「自分の代でクリニックを畳むことになるかもしれない」「開業を検討しているが、廃業のリスクは正確に知っておきたい」——この検索をする医師の多くは、このどちらかの立場にいます。ネット上には「経営難」「後継者不在」という言葉が並びますが、両者がそれぞれどれくらいの割合で起きているのかを数字で示した情報は多くありません。廃業を「経営の失敗」とひとくくりに捉えると、本来なら黒字のまま閉じられたはずの診療所まで、慌てて資金繰りに走ってしまうことにもなりかねません。この記事では、帝国データバンクと厚生労働省の統計を一次資料として、開業医が経営を終える2つの経路とその主因を整理します。そのうえで、廃業を選ぶ前に確認すべき手続き、そして廃業後にどのようなキャリアの選択肢があるかまでを解説します。

開業医の「廃業」には2つの経路があり、主因はまったく違う

結論から述べます。開業医が経営を終える経路は、統計上「倒産」と「休廃業・解散」の2つに分かれており、件数も主因もまったく異なります。帝国データバンクが2025年1月に公表した「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」によれば、2024年の医療機関の倒産は64件で、これは調査対象期間中の過去最多です。この調査でいう「倒産」とは、負債額1,000万円以上かつ法的整理となった病院・診療所・歯科医院を指します。2024年の内訳は破産62件(96.9%)、民事再生法2件(3.1%)で、そのほとんどが再建を伴わない破産という形で決着しています。業態別では病院6件、診療所31件、歯科医院27件、負債総額は282億4,200万円にのぼり、診療所単体でも166億9,400万円(平均5億3,800万円)に達します。負債額別では1億円未満が29件(45.3%)、1億〜5億円未満が24件(37.5%)を占め、大型倒産よりも中小規模のクリニック単位の資金ショートが件数を押し上げている構図です。倒産の主因は「収入の減少(販売不振)」で、これが41件と全体の64.1%を占めています。診療報酬収入が資金繰りを維持できる水準を下回り続けた末の経営破綻が、倒産という結末の実態です。

一方、同じ調査で2024年の休廃業・解散は722件と、こちらも過去最多を記録しました。内訳は診療所587件、歯科医院118件、病院17件です。休廃業・解散は倒産の11倍以上の件数にのぼりますが、その主因は資金繰りの破綻ではありません。同調査は、休廃業した診療所の経営者のうち70歳以上が全体の54.6%を占めることを示しています。これは同じ調査における歯科医院の70歳以上経営者比率25.6%と比べても際立って高く、診療所(医科クリニック)特有の高齢化の進み方だとわかります。さらに、日本医師会が2020年に実施した「医業承継実態調査」では、診療所の50.8%が「現段階で後継者候補はいない」と回答しており、帝国データバンクの調査もこの数字を引用しています。つまり、経営自体はまだ立て直せる状態にあっても、引き継ぐ相手がいないために自主的に事業を畳むケースが、廃業全体の主流になっているということです(図1)。

この2つの経路を混同すると、廃業対策の方向性を誤ります。倒産を防ぐには集患力やコスト構造の見直しが必要です。一方、休廃業を防ぐ、あるいは望ましい形で進めるためには、後継者の確保や第三者承継の検討、そして経営者自身のキャリアの次の一手を早めに考え始めることが有効になります。同じ「廃業」という言葉で語られていても、直面している課題がまったく違う以上、対策も別々に考える必要があります。

なお、この記事では病院ではなく診療所(クリニック)を中心に取り上げます。2024年の病院の倒産は6件、休廃業・解散は17件と、診療所・歯科医院に比べて件数そのものが少数です。病院の多くは複数の医師・多額の資本を要する医療法人や公的機関が開設者であり、個人の開業医が直面する「自分一代の経営をどう終えるか」という論点とは性質が異なります。

図1: 経営を終える2つの経路、件数は休廃業が倒産の11倍

廃業は本当に増えているのか、厚労省の統計で確認する

「廃業が増えている」という体感は、統計上も裏付けられます。厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によれば、2024年10月1日時点の一般診療所は全国で105,207施設あり、前年に比べ313施設増加しています。しかし、この増加は開設者の内訳を均等に反映したものではありません。同じ資料の開設者別データを見ると、「医療法人」が47,711施設で前年より994施設増加した一方、「個人」は38,719施設で前年より489施設減少しています。「公的医療機関」も429施設減少しており、増えているのはほぼ医療法人立てとその他区分に限られます。全体の施設数が増えている裏で、個人が開設する診療所は着実に数を減らしているのです。

動態調査そのものの数字も、この流れを裏付けています。令和5年10月から令和6年9月までの1年間で、一般診療所は新規に7,035施設が開設され、289施設が再開した一方、6,501施設が廃止、510施設が休止となりました。開設数が廃止数を上回ってはいるものの、廃止数はすでに開設数の9割強に達しており、新規開業と廃業がほぼ拮抗する水準まで来ています。有床の一般診療所に限ると状況はさらに厳しく、5,415施設で前年より226施設(4.0%)減少し、このうち療養病床を有する一般診療所は431施設で75施設(14.8%)もの減少となりました。入院機能を持つ有床診療所ほど、設備投資や人員配置の負担が重く、承継の難度も高いことがうかがえます。

同じ構図は歯科医院でも見られます。歯科診療所は66,378施設で前年より440施設減少しましたが、開設者別では「個人」が48,667施設で855施設減少した一方、「医療法人」は17,053施設で376施設増加しています。医科・歯科を問わず、個人開業から医療法人・チェーン展開への集約が進んでいるという傾向がうかがえます。これは診療所固有の現象というより、日本の医療提供体制全体で起きている構造変化の一部だと捉えたほうが実態に近いといえます。

帝国データバンクの調査からは、地域的な偏りも見えてきます。2024年の倒産64件を都道府県別に見ると、東京が14件と最も多く、次いで福岡8件、大阪・神奈川が各5件、埼玉・千葉・滋賀・兵庫が各3件で、合計25都道府県にわたって発生しています。業態別では、診療所の倒産は東京8件・神奈川4件・福岡3件の順、歯科医院は東京6件・福岡5件・大阪3件の順でした。人口の多い都市部ほど競合クリニックとの競争が激しく、収入減少型の倒産が集中しやすい構図がここにも表れています。

長期の推移で見ると、休廃業・解散722件は10年前(2014年)と比べて2.1倍、20年前(2004年)と比べて5.6倍の水準です。倒産件数も、2019年の45件、2020年の27件から、2024年には64件へと増加基調にあります。この背景には、個人開業医の高齢化に加えて、医療法人が診療所を承継・買収して多店舗展開する動きがあります。さらに都市部への診療所の集中が進み、郊外・地方の診療圏では患者数そのものが先細りしやすくなっているという構造変化も重なっています。個人開業医が高齢化し、医療法人化や大手チェーンへの集約が進むという流れが、長期にわたって静かに進行してきた結果が、直近の数字に表れていると見ることができます(図2、図3)。

図2: 一般診療所の開設者別 前年増減、個人立てが減り医療法人立てが増える構図

図3: 倒産と休廃業・解散、件数・主因の違いを一覧で比較

年間の廃業率を計算すると、1%に届かない

ここで一つ、数字の使い方について補足しておきます。「開業医の廃業率は〇割」といった表現がインターネット上には多く見られますが、その多くは出典が明示されていません。あるいは、開業後5年・10年といった累積の失敗イメージと、単年の廃業件数を混同したまま語られています。実際に一次資料同士を組み合わせて単年の廃業率を計算すると、印象とはかなり異なる数字になります。

厚生労働省の令和6年調査における一般診療所の総数105,207施設に対し、帝国データバンクの調査による2024年の一般診療所の倒産31件と休廃業・解散587件を合計すると618件です。これを総数で割ると、618÷105,207≒0.59%となり、1年間で廃業(倒産・休廃業・解散)に至る一般診療所は100施設に1施設に満たない計算になります。もちろんこれは単年の断面であり、開業から10年、20年という長い期間で見れば累積の廃業経験は積み上がっていきます。それでも、少なくとも「開業医の大半が数年で行き詰まる」という印象を単年の統計から導くのは無理があります。廃業を過度に恐れる必要はない一方で、722件・64件という実数そのものは10年前・20年前と比べて着実に増えており、自分の診療所がどちらの経路に近づいているかを定点観測しておく価値は十分にあります。

廃業に至る4つの経路、自分はどれに近いか

ここまでの数字を踏まえると、開業医が廃業に至る経路は大きく4つのパターンに整理できます。1つ目は「収入減少型」です。近隣への競合クリニックの新規開業、診療圏の人口減少、診療報酬改定による単価の低下、人件費や光熱費といった固定費の上昇などが重なった状態を指します。その結果、収入が家賃・人件費・機器のリース料を賄えるラインを下回り続けます。この経路は帝国データバンクが示す倒産の主因(収入の減少、64.1%)に直結しやすく、都市部での競合激化が典型的な引き金になります。資金繰りが逼迫する前に、収支の月次モニタリングと早期の対策判断ができるかどうかが分かれ目になります。

2つ目は「後継者不在型」です。子どもが医師にならなかった、あるいは医師になっても継業を希望しない、勤務医のスタッフに承継を打診できる関係性を築けていない、といった事情が背景にあります。経営そのものは黒字でも、引き継ぎ手がいないまま高齢化が進むケースです。前述の通り、日本医師会の調査では診療所の50.8%がこの状態に該当すると報告されています。3つ目は「経営者の健康問題型」で、院長自身の加齢に伴う体調不良や、当直・オンコール対応を含む激務の継続が困難になることが引き金になります。休廃業した診療所の経営者の70歳以上が54.6%を占めるという数字は、後継者不在型と健康問題型が重なり合って発生していることを示唆しています。

4つ目は「設備投資の限界型」です。医療機器の更新、建物の老朽化に伴う改修、電子カルテやレセプトシステムの入れ替えなど、診療を続けるために避けられない投資に対して、残りの経営期間や借入余力が見合わなくなるケースです。有床診療所で療養病床が前年比14.8%も減少している背景には、入院機能を維持するための設備投資と収益のバランスが取れなくなった診療所が一定数含まれると考えられます。

実際には、この4つが単独で完結するより、複数が重なって進行するケースのほうが多いといえます。たとえば「開業から30年、院長は70代後半で当直代わりの緊急呼び出しへの対応が体力的に厳しくなってきたが、子は他科の勤務医で継業の予定はなく、老朽化した内視鏡システムの更新にも数千万円単位の投資が必要」という状態を考えてみます。これは後継者不在型・健康問題型・設備投資型が同時に重なった典型例です。1つ目と4つ目は資金繰りを起点に「倒産」に近づきやすい経路であるのに対し、2つ目と3つ目は経営自体は保てても引き継ぎ手がなく「休廃業」に至りやすい経路です。どの経路が自分に近いかを早い段階で言語化しておくことが、次に取るべき手を考える土台になります(図4)。

図4: 廃業に至る4つの経路、自分はどれに近いか

廃業を決める前に確認すべき手続きと選択肢

廃業を決める、あるいは廃業が避けられないと判断した場合、まず押さえておくべきは法律上の義務です。医療法第8条の2第2項および第9条第1項に基づき、診療所を休止・廃止したときは、その後10日以内に管轄の保健所長を通じて都道府県知事に届け出る必要があります。この届出は開設許可証などの返納とあわせて求められるため、廃業日が決まった時点で速やかに準備を始める必要があります。あわせて、診療録(カルテ)についても医師法第24条第2項により、診療が完結した日から5年間の保存義務が課されており、廃業後も一定期間はカルテの管理責任が残る点に注意が必要です。

税務面の手続きも見落とせません。個人開業の場合、国税庁の案内によれば所得税法第229条に基づき「個人事業の開業・廃業等届出書」を、事業を廃止した日から原則1か月以内に所轄税務署へ提出する必要があります。廃業年分の確定申告や、青色申告の取りやめ届出、消費税に関する届出なども併せて必要になるケースがあり、顧問税理士がいる場合は廃業日が固まった段階で早めに相談しておくと手続き漏れを防げます。

診療科によっては、麻薬及び向精神薬取締法に基づく手続きも生じます。麻薬施用者免許を持って医療用麻薬を扱ってきた場合、業務を廃止したときは廃止後15日以内に都道府県知事へ届け出る義務があります。手元に残った麻薬は、都道府県知事への届出のうえ、職員の立会いのもとで廃棄する必要があります。保健所への廃止届、税務署への廃業届に加えて、麻薬を扱ってきた診療科ではこの届出も抜け落ちやすいポイントです。あわせて、未収金(レセプト債権)の回収・請求業務をいつまで自分で行うか、廃業後に発生した問い合わせを誰が引き継ぐかも、実務上は早めに決めておいたほうが混乱が少なくなります。

もう一つ、廃業を決める前に検討する価値があるのが、後継者不在型・健康問題型のケースにおける第三者承継やM&Aという選択肢です。日本医師会の調査で診療所の半数以上が「後継者候補はいない」と回答している一方、必ずしも第三者への承継を模索し尽くした結果として廃業を選んでいるとは限りません。近隣で開業を希望する勤務医への承継、医療法人への事業譲渡など、廃業以外の着地点を探る余地が残されているケースもあります。スタッフの雇用終了に関する手続きも、解雇予告や再就職先の紹介まで含めて計画的に進める必要があり、これらはいずれも廃業を決めてから数週間で片付く話ではありません。

相談先に迷う場合は、まず都道府県医師会の窓口を当たる価値があります。医業承継や地域医療構想に関する相談窓口を設けている医師会は多くあります。顧問税理士がいれば税務・資産承継の面から、地域の基幹病院の地域医療連携室であれば患者の転院先確保の面から、それぞれ別の角度の情報が得られます。第三者承継やM&Aを専門に仲介する事業者も増えていますが、最終的な意思決定をする前に、複数の窓口から情報を集めて比較検討する時間を確保しておくことが望ましいといえます(図5)。

図5: 廃業を決める前に確認する6項目

廃業後のキャリア、勤務医に戻るという選択肢

廃業という決断そのものと同じくらい重要なのが、その後の自分自身のキャリアをどう組み立てるかです。個人開業医として長く勤めてきた医師にとって、廃業は経営者としての終わりであると同時に、医師としてのキャリアを再設計する起点でもあります。保健所への届出や税務署への廃業届、患者・スタッフへの対応と並行して、次の勤務先を探し始めることは十分に可能です。経営から離れることで、経営管理や人事労務にあてていた時間を、純粋な臨床業務や自分の専門性を活かした働き方に振り向けられるという面もあります。

一方で見落とされがちなのが、廃業から次の収入が安定するまでの「空白期間」の資金計画です。院長個人の借入に金融機関の連帯保証が付いている場合、廃業に伴う機器・不動産の処分や借入金の精算を先に済ませる必要があります。退職金に相当する原資を自分で確保していなければ、次の勤務先が決まるまでの生活費を貯蓄で賄うことになります。倒産に至った64件のケースほど切迫していなくても、休廃業を選ぶ診療所の多くが70代の経営者であることを踏まえると、資金計画と次のキャリア計画は同時並行で立てるべき課題だといえます。

また、長年地域で経営者として診療所を続けてきたという自負が、判断を先送りにさせる要因になることもあります。しかし休廃業に至った診療所の54.6%が70歳以上の経営者だという数字には、別の意味も読み取れます。裏を返せば「もう少し早く区切りをつけていれば、より良い条件で承継できた、あるいはより余裕を持って次のキャリアに移れたケースが一定数含まれている」ということです。経営を終える決断そのものと、医師としてのキャリアを終える決断は別のものだと切り分けて考えることが、次の一歩を早める助けになります。

年齢によって選択肢の重心は変わります。50代であれば常勤の勤務医としての再就職に加え、非常勤や当直中心の働き方への切り替えも現実的な選択肢になります(関連記事: 50代医師の転職、判断は「残る・移る・変える」の3択)。40代であれば、勤務医への回帰だけでなく、産業医や他院での役職就任なども含めて選択肢の幅が広く、キャリアの軸をどこに置くかを整理してから動く価値があります(関連記事: 40代医師のセカンドキャリア、決め方は3つの軸で整理する)。

求人情報を集める段階では、転職エージェントの活用が近道になりますが、1社だけに依存すると求人の網羅性に偏りが出やすくなります(関連記事: 医師の転職エージェント複数登録、何社が適正か)。国内での再スタートに限らず、海外での勤務を選択肢に含めて検討する医師もいますが、その場合は資格の相互承認や就労ビザなど、国内転職とは異なる制度上の壁を事前に把握しておく必要があります(関連記事: 医師の海外転職方法、まず知るべき制度の壁)。臨床から距離を置き、研究や教育に軸足を移すという進路を検討する場合も、分岐点となる制度を早めに理解しておくと判断がぶれにくくなります(関連記事: 研究医のキャリア、臨床医との分岐点はどこにあるか)。

経営そのものから完全に退くのではなく、非常勤やスポット診療という形で診療の現場に関わり続けるという選択も、常勤の勤務医に戻る以外の現実的な進路の一つです。長年培ってきた診療圏での評判や患者との関係を、経営責任を負わない立場で活かせる働き方に切り替えることで、収入の急激な落ち込みを避けながら移行期間を確保できるケースもあります。いずれの進路を選ぶ場合も、廃業届の提出を待ってから動き出すのではなく、廃業を決断した直後から次のキャリア探索を並行させることが重要です。その姿勢が、経営者としての区切りと医師としての再スタートをなめらかにつなぐポイントになります(図6)。

図6: 廃業判断から次のキャリアへ、想定タイムライン

まとめ: 廃業の実態を数字で押さえ、次の一手を早めに動かす

開業医の廃業は、2024年時点で倒産64件に対し休廃業・解散722件と、圧倒的に「経営破綻ではない自主的な終わり方」が主流です。経営者の高齢化(70歳以上54.6%)と後継者不在(50.8%)がその中心にある一方、個人開業の診療所そのものが前年比489施設減少するという構造変化も進んでいます。単年の廃業率で見れば1%に満たず、過度に恐れる数字ではありませんが、増加基調そのものは20年単位で続いています。

自分がどの経路に近いのかを早期に見極め、医療法上の廃止届出・税務署への廃業届出・麻薬取扱いがある場合の届出・カルテの保存義務といった手続きを押さえておく必要があります。そのうえで、第三者承継の可能性と次のキャリアの準備を並行して進めることが、後悔の少ない区切り方につながります。経営者としての区切りをどうつけるかと、医師としてどこでどう働き続けるかは、別々に、しかし同時並行で考えるべき課題です。