親が倒れたという連絡は、外来の途中や当直明けに来ます。その日から、勤務表と実家の間で判断を迫られる日が続きます。この記事では、育児・介護休業法と雇用保険法の条文、厚生労働省の公表資料を一つずつ開いて確認した内容だけを使い、「最初の2週間」「3か月」「それ以降」の時系列で、どの制度をいつ使うかを整理します。2026年10月時点で施行済みの内容を扱います。
先に答え: 介護休業は自分で介護するための休みではない
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分けて取れる休業です(育児・介護休業法第11条第2項)。93日という長さを見て「3か月で親の介護が終わるはずがない」と感じた方は多いと思います。その感覚は正しく、制度もそれを前提に作られています。
厚生労働省の改正リーフレットは、事業主が介護休業制度などの情報提供をするときの留意点として、「介護休業制度」は介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応するものだと、各制度の趣旨を踏まえて伝えるよう求めています(厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。つまり93日は、医師本人が親のそばで介護を続ける期間ではなく、要介護認定を受け、ケアマネジャーと介護サービスの組み合わせを決め、施設や在宅の体制を固めるための期間として設計されています。
体制ができた後の長い期間は、休業ではなく、介護休暇、所定外労働の制限、短時間勤務などの措置で働きながら乗り切る、というのが法の組み立てです。医師の場合、ここに当直とオンコールの扱いが重なります。どの制度が当直表のどこに効くのかを分けて考えると、休むか辞めるかの二択から抜け出せます。
誰の介護で、どんな状態なら使えるか
対象になる家族は、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母です(同法第2条第4号)。これに準ずる者として、祖父母、兄弟姉妹、孫が省令で加えられています(同法施行規則第3条)。義理の親も、同居や扶養の有無を問わず対象に入ります。
「要介護状態」は、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいいます(同法第2条第3号、施行規則第2条)。ここで押さえたいのは、介護保険の要介護認定を受けていることは要件になっていない点です。認定の結果を待たずに、介護休業の申出はできます。
もう一つ誤解されやすいのが「2週間」の意味です。厚生労働省の介護休業給付Q&Aは、2週間以上の常時介護が必要な状態とは家族が介護を要する期間のことで、休業そのものを2週間以上取る必要はないと明記しています(Q9)。入院中の親の退院調整のために10日間だけ休業する、という使い方も給付の対象になり得ます。
雇用形態の条件もあります。期間を定めて雇用される医師は、介護休業開始予定日から93日を経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかでない場合に限り申し出ることができます(同法第11条第1項ただし書)。1年更新の任期付きポストや、医局人事で数か月単位の契約を結んでいる場合は、契約書の期間をまず確認してください。
なお、公立病院などで公務員として任用されている医師には、この記事で扱う民間の労働者向けの規定と異なる法令や条例が適用される場合があります。国立大学法人や独立行政法人、自治体病院では、雇用主の法的な位置づけによって手続きの窓口や細部が変わるため、所属先の人事で根拠規程を確認してください。
最初の2週間: 介護休暇でつなぎ、休業の申出と認定申請を同時に出す
親が倒れた直後に必要なのは、長期の休みよりも、病院に行く、主治医の説明を聞く、地域包括支援センターに相談する、といった細切れの時間です。ここで使うのが介護休暇です。
介護休暇は、対象家族1人なら年5労働日、2人以上なら年10労働日まで取得できます(同法第16条の5第1項)。時間単位でも取れ、その単位は始業時刻から連続するか、終業時刻まで連続する形と定められています(同条第2項、施行規則第40条第1項)。午前の外来を終えてから病院へ向かう、朝の説明に同席してから出勤する、という使い方が想定されています。事業主は介護休暇の申出を拒むことができません(同法第16条の6第1項)。2025年4月1日施行の改正で、労使協定により継続雇用期間6か月未満の労働者を除外できる規定は廃止されました(厚生労働省リーフレット)。異動直後の医師でも対象になります。
ただし、時間単位の取得が困難と認められる業務に従事する労働者は、労使協定により時間単位での取得から除外される場合があります(同法第16条の6第2項)。手術や外来枠の性質から、病院がこの協定を結んでいることもあり得ます。就業規則と労使協定の写しで、1日単位なら取れるのか、時間単位も取れるのかを確認してください。
申出の際に明らかにする事項も省令で決まっています。申出をする労働者の氏名、対象家族の氏名と続柄、取得する年月日(時間単位なら開始と終了の日時)、対象家族が要介護状態にある事実の4点です(施行規則第41条第1項)。事業主は、続柄と要介護状態の事実を証明する書類の提出を求めることができます(同条第2項)。要件上、要介護認定の結果は前提とされていないため、どの書類で状態を示すかは勤務先の運用を確認してください。
並行して出すべきなのが、介護休業の申出です。介護休業開始予定日が申出の翌日から起算して2週間を経過する日より前であれば、事業主は2週間経過日までの間で開始日を指定できます(同法第12条第3項)。裏を返すと、今日申し出れば、遅くとも2週間後には休業に入れるということです。介護休暇の5日と組み合わせて、この2週間を埋める考え方になります。
同じタイミングで、親の住所地の市区町村へ要介護認定を申請します。申請に対する処分は、申請のあった日から30日以内にしなければならないと定められています(介護保険法第27条第11項)。調査に日時を要する等の特別な理由があれば延期の通知がされることもあります(同項ただし書)。認定は申請のあった日にさかのぼって効力を生じます(同条第8項)。申請手続きは、地域包括支援センターや指定居宅介護支援事業者に代行してもらうこともできます(同条第1項)。
認定の手順は、市区町村職員などによる認定調査と、市区町村が依頼する主治医意見書、コンピュータによる一次判定、介護認定審査会による二次判定と進みます(厚生労働省「介護サービス情報公表システム サービス利用までの流れ」)。医師であっても、ここで親の主治医意見書を自分で書く立場にはないことが多く、手続きの主体は家族と市区町村、地域の専門職です。医師として何ができるかではなく、家族として何を決める必要があるかに集中したほうが、時間の使い方を誤りません。
申し出た時点で、病院には説明と意向確認の義務が生じる
2025年4月1日から、労働者が対象家族の介護が必要になった旨を申し出たとき、事業主は介護休業制度や両立支援制度を個別に知らせ、利用の意向を確認する措置を講じなければならなくなりました(同法第21条第4項)。これは努力義務ではなく義務です。
知らせる事項は省令で決まっています。介護休業に関する制度と、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、介護のための所定労働時間の短縮等の措置の各制度、それらの申出先、そして介護休業給付金に関することです(施行規則第69条の9、第69条の10)。方法は面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれかで、FAXと電子メールは労働者が希望した場合に限られます(厚生労働省リーフレット)。リーフレットは、取得や利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められないとも明記しています。
さらに、申出をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止されています(同法第21条第6項)。介護休業そのものについても同じです(同法第16条)。医局人事が絡む職場では、「迷惑をかけるから」と申出自体をためらう方がいますが、申出は病院側に説明義務を発生させる手続きでもあります。黙って有給休暇で凌ぐより、早い段階で申し出て、使える制度を書面で受け取るほうが、後の交渉材料になります。
同じ改正で、事業主には介護休業等の申出が円滑に行われるよう、研修、相談窓口の設置、利用事例の収集と提供、方針の周知のいずれかを講じる義務も課されました(同法第22条第2項、第4項、厚生労働省リーフレット)。相談窓口がどこにあるのかを人事に聞けば、その病院がこの義務をどう果たしているかも分かります。
3か月まで: 93日の介護休業でケアプランと住まいを決める
介護休業の申出があったとき、事業主は拒むことができません(同法第12条第1項)。介護休業期間は、休業開始予定日から通算93日に達するまでです(同法第15条第1項)。3回まで分けられるので、たとえば退院調整に20日、在宅サービスの立ち上げに30日、施設入所の手続きに40日、という分け方も法律上は可能です。
この期間にやることは、医療より生活の設計です。要介護認定が出れば、要介護1以上なら居宅介護支援事業者のケアマネジャーにケアプランの作成を依頼し、要支援1・2なら地域包括支援センターに相談します(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」)。新規認定の有効期間は原則6か月で、状態に応じて3〜12か月の範囲で設定されます(同)。最初の認定が切れる前に更新が要ることも、この期間に家族の間で共有しておきたい点です。
93日を一度に使い切らないことも選択肢です。同じ家族について3回の介護休業をした場合、または休業日数の合計が93日に達した場合は、それ以上申し出ることができません(同法第11条第2項)。初回で体制がある程度固まったら、残りの日数は、施設の入所が決まったときや、状態が変わってケアプランを組み直すときのために残しておく使い方もあります。
なお、休業の途中で対象家族が亡くなるなど、介護をしないこととなった事由が生じた場合は、介護休業期間はその日に終了します(同法第15条第3項第1号)。休業中に別の家族の介護休業や育児休業、産前産後休業が始まった場合も、その前日に終了します(同項第2号)。予定していた日数を必ず使い切れるわけではないことも、家族と共有しておくと計画が立てやすくなります。
休業中の収入: 介護休業給付金は賃金の67%
雇用保険の被保険者であれば、介護休業中は介護休業給付金を受けられます。本則の支給率は休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の100分の40ですが(雇用保険法第61条の4第4項)、附則第12条により当分の間100分の67に読み替えられています。
受給には、介護休業を開始した日前2年間に、被保険者期間が通算12か月以上あることが必要です(同条第1項)。支給単位期間は休業開始日から1か月ごとに区切られ、1期間の支給日数は原則30日です。対象は休業開始から3か月を経過する日までの期間に限られます(同条第3項、第4項)。休業中に賃金が支払われ、給付金との合計が休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の80%以上になる場合は、その分が減額または不支給になります(同条第5項)。
厚生労働省のQ&Aでは、休業前6か月の平均が月額30万円程度なら、支給額は月額20.1万円程度とされています(Q6)。給付額には上限があるとも書かれています。医師の給与水準では上限にかかる可能性が高く、67%がそのまま受け取れるとは限りません。上限額は改定されることがあるため、申請前にハローワークで最新の額を確認してください。
Q&Aは他にも、医師にとって実務上大きな点を挙げています。1支給単位期間に就労した日が10日を超えると、その期間は支給対象になりません(Q7)。この就労日数には、在職中の事業所以外での就労も含まれます。休業中に外勤先で週1回の外来を続けると、日数次第で給付が止まる可能性があります。また、介護休業の当初から退職を予定している場合は支給対象になりません(Q11)。給付は課税の対象になりません(Q14)。同じ家族について93日分を受給した後は、要介護状態が変わっても再び受給することはできません(Q12)。
申請は原則として事業主を経由して行いますが、本人が希望すれば自分で手続きすることもできます(Q5)。複数の勤務先から給与を受けている医師は、雇用保険の被保険者資格がどの勤務先にあるのかを、先に人事に確かめておくと手続きが止まりません。社会保険の加入関係の考え方は、非常勤医師の社会保険の記事で整理しています。
それ以降: 休業を使い切った後は「時間の制限」で働き続ける
体制ができた後の数年間を支えるのは、休業ではなく働き方の制限です。ここでは義務と努力義務を分けて確認します。
所定外労働の制限は、要介護状態の家族を介護する労働者が請求したとき、所定労働時間を超えて労働させてはならないとする制度です(同法第16条の9第1項による第16条の8の準用)。1回の請求で1か月以上1年以内の期間を指定し、開始予定日の1か月前までに請求します(同法第16条の8第2項)。ただし「事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない」というただし書があります(同条第1項)。
時間外労働の制限は、請求すれば時間外労働を1か月24時間、1年150時間までに抑える制度です(同法第18条第1項による第17条第1項の準用)。深夜業の制限は、午後10時から午前5時までの労働をさせないとする制度で、1回の請求は1か月以上6か月以内です(同法第20条第1項による第19条の準用)。いずれも事業の正常な運営を妨げる場合の例外があります。当直がこれらの制限の対象になるかは、その当直が労働時間として扱われる勤務か、宿日直許可を得た断続的な勤務かで変わり得るため、勤務先の扱いを具体的に確認する必要があります。
介護のための所定労働時間の短縮等の措置は、事業主の義務です(同法第23条第3項)。利用開始から連続する3年以上の期間で、原則として2回以上利用できる措置として講じなければなりません(同条第3項・第4項、施行規則第74条の2)。措置の形は、短時間勤務、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、介護サービス費用の助成などのいずれかで、どれを用意するかは事業主が選びます。費用助成の方法をとる場合は、2回以上の利用は要件になっていません(同条ただし書)。短時間勤務の具体的な交渉の進め方は、医師の時短勤務制度の記事で条文に沿って解説しています。
一方、介護のためのテレワークは努力義務です。条文は在宅勤務等をさせる措置を「講ずるように努めなければならない」と定めています(同法第24条第4項)。介護の期間や回数に配慮した措置も同じく努力義務です(同条第3項)。病院がテレワークを用意していないことを理由に是正を求めるのは、法律上は難しい層です。画像診断や書類業務など、在宅でできる業務があるなら、権利としてではなく提案として出すほうが通りやすくなります。
医局人事と当直表に、制度をどう落とし込むか
条文上の権利がそろっていても、医師の勤務は当直、オンコール、外勤、手術枠という単位で組まれています。制度を当直表に落とし込むには、どの制度がどの単位に効くのかを、診療科の責任者と人事の両方に同じ書面で示すのが近道です。
一つ目は、外勤先の扱いです。介護休業給付は、休業中の就労日数に在職中の事業所以外での就労も含めて数えます(介護休業給付Q&A Q7)。大学病院に籍を置きながら複数の関連病院で外勤している場合、本務先だけ休んでも、外勤を続けると給付に影響します。休業に入る前に、外勤先ごとに休む期間を連絡し、医局の外勤調整担当にも同じ日程を伝えておく必要があります。
二つ目は、請求の期限です。所定外労働の制限と時間外労働の制限は、開始予定日の1か月前までに請求する決まりです(同法第16条の8第2項、第17条第2項)。当直表が翌月分まで確定している職場では、1か月前という期限は、次の当直表を作る締切よりも前になることがあります。介護が長引きそうだと分かった段階で、早めに請求を出しておくほうが、診療科の調整負担も小さくなります。
三つ目は、「事業の正常な運営を妨げる場合」のただし書との向き合い方です。代わりの医師が見つからないことがただちにこの例外に当たるかは、条文だけでは決まりません。病院側にこの例外を使うと言われたら、どの業務のどの時間帯が代替不能なのかを具体的に示してもらい、自分からは外勤日の削減や当直の曜日の入れ替えなど、代替案を出すと話が前に進みます。
異動と転居: 配慮義務と、自分で動く場合の判断
医局人事で遠方の関連病院への異動を打診されたとき、育児・介護休業法には配置の配慮に関する規定があります。就業の場所の変更を伴う配置の変更で介護が困難になる労働者がいる場合、事業主はその介護の状況に「配慮しなければならない」と定められています(同法第26条)。これは異動を禁止する規定ではなく、介護の状況を考慮する義務です。配慮を求めるには、介護の状況を事業主が把握できるよう、申出の段階で書面にしておくことが前提になります。
逆に、親の近くに移るために自分から転職を考える医師もいます。地方の病院へ移る場合の収入や症例、キャリアへの影響は、地方転職のデメリットの記事で検討しています。介護休業給付は職場復帰を前提とした給付で、当初から退職を予定していれば支給されない点は、ここでも判断に影響します。転職を決める前に休業と給付を使い、体制を作ったうえで判断する順番のほうが、収入の空白を作りにくくなります。
親を税法上や健康保険の扶養に入れるかどうかも、介護の初期に出てくる論点です。収入要件や同居要件の整理は、親を扶養に入れる判定の記事にまとめています。
40歳の情報提供を、自分の準備に使う
2025年4月1日以降、事業主は、労働者が40歳に達した日の属する年度の1年間、または40歳に達した日の翌日から1年間のいずれかの期間に、介護休業制度や両立支援制度、申出先、介護休業給付金に関する事項を知らせなければならなくなりました(同法第21条第5項、施行規則第69条の13、第69条の12)。40歳は介護保険の第2号被保険者になる年齢でもあります。
総務省の就業構造基本調査によると、介護をしている人は2022年に628.8万人で、そのうち仕事をしている人は364.6万人、割合は58.0%でした(総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」)。2012年の291.0万人、52.2%から増えています。働きながら介護をする状態は、例外ではなくなっています。
40歳前後の医師は、専門医取得後の進路や留学、開業の判断と、親の高齢化が重なる時期にあります。病院から届く40歳の案内を読み流さず、自分の勤務先の就業規則で、介護休暇が時間単位で取れるか、短時間勤務等の措置として何が用意されているか、労使協定で除外されている労働者は誰かを、親が元気なうちに確認しておくことをおすすめします。厚生労働省は、親が元気なうちから把握しておくべきことのチェックリストも公表しています(厚生労働省「育児・介護休業法について」)。
まとめ: 申し出て、認定を取り、体制を作ってから働き方を決める
時系列で整理すると、使う制度の順番は次のとおりです。最初の2週間は介護休暇で時間をつなぎ、介護休業の申出と要介護認定の申請を同じ週に出します。申し出た時点で、病院には制度を個別に説明し、意向を確認する義務が生じます。3か月までは93日の介護休業でケアプランと住まいを決め、給付金は賃金の67%を上限つきで受け取ります。それ以降は、所定外労働や深夜業の制限、短時間勤務等の措置で働き続けます。
93日の介護休業は、医師が自分で介護を担う期間ではなく、介護を担う仕組みを作る期間です。その趣旨を病院とも共有できれば、休むか辞めるかではなく、どの制度をどの順番で使うかという話に移せます。最初の一歩は、就業規則の介護関係の条文と労使協定の写しを取り寄せることです。
