務を負うと回答しています。また遺族と意見が合わない場合でも、管理者が判断を行うとしています。

当事者医師の意見がそのまま判断になるわけでもありません。「組織として判断する」と通知が述べるとおり、医師は事情を説明する立場であって、判断権者ではありません。管理者が判断に迷う場合、センターや医療事故調査等支援団体(医師会や学会など)に相談でき、通知は相談を受けたセンターや支援団体に「秘匿性を担保すること」を求めています。

第2段階:センターへの発生報告と遺族への説明

報告は「遅滞なく」。具体的な日数の期限はない

管理者が医療事故と判断すると、医療法6条の10第1項に基づき「遅滞なく」センターへ報告します。施行通知は、事案により判断に要する時間が異なるため「具体的な期限は設けず」とし、「遅滞なく」とは「正当な理由無く漫然と遅延することは認められないという趣旨」と説明しています。

実際の所要期間について、センターの「2025年 年報」要約版は、2025年の死亡から医療事故発生報告までの日数の中央値を39.5日と報告しています。報告事項は施行規則1条の10の2の2第3項で、病院等の名称・所在地・管理者の氏名、患者の性別・年齢等、医療事故調査の実施計画の概要などと定められています。この段階の報告事項に、当事者医師の氏名は挙げられていません。

遺族へは報告前に説明する

医療法6条の10第2項は、報告にあたって「あらかじめ」遺族に説明しなければならないと定めています。説明事項は施行規則1条の10の3第2項で、医療事故の日時・場所・状況、医療事故調査の実施計画の概要、制度の概要、解剖や死亡時画像診断(Ai)が必要な場合の同意取得に関する事項です。この説明を行うのは管理者側です。当事者医師が同席を求められるかどうかは、条文上は定められていません。

第3段階:院内調査とヒアリング

当事者医師は調査対象から外されない

医療法6条の11第1項は、管理者に「速やかにその原因を明らかにするために必要な調査」を行う義務を課しています。調査の手法は施行規則1条の10の4第1項に列挙されており、診療録等の確認、「当該医療事故に係る医療を提供した医療従事者からの事情の聴取」、それ以外の関係者からの事情の聴取、解剖、死亡時画像診断、医薬品・医療機器等の確認、血液・尿等の検査です。管理者はこれらを「適切に行うために必要な範囲内で選択」します。

施行通知は「調査の対象者については当該医療従事者を除外しないこと」としています。当事者医師は、調査の対象者から外されない立場にあるということです。どの手法を選ぶかは管理者が必要な範囲で決めますが、事情の聴取は規則1条の10の4第1項2号に明記された手法です。

図3: 施行規則1条の10の4第1項が定める院内調査の7つの手法と、そのうち当事者医師が直接関わる項目を示した比較図

ヒアリング結果の扱いは通知に書かれている

当事者医師にとって最も気になるのは、ヒアリングで話した内容がどう扱われるかでしょう。施行通知は、当該医療従事者のヒアリングについて次のように記載しています。

ヒアリング結果は内部資料として取り扱い、開示しないこと。(法的強制力がある場合を除く。)とし、その旨をヒアリング対象者に伝える。

(厚労省 医政発0508第1号 別添「医療事故調査の方法等」)

ここから読み取れることは三つあります。第一に、ヒアリング結果は内部資料として扱われ、原則として開示しない運用が求められていること。第二に、「法的強制力がある場合を除く」と明記されており、裁判所による文書提出命令や捜査機関による差押えのような法的強制力のある手続まで拒めるとはしていないこと。第三に、その扱いをヒアリング対象者に伝えることが求められていることです。ヒアリングの冒頭でこの説明がなければ、扱いを確認してよい場面といえます。

なお、この記載は通知という行政の指針であり、医療法の条文ではありません。通知はセンター調査の箇所で「証拠制限などは省令が法律を超えることはできず、立法論の話である」とも明記しています。制度の側が、ヒアリング記録を法的手続から完全に切り離す仕組みにはなっていないと自ら述べている点は、正確に理解しておく必要があります。

通知はさらに、調査の過程で「可能な限り匿名性の確保に配慮すること」も求めています。

支援団体と外部の視点

医療法6条の11第2項は、管理者が医療事故調査等支援団体に「必要な支援を求めるものとする」と定めています。支援団体は医学医術に関する学術団体など厚生労働大臣が定める団体です。院内調査に外部の専門家が加わることがあるのはこの規定によります。厚労省Q&A(Q17)は、自院で十分調査が行える場合でも外部委員を必ず入れるのかという問いに対し、公平性・中立性の観点から、管理者に外部からの委員を参画させ公平、中立な調査に努めるよう求めています。「お願いします」という表現であり、条文上の義務として外部委員の参加が定められているわけではありません。

院内調査には時間がかかる

年報によれば、2025年の医療事故発生報告から院内調査結果報告までの日数の中央値は322日、死亡から院内調査結果報告までの中央値は400日でした(医療事故調査・支援センター「2025年 年報」要約版)。当事者医師は、1年前後にわたって調査が続くことを前提に、勤務やメンタルの負荷を見積もる必要があります。

この期間に心身の不調が出るのは珍しいことではありません。休職を含めた手順は医師がメンタル不調で休職するときの手順に、限界の兆候については医師の燃え尽きのサインにまとめています。

第4段階:報告書の作成と当事者医師の意見

報告書は医療従事者を識別できない形に加工される

院内調査が終わると、管理者は医療法6条の11第4項に基づき「遅滞なく」その結果をセンターへ報告します。施行規則1条の10の4第2項は、報告書に記載する事項(発生日時・場所・診療科名、病院等の名称等、患者の性別・年齢等、医療事故調査の項目・手法・結果)を定めたうえで、「当該医療事故に係る医療従事者等の識別(他の情報との照合による識別を含む。次項において同じ。)ができないように加工した報告書を提出しなければならない」と定めています。

これは通知ではなく省令の規定です。厚労省Q&A(Q20)は、ここでいう「他の情報」について、個人情報保護法と同様に一般人が通常入手しうる情報を想定していると説明しています。診療科名は記載事項に含まれるため、小規模な診療科では推測の余地が残ることは否定できません。それでも、報告書の段階で当事者医師の氏名が記載される設計にはなっていません。

報告書の冒頭に「責任追及ではない」と書かれる

施行通知は、院内調査結果の報告書について「本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないことを、報告書冒頭に記載する」としています。あわせて、報告書をセンターへの提出と遺族への説明以外の用途に用いる可能性については「あらかじめ当該医療従事者へ教示することが適当である」と記載しています。

当事者医師から見ると、報告書がどの範囲で使われうるかを事前に教えてもらうことが、通知上は「適当」とされているということです。義務ではなく「適当である」という表現なので、教示がなければ自分から確認するのが現実的です。

報告書に意見を書いてもらえる

施行通知は、報告事項の中で「当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見がある場合等は、その旨を記載すること」としています。当事者医師には、報告書の内容に異論があれば、それを報告書に残してもらう道が通知上用意されています。

また原因分析については「必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに留意すること」とされ、再発防止策は検討した場合に管理者が講ずるものを記載するとされています。センターへ報告する調査結果には「院内調査の内部資料は含まない」とも明記されています。ヒアリング記録そのものはセンターへの報告に含まれない、という整理です。

遺族への結果の説明も匿名化が前提

医療法6条の11第5項により、管理者はセンターへの結果報告の前に遺族へ説明します。説明事項は施行規則1条の10の4第3項で、報告書の記載事項のうち「当該医療事故に係る医療従事者等の識別ができないようにしたものに限る」とされています。施行通知は、説明を口頭(説明内容をカルテに記載)または書面、もしくはその双方で行い、「遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」としています。この部分は努力義務の書き方です。

図4: 当事者医師に関わる扱いを根拠の種類別に整理した図。法律・省令で定められた事項と、通知で求められている事項を分けて示す(概念図)

第5段階:センター調査に進んだ場合

依頼できるのは管理者と遺族

医療法6条の17第1項は、センターは「医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から、当該医療事故について調査の依頼があつたときは、必要な調査を行うことができる」と定めています。当事者医師個人は依頼者として挙げられていません。

同条2項は、センターが必要と認めるとき「同項の管理者に対し、文書若しくは口頭による説明を求め、又は資料の提出その他必要な協力を求めることができる」とし、3項は管理者は「これを拒んではならない」、4項は拒んだときセンターが「その旨を公表することができる」と定めています。ここでも求めの相手は管理者です。当事者医師は、病院を通じて説明や資料提供に協力する形になるのが条文の構造です。

施行通知は、院内調査終了後のセンター調査は「院内調査の検証が中心となる」とし、センターが協力を求める際は「調査に必要かつ合理的な範囲で協力依頼を行う」としています。

センター調査の報告書と、その取扱い

センターは調査を終えると、医療法6条の17第5項に基づき管理者と遺族に結果を報告します。施行通知は、この報告書の原因分析について「客観的な事実から構造的な原因を分析するものであり、個人の責任追及を行うものではないことに留意すること」とし、再発防止策も「個人の責任追及とならないように注意」すると記載しています。

報告書の取扱いについて通知は、センターは「個別の調査報告書及びセンター調査の内部資料については、法的義務のない開示請求に応じないこと」としています。これも「法的義務のない」という限定つきです。またセンターの役職員には医療法6条の21で守秘義務が課され、違反には医療法86条3項で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。支援団体の役職員にも、委託業務について同様の守秘義務があります(6条の22第2項)。

センター調査は長期化する

年報概要によれば、2025年のセンター調査依頼件数は41件でした。センター調査の申請から報告書交付までの平均所要日数は、2025年でトータル876.5日と報告されています(医療事故調査・支援センター「2025年 年報」概要)。院内調査の後にセンター調査へ進めば、事故から数年単位で手続が続く可能性があるということです。

図5: 医療事故発生報告件数と院内調査結果報告件数の推移(2015年は10月から12月の3か月分)。出典:医療事故調査・支援センター「2025年 年報」要約版

数字で見る制度の現況

年報要約版によれば、医療事故発生報告件数は2016年が406件、2025年が375件で、制度開始(2015年10月)からの累計は3,633件、院内調査結果報告の累計は3,230件です。2025年の相談件数は2,161件、院内調査結果報告は360件でした。

2025年に院内調査結果報告があった360件のうち、解剖が実施されたのは100件で、内訳は病理解剖68件、司法解剖29件、行政解剖2件、死因身元調査解剖1件でした。同年報概要は、センターが「医療事故として報告を推奨する」と助言した382件(累計)のうち、実際に発生報告に至ったのは266件(69.6%)だったとも記載しています。助言があっても最終判断は管理者にある、という制度設計が数字にも表れています。

医師法21条(異状死届出)・民事・刑事との関係

医師法21条は医師個人の義務として別に存在する

医師法21条は「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定めています(e-Gov法令API 医師法原文)。主語は「医師」であり、管理者の義務である医療事故調査制度の報告とは、根拠法も義務の主体も届出先も異なります。

医療法6条の10の報告先は医療事故調査・支援センターであり、医療法の該当条文には、センターへの報告によって医師法21条の届出が不要になるという規定は置かれていません。今回確認した施行通知(医政発0508第1号)にも、医師法21条との関係を定めた記載は見当たりませんでした。二つの手続は別個のものとして理解し、21条の該当性は所属医療機関や顧問弁護士と確認するのが安全です。

制度は「警察や行政に届けるものではない」が、手続を止めるものでもない

厚労省Q&A(Q1)は、この制度は「第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではない」と説明しています。センターが調査結果を自ら捜査機関へ送る仕組みではない、ということです。

一方で、ここまで見たとおり、ヒアリング結果の非開示には「法的強制力がある場合を除く」、センターの開示拒否には「法的義務のない開示請求」という限定がつき、通知自身が証拠制限は「立法論の話」と述べています。遺族は報告書の説明を受けたうえで、民事上の請求を別途検討することもありえます。今回確認できた一次資料の範囲では、医療事故調査制度が民事訴訟や刑事手続の進行を制限する規定は見当たりませんでした。

民事責任と保険の関係は勤務医に医師賠償責任保険は必要かで条文から整理しています。院内で孤立したり、調査の過程で不当な扱いを受けたりした場合の相談先は医師のパワハラ相談窓口を参照してください。

当事者医師が各段階で確認しておきたいこと

最後に、ここまでの条文と通知の文言から、当事者医師が各段階で確認できる事項を並べます。いずれも法的助言ではなく、制度上用意されている確認の機会です。

  • 判断段階:自分への事情聴取が、施行規則1条の10の2の2第1項3号の判断のためのものかどうか
  • ヒアリング前:ヒアリング結果が内部資料として扱われ、法的強制力がある場合を除き開示されないという説明があったか
  • ヒアリング中:匿名性の確保にどう配慮されているか、外部委員が加わるか
  • 報告書案:医療従事者が識別できない加工になっているか、自分の意見を記載してもらえるか
  • 報告書の用途:センター提出と遺族説明以外に使われる可能性について教示があったか
  • 制度外の手続:医師法21条の届出の要否、民事・刑事の見通しを、制度とは別に誰に相談するか

図6: 当事者医師が各段階で確認できる事項のチェックリスト。根拠となる条文・通知を併記(概念図)

院内調査に1年前後、センター調査まで進めばさらに長い期間がかかることは年報の数字が示しています。その間、通常業務を続けながら聴取や報告書の確認に対応することになります。制度の文言を知っておくことは、自分を守るためというより、手続の中で何を確認すればよいかを見失わないために役立ちます。

まとめ:制度上の手続と、自分の働き方の判断を分けて考える

医療事故調査制度で当事者医師に起きることは、管理者の判断のための事情聴取、院内調査でのヒアリング、報告書への意見という三つが中心です。報告と調査の義務を負うのは管理者であり、報告書は医療従事者を識別できない形に加工することが省令で定められています。制度の目的が個人の責任追及ではないことは、施行通知に繰り返し書かれています。

同時に、ヒアリング結果や報告書の非開示には「法的強制力がある場合を除く」といった限定がつき、医師法21条や民事・刑事の手続は制度とは別に存在します。制度の内側で確認すべきことと、制度の外で専門家に相談すべきことを分けて考えることが、長い手続を乗り切る現実的な方法です。

事故のあとに、今の職場で働き続けるか、環境を変えるかを考える時期が来ることもあります。その判断は調査の結論を待ってからでも遅くありません。

参考資料

  • 医療法(昭和23年法律第205号)第6条の10、第6条の11、第6条の15〜第6条の17、第6条の21、第6条の22、第86条(e-Gov法令API、2026年10月9日確認)
  • 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第1条の10の2の2、第1条の10の3、第1条の10の4(e-Gov法令API、2026年10月9日確認)
  • 医師法(昭和23年法律第201号)第21条(e-Gov法令API、2026年10月9日確認)
  • 厚生労働省医政局長通知「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」平成27年5月8日 医政発0508第1号
  • 厚生労働省「医療事故調査制度に関するQ&A」Q1、Q4、Q5、Q8、Q17、Q20
  • 医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)「2025年 年報」概要・要約版(2026年3月)